【完結】役立たずになったので身を引こうとしましたが、溺愛王子様から逃げられません

Rohdea

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第29話 届いた想い

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  幸せな夢を見た。

  ──ルキア! 

  シグルド様が優しい声で私を呼ぶ。

  ──シグルド様!!

  良かった、目が覚めたのね!?
  嬉しくなった私はシグルド様に思いっきり抱き着く。

  ──ルキア?
  ──シグルド様……私、

  そして、自分の素直な気持ちを彼に伝えようと口を開く──




「大好きです、シグルド様───」

  そんな自分の声で目が覚めた。

  (……ん?)
  
「え?  ここはどこ……?  ベッド……」

  目を開けると王宮滞在の間に与えられている私の部屋とは違う天井が見えたので、大きく戸惑う。
  とりあえずベッドに寝かされている事だけは理解出来た。
  だけど、何があったんだっけ……?  と懸命に記憶を探る。

「そうよ、私はシグルド様に力を送って……えっと、その後は倒れた……?」

  確か突然凄い眠気に襲われてそのまま意識を失った。おそらくあの眠気は、魔力が再び空っぽになってしまった事の影響だと思う。

「それで、ここに運ばれた?」

  ようやく頭の中も動き出す。

「そうよ!  …………シグルド様は?」

  最後に記憶している姿は、なかなか止まってくれなかった血も止まり顔色が良くなって来ていたシグルド様の姿だったけれど彼は目が覚めたのかしら?

  (助かったのよね?  無事だったのよね?)

  そう思いたい。いえ、そう信じている。
  今すぐここを飛び出してシグルド様の元に行って彼の姿を見て安心したい!!

「……あ、れ?」

  そこでようやく私は自分の手が“何か”を握り締めたままでいる事に気付く。
  ドクンッ
  私の胸の鼓動が大きく跳ねる。
  そうよ。だって、私は自分が倒れる前からずっと握りしめていたじゃない。
  それなら、この手の先は……

「シグルド様……」

  そっと手の先を見ると、隣にシグルド様が寝ていた。
  顔も身体も包帯だらけだけれど、青白かった顔色はすっかり元に戻っていて、スースーと寝息をたてていた。

「眠っている。え……でも、なんで隣に?  って私のせい?」

  サイズは広々としているとは言え、私達が同じベットに寝かされている事とか色々思う事はあるけれど、とにかく今、私の隣にシグルド様がいる。彼が生きている。
  その事だけで私の胸は熱くなった。

  (良かった……)

  しばらくシグルド様の顔を眺めていたら部屋の扉がノックされ扉が開いた。
 
「おや?  ルキア様。お目覚めでしたかな?」
「先生!」

  部屋に入って来たのはお医者様だった。

「ふむ、顔色も良くなったようだのう」 
「ありがとうございます。ご心配をおかけしました……それで、えっと、こ、これは?」

  いったいどういう状況なのでしょう?
  と聞きたかった私の気持ちをお医者様はすぐに分かったのか即座に答えてくれた。

「意識を失っているはずのルキア様が頑なに殿下と繋いだ手を離してくれんでのう」
「え!」
「これは引き離すのは無理だと諦め、婚約者同士だからギリギリ許されるだろうと仲良く並んで寝かせる事に」
「~~~!」

  (私~~~!)

  確かに意識を失う前に“絶対に手を離さない”とは誓ったけれど、自分で自分の執念に恐ろしくなる。
  送り込む力はもう無いけれど、それでもずっと手を繋いでいたかったの。

「ルキア様、ご安心くだされ」
「え?」
「ルキア様の貴重な癒しの力と、その献身的な想いが身を結んだのですな……殿下はもう大丈夫じゃ」
「!」

  その言葉に安心して力が抜けそうになる。

「念の為、包帯を巻いてはあるものの、あれからみるみるうちに傷口も塞がっていきましてな」
「え?」
「さすが、ルキア様のお力じゃとみんな騒いでおった」
「……あ」

  シグルド様が良くなった事は凄く凄く嬉しいけれど“力”の事に関しては少し複雑な気持ちはある。
  今回の事で私が力を失くしていた事は皆に知れ渡ってしまった。今はシグルド様が助かった事で私を持ち上げているけれど、落ち着いて時間が経てば……

「……」

  (でも、何を言われても負けないって決めた!)

  私は顔を上げる。
  するとお医者様と目が合った。

「ふむ。ルキア様のその顔なら大丈夫ですな」
「……?」
「さて、そういうわけで後は殿下の目覚めをゆっくり待ちなされ」

  そう言ってお医者様は部屋から出て行こうとする。

  (……あ!)

  私は慌てて引き止める事にした。何故ならどうしても一つ気になっている事がある。

「お待ちください。あの、先生!」
「何じゃ?」
「……ブ、ブラッド様は」

  私の質問にお医者様は一瞬だけ顔を曇らせた。私はシグルド様の事に頭がいっぱいだったからブラッド様には何もしていない。
  彼は助かったのかしら?

  (……一連の黒幕かもしれない彼を助けろと言われてもきっと気持ちは複雑だっただろうけども)

  ただ、真相を明らかにする為にもまだ死なれては困る。

「瀕死の重症ではあったが、一命は取り留めて今も眠っておる。容態はまぁ、大丈夫だろう。あちらさんの方が殿下より先に血も止まっておったようだしな」
「そう、ですか……」
「そうそう、ルキア様が倒れられた後、ブラッド様にも癒しの力を……と男爵令嬢は詰め寄られておったが、最後まで無理無理と叫んでおったなぁ……」

  つまり、ブラッド様は癒しの力無しに自分の治癒能力だけで何とか生きているという事。
  そして、ミネルヴァ様は相変わらずだわ。

「えっと、ミネルヴァ様はどこに?」
「あの男爵令嬢は、何か不穏な事を企んでいた事も明るみになったからのう。皆に“約立たず”と散々罵られた後、陛下も怒らせた事もあり再び収容されておるよ。今度は警備も厳重にしてな」
「そうでしたか」

  野放しになっていない事にとりあえず安心した。

「ではこれで。何かあったらいつでも呼びなされ」
「はい……ありがとうございました」

  お医者様はそう言って部屋を出て行った。
  そうして、この部屋には私と(眠っている)シグルド様の二人きり。

「……シグルド様」

  私はそっとシグルド様の手を再び握る。
  温もりが感じられる。それだけでこんなにも嬉しい!

「早く起きて下さい……それでミネルヴァ様とブラッド様の罪を明らかにしてメタメタにしちゃいましょう?」
「……」

  なんて声を掛けてみるけれど反応は無い。

「うーん、それじゃあ……」

  私はそう言いながらそっと顔を近付ける。
  昔、好きだった絵本で読んだわ。眠っているお姫様にキスをして起こすのはいつだって王子様の役目だった。

  (逆があってもいいわよね?)
  
「は、早く起きて、私とイ……イチャイチャしましょ──……」

  と、照れつつそんな事を言いながら私はシグルド様の唇に自分の唇を重ねようとした。

「───する!」
「!?」

  突然、目の前のシグルド様がパチッと目を開けてそんな言葉を叫んだ。
  驚いた私はそのまま固まる。

「……」
「……」
「……シグルド……様?」
「ルキア?」

  シグルド様の空いてる方の手が私に向かって伸ばされ、そっと頬に触れる。

「ルキアだ。可愛い可愛い私のルキアがいる」
「シグルド様……」

  (シグルド様だ、目が覚めて……喋っている……!)

  嬉しくてそれ以上の言葉が出て来ない。
  そして泣かない!  そう決めたはずなのに私の目からはどんどん涙が溢れてくる。

「ル、ルキア!?  どうして泣いている?」
「……」

  困ったわ。一度溢れ出した涙は全然止まってくれない。

「目が覚めたら、可愛い可愛いルキアの顔が近くにあって……これまた可愛い顔で泣いている……ルキアの涙を見るのはいつ以来だろうか?」
「!!」

  そう言ってシグルド様はそっと指で私の涙を拭うと、その涙の跡にそっとキスをした。

「すまない、ルキアがそんなに泣くという事はそれだけ私が心配をかけたという事なのだろう?」
「……」
「長い長い夢を見ていた気がする……このままずっとそこから出られないと感じるような深い夢を」
「え?」
「でも……」

  そこまで口にしたシグルド様がチュッと素早く私の唇を奪う。

「ルキアの声が聞こえた。その後かな……何だかとても温かいものが流れ込んで来た」
「……」
「その後はずっと心と身体が温かくて。あぁ、この温もりの……ルキアの所に戻らなくてはと思ったよ」
「!!」

  再び涙がたくさん溢れてくる。
  届いていた。私の想いと力はちゃんと届いていた!

「あれは、ルキアの……力だね?」
「……」

  やっぱりうまく言葉が出て来てくれないので、私はコクコクと頷く事しか出来ない。

「…………ありがとう、ルキア」
「シグ……ルド様……」

  シグルド様はもう一度私に顔を近付けると、再びそっと私にキスをした。
  その後、私の大好きな笑顔を浮かべて言った。

「ただいま、ルキア」
「……っ、おかえりなさい…………シグルド様……」

  私はシグルド様の温もりを確かめるかのように泣きじゃくりながら抱き着いた。

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