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第17話 ロベルトの告白
しおりを挟む「今日は、突然呼び出して申し訳なかったね」
私とロベルトは王宮から呼び出しがあり、フリード殿下の元を訪ねてきた。
「い、いえ、大丈夫です」
自分が王太子殿下と関わっているなんて未だに信じられない。
「まぁ、話ってのはあれだよ。ほら、君たちの婚約。まだ宙ぶらりんだったからね」
「あっ!」
そうだった。
私とロベルトの婚約は、ニコラス殿下が私を愛妾に望んだ事で無理やり解消させられそうになっていたままだった。
私の記憶喪失や、スフィアの投獄事件のゴタゴタでうやむやな状態のままだった事を思い出す。
日常が戻った事とロベルトがこれまでと変わらず側にいるから忘れてしまっていた。
「……リリア。まさかとは思うが、もしかして忘れてなかったか?」
「……ゔっ!」
ロベルトにはバレバレだったようだ。
「…………リリア嬢。君はロベルトに感謝した方がいいと思うよ?」
フリード殿下が、やれやれといった呆れた表情で言う。
「?」
どういう事だろう?
「君達の婚約解消の話が出た後、ロベルトはリリア嬢が事故にあって眠っている間、解消ではなく保留にしてくれ、と何度も直談判に来ていたそうだよ。よっぽどリリア嬢と婚約解消したくなかったんだねぇ」
「殿下!」
「休暇なのに領地に帰らず、王都にいたのもリリア嬢の為だったようだし?」
「っっ殿下!!」
ロベルトの焦った声を聞く限り、殿下の言っている事は本当なのだろう。
「…………ロベルト」
「……なんだ?」
言葉で聞いたことは1度も無いけれど、
ロベルトは私の事を好きでいてくれてるんだと思う。
記憶を失くしてからは何度も感じる事はあったけど、その前からこんなに大切にされていたのかと思うともう胸がいっぱいだ。
「……ありがとう」
大好き!!
と、伝えたいけど、今は殿下の御前。
2人きりになったら、伝えよう────そう決めた。
「と、いうわけで、コレが新たな婚約誓約書。確認してサインくれるかな? ちなみに、侯爵夫妻と伯爵夫妻のサインは既にいただいてるからね」
「えっ!?」
い、いつの間に!?
殿下のその素早さに驚いた。
「両家とも婚約解消なんてしたくなかったみたいだからね。すぐサインしてくれたよ」
殿下が笑いながら教えてくれた。その気持ちが嬉しかった。
「……殿下、申し訳ございません。俺達のサイン、出来れば明日まで待ってもらえませんか?」
「!?」
なのに、ロベルトが突然そんな事を言い出した。
「うん? 別に構わないけど。明日はー……そうだな今日と同じ時間ならなんとかなるかな? なら、明日また来るといいよ」
「ありがとうございます」
どうして!?
どうして今、サインしないの!?
ロベルトは、何を考えてるの? もしかして、ロベルトはこのまま婚約解消したいの?
なら、直談判の話は何だったの!?
私は混乱した。
幸せな気持ちから一転、目の前が真っ暗になったようだった。
「……リア! リリア?」
ロベルトに呼ばれて、ハッと意識を取り戻す。
今は、帰りの馬車の中だった。
「大丈夫か?」
「…………」
大丈夫なわけないでしょう? もう一度、私達は婚約の手続きする筈だったのに。
ロベルトはサインしてくれなかった。
「悪い。どうしても今日サインする訳にはいかなかった」
「…………?」
意味が分からない。
「何で今日じゃダメだったの?」
「……………リリアと一緒に行きたい所があるんだ」
ますます意味が分からない。
分からないけど、ちゃんと答えを知りたいので私は静かに頷いた。
そうして馬車に揺られ、
「着いた」
と、言って連れてこられた場所は、我が家の庭園……中心にあるあの木の麓だった。
「どういう事?」
一緒に行きたい所もなにも我が家じゃないの!
「リリア、ここで俺達が初めて会った時の事を覚えてるか?」
「……? 当たり前じゃない。記憶喪失の時だって夢で見たくらいなんだから」
「だよな、あの時リリアは俺をお前だけの王子さまと呼んでいた」
「……そ、そうね」
『王子さまよ! わたしの……リリアだけの王子さまだわ!!』
改めて言われると、物凄く恥ずかしい。
まだ夢見るお年頃だったのよね。
「なら俺があの後、リリアになんて応えたか覚えてるか?」
「えっ?」
そういえば、どうだったかしら?
自分の発言は覚えてるけど……
と目を瞑り考え込んでいると、ロベルトが私の目の前でしゃがみ込んだのが気配で分かった。
何事かと思って目を開けたら真剣な表情をしたロベルトと目が合った。
「リリア・ミラバース伯爵令嬢……俺は初めてここで会った時から、ずっとあなたに惹かれてた。だから俺は、あなたの願うその“王子さま”になりたいと思った。幼いながらも婚約を急いだのは、あなたを逃したくないと望んだ俺の意思だったんだ。だから、ここでもう一度誓わせて欲しい」
私の前に跪きながら告げられる言葉に驚いて私は目を丸くする。
「……俺と結婚してください。どうか俺だけの姫になってくれませんか?」
その言葉に弾かれたように私の頭の中に記憶が流れ込んでくる。
『……じゃあ、俺のお嫁さんになって、俺だけのお姫様になってくれる?』
『なる! リリア、あなただけのお姫様になるわ!!』
そうだった。ロベルトはあの時私にそう言った。
私は満面の笑みでそれに応えた……
私は、差し出された手に自分の手を重ねて応える。
「はい……なります。王子さま。貴方だけの姫に……」
涙が溢れてきて、そう応えるのが精一杯だった。
ロベルトは嬉しそうに立ち上がって、私を抱き締めてくれた。
「リリア……好きだ。俺はずっとずっとリリアだけ想ってきた。改めて婚約誓約書にサインする前にどうしても伝えたかったんだ。だから、無理言って延ばしてもらった。不安にさせて悪かった」
「い、いいの。わ、私も……ロベルトが好き……大好き」
バカな私。何で疑ってしまったの?
ロベルトはこんなにも私を想ってくれていたのに!
涙でぐしゃぐしゃになってるだろうけど、笑顔で私も応える。
私を抱き締めるロベルトの腕に更に力が込められたのが分かった。
そっとロベルトの顔が近付いてきて、私は目を閉じる。
そっと唇に触れた感触は、今まで一番とても甘くて幸せな味がした。
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