【完結】役立たずになったので身を引こうとしましたが、溺愛王子様から逃げられません

Rohdea

文字の大きさ
28 / 34

第27話 微かな希望

しおりを挟む


  ミネルヴァ様の肩を掴みながら私は、彼女に向かって言う。

「……返して。出来ないなんて言うのならその力を……私に返して!」
「む、無茶を言わないで!?  わ、私はブラッド様の言う通りにしていただけなの!  ル、ルキア様の力を自分の物にすれば、もっと、し、幸せになれるからって……」

  ミネルヴァ様は、とにかく無理無理無理と必死に首を横に振るばかり。
  本当のストーリーは違うの……とか何とか言っているけれどよく意味が分からない。
  
「……」

  悔しい。
  もちろん、力を返せなんて自分でも無茶な事を言っていると分かっている。それでも言わずにはいられなかった。
  ミネルヴァ様は、今の言葉で私の力を奪った事を自白したようなものだけれど、私の方こそ彼女に問いたい。

  人の力を無理やり奪ってそれで貴女は本当に幸せなの?  と。

  (無駄だわ)

  今のミネルヴァ様にそんな事を言ったところで、人のせいにばかりしている彼女にはきっと何も響かない。

「はぁ……」

  私は静かにため息を吐いた。
  それでも何か奇跡でも起きて、今、この瞬間にミネルヴァ様の力が私の元へと戻って来てくれればいいのに……
  
「悔しいけれど、きっとそんな奇跡が起きるのは“物語”のような世界でだけの話よね」

  そんな自嘲する言葉が思わず口からこぼれた。

「ルキア様」

  そこでお医者様からの声がかかる。
  振り返るとお医者様は静かに首を横に振っていた。ミネルヴァ様には期待出来ない。諦めろ──目がそう言っている。
  確かにこれ以上ミネルヴァ様と話していても時間の無駄だ。

「そうね、私は今の自分にやれる事をするしかない」
  
  私がそう呟くと、ミネルヴァ様は開き直ったのか急に態度を変えた。

「な、何よ!  さっきから何をブツブツ言っているのよ……!  わ、私は悪くないんだから!  全部、全部ブラッド様が悪いのよ!!  文句はブラッド様に言ってよね!」
「……」

  (開き直って反省すらもしないのね)

  この人はこんな時でも人のせいにして開き直るだけなの?  ただただ悲しい気持ちになった。
  私はそのままミネルヴァ様を掴んでいた手を離す。

「もう結構です。ミネルヴァ様……あなたには一切頼りません」
「は?  な、何を……何なのよ!  私をバカにしているの!?  だって、こんなの誰だってー」
「……」

  ミネルヴァ様はまだ何か喚いていたけれど、私はその声を無視をしてシグルド様の側に戻る。
  そして、私がミネルヴァ様の側を離れたと同時に陛下はミネルヴァ様の元に詰め寄り彼女を責め出した。

「ティティ男爵令嬢!  無理、出来ないとはどういう事なんだ!!  その力は何の為にあるのだ!!」
「へ、陛下……」
「この力で皆のお役に立ってみせます!  と偉そうに豪語していたではないか!!」
「そ、それは、その……」
「それに先程何やら不穏な発言が聞こえたが?」
「っっ!」

  (もう、好きにして)

  今はミネルヴァ様を責めるよりシグルド様の命を繋ぎ止める事の方が大事だから。
  
「持ち場を離れてしまいました、申し訳ございません」

  私はお医者様に謝罪し、再び応急処置の手伝いを行う。シグルド様の傷は深いのか、なかなか血が止まってくれない。
  そこで、ふとブラッド様はどうなっているのだろう?  と思い彼の方に視線を向けてみる。

  (やっぱりブラッド様も意識は無いようね)

  ブラッド様には別のお医者様が対応しているけれど、あちらも同じ様な状態らしい。
  でも、聞こえて来る声を拾う限り、向こうは血は止まったようなのでシグルド様の方が重症の様だった。

「……まるで相打ちしたみたい」

  私がそう呟くとその声を拾ったお医者様は言う。

「殿下から魔力の痕跡が感じられるので、おそらくその通りでしょうな」
「……」
「そのせいで、よりかなり危険な状態になっていると言えるのだが……」
「そんな!」

  倒れているシグルド様ばかりに目がいっていて気付かなかったけれど、言われてみれば部屋の中も荒れていて大きな衝撃を受けた後が感じられる。
  何故、こんな事に?  
  そんな思いばかり浮かんでくるけれど、ミネルヴァ様の言う通りならブラッド様が一連の件の黒幕。

  (シグルド様はブラッド様が怪しいと薄々思っていたのかもしれない)

  そして、二人は対峙した──

「……シグルド様」

  私はそっと彼の名を呼びそっと手を握る。
  癒しの力は使えないままだけれど、せめてこうしていたかった。

「殿下にとっての一番の癒しと治療はルキア様の存在そのものでしょうな」
「先生……?」
「ルキア様。そのまま殿下の手を握っていてあげてくだされ。人の強い想いは時に奇跡をも起こす」
「強い想い」

  その気持ちだけは負けない気がする。
  自分の事を役立たずだと決めつけて勝手に身を引こうとした私だけど、シグルド様を好きな気持ちはどうしても捨てられなかった。

「……想いが力に変わればいいのに」

  そんな事は有り得ないと分かっていてもそう願わずにはいられない。
  私はギュッとシグルド様の手を握りしめた。

  そこで何か違和感を覚える。

  (…………あれ?)

  何で手がこんなに温かいの?
  まさかシグルド様の手が?  と不思議に思ったものの何かが違う。
  ……これは、私の手が温かい?

  どういう事かしらと思っていると、お医者様が驚きの声を上げた。

「!!  殿下の顔色が!」
「え?」

  お医者様のその言葉に慌ててシグルド様の顔を見ると、さっきまで青白かった顔色がほんの少し、ほんの少しだったけれど色付いているように見えた。
  
「ど、どういう事……?」

  私がシグルド様の変化に驚いていると、お医者様がじっと私を見つめる。
  そして、手を伸ばして私の頭に触れた。

「な、何でしょうか?」
「ルキア様。あなたはあの日、魔力が全て空っぽになっておりましたな?」
「は、はい。先生もあの時にそう確認されたはずですが……?」
「そうだった…………では、今のあなたの中にある“それ”は何ですかな?」
「え?」

  お医者様の言う“それ”の意味が分からなくて、私は首を傾げる。
  私の頭から手を離したお医者様はさらに続けて言った。

「ふむ……どうやら、ご自分ではお分かりになられていないようですな」
「?」
「ルキア様、ほんの少しですが今のあなたからは魔力が感じられますぞ?」
「え?」

  私の魔力は空っぽになったはずでは?
  意味が分からず戸惑う。

「…………どなたから、いや、おそらく殿下なのでしょうが、何らかの力を受け取るような事をした覚えは?」
「!」

  そう言われて思い至るのは、シグルド様の防御魔法。

「シ、シグルド様が何度か私に防御魔法はかけてくれました」
「殿下の防御魔法?  それは殿下の力の一つの?」
「は、はい。かなり効き目も抜群でした」

  甘いキスをされながら、何だかんだでたくさん受け取った気がする。そのせいか、効果は凄かった。
  私は勢いよく吹っ飛んでいた侯爵の姿を思い出す。あれは凄い威力だった。

「……」
「先生?」

  私のその返答を聞いた先生が何かを考え込むようにして黙り込む。

「ルキア様、どうかそのまま殿下の手を……手をしっかり握っていてくだされ」
「え?」
「あなたのその微かな力が殿下への希望となるかもしれませんぞ?」
「!」

  それは僅かだけれど、希望の光が見えたかもしれない瞬間だった。
しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

聖女の座を追われた私は田舎で畑を耕すつもりが、辺境伯様に「君は畑担当ね」と強引に任命されました

さら
恋愛
 王都で“聖女”として人々を癒やし続けてきたリーネ。だが「加護が弱まった」と政争の口実にされ、無慈悲に追放されてしまう。行き場を失った彼女が選んだのは、幼い頃からの夢――のんびり畑を耕す暮らしだった。  ところが辺境の村にたどり着いた途端、無骨で豪胆な領主・辺境伯に「君は畑担当だ」と強引に任命されてしまう。荒れ果てた土地、困窮する領民たち、そして王都から伸びる陰謀の影。追放されたはずの聖女は、鍬を握り、祈りを土に注ぐことで再び人々に希望を芽吹かせていく。  「畑担当の聖女さま」と呼ばれながら笑顔を取り戻していくリーネ。そして彼女を真っ直ぐに支える辺境伯との距離も、少しずつ近づいて……?  畑から始まるスローライフと、不器用な辺境伯との恋。追放された聖女が見つけた本当の居場所は、王都の玉座ではなく、土と緑と温かな人々に囲まれた辺境の畑だった――。

【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!

こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。 そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。 婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。 ・・・だったら、婚約解消すれば良くない? それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。 結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。 「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」 これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。 そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。 ※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。 ※本編完結しました。 ※後日談を更新中です。

【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました

22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。 華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。 そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!? 「……なぜ私なんですか?」 「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」 ーーそんなこと言われても困ります! 目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。 しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!? 「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」 逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?

氷のメイドが辞職を伝えたらご主人様が何度も一緒にお出かけするようになりました

まさかの
恋愛
「結婚しようかと思います」 あまり表情に出ない氷のメイドとして噂されるサラサの一言が家族団欒としていた空気をぶち壊した。 ただそれは田舎に戻って結婚相手を探すというだけのことだった。 それに安心した伯爵の奥様が伯爵家の一人息子のオックスが成人するまでの一年間は残ってほしいという頼みを受け、いつものようにオックスのお世話をするサラサ。 するとどうしてかオックスは真面目に勉強を始め、社会勉強と評してサラサと一緒に何度もお出かけをするようになった。 好みの宝石を聞かれたり、ドレスを着せられたり、さらには何度も自分の好きな料理を食べさせてもらったりしながらも、あくまでも社会勉強と言い続けるオックス。 二人の甘酸っぱい日々と夫婦になるまでの物語。

【完結】『推しの騎士団長様が婚約破棄されたそうなので、私が拾ってみた。』

ぽんぽこ@3/28新作発売!!
恋愛
【完結まで執筆済み】筋肉が語る男、冷徹と噂される騎士団長レオン・バルクハルト。 ――そんな彼が、ある日突然、婚約破棄されたという噂が城下に広まった。 「……えっ、それってめっちゃ美味しい展開じゃない!?」 破天荒で豪快な令嬢、ミレイア・グランシェリは思った。 重度の“筋肉フェチ”で料理上手、○○なのに自由すぎる彼女が取った行動は──まさかの自ら押しかけ!? 騎士団で巻き起こる爆笑と騒動、そして、不器用なふたりの距離は少しずつ近づいていく。 これは、筋肉を愛し、胃袋を掴み、心まで溶かす姉御ヒロインが、 推しの騎士団長を全力で幸せにするまでの、ときめきと笑いと“ざまぁ”の物語。

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

うっかり結婚を承諾したら……。

翠月 瑠々奈
恋愛
「結婚しようよ」 なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。 相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。 白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。 実際は思った感じではなくて──?

【完結】死の4番隊隊長の花嫁候補に選ばれました~鈍感女は溺愛になかなか気付かない~

白井ライス
恋愛
時は血で血を洗う戦乱の世の中。 国の戦闘部隊“黒炎の龍”に入隊が叶わなかった主人公アイリーン・シュバイツァー。 幼馴染みで喧嘩仲間でもあったショーン・マクレイリーがかの有名な特効部隊でもある4番隊隊長に就任したことを知る。 いよいよ、隣国との戦争が間近に迫ったある日、アイリーンはショーンから決闘を申し込まれる。 これは脳筋女と恋に不器用な魔術師が結ばれるお話。

処理中です...