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第31話 奪われた私の力
しおりを挟む「と、取り返す?」
その言葉がにわかに信じられなくて聞き返した私の声はかなり上擦っていた。
「当然だよ。だって元々ルキアの魔力だよ? 何であんな女が持ったままにしておかないといけない?」
「……えっと」
「それに、あの女はこれから罪を裁かれて処分を受ける身だ。今後は貴族令嬢としては生きられないし、魔力なんて要らないよね」
く、黒い!
シグルド様の後ろからどす黒いものが見えるわ!
思わず私はこしこしと目を擦る。
「で、ですが、どうやって? 散々調べたけれど、“魔力を奪う”という呪術は見つけられなかったわ」
私の言葉にシグルド様はにっこり笑った。
それもまた、どこか黒い微笑み。やっぱり黒いのは見間違いではなさそう。
「それは、魔力を奪われた方法が分からなかった時なら無理だったけど、ルキアがかけられたのが黒魔術だと分かったからね。それなら方法はあるんだよ」
「え!?」
私が驚きの声を上げると、シグルド様が優しく私の頭を撫でる。
「ルキアが動けるなら……今から書庫に行こうか?」
「わ、私は大丈夫、ですけど……」
私よりシグルド様の方が心配よ。そんな目でシグルド様を見つめる。
「私も大丈夫だよ。だって、ルキアの癒しの力が効いているんだからね」
「でも、魔力が少しだったから、完全では無かったわ」
私のその言葉にシグルド様はあれ? という顔をした。
「うーん。ルキアは、自分の力の事をよく分かっていないんだね?」
「え!?」
言われた事の意味が分からず困った顔をする私の頭をシグルド様はまたまた優しく撫でた。
「ルキアは元々規格外の魔力量を持っていただろう?」
「ええ……」
シグルド様の婚約者に選ばれたのもそれが理由だもの。
「だからね、普通の人とルキアは全然違うんだよ」
「どういう事?」
「簡単に言うと、普通の人が全力で出し切る必要のある魔力が、ルキアにとっては少しの魔力ですむ……みたいな」
「…………え?」
何ですって??
「そっか。ずっと分かっていなかったのか……だからね? ルキアからすれば私が送った魔力は微々たるものと思ってたかもしれないけど、普通の……ルキア以外の人からすればそこそこの量の魔力だったって事だよ」
「なっ!? そんなに魔力があったらお医者様だって……」
「ルキアの魔力の器が大きいから、ルキア自身だけでなく、周りも分からなかったんだろうね」
「!!」
私はあまりの事にポカンとし、間抜けな顔を晒してしまう。
「ははは、そんな顔をするルキアも可愛いな」
「い、今は可愛いとかではなく……つ、つまり私がシグルド様を癒した時の力は……」
「全盛時のルキアの力には足元にも及ばないだろうけど、それでも人並みだったんじゃないかな」
「!」
シグルド様はそうでなければ、傷口までこんな簡単に塞がらないよね、と笑っている。
笑い事では無いわよ!?
「待ってください! つまりシグルド様はそんな魔力量を私に送っていたから」
「ブラッドの力を防ぎ切れなかったのかもしれないね」
それには大きなショックを受ける。
(あんなに瀕死になってしまっていたのは私のせい!)
「あ! 違う! 確かに私の魔力はかなりルキアに送っていたけど、あれは私が油断していたからだ」
「でも!」
「後は思っていたよりブラッドは叔父上から奪った力が多かったというのもある。だから、絶対にルキアのせいじゃない!」
「…………」
シグルド様はブラッド様からの攻撃魔法を受けた時、防御魔法をしいたのだと言う。
ブラッド様は跳ね返されるなんて思っておらず、まさかの返ってきた自分の攻撃に自ら倒れ、シグルド様は防ぎ切れなかった攻撃に倒れた。
というのがあの時、二人が倒れていた理由だと言うけれど……
(それでも私に魔力を与え過ぎてさえいなければ……)
「シグルド様……」
「ルキア?」
私は言葉が見つからずギューッとシグルド様に抱き着いた。
シグルド様は「ルキアから抱き着かれるのは嬉しいね」とだけ言って笑ってくれた。
***
「それで、どうやってミネルヴァ様に奪われた力を取り戻すのですか?」
書庫に着いた私は黒魔術の本を拡げながら訊ねる。
果たしてそんな方法載っていたかしら?
「それは、ここだよ」
「え?」
シグルド様は開いた本のとある部分を指さした。
そこに書かれていたのは……
「呪返し?」
「そう。黒魔術は言わずと知れた禁忌の術。使う側にとって当然リスクが大きいものなんだ。その中の一つがこれ、呪返し。読んでごらん?」
「……」
そこの記述によると、黒魔術をかけた者は、呪返しをされるリスクを背負う事になる、と書いてあった。
“呪返し”をされない為に術者が気をつけなければならない事が───
「黒魔術をかけた相手が死に至る前に、その者に黒魔術の存在に気付かれないようにする事? つまり、黒魔術をかけられた相手が黒魔術だと気付いた場合のみ呪返しを行う事が出来る?」
「そう。普通は呪いをかけられてから死に至るまでそんなに時間が無いからね。かけられた相手は気付く前に黒魔術の方が勝ってしまうんだろうけど……」
「私に対して中途半端にしか黒魔術をかけられなかったミネルヴァ様は私を殺せなかったから……呪返しをかけることが可能という事?」
私の言葉にシグルド様はニンマリと笑った。
「全盛時のルキアの魔力だと呪返しをしようとすると、逆に黒魔術が完成出来ちゃいそうだけど、今のルキアの魔力ならあの女がした事をそのままそっくり返せるくらいの力だと思うよ?」
そのままそっくり返せる……つまり、奪われた力を取り返せる!
「やるかやらないかはルキアが決める事だ。呪返しはかけられた本人にしか出来ないからね」
シグルド様の目がどうする? そう言っている。
「シグルド様。私は魔力を失くしたままでもあなたの隣に立ち続けたい、そう思っています」
「ルキア?」
「ですが、陛下もなかなか認めてくれないでしょうし、他にもとやかく言う人は必ず出て来るでしょう」
「そうだね、私もそう思う」
シグルド様が少し寂しそうな顔つきになる。
「私はその人達に“魔力が全て”では無い事を知って欲しいとも思っているんです」
「うん」
「でもやっぱり、これからのシグルド様を支える為にも、魔力は返して欲しい。そう思います」
「ルキア……」
シグルド様が優しく私を抱きしめる。
「ありがとう、ルキア」
シグルド様が私の顔を上に向かせると唇を重ね、魔力を送り込む。
「呪返しをする前にもう少し……」
「も、もう!!」
私の頬は真っ赤になった。
「あ、そう言えばもう一つ疑問なんですけど」
「うん?」
「規格外と言われる程の私の魔力……ミネルヴァ様は全て取り込んだのでしょうか?」
私のその疑問にシグルド様はあぁ、という顔になる。
「あの女、ティティ男爵令嬢も器だけは大きいんだよ」
「器だけ?」
「ちょっと変わってるタイプだ。でも、器だけで中身が全く伴ってないけど。本人が王妃になれる~と世迷い事を口にしていたのはそのせいかと私は思っている」
「そんな器の大きさもブラッド様に目をつけられたのかしら?」
「多分ね」
(つまり、私の力を奪ったミネルヴァ様は、実は今、かなり最強だと言える)
それに器の大きさだけなら確かに、王妃を目指す事も可能だったのかもしれない。
「それでも肝心な時に何も出来なくては何の意味も無いのよ……」
「ルキア?」
「何でもない……シグルド様。私、奪われたものは必ず取り返してみせるわ!」
「あぁ」
私は呪返しを行う方法の部分に目を通した。
────その日の夜。
ミネルヴァ様の悲鳴が牢屋内に響き渡った。
何事かと駆け付けた看守達にミネルヴァ様は泣きながら訴えたと言う。
「魔力……魔力が……私の魔力が──! 何で? どういう事? どうしてよぉぉぉ!? こんなの聞いてないーーー」
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