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第17話 選ばれなかった者たち
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第17話 選ばれなかった者たち
ライオネルが去った応接間には、静寂だけが残っていた。
シルフィーネは、しばらくその場に立ったまま、何も考えずに窓の外を眺めていた。
胸の奥に痛みはない。
あるのは、静かに区切りがついたという実感だけだった。
「……やっと、ですね」
小さく呟くと、背後で扉が控えめに叩かれる。
「お嬢様……」
マリアだった。
その表情は、どこか緊張している。
「何か、ありましたか?」
「王都からの使者が……それから、公爵様がお呼びです」
――もう、動き始めたのね。
*
書斎では、公爵と公爵夫人が待っていた。
「ライオネルが来ていたそうだな」
「ええ」
隠す必要はない。
「……どうだった?」
父の問いは、結果ではなく、娘の心を気遣うものだった。
「きちんと、終わらせました」
その言葉に、公爵は深く息を吐き、ゆっくりと頷いた。
「そうか」
それ以上は聞かない。
それが、父なりの信頼だった。
そして、話題は自然と次に移る。
「王都の様子だが……」
公爵の声が、少しだけ低くなる。
「アメリア伯爵令嬢の周辺が、騒がしくなっている」
シルフィーネは、わずかに目を細めた。
「噂、ですか?」
「噂だけでは済まなくなりつつある」
公爵は、書類を一枚差し出した。
「例の夜会の日、階段付近にいた者たちの証言が、ようやく揃った」
そこに書かれていたのは、断片的だが一致する内容。
――背後に、アメリアがいた。
――言い争うような声が聞こえた。
――次の瞬間、シルフィーネが落ちた。
「……そう」
それだけを呟く。
怒りは湧かない。
復讐心も、ない。
ただ、事実が事実として、形を取り始めているだけだ。
「お前が目覚めたことで、
この件を“なかったこと”にはできなくなった」
公爵夫人が、静かに言った。
「そして……」
公爵は、少し間を置いて続ける。
「裏で糸を引いていた貴族派閥も、動揺している」
婚約破棄。
事故。
眠り続ける公爵令嬢。
すべてが、都合よく重なりすぎていた。
「……私は、何もしません」
シルフィーネは、はっきりと言った。
「事実が明らかになるなら、それで十分です」
誰かを追い詰めたいわけではない。
ただ、自分が踏みにじられた理由が、曖昧なまま終わるのは嫌だった。
「……それでいい」
公爵は、静かに頷いた。
「お前は、もう“守られるだけの存在”ではない」
*
その日の夕方。
シルフィーネは庭を歩いていた。
身体を慣らすための、短い散策。
風に揺れる木々の間で、ふと立ち止まる。
「……不思議ですね」
かつて、自分を見下し、切り捨てた人々が、
今になって慌ただしく足元を固め始めている。
自分は、何もしていない。
変わったのは、外見と――立場だけ。
それなのに。
「選ばれなかったのは……私ではなく、あなたたち」
誰に向けるでもなく、そう呟いた。
人は、自分が“選ばなかった”と思っている間は、優位に立った気でいられる。
だが、実際には――
自分が選ばれていなかったことに、後から気づくのだ。
ライオネルも。
アメリアも。
そして、裏で糸を引いていた者たちも。
彼らは皆、
シルフィーネという人間を、最初から選ばなかった。
だから今、彼女に選ばれない現実に、耐えられなくなっている。
庭の奥で、鳥が羽ばたいた。
シルフィーネは、その音を聞きながら、静かに微笑む。
復讐は、しない。
ざまぁ、と笑うこともない。
ただ――前に進む。
それだけで、
十分すぎるほどの答えなのだから。
ライオネルが去った応接間には、静寂だけが残っていた。
シルフィーネは、しばらくその場に立ったまま、何も考えずに窓の外を眺めていた。
胸の奥に痛みはない。
あるのは、静かに区切りがついたという実感だけだった。
「……やっと、ですね」
小さく呟くと、背後で扉が控えめに叩かれる。
「お嬢様……」
マリアだった。
その表情は、どこか緊張している。
「何か、ありましたか?」
「王都からの使者が……それから、公爵様がお呼びです」
――もう、動き始めたのね。
*
書斎では、公爵と公爵夫人が待っていた。
「ライオネルが来ていたそうだな」
「ええ」
隠す必要はない。
「……どうだった?」
父の問いは、結果ではなく、娘の心を気遣うものだった。
「きちんと、終わらせました」
その言葉に、公爵は深く息を吐き、ゆっくりと頷いた。
「そうか」
それ以上は聞かない。
それが、父なりの信頼だった。
そして、話題は自然と次に移る。
「王都の様子だが……」
公爵の声が、少しだけ低くなる。
「アメリア伯爵令嬢の周辺が、騒がしくなっている」
シルフィーネは、わずかに目を細めた。
「噂、ですか?」
「噂だけでは済まなくなりつつある」
公爵は、書類を一枚差し出した。
「例の夜会の日、階段付近にいた者たちの証言が、ようやく揃った」
そこに書かれていたのは、断片的だが一致する内容。
――背後に、アメリアがいた。
――言い争うような声が聞こえた。
――次の瞬間、シルフィーネが落ちた。
「……そう」
それだけを呟く。
怒りは湧かない。
復讐心も、ない。
ただ、事実が事実として、形を取り始めているだけだ。
「お前が目覚めたことで、
この件を“なかったこと”にはできなくなった」
公爵夫人が、静かに言った。
「そして……」
公爵は、少し間を置いて続ける。
「裏で糸を引いていた貴族派閥も、動揺している」
婚約破棄。
事故。
眠り続ける公爵令嬢。
すべてが、都合よく重なりすぎていた。
「……私は、何もしません」
シルフィーネは、はっきりと言った。
「事実が明らかになるなら、それで十分です」
誰かを追い詰めたいわけではない。
ただ、自分が踏みにじられた理由が、曖昧なまま終わるのは嫌だった。
「……それでいい」
公爵は、静かに頷いた。
「お前は、もう“守られるだけの存在”ではない」
*
その日の夕方。
シルフィーネは庭を歩いていた。
身体を慣らすための、短い散策。
風に揺れる木々の間で、ふと立ち止まる。
「……不思議ですね」
かつて、自分を見下し、切り捨てた人々が、
今になって慌ただしく足元を固め始めている。
自分は、何もしていない。
変わったのは、外見と――立場だけ。
それなのに。
「選ばれなかったのは……私ではなく、あなたたち」
誰に向けるでもなく、そう呟いた。
人は、自分が“選ばなかった”と思っている間は、優位に立った気でいられる。
だが、実際には――
自分が選ばれていなかったことに、後から気づくのだ。
ライオネルも。
アメリアも。
そして、裏で糸を引いていた者たちも。
彼らは皆、
シルフィーネという人間を、最初から選ばなかった。
だから今、彼女に選ばれない現実に、耐えられなくなっている。
庭の奥で、鳥が羽ばたいた。
シルフィーネは、その音を聞きながら、静かに微笑む。
復讐は、しない。
ざまぁ、と笑うこともない。
ただ――前に進む。
それだけで、
十分すぎるほどの答えなのだから。
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