142 / 221
積み上がる会話
しおりを挟む初見で監督と関係性を構築できそうないのり。さすがだし、相変わらずすごい。
そのすごさは、頭の良いいのりが監督の求める正解を当てにいっているわけではないというところ。冒頭の宣言通り、本音で語った結果が、監督に響いている。
そして、
「私の目指すところにも直接繋がる取り組みでもあります。大いに利用させていただくつもりです」
質問への回答には、笑顔で、自分の主張や想い、都合や欲の部分も付け加えていた。監督は、そういう芯の強さは好ましく思う傾向がある。監督はすでに、いのりのことを「侮れない存在」から、「見込みのある存在」に評価が変遷している頃だろう。一緒に仕事を重ねていくことで、それが「頼もしい存在」へと変わるはずだ。
「派生した話になってしまいますが、企画全体の枠組みの中で、アライアンスに関してご提案させていただけたらと……これは、小国さんにご相談させていただいた方が良いですね?」
「そうですね、ぜひ伺いたいです」と小国さんも穏やかに答える。
監督がいる場で、打合せがこれほどに穏やかで和やかだったこと、今まで一度もなかったんじゃないかな。
その空気を作り上げたのは、しょーちゃんや小国さんの助けもあっただろうが、間違いなくいのりの手によるものだった。
「それでは、具体的なことについて、説明していきますね」
監督とのやり取りから解放されたいのりは疲れた様子もなく、発言する小国さんの方を向いている。
監督といのりのやり取りを終えて、場の仕切りに戻ったしょーちゃんは、その立場を小国さんに回した。
小国さんからは、企画の全体的な予定と、それに関わる動きについての説明がなされた。
「色部さんには追加シーンの撮影、主題歌の録音、MVの録画……あとこれは、どこまでリンクできるかまだ不明ですが、バラエティの出演。最低限番宣はさせてもらうことは確定していますが……と、当初予定になかった案件が重なってしまっていて申し訳ありません」
大丈夫です。がんばります。と私。
「ほまれと一緒にやる予定だったチェック作業はある程度私がやりますので、可能でしたらその作業の負担は軽減してください」
「そう仰っていただけると助かります。色部さんはそれでもよろしいでしょうか?」
「あ、はい。でもちょっとやりたい気持ちもあって……」
「うんうん、もちろんほまれにも入ってもらいたい。ノータッチだと二重チェックの形にならないからね。なので、ほまれにはできるだけ参加してもらいたいけど、ほまれにしかできない案件を優先してもらって、カバーしきれない部分があったら、私が補うって形でどうかな」
それは非常にありがたく心強い申し出だったが、ちょっと聞いただけでも、いのりが同時進行で進めている数多のタスク。私の比じゃないくらい忙しいように見受けられるが……。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
スルドの声(嚶鳴) terceira homenagem
桜のはなびら
現代文学
大学生となった誉。
慣れないひとり暮らしは想像以上に大変で。
想像もできなかったこともあったりして。
周囲に助けられながら、どうにか新生活が軌道に乗り始めて。
誉は受験以降休んでいたスルドを再開したいと思った。
スルド。
それはサンバで使用する打楽器のひとつ。
嘗て。
何も。その手には何も無いと思い知った時。
何もかもを諦め。
無為な日々を送っていた誉は、ある日偶然サンバパレードを目にした。
唯一でも随一でなくても。
主役なんかでなくても。
多数の中の一人に過ぎなかったとしても。
それでも、パレードの演者ひとりひとりが欠かせない存在に見えた。
気づけば誉は、サンバ隊の一員としてスルドという大太鼓を演奏していた。
スルドを再開しようと決めた誉は、近隣でスルドを演奏できる場を探していた。そこで、ひとりのスルド奏者の存在を知る。
配信動画の中でスルドを演奏していた彼女は、打楽器隊の中にあっては多数のパーツの中のひとつであるスルド奏者でありながら、脇役や添え物などとは思えない輝きを放っていた。
過去、身を置いていた世界にて、将来を嘱望されるトップランナーでありながら、終ぞ栄光を掴むことのなかった誉。
自分には必要ないと思っていた。
それは。届かないという現実をもう見たくないがための言い訳だったのかもしれない。
誉という名を持ちながら、縁のなかった栄光や栄誉。
もう一度。
今度はこの世界でもう一度。
誉はもう一度、栄光を追求する道に足を踏み入れる決意をする。
果てなく終わりのないスルドの道は、誉に何をもたらすのだろうか。
スルドの声(共鳴) terceira esperança
桜のはなびら
現代文学
日々を楽しく生きる。
望にとって、それはなによりも大切なこと。
大げさな夢も、大それた目標も、無くたって人生の価値が下がるわけではない。
それでも、心の奥に燻る思いには気が付いていた。
向かうべき場所。
到着したい場所。
そこに向かって懸命に突き進んでいる者。
得るべきもの。
手に入れたいもの。
それに向かって必死に手を伸ばしている者。
全部自分の都合じゃん。
全部自分の欲得じゃん。
などと嘯いてはみても、やっぱりそういうひとたちの努力は美しかった。
そういう対象がある者が羨ましかった。
望みを持たない望が、望みを得ていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる