『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』

鷹 綾

文字の大きさ
33 / 40

第33話 対話の席にて

しおりを挟む
第33話 対話の席にて

 ノルディア王城に到着したのは、午後の遅い時間だった。

 だが、出迎えは最小限。
 儀礼も、歓迎の演出もない。

 それが、かえって心地よい。

「……お久しぶりです」

 案内された応接室で、エドワルドは立ち上がって迎えた。

「お帰りなさい、と言うべきでしょうか」

 微笑みは、以前と変わらない。
 だが、その眼差しには“結果を求めない余裕”があった。

「今回は、正式な賓客ではありません」

 シルフィーネは、はっきりと告げる。

「一人の人間として、
 対話の続きをしに来ました」

「承知しています」

 エドワルドは、頷いた。

「だからこそ、この場を用意しました」



 席に着き、侍従が下がると、室内は静寂に包まれた。

 沈黙が、重くない。

 言葉を選ぶための時間だ。

「……まず、確認させてください」

 エドワルドが口を開いた。

「あなたは、
 “王太子妃になること”を目的に、
 ここへ来たのではありませんね」

「ええ」

 即答だった。

「その立場を、
 選択肢として検討する可能性はあります。
 ですが、それが目的ではありません」

「理由を」

「私は、自分が
 “誰かの隣に立てる人間なのか”を確かめたいのです」

 守られる存在か。
 飾られる存在か。

 それとも――。

「対話し、異論を述べ、
 時に反対する立場であっても、
 共に進める相手なのか」

 エドワルドは、目を細めた。

「……重い問いですね」

「承知しています」

 それでも、と続ける。

「軽い問いでは、
 人生は選べませんから」



 彼は、少し考えてから答えた。

「あなたが、
 この国に永住する義務はありません」

 その言葉に、シルフィーネは驚かなかった。

「必要なのは、
 “同じ方向を見ようとする意思”です」

 地図の上に、指を置く。

「同意でなくていい。
 忠誠でもない。
 理解しようとする姿勢です」

 それは、かつて彼女が求め、
 得られなかったもの。

「……私には、
 異論を述べる癖があります」

 シルフィーネは、微かに笑った。

「知っています」

 即答。

「だから、あなたを呼んだ」

 その一言が、
 胸の奥に、静かに落ちた。



「最後に、私からも確認を」

 シルフィーネは、視線をまっすぐ向ける。

「もし、私が――
 殿下にとって不都合な意見を述べたとしても」

 一拍、置く。

「それでも、
 対話を続けるつもりはありますか?」

 問いは、鋭い。
 だが、攻撃ではない。

 エドワルドは、迷わず答えた。

「あります」

 理由は、続かない。

 だが、それで十分だった。



 席を立つとき、
 二人の間に、微かな変化が生まれていた。

 恋ではない。
 契約でもない。

 ――信頼の芽。

 それが、静かに、確かに芽吹いた。

「……今日は、ここまでにしましょう」

 エドワルドが言う。

「結論を急ぐ場ではありません」

「同感です」

 シルフィーネは、微笑んだ。

 この国で、
 初めて“自分の重さ”を、そのまま置ける場所。

 それが、何よりも大切だった。

 対話は、始まったばかりだ。

 だが、もう――
 一方的に選ばれる物語ではない。

 二人は、同じ席を立ち、
 それぞれの未来へ、静かに歩き出していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?

つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです! 文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか! 結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。 目を覚ましたら幼い自分の姿が……。 何故か十二歳に巻き戻っていたのです。 最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。 そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか? 他サイトにも公開中。

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

【完結】王妃を廃した、その後は……

かずきりり
恋愛
私にはもう何もない。何もかもなくなってしまった。 地位や名誉……権力でさえ。 否、最初からそんなものを欲していたわけではないのに……。 望んだものは、ただ一つ。 ――あの人からの愛。 ただ、それだけだったというのに……。 「ラウラ! お前を廃妃とする!」 国王陛下であるホセに、いきなり告げられた言葉。 隣には妹のパウラ。 お腹には子どもが居ると言う。 何一つ持たず王城から追い出された私は…… 静かな海へと身を沈める。 唯一愛したパウラを王妃の座に座らせたホセは…… そしてパウラは…… 最期に笑うのは……? それとも……救いは誰の手にもないのか *************************** こちらの作品はカクヨムにも掲載しています。

[完結]だってあなたが望んだことでしょう?

青空一夏
恋愛
マールバラ王国には王家の血をひくオルグレーン公爵家の二人の姉妹がいる。幼いころから、妹マデリーンは姉アンジェリーナのドレスにわざとジュースをこぼして汚したり、意地悪をされたと嘘をついて両親に小言を言わせて楽しんでいた。 アンジェリーナの生真面目な性格をけなし、勤勉で努力家な姉を本の虫とからかう。妹は金髪碧眼の愛らしい容姿。天使のような無邪気な微笑みで親を味方につけるのが得意だった。姉は栗色の髪と緑の瞳で一見すると妹よりは派手ではないが清楚で繊細な美しさをもち、知性あふれる美貌だ。 やがて、マールバラ王国の王太子妃に二人が候補にあがり、天使のような愛らしい自分がふさわしいと、妹は自分がなると主張。しかし、膨大な王太子妃教育に我慢ができず、姉に代わってと頼むのだがーー

婚約者の私を見捨てたあなた、もう二度と関わらないので安心して下さい

神崎 ルナ
恋愛
第三王女ロクサーヌには婚約者がいた。騎士団でも有望株のナイシス・ガラット侯爵令息。その美貌もあって人気がある彼との婚約が決められたのは幼いとき。彼には他に優先する幼なじみがいたが、政略結婚だからある程度は仕方ない、と思っていた。だが、王宮が魔導師に襲われ、魔術により天井の一部がロクサーヌへ落ちてきたとき、彼が真っ先に助けに行ったのは幼馴染だという女性だった。その後もロクサーヌのことは見えていないのか、完全にスルーして彼女を抱きかかえて去って行くナイシス。  嘘でしょう。  その後ロクサーヌは一月、目が覚めなかった。  そして目覚めたとき、おとなしやかと言われていたロクサーヌの姿はどこにもなかった。 「ガラット侯爵令息とは婚約破棄? 当然でしょう。それとね私、力が欲しいの」  もう誰かが護ってくれるなんて思わない。  ロクサーヌは力をつけてひとりで生きていこうと誓った。  だがそこへクスコ辺境伯がロクサーヌへ求婚する。 「ぜひ辺境へ来て欲しい」  ※時代考証がゆるゆるですm(__)m ご注意くださいm(__)m  総合・恋愛ランキング1位(2025.8.4)hotランキング1位(2025.8.5)になりましたΣ(・ω・ノ)ノ  ありがとうございます<(_ _)>

真実の愛がどうなろうと関係ありません。

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。 婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。 「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」 サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。 それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。 サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。 一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。 若きバラクロフ侯爵レジナルド。 「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」 フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。 「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」 互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。 その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは…… (予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)

処理中です...