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第30話 迫る王子様
しおりを挟む「ルキア……」
シグルド様が優しく抱き締め返してくれたのと同時に頭の上から聞こえて来た声で今更ながらハッと気付く。
お医者様は傷が塞がったと言っていたけれど、怪我人に対してこんな力一杯に抱き着くなんて真似をしてしまった。
「ご、ごめんなさい! 怪我しているのに。い、痛かったですよね!?」
私は慌ててシグルド様から離れようとしたけれど、何故か逆に強く抱き込まれた。
「あれ?」
「ダメ。逃がさない」
ますます力が込められた。
「え、いや? シグルド様?」
「せっかくルキアの方から近付いて来てくれたのに、それをやすやすと私が逃がすはずが無いだろう?」
(──んん?)
そう言ったシグルド様が私の顎に手をかける。
そのまま私は顔を上に向けさせられた。そしてパチッと目が合うと、にっこりと優しく微笑み、顔を近付けて来てチュッと唇を奪われた。
(見たかった微笑みと何かが違う!!)
そう思ったけれど……
「ルキア……」
「んっ」
甘い甘いキスの始まりに私の頭の中もすぐに蕩けていってしまう。
シグルド様はそうして何度も何度も私にキスを繰り返した。
(まるで、私がここにいる事を確かめているみたい)
「……ルキア」
「シグ……あっ……」
私が発しようとする言葉は、すぐに口を塞がれてしまってどうしても最後まで言えない。
「君が大好きだ」
「わ……んっ」
私も! そう言いたいのに。
犬みたいな返事になってしまったじゃないの!
「ルキアは可愛いね」
「~~~!!」
こうして、まともな言葉を紡ぐ事が出来ないまま、しばらくの間、私はシグルド様からのキスに翻弄され続けた。
───
「シグルド様! さすがにこの体勢は恥ずかしいです!」
「そう? 私としてはルキアの温もりが感じられて幸せしかないのだけれど?」
「うぅ……私は恥ずかしい……しかありません!」
ようやく、シグルド様からの甘い甘いキス攻撃が収まったので、私達はお互いここまであった話をする事にしたはずなのに、シグルド様がおかしい。
どうやら、何が何でも私から離れたくないらしく、今はベッドの上でギューッと後ろから抱きしめられている。
「可愛い、ルキア……」
「!」
(密着の度合いも凄いし、喋られる度に、み、耳が! 耳がおかしくなりそう!)
わざと? わざとなの? と言いたくなるくらい私の耳元で甘く囁いてくるシグルド様は絶対意地悪だ。
「シ、シグルド様! は、話をするなら……ほら、あちらにソファという物がありまして。どうでしょう? あちらに移動するというのは!」
私があちらへ移動してゆっくり話しましょう? と、部屋の中にあるソファに指を指す。しかし……
「私の目には可愛いルキア以外は映らない」
(!?)
何だかとんでもない発言が飛び出した!
吹き出しそうになったけれども、私は何とか気を持ち直し切り返す。
「そ、それは、確実にお医者様案件ですね……お、お呼びしましょうか?」
「不要だ」
と、すげなく却下され更にギュッと抱き込まれただけだった。
「ルキア」
「!!」
(ひゃあぁぁぁ! み、耳! 耳が蕩ける!!)
「……凄いな。顔が見えなくても今のルキアがどんな顔をしているのか手に取るように分かるよ」
「だ、誰のせいだと思っているんですか!」
「私のせいだな」
ははは、とシグルド様が嬉しそうに笑う。
意地悪されてるとしか思えないのに、そんな嬉しそうな声に私の胸はキュンとしてしまう。
「だって構わないだろう? ルキアはさっき私にイチャイチャしようと……」
「あ、あれ、き、聞こえて……!?」
「当然だ。だから、私は“する”と答えたじゃないか」
「あ、あれは──ひゃっ!?」
シグルド様が今度はうなじにキスを落とす。
「ルキア、真っ赤だな」
「うぅ……」
「可愛い私のルキア。愛してるよ」
…………そのまま私は撃沈した。
***
私が負けたので結局、そのままの体勢で話をする事になった。
「やっぱりシグルド様はブラッド様の事を疑っていたんですね?」
「うん、だけど色々甘かったから結果としてこんな事に……すまない、ルキア」
私は首を横に振る。
話して貰えていたらと思わなくも無いけれど知った所で私に出来る事はおそらく無かった。
(初めからブラッド様の狙いはシグルド様だったのだから)
「そして呪いはやっぱり、中途半端にしかかけられなかった黒魔術だったんですね」
「あぁ。ルキアから話を聞いた後、叔父上に起きた事とブラッドの事が結びついた。そこでようやくブラッドが全ての黒幕だったと、確信した」
シグルド様は今、どんな表情でこの言葉を発しているのかしら?
従兄弟が全ての黒幕だった。
それも、王位継承を狙ったのが理由だなんて。
ブラッド様はミネルヴァ様を利用して私を陥れようとはして来たけれど、ブラッド様は私にはあまり接触して来なかった。彼はとにかくシグルド様を蹴落すことばかり考えていたのだと思う。
「ミネルヴァ様は、ブラッド様に利用されただけ……?」
「ブラッドはそう言っていたけれど、あの女、元々変な事は企んでいたらしい」
「変な事……?」
私が聞き返すとシグルド様はため息と共に言った。
「“私は王妃になる存在なのよ”とずっと言って回っていたらしいんだ」
「王妃って……」
「ブラッドはそこに目をつけて声をかけたみたいだから、元々、あの女が何をする気だったのかはよく分かっていない」
「……」
───ルキア様の力を自分の物にすれば、もっと、し、幸せになれるからって……
あの時、確かにミネルヴァ様は無理と首を横に振りながらそんな事を言っていた。
意味が分からなかったけれど、本当のストーリーは違うの……とも言っていたわ。
(ミネルヴァ様の中で何か決まったストーリー……つまり、何か計画でもあったのかしら?)
その通りにすれば、ミネルヴァ様はいずれ王妃になるはずだった?
でも、ブラッド様が唆して、そちらの計画にのった事でミネルヴァ様の考えていた計画は大きく変わってしまったのかもしれない。
「だからと言って、シグルド様は絶対に渡さないわ」
「ルキア? 何か今、凄く凄~く嬉しい言葉が聞こえて……」
しまった! 心の声のつもりが口に出していたみたい。
「き、気のせい! 気のせいです。空耳よ!」
「ルキア……」
「あ、シグルド、様……んんっ」
無理やり後ろに顔を向けされられてキスをされた。
(ん? あれ??)
この感じは……また、力を流されている?
「……」
「……」
「シグルド様、また力を?」
「うん。私を助ける為にルキアはまた空っぽになってしまったんだろう?」
この言い方。やっぱりシグルド様は私に……
「お医者様は再び魔力が蓄積出来るようになるかは分からないと……」
「でも、試してみないと分からないだろう?」
……チュッ
そう言われて温かい物が私の中に流れてくる。
「私はね、ルキアに魔力があろうとなかろうと関係無いと思っているけどね」
「あ……」
「でも、父上を始めとした周りの者達はきっと煩いから」
「……」
「その時にルキアが傷つかなければいいと思っている。だから、その為に出来る事は何でも試したいんだ」
あぁ、シグルド様は本当に私の事ばっかりだわ。
送られてくる魔力と共にその気持ちがとても温かい。
「……よく分からないけれど、流れ出ていっているような感じはしないわ」
「それなら、魔力はまたルキアの身体に溜められるかもしれない」
シグルド様が嬉しそうに言った。
そうだったらいいな、と思う。でも、私に魔力を送る事になるシグルド様の負担は凄い事になるけれど──……
と、心配したらシグルド様はにっこり笑って言った。
「よし、ルキア! それなら、あの女から奪われた物を取り返そう!」
「え?」
シグルド様のその言葉に私は目を丸くして驚いた。
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