【完結】役立たずになったので身を引こうとしましたが、溺愛王子様から逃げられません

Rohdea

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第32話 最後の仕上げ

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「ブラッド様が目を覚ました?」
「うん」

  シグルド様が目を覚ましてから数日後、ようやくブラッド様が目を覚ましたとの報告があった。

「何か語っているのかしら?」
「いや、そもそも身体中が酷い傷だらけで、とにかく痛みに苦しんでいてそれ所じゃ無いらしい」
「あぁ……」

  シグルド様と違って傷が塞がっていない彼は、この後も痛みに苦しみ続けるのだろう。

「そんな事よりルキアはどう?  大丈夫?」
「私ですか?」

  シグルド様は何の心配をしているのかしら?
  と思った所であっと思い出した。

「あの女から魔力を奪い返して数日経ったけど、何処かおかしい所は無い?」
「大丈夫ですよ。最初は何だか変な感じがしましたけど」

  今まで、空っぽに近かったものが急に満タンになればそれは身体だって驚く。
  でも、私の身体はまだ昔の感覚を覚えていてくれたのか、すぐに馴染んでくれた。

「今は返って来た……そんな気持ちでいっぱいです」
「そうか」

  シグルド様がそっと私の肩を抱く。

「私は“魔力を与える”という口実でルキアにキスが出来なくなって少し寂しい」
「なっ!  何を言っているんですか!」
「本当の事だ」
「そ、そんなの……」

  そんな、わざわざ口実を作らなくても良いでしょう?  そう言いかけて何だか恥ずかしくなる。

「……ルキアはやっぱり可愛いな」
「シグルド様はそればっかりですね」
「だって可愛いんだから、仕方が無いだろう?」
   
  そう言ってシグルド様の顔が近付いて来たので私はそっと目を閉じた。


───


「ブラッドが、目を覚ました事であの女の事情聴取も大詰めだな」
「ミネルヴァ様……」

   彼女は私が力を返して貰った日、泣き叫んで大変だったと言う。

「黒魔術のリスクも知らずに言われるがまま実行していたのね」
「力を失くした動揺で“この魔力で何とかしてまた逃げるつもりだったのに”とか口走ったらしいよ」
「……全然、反省していないじゃない!」

  それに、前回逃げられたのは魔力のおかげではなく、ブラッド様という協力者がいたからでしょうに。

「まぁ、魔力は全て失ったし男爵家から籍を抜かれる事も決定しているからね。平民として修道院行きか刑務所行きか。それは今後の態度次第だね」
「反省の色がないから刑務所になりそう」

  私の言葉にシグルド様は「違いない」と笑った。

「ブラッドの件は叔父上に話したよ」
「ハーワード公爵様は力は取り戻さないの?」

  シグルド様は寂しそうに笑って言った。

「ブラッドがあぁなったのは自分にも責任があるからって。ブラッドと一緒に力も葬って欲しいと言われたよ」
「……」

  ブラッド様は全ての事情聴取が終わり、罪が明るみにされた後は死罪がほぼ確定している。父親である公爵様がその刑に反対をしないのならもうほぼ決まりだろう。

  これで、一連のゴタゴタは───……

「さて、ルキア」
「シグルド様?」
「最後の仕上げと行こうか」
「?」

  最後の仕上げ?  私は意味が分からず首を傾げた。


───


「シ、シグルド様?  どうして最後の仕上げ……が、何で陛下なの!?」
「当たり前だろう?  父上がルキアに何をしようとしたか忘れた?」
「わ、忘れてはいないわ……」

  変態紳士……侯爵と結婚させられそうになったわ。

「魔力、魔力、魔力って、父上のあの考え方にはもううんざりなんだ」
「シグルド様……」
「私はルキア以外要らない。その事を今日こそ分かってもらう」

  シグルド様がギュッと私の手を握る。
  だから、私も強く握り返した。

「もしも、分かって貰えなかったら?」
「……」
「シグルド様?」

  何故か黙り込むシグルド様。

「その時は、強制的に下がってもらおうかな」
「さ、さがる……」
「ルキア、王太子妃を飛ばしてすぐに王妃になるかも」
「おうひ……」 

  …………シグルド様の目は本気だった。


***


「すまなかった」

  (ひぇ!?  へ、陛下が!  あの陛下が頭を下げているわ!?)

  シグルド様と一緒に会いに行った陛下は私達の姿を見るなりまず謝った。

「それは何の謝罪でしょうかね、父上」
「これまでの事だ……エクステンド伯爵令嬢が力を失くした後、二人の婚約を反対し、意に沿わぬ婚約を押し付けようとした……」
「……」

  シグルド様は冷ややかな目で陛下の事を見つめている。

「どうせなら魔力至上主義な所も反省して欲しいのですが?」
「……分かっている。あの日、シグルドを助けようとしたエクステンド伯爵令嬢の姿には衝撃を受けた」
「え?  私?」   

  突然、話を振られても何が衝撃だったのかよく分からない。

「魔力も有り、力も使えるはずだったティティ男爵令嬢と、力を失くしているはずのエクステンド伯爵令嬢……あの場での二人の志しの強さの差は誰がどう見ても歴然だった」
「陛下……」
「なけなしの魔力を全て使ってでもシグルドを救おうとしたエクステンド伯爵令嬢には何度礼を言っても足りぬ」

  そう言って陛下が私に頭を下げる。

  (ひぇ!  実はなけなしなんかでは無くそれなりに魔力があったらしいです、なんて口が裂けても言えない!)

「心の強さと本当に“相手を想う”という事を見せつけられた。そして、それは時に奇跡も起こすものなのだとも」 
「え、えっと……」

  何だろう、かなり大それた話になっているような気がしてならない。
  たじろぐ私にシグルド様は言う。

「父上だけじゃない……あの日、ルキアが私を助けようとした姿に感銘を受けた人が多いんだって」
「え?」
「殆どの者が、ルキアが魔力を失っていた事をあの時に知っただろう?  それまで何も知らなかったとは言え、ルキアに対して酷い事を影で言い続けていた自分達の事をとにかく恥じて反省したらしい。騎士団長なんて首を括る勢いだったとか」
「そ、そこまで!?」

  さすがにそれは寝覚めが悪いので勘弁して欲しい。

「だから、魔力の有無なんて関係なく、今は誰もが私の妃にはルキアしかいないと思っているよ───ですよね?  父上?」
「…………」

  シグルド様に睨みをきかされて、無言でコクコクと頷く国王陛下。
  もはや、完全にシグルド様に圧されている。

  (こ、これは!  ……確かに私、思っていた以上に王妃になる日が早いかもしれない……!)

  何だか、早々の世代交代の予感を感じさせられた。

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