『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』

鷹 綾

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第31話 選択の返書

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第31話 選択の返書

 返書が届いたのは、三日後の朝だった。

 王城の紋章が刻まれた封蝋を見た瞬間、
 シルフィーネは不思議なほど落ち着いていた。

 ――焦りはない。
 ――期待も、過度にはない。

 ただ、答えを受け取る準備ができている。



 封を切り、文面に目を走らせる。

> 公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク殿

あなたの書簡、確かに受け取った。

過去に決着をつけたうえで、
自らの意思で未来を選ぼうとする姿勢を、
私は高く評価している。



 差出人は、エドワルド個人。
 王太子としてではなく、一人の人間としての言葉だ。

> 次に会う場を、
“再会”ではなく“対話の続き”としたい。

よって、正式な招聘ではなく、
あなたの意思による訪問を望む。



 そして、最後の一文。

> あなたが来るかどうかは、
あなた自身が決めてほしい。



 シルフィーネは、静かに手紙を閉じた。

「……選択を、返されましたね」

 押しつけでも、誘導でもない。
 ただの、対等な提示。

 それが、どれほど貴重なことかを、
 彼女はもう知っている。



 その日の午後、父と向き合って話す機会を持った。

「ノルディアから、返事が来ました」

 そう切り出すと、父は黙って頷いた。

「……行くのか?」

 率直な問い。

「まだ、決めていません」

 正直に答える。

「ただ、
 “逃げ場”としてではなく、
 “選択肢”として考えています」

 父は、しばらく黙り、やがて言った。

「それなら、止める理由はない」

 その言葉に、胸が少しだけ緩む。

「……昔なら」

 ふと、口をついて出る。

「“良縁だから”“国益になるから”と、
 決められていたかもしれません」

「かもしれんな」

 父は、否定しなかった。

「だが今は、違う」

 短く、だが重みのある言葉。

「お前自身が、判断できる」



 夜、自室で一人、地図を広げる。

 自国。
 ノルディア。

 線で結ばれた距離は、
 かつて思っていたほど遠くはない。

「……怖くない、とは言えませんね」

 未知の未来。
 立場の変化。
 責任。

 それでも。

「……でも、前よりは」

 怖さの質が、違う。

 拒絶される恐れではなく、
 選び間違えるかもしれない不安。

 それは――
 自分で人生を動かす者だけが抱く感情だ。



 机に向かい、白紙の紙を一枚取り出す。

 まだ、返事は書かない。

 急ぐ必要はない。

 だが、ペンを握る手は、もう迷っていなかった。

「……次は」

 小さく呟く。

「私が、選ぶ」

 シルフィーネは、深く息を吸い、
 静かに夜を受け入れた。

 選択は、もう
 誰かの手の中にはない。

 ――それだけで、
 十分に前へ進んでいる。
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