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第28話 想いよ届け
しおりを挟む「先生、私のこの微々たる力でも、力を送ればシグルド様の回復の見込みはありますか?」
「おそらくは」
「……」
私自身では気付かなかったくらいだから、きっと今、私の体内にある魔力はそんなに多くはない。そもそも癒しの力が使えるくらいの魔力なのかすらも分からない。
(それでも! このまま何も出来ずにいるよりは絶対にいい!)
私は握っている手に更に力を込める。
「……」
その時、ふと思った。
シグルド様は防御魔法だと言っては、かなりの頻度で私に力を流していた。
効き目が持続しないから、そう言っていたけれど……
(本当は防御魔法をかけながら私の体内に送られた魔力が蓄積するかどうかも一緒に試していたのではないかしら?)
私に魔力が戻る可能性はあるのか。どれくらいの量を送れば溜まるのか。
シグルド様はずっとこっそり模索していたのかもしれない。
だとすると……
「シグルド様は本当に私の事ばかり……」
「愛ですな!」
お医者様はとびっきりのいい笑顔でそう言った。
「あ……愛」
そうはっきり言われてしまうとこっちは照れてしまう。
私は恥ずかしくなった気持ちを必死で隠しつつ、手をギュッと握ってシグルド様にもっと力を送り込もうとする。
(──あ! 待って?)
恥ずかしい、で思い出した。
もっとしっかりきっちり力を送り込む方法を!
シグルド様はいつも私にそうしていたわ。
「……」
「ルキア様? 何かありましたかな?」
「あ、あの先生……力って、こう手を握って送り込むより、その……えっと」
「……」
恥ずかしくて顔を赤くした私の様子を見た先生は、それでも何が言いたいのか分かったらしい。
「ふむ。成程、殿下はそうやってルキア様に力を送った、と……」と小さな声で呟いた。
しみじみ語られると本当に恥ずかしい。
「ルキア様。仰る通り、力は直接注がれた方が効きやすいと言えますな」
「!」
やっぱりそうだった。
シグルド様もそう言っていたもの。だからいつもあんな形で……
少し疑った時もあったけれど、ただのキス魔では無かった!
「ですが、ルキア様。直接力を送るとなるとコントロールも難しい。おそらく再びあなたの魔力は空っぽになりますぞ」
「そうですね」
「……二度も空っぽになると再び、蓄積出来るようになるかは分かりませんぞ? それでも?」
お医者様は真剣な顔で私に問い質す。でも、私の覚悟は初めから決まっている。
「そんなの構いません。今、シグルド様を救えるのなら何だって私はします」
未だにこの部屋には人が沢山集まったまま。
部屋から出て行くよう言われていても動く人が殆どおらず、皆、シグルド様の安否を気にしている。
そんな皆の前で……と思うと恥ずかしい気持ちはあるけれど、シグルド様を助ける為だから。
そして、この先の自分の魔力の事なんて二の次で構わない。
(もともと、もう失ったと思っていたものだし!)
最後に大事な人の為に使えるならそれが一番よ!
私はそっとシグルド様の頬に触れる。
血の気の無い青ざめた顔……
「……シグルド様、大好きです」
───ねぇ、シグルド様。
目が覚めたら、また私に優しく微笑んでたくさん抱きしめてくれる?
私、もう絶対にあなたから逃げたいなんて言わないから。
陛下に対しても一緒に闘わせてくれる?
例え、陛下を説得出来ても魔力の無い妃は、絶対に陛下以外からもあれこれ言われてしまうだろうけど、私は負けたりしないから。
「だから、お願い……シグルド様を助けて」
私はそっと自分の唇をシグルド様の唇に重ねる。
───私の力と想いが全てシグルド様の中に届くようにと願って。
(怖いくらい静かだわ)
私がシグルド様に力を送っている間、部屋の中はしんっと静まり返っていて、誰もが私とシグルド様の様子を静かに見守っていた。
「……」
全ての力を送り終えた私は、そっと唇を離す。
(あの最初に力を奪われた時とは違うけれど、やっぱり何かが私の中から失くなったという感じはするものなのね)
「……ゔっ!」
「ルキア様!?」
ふらついた私にお医者様が焦った声を出し、慌てて私を支えようと手を伸ばす。
「だ、大丈夫です、ありがとうございます」
クラッと軽い目眩がしただけ。でも、耐えられないほどでは無い。
それよりも、シグルド様の様子の方が気になる。私はうまく力を送れたのかしら?
そう思いながらシグルド様へと視線を向けた。
「!」
「あぁ、顔色が戻って来ましたぞ。それに血も止まった……」
お医者様のその言葉と共にシグルド様の頬には、ほんのり赤みがさし始めた。
「よ、良かった……」
安堵して力が抜ける私にお医者様が再び慌てた様子を見せる。
「ルキア様、しかし今度はルキア様の方の顔色が酷いですぞ!?」
「いえいえ、私は、大丈夫……です」
「駄目じゃ! フラフラではありませんか! ルキア様に無理をさせてそんな酷い顔色にさせたと殿下に知られた日にゃこっちは大変な事になるんですぞ! ルキア様もすぐに休んでくだされ!」
「ふふ……」
首だ、首になる……! と困り果てた様子のお医者様。
確かに知られたらシグルド様は怒ってしまうかもしれない。まぁ、自分の命を助けてくれたお医者様なのだからいくら何でも首にはしないでしょうけれど。
なんて事を考えていたら、自然と笑いが込み上げて来た。
(例え怒りの姿であってもシグルド様が元気なら嬉しいから何でもいいわ)
早くそんな彼の姿が見たい。
「……あ」
だけど、私は突然大きな眠気に襲われる。
「先生、ごめんなさい…………何だかとても、眠い…………です」
「ルキア様!?」
先生の慌てる声を最後に私はそのままどんどん意識が遠くなっていく。
でも、シグルド様と繋いでいるこの手だけは絶対に離さないんだから!
と思って手を固く握りしめたのを最後に私は意識を失った。
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