スルドの声(嚶鳴2) terceira homenagem

桜のはなびら

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いのり

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 いのりの文脈から読み取ると、いのりのようにお行儀よく優等生的でも、監督のように態度や言動が悪くても、本音を現しているか隠しているかの評価材料にはならないということ。
 細々と語らずともいのりが言わんとしたことを、監督は理解したのだろう。椅子の背もたれにのけぞっている姿こそ品の良い態度とは言えないものの、露骨な悪態や暴言などは飛び出さず、反論すら無かった。
 監督は、物事の本質を見定めることに長けている。
 だから、認めるべきところは認めている。認められないときの物言いは理不尽で、態度言動は不適切でも、言いたいことそのものは理に適っている。
 
「私は性格上、品行方正です。お行儀よく真面目」
 
 おお……自分で言うかぁ。
 でもこれは、まっとうな分析に対しての評価だ。評価は本来誉め言葉や悪口とは異なるが、項目そのものが善し悪しの指向性を持ってしまうものだ。自分に対して、客観的な評価ができ、それを口にできる人ってどれくらいいるのだろう。
 
「だから遊びがない、面白味がない=幅や深みがない。という特性と必ずしも結び付くわけではないことは、人を見てきた監督なら釈迦に説法でしたね」

 これは、テクニックかな?
 己の論理の正しさを、相手を立てながら、「そんな賢明なあなたであればご存知だと思いますが」的な流れで決めつけて、反論させず且つ合意形成は得たものとして先に進めるという。
 この監督には、その手のテクニックは通じ難いと思うが、監督からは特に拒絶の雰囲気は出ていない。いのりの言葉をとりあえずは受け入れているように見えた。
 
 うん、まあ、いのりは、見た目や雰囲気からは想像できないが、結構ぶっ飛んでいるところはある。それは果断にすぎるほどの行動力からも見て取れる。それに結構お茶目だ。
 人間としての面白味というか、魅力はむしろ抜群ではないだろうか。

 
 ここまでのことを要約すると、教科書の如き自己紹介は、決して面接などで見られるような、(監督が時間の無駄だと断じそうな)定型文の回答ではないといった説明に過ぎない。
 
 いのりは、自己保身自己弁護でその主張をしたわけではないだろう。
 
 今回は、たぶん、監督の「見る目」を承知したうえで、自分を「見せ」て「知らせ」ているのだ。
 そういう意味では文字通り自己紹介に相当する。
 そして「見せて知らせ」ながら、発信ややり取りを通して主導権の取り方と序列を定めることを意図しているのだと思う。

 決して主導権をとりすぎず、さりとて完全には委ねず。
 自らを駒として、運用はお任せしますと相手を立てながらも、必要があればきちんと発言ができ、それを聞いてもらえる立ち位置。
 上になるつもりはもちろんなく、傘下に入る態は装いながらも、意見は言うし言っても良いという立場に身を置くため、性質と能力を示す。といったところだろうか。

 何となくいのりの手法が把握できているかもしれない私も、結構客観視の能力が上がっているのかもしれない。
 そして改めて、それらの動きを、半ば計算はありながらも、ナチュラルに駆使して会話に組み込めるいのりの基礎性能に、やっぱりすごいなと感心させられた。
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