スルドの声(嚶鳴2) terceira homenagem

桜のはなびら

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いのりという人物

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(姫田 祷)

 いのりは穏やかな見た目に落ち着いた表情でいることが多い。
 が、知略謀略に長けている。
「意外」と思う一方、実は眼光鋭い切れ者みたいな人よりも、いのりのような人の方がそういうのは向いているのかもなぁと思う。
 
 謀略というと悪いことのような印象があるが、いのりは目的を果たすための手段が豊富というだけ。その中に、いのりの知性や論理性といった資質に基づいたものがあるだけなのだ。
 
 人、モノ、カネ、情報といった、企業経営では経営資源と呼ばれるものを、いのりは文字通り資源として用いて計画を遂行し、目的へと至る。
 多彩且つ高い能力を駆使してカネをあつめ、人の心をつかみ、動かし、人を使ってカネやモノや情報を得て、その情報でカネと人を得る。
 カネの力で必要なモノのほか、人を集めることもある。
 その資源をぐるぐる回転させて、いのりは揮える力を増していく。
 まさに企業経営のごとくだが、会社ではあまりやらない(福利厚生やモチベーションアップの施策を打っているところは多いが)「人の心をつかむ」というところが、特異と言えるか。
 

 知略謀略という言葉で表したが、いのりはそれを前面に出したりはしない。
 人は感情の生き物であることを承知している彼女は、人の感情に働きかける。エモーショナルな人が得意なやり方を、いのりは智と理と論に基づき、意図をもって行うのだ。

 などというと、謀略という言葉のイメージ通り、やっぱり邪悪な感じになってしまうが、いのりの性根はどこまでも善性なので、その目的は悪いものにはなり得なく、なので、若干、ごくたまに、(いのり、こわっ……)なんて思うこともあるけれど、いのりがもたらす結果に対しては全幅の信頼を寄せている。
 そう考える人が、私以外にも大勢いることが、逆算すると、いのりになら使われても良い、いのりのために動きたい、と思う(または思わせる)「人の心をつかむ」やり方が、洗脳や騙すなどの行為とは明確に一線を画しているのだと考えられた。
 
 
「……作品作りに直接は関われませんが、筋と根拠という説得力を与えることで、作品の放つ『目に見えない訴え』と、セリフや説明などの言葉にもしていない『表現』にも、強い軸を通せるものと考えています」

 
 監督は、いのりにぽつぽつと質問をしていた。測るような指向性を持つ質問に、いのりは知性と穏やかさを感じさせる回答を重ねていた。
 
 監督は相変わらずのけぞったまま、口もへの字に曲げていたが、結構長くなっているふたりのやり取りを妃夜さんが微笑んで眺めている。
 小国さんも少し困ったような顔で苦笑していた。監督と付き合いの長い妃夜さんと小国さんには、監督の機嫌が良さそうに見えたのだろう。

 私にもそう見えたのは、驚きと発見だった。
 
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