31 / 40
第31話 選択の返書
しおりを挟む
第31話 選択の返書
返書が届いたのは、三日後の朝だった。
王城の紋章が刻まれた封蝋を見た瞬間、
シルフィーネは不思議なほど落ち着いていた。
――焦りはない。
――期待も、過度にはない。
ただ、答えを受け取る準備ができている。
*
封を切り、文面に目を走らせる。
> 公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク殿
あなたの書簡、確かに受け取った。
過去に決着をつけたうえで、
自らの意思で未来を選ぼうとする姿勢を、
私は高く評価している。
差出人は、エドワルド個人。
王太子としてではなく、一人の人間としての言葉だ。
> 次に会う場を、
“再会”ではなく“対話の続き”としたい。
よって、正式な招聘ではなく、
あなたの意思による訪問を望む。
そして、最後の一文。
> あなたが来るかどうかは、
あなた自身が決めてほしい。
シルフィーネは、静かに手紙を閉じた。
「……選択を、返されましたね」
押しつけでも、誘導でもない。
ただの、対等な提示。
それが、どれほど貴重なことかを、
彼女はもう知っている。
*
その日の午後、父と向き合って話す機会を持った。
「ノルディアから、返事が来ました」
そう切り出すと、父は黙って頷いた。
「……行くのか?」
率直な問い。
「まだ、決めていません」
正直に答える。
「ただ、
“逃げ場”としてではなく、
“選択肢”として考えています」
父は、しばらく黙り、やがて言った。
「それなら、止める理由はない」
その言葉に、胸が少しだけ緩む。
「……昔なら」
ふと、口をついて出る。
「“良縁だから”“国益になるから”と、
決められていたかもしれません」
「かもしれんな」
父は、否定しなかった。
「だが今は、違う」
短く、だが重みのある言葉。
「お前自身が、判断できる」
*
夜、自室で一人、地図を広げる。
自国。
ノルディア。
線で結ばれた距離は、
かつて思っていたほど遠くはない。
「……怖くない、とは言えませんね」
未知の未来。
立場の変化。
責任。
それでも。
「……でも、前よりは」
怖さの質が、違う。
拒絶される恐れではなく、
選び間違えるかもしれない不安。
それは――
自分で人生を動かす者だけが抱く感情だ。
*
机に向かい、白紙の紙を一枚取り出す。
まだ、返事は書かない。
急ぐ必要はない。
だが、ペンを握る手は、もう迷っていなかった。
「……次は」
小さく呟く。
「私が、選ぶ」
シルフィーネは、深く息を吸い、
静かに夜を受け入れた。
選択は、もう
誰かの手の中にはない。
――それだけで、
十分に前へ進んでいる。
返書が届いたのは、三日後の朝だった。
王城の紋章が刻まれた封蝋を見た瞬間、
シルフィーネは不思議なほど落ち着いていた。
――焦りはない。
――期待も、過度にはない。
ただ、答えを受け取る準備ができている。
*
封を切り、文面に目を走らせる。
> 公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク殿
あなたの書簡、確かに受け取った。
過去に決着をつけたうえで、
自らの意思で未来を選ぼうとする姿勢を、
私は高く評価している。
差出人は、エドワルド個人。
王太子としてではなく、一人の人間としての言葉だ。
> 次に会う場を、
“再会”ではなく“対話の続き”としたい。
よって、正式な招聘ではなく、
あなたの意思による訪問を望む。
そして、最後の一文。
> あなたが来るかどうかは、
あなた自身が決めてほしい。
シルフィーネは、静かに手紙を閉じた。
「……選択を、返されましたね」
押しつけでも、誘導でもない。
ただの、対等な提示。
それが、どれほど貴重なことかを、
彼女はもう知っている。
*
その日の午後、父と向き合って話す機会を持った。
「ノルディアから、返事が来ました」
そう切り出すと、父は黙って頷いた。
「……行くのか?」
率直な問い。
「まだ、決めていません」
正直に答える。
「ただ、
“逃げ場”としてではなく、
“選択肢”として考えています」
父は、しばらく黙り、やがて言った。
「それなら、止める理由はない」
その言葉に、胸が少しだけ緩む。
「……昔なら」
ふと、口をついて出る。
「“良縁だから”“国益になるから”と、
決められていたかもしれません」
「かもしれんな」
父は、否定しなかった。
「だが今は、違う」
短く、だが重みのある言葉。
「お前自身が、判断できる」
*
夜、自室で一人、地図を広げる。
自国。
ノルディア。
線で結ばれた距離は、
かつて思っていたほど遠くはない。
「……怖くない、とは言えませんね」
未知の未来。
立場の変化。
責任。
それでも。
「……でも、前よりは」
怖さの質が、違う。
拒絶される恐れではなく、
選び間違えるかもしれない不安。
それは――
自分で人生を動かす者だけが抱く感情だ。
*
机に向かい、白紙の紙を一枚取り出す。
まだ、返事は書かない。
急ぐ必要はない。
だが、ペンを握る手は、もう迷っていなかった。
「……次は」
小さく呟く。
「私が、選ぶ」
シルフィーネは、深く息を吸い、
静かに夜を受け入れた。
選択は、もう
誰かの手の中にはない。
――それだけで、
十分に前へ進んでいる。
16
あなたにおすすめの小説
初恋の王女殿下が帰って来たからと、離婚を告げられました。
ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢アリスは他に想う人のいる相手と結婚した。
政略結婚ではあったものの、家族から愛されず、愛に飢えていた彼女は生まれて初めて優しくしてくれる夫をすぐに好きになった。
しかし、結婚してから三年。
夫の初恋の相手である王女殿下が国に帰って来ることになり、アリスは愛する夫から離婚を告げられてしまう。
絶望の中でアリスの前に現れたのはとある人物で……!?
婚約者の私を見捨てたあなた、もう二度と関わらないので安心して下さい
神崎 ルナ
恋愛
第三王女ロクサーヌには婚約者がいた。騎士団でも有望株のナイシス・ガラット侯爵令息。その美貌もあって人気がある彼との婚約が決められたのは幼いとき。彼には他に優先する幼なじみがいたが、政略結婚だからある程度は仕方ない、と思っていた。だが、王宮が魔導師に襲われ、魔術により天井の一部がロクサーヌへ落ちてきたとき、彼が真っ先に助けに行ったのは幼馴染だという女性だった。その後もロクサーヌのことは見えていないのか、完全にスルーして彼女を抱きかかえて去って行くナイシス。
嘘でしょう。
その後ロクサーヌは一月、目が覚めなかった。
そして目覚めたとき、おとなしやかと言われていたロクサーヌの姿はどこにもなかった。
「ガラット侯爵令息とは婚約破棄? 当然でしょう。それとね私、力が欲しいの」
もう誰かが護ってくれるなんて思わない。
ロクサーヌは力をつけてひとりで生きていこうと誓った。
だがそこへクスコ辺境伯がロクサーヌへ求婚する。
「ぜひ辺境へ来て欲しい」
※時代考証がゆるゆるですm(__)m ご注意くださいm(__)m
総合・恋愛ランキング1位(2025.8.4)hotランキング1位(2025.8.5)になりましたΣ(・ω・ノ)ノ ありがとうございます<(_ _)>
恩知らずの婚約破棄とその顛末
みっちぇる。
恋愛
シェリスは婚約者であったジェスに婚約解消を告げられる。
それも、婚約披露宴の前日に。
さらに婚約披露宴はパートナーを変えてそのまま開催予定だという!
家族の支えもあり、婚約披露宴に招待客として参加するシェリスだが……
好奇にさらされる彼女を助けた人は。
前後編+おまけ、執筆済みです。
【続編開始しました】
執筆しながらの更新ですので、のんびりお待ちいただけると嬉しいです。
矛盾が出たら修正するので、その時はお知らせいたします。
裏切りの先にあるもの
マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。
結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。
真実の愛がどうなろうと関係ありません。
希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。
婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。
「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」
サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。
それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。
サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。
一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。
若きバラクロフ侯爵レジナルド。
「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」
フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。
「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」
互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。
その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは……
(予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
病弱な幼馴染を守る彼との婚約を解消、十年の恋を捨てて結婚します
佐藤 美奈
恋愛
セフィーナ・グラディウスという貴族の娘が、婚約者であるアルディン・オルステリア伯爵令息との関係に苦悩し、彼の優しさが他の女性に向けられることに心を痛める。
セフィーナは、アルディンが幼馴染のリーシャ・ランスロット男爵令嬢に特別な優しさを注ぐ姿を見て、自らの立場に苦しみながらも、理想的な婚約者を演じ続ける日々を送っていた。
婚約して十年間、心の中で自分を演じ続けてきたが、それももう耐えられなくなっていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる