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第27話 微かな希望
しおりを挟むミネルヴァ様の肩を掴みながら私は、彼女に向かって言う。
「……返して。出来ないなんて言うのならその力を……私に返して!」
「む、無茶を言わないで!? わ、私はブラッド様の言う通りにしていただけなの! ル、ルキア様の力を自分の物にすれば、もっと、し、幸せになれるからって……」
ミネルヴァ様は、とにかく無理無理無理と必死に首を横に振るばかり。
本当のストーリーは違うの……とか何とか言っているけれどよく意味が分からない。
「……」
悔しい。
もちろん、力を返せなんて自分でも無茶な事を言っていると分かっている。それでも言わずにはいられなかった。
ミネルヴァ様は、今の言葉で私の力を奪った事を自白したようなものだけれど、私の方こそ彼女に問いたい。
人の力を無理やり奪ってそれで貴女は本当に幸せなの? と。
(無駄だわ)
今のミネルヴァ様にそんな事を言ったところで、人のせいにばかりしている彼女にはきっと何も響かない。
「はぁ……」
私は静かにため息を吐いた。
それでも何か奇跡でも起きて、今、この瞬間にミネルヴァ様の力が私の元へと戻って来てくれればいいのに……
「悔しいけれど、きっとそんな奇跡が起きるのは“物語”のような世界でだけの話よね」
そんな自嘲する言葉が思わず口からこぼれた。
「ルキア様」
そこでお医者様からの声がかかる。
振り返るとお医者様は静かに首を横に振っていた。ミネルヴァ様には期待出来ない。諦めろ──目がそう言っている。
確かにこれ以上ミネルヴァ様と話していても時間の無駄だ。
「そうね、私は今の自分にやれる事をするしかない」
私がそう呟くと、ミネルヴァ様は開き直ったのか急に態度を変えた。
「な、何よ! さっきから何をブツブツ言っているのよ……! わ、私は悪くないんだから! 全部、全部ブラッド様が悪いのよ!! 文句はブラッド様に言ってよね!」
「……」
(開き直って反省すらもしないのね)
この人はこんな時でも人のせいにして開き直るだけなの? ただただ悲しい気持ちになった。
私はそのままミネルヴァ様を掴んでいた手を離す。
「もう結構です。ミネルヴァ様……あなたには一切頼りません」
「は? な、何を……何なのよ! 私をバカにしているの!? だって、こんなの誰だってー」
「……」
ミネルヴァ様はまだ何か喚いていたけれど、私はその声を無視をしてシグルド様の側に戻る。
そして、私がミネルヴァ様の側を離れたと同時に陛下はミネルヴァ様の元に詰め寄り彼女を責め出した。
「ティティ男爵令嬢! 無理、出来ないとはどういう事なんだ!! その力は何の為にあるのだ!!」
「へ、陛下……」
「この力で皆のお役に立ってみせます! と偉そうに豪語していたではないか!!」
「そ、それは、その……」
「それに先程何やら不穏な発言が聞こえたが?」
「っっ!」
(もう、好きにして)
今はミネルヴァ様を責めるよりシグルド様の命を繋ぎ止める事の方が大事だから。
「持ち場を離れてしまいました、申し訳ございません」
私はお医者様に謝罪し、再び応急処置の手伝いを行う。シグルド様の傷は深いのか、なかなか血が止まってくれない。
そこで、ふとブラッド様はどうなっているのだろう? と思い彼の方に視線を向けてみる。
(やっぱりブラッド様も意識は無いようね)
ブラッド様には別のお医者様が対応しているけれど、あちらも同じ様な状態らしい。
でも、聞こえて来る声を拾う限り、向こうは血は止まったようなのでシグルド様の方が重症の様だった。
「……まるで相打ちしたみたい」
私がそう呟くとその声を拾ったお医者様は言う。
「殿下から魔力の痕跡が感じられるので、おそらくその通りでしょうな」
「……」
「そのせいで、よりかなり危険な状態になっていると言えるのだが……」
「そんな!」
倒れているシグルド様ばかりに目がいっていて気付かなかったけれど、言われてみれば部屋の中も荒れていて大きな衝撃を受けた後が感じられる。
何故、こんな事に?
そんな思いばかり浮かんでくるけれど、ミネルヴァ様の言う通りならブラッド様が一連の件の黒幕。
(シグルド様はブラッド様が怪しいと薄々思っていたのかもしれない)
そして、二人は対峙した──
「……シグルド様」
私はそっと彼の名を呼びそっと手を握る。
癒しの力は使えないままだけれど、せめてこうしていたかった。
「殿下にとっての一番の癒しと治療はルキア様の存在そのものでしょうな」
「先生……?」
「ルキア様。そのまま殿下の手を握っていてあげてくだされ。人の強い想いは時に奇跡をも起こす」
「強い想い」
その気持ちだけは負けない気がする。
自分の事を役立たずだと決めつけて勝手に身を引こうとした私だけど、シグルド様を好きな気持ちはどうしても捨てられなかった。
「……想いが力に変わればいいのに」
そんな事は有り得ないと分かっていてもそう願わずにはいられない。
私はギュッとシグルド様の手を握りしめた。
そこで何か違和感を覚える。
(…………あれ?)
何で手がこんなに温かいの?
まさかシグルド様の手が? と不思議に思ったものの何かが違う。
……これは、私の手が温かい?
どういう事かしらと思っていると、お医者様が驚きの声を上げた。
「!! 殿下の顔色が!」
「え?」
お医者様のその言葉に慌ててシグルド様の顔を見ると、さっきまで青白かった顔色がほんの少し、ほんの少しだったけれど色付いているように見えた。
「ど、どういう事……?」
私がシグルド様の変化に驚いていると、お医者様がじっと私を見つめる。
そして、手を伸ばして私の頭に触れた。
「な、何でしょうか?」
「ルキア様。あなたはあの日、魔力が全て空っぽになっておりましたな?」
「は、はい。先生もあの時にそう確認されたはずですが……?」
「そうだった…………では、今のあなたの中にある“それ”は何ですかな?」
「え?」
お医者様の言う“それ”の意味が分からなくて、私は首を傾げる。
私の頭から手を離したお医者様はさらに続けて言った。
「ふむ……どうやら、ご自分ではお分かりになられていないようですな」
「?」
「ルキア様、ほんの少しですが今のあなたからは魔力が感じられますぞ?」
「え?」
私の魔力は空っぽになったはずでは?
意味が分からず戸惑う。
「…………どなたから、いや、おそらく殿下なのでしょうが、何らかの力を受け取るような事をした覚えは?」
「!」
そう言われて思い至るのは、シグルド様の防御魔法。
「シ、シグルド様が何度か私に防御魔法はかけてくれました」
「殿下の防御魔法? それは殿下の力の一つの?」
「は、はい。かなり効き目も抜群でした」
甘いキスをされながら、何だかんだでたくさん受け取った気がする。そのせいか、効果は凄かった。
私は勢いよく吹っ飛んでいた侯爵の姿を思い出す。あれは凄い威力だった。
「……」
「先生?」
私のその返答を聞いた先生が何かを考え込むようにして黙り込む。
「ルキア様、どうかそのまま殿下の手を……手をしっかり握っていてくだされ」
「え?」
「あなたのその微かな力が殿下への希望となるかもしれませんぞ?」
「!」
それは僅かだけれど、希望の光が見えたかもしれない瞬間だった。
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