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第18話 正式な招待
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第18話 正式な招待
朝の公爵邸に、一通の書状が届いた。
封蝋に刻まれているのは、見慣れぬ紋章。
だが、その意匠を目にした瞬間、公爵はわずかに眉を上げた。
「……ノルディア王国か」
静かに呟き、封を切る。
*
「正式な、招待……ですか?」
シルフィーネは、書斎で差し出された書状に目を通し、ゆっくりと息を吸った。
そこに書かれていたのは、儀礼的でありながら、極めて明確な文言。
> ノルディア王国王太子エドワルドは、
公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク殿を
王都ノルディアへ、正式な賓客として招待する。
――私的な誘いではない。
国家としての、正式な意思表示。
「これは……軽い話ではないな」
公爵が、低く言った。
「ええ」
シルフィーネも、同意する。
この招待は、好意の延長ではない。
昨夜の会話だけで出されるものでもない。
彼は、見極めたのだ。
そして――踏み込むと、決めた。
「……行きたい、ですか?」
母の問いは、慎重だった。
シルフィーネは、少し考え、正直に答える。
「怖くないと言えば、嘘になります」
異国。
王太子。
公の立場。
どれも、軽く扱えるものではない。
「ですが」
視線を上げ、はっきりと続けた。
「逃げたいとは、思いません」
眠っていた一年の間、
彼女は多くのものを“奪われた”。
時間。
選択肢。
語る機会。
だからこそ、今、差し出された“選択”を、
自分の意思で掴みたい。
「……私自身を、確かめたいのです」
外見でも、立場でもなく。
人として、どこまで通用するのか。
「それが、答えですね」
公爵は、静かに頷いた。
「無理に止めはしない。ただし――」
父は、娘をまっすぐに見つめる。
「お前は、公爵家の令嬢だ。
そして同時に、一人の人間だ」
「はい」
「どちらも、忘れるな」
その言葉に、胸が熱くなる。
「……ありがとうございます」
*
その日の午後。
王都では、別の場所でも動きがあった。
「ノルディア王国から、正式な招待?」
ライオネルは、信じられないという顔で、報告書を握りしめていた。
「はい。すでに公になりつつあります」
側近の言葉に、頭がくらくらする。
――正式な賓客。
それは、もはや個人の問題ではない。
「……彼女は……そんな存在だったのか?」
問いは、誰にも届かない。
一方、アメリアの元にも、同じ噂が届いていた。
「そんな……ただの、眠っていた女でしょう……?」
震える声。
だが、周囲の視線は冷たい。
彼女が必死に積み上げてきた立場は、
“あの件”が蒸し返され始めたことで、音を立てて揺らいでいた。
*
夕暮れ。
シルフィーネは、部屋の窓辺に立っていた。
書状は、机の上に置かれている。
まだ、返事は出していない。
「……正式な招待、か」
小さく笑う。
以前の自分なら、考えもしなかっただろう。
“幼すぎる”と切り捨てられた自分が、
国家から招かれる日が来るなど。
だが。
それは、外見が変わったからではない。
――そう、信じている。
「……行きましょう」
自分に言い聞かせるように、呟いた。
これは、逃避ではない。
復讐でもない。
ただ、
自分で選んだ未来への一歩だ。
シルフィーネは、机に向かい、静かに返書をしたため始めた。
その文字は、迷いなく、真っ直ぐだった。
――物語は、いよいよ国境を越えようとしている。
朝の公爵邸に、一通の書状が届いた。
封蝋に刻まれているのは、見慣れぬ紋章。
だが、その意匠を目にした瞬間、公爵はわずかに眉を上げた。
「……ノルディア王国か」
静かに呟き、封を切る。
*
「正式な、招待……ですか?」
シルフィーネは、書斎で差し出された書状に目を通し、ゆっくりと息を吸った。
そこに書かれていたのは、儀礼的でありながら、極めて明確な文言。
> ノルディア王国王太子エドワルドは、
公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク殿を
王都ノルディアへ、正式な賓客として招待する。
――私的な誘いではない。
国家としての、正式な意思表示。
「これは……軽い話ではないな」
公爵が、低く言った。
「ええ」
シルフィーネも、同意する。
この招待は、好意の延長ではない。
昨夜の会話だけで出されるものでもない。
彼は、見極めたのだ。
そして――踏み込むと、決めた。
「……行きたい、ですか?」
母の問いは、慎重だった。
シルフィーネは、少し考え、正直に答える。
「怖くないと言えば、嘘になります」
異国。
王太子。
公の立場。
どれも、軽く扱えるものではない。
「ですが」
視線を上げ、はっきりと続けた。
「逃げたいとは、思いません」
眠っていた一年の間、
彼女は多くのものを“奪われた”。
時間。
選択肢。
語る機会。
だからこそ、今、差し出された“選択”を、
自分の意思で掴みたい。
「……私自身を、確かめたいのです」
外見でも、立場でもなく。
人として、どこまで通用するのか。
「それが、答えですね」
公爵は、静かに頷いた。
「無理に止めはしない。ただし――」
父は、娘をまっすぐに見つめる。
「お前は、公爵家の令嬢だ。
そして同時に、一人の人間だ」
「はい」
「どちらも、忘れるな」
その言葉に、胸が熱くなる。
「……ありがとうございます」
*
その日の午後。
王都では、別の場所でも動きがあった。
「ノルディア王国から、正式な招待?」
ライオネルは、信じられないという顔で、報告書を握りしめていた。
「はい。すでに公になりつつあります」
側近の言葉に、頭がくらくらする。
――正式な賓客。
それは、もはや個人の問題ではない。
「……彼女は……そんな存在だったのか?」
問いは、誰にも届かない。
一方、アメリアの元にも、同じ噂が届いていた。
「そんな……ただの、眠っていた女でしょう……?」
震える声。
だが、周囲の視線は冷たい。
彼女が必死に積み上げてきた立場は、
“あの件”が蒸し返され始めたことで、音を立てて揺らいでいた。
*
夕暮れ。
シルフィーネは、部屋の窓辺に立っていた。
書状は、机の上に置かれている。
まだ、返事は出していない。
「……正式な招待、か」
小さく笑う。
以前の自分なら、考えもしなかっただろう。
“幼すぎる”と切り捨てられた自分が、
国家から招かれる日が来るなど。
だが。
それは、外見が変わったからではない。
――そう、信じている。
「……行きましょう」
自分に言い聞かせるように、呟いた。
これは、逃避ではない。
復讐でもない。
ただ、
自分で選んだ未来への一歩だ。
シルフィーネは、机に向かい、静かに返書をしたため始めた。
その文字は、迷いなく、真っ直ぐだった。
――物語は、いよいよ国境を越えようとしている。
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