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side ロベルト
しおりを挟む俺、ロベルト・ペレントンには、約10年前から最愛の婚約者がいる。
初めて出会ったのは、親同士が仲良かった事もあり、同い年の遊び相手としていいのではないか? と思った両親に連れられて、ミラバース伯爵家に遊びに行った時だ。
木の上に飛ばされたハンカチが取れなくて泣いていた。
木に登ってハンカチをとってあげたら、すごく喜ばれ、何故か王子さまと呼ばれた。
そんなくるくる変わる表情が、とにかく可愛くて可愛くて……
気付いたら、
『お嫁さんになって』
と、口にしていた。
両親達は、最初から俺達を婚約させようと思って引き合わせたわけではなかったようだ。
……まぁ、後に婚約したらいいな、とは思っていたようだったが。
しかし、リリアに対して初めての恋に落ちた俺は両親に今すぐ婚約させて欲しいと頼み込んだ。
幸い、伯爵家も認めてくれ、(リリアが俺を王子さま! と呼んでいたのが功を奏したらしい)俺は、無事にリリアの婚約者となる事が出来た。
それからは、幼馴染兼婚約者として過ごすことになったのだが、幼い頃はまだ良かった。婚約者というより、友達のように遊んでいたから。
問題は、お互いが年頃になってきてからだ。
年々、綺麗になっていく婚約者に俺は戸惑うばかりだった。
学院に入学してからは本当に気が気じゃなくて、婚約者という立場を手にして置いて本当に良かったと思っていた。
はっきり“好きだ”と告げた事は無かったけど、リリアも分かってくれてると思ってた。
その考えが、甘かったと思い知らされたのが、
リリアが……記憶喪失になる事故にあった日だ。
その数日前からリリアの様子が変だとは思っていた。
何か言いたそうにしては、口を噤む。
それは俺に対してだけでなく、両親や親友のスフィアに対してもだったので心配していた。
そして……
「は? 婚約……解消?」
「ニコラス殿下が、リリアちゃんを愛妾にしたい、という話が出たそうだ」
「リリアを愛妾に!? 何でだよ! ニコラス殿下は……一応、スフィアと婚約してるし、そのくせ、セレン男爵令嬢とも良い仲になってるんだぞ? 何でリリアを望む!?」
「お、落ち着け。ロベルト。私にも何がなにやら……とりあえず、伯爵の所に行くぞ」
父親から婚約解消の話を聞かされた時は、わけが分からなかった。
王家からの申し出に、一侯爵家が逆らえるわけもなく、それは伯爵家であるリリアも同じだ。
このままじゃ、婚約解消まっしぐらだ!
しかも、何故か俺の次の婚約者まで指定してきやがって……!!
俺は、リリア以外を妻にする気はない!
そう意気込んで、伯爵家に向かったが親達の話し合いは、王家の要望を受け入れるしかないだろうという結論にしかならなかった。
口を挟む事も出来ず、焦るばかりだった俺の前で、リリアは目に涙を溜めて叫んだ。
「……いや、嫌よ!! 私、私はっ……! ロベルトも何か言ってよ!?」
そう言って泣きながらリリアは家を飛び出した。
「ま、待てリリア!」
慌てて追いかけるも、リリアは走りながら更に叫ぶ。
「ロベルトは! いつだってそうよ! 何も言ってくれない!! 本当は仕方なく婚約者でいてくれてるんでしょ? 本当は私の事なんて好きじゃないんでしょーー!!」
「違っ……!! リリア、危ない!!」
「きゃっ!!」
────道に飛び出した事で馬車に轢かれそうになって転び、頭を打ったリリアは中々目を覚まさなかった。
俺の頭の中は、とにかくリリアに言われた事がぐるぐる巡っていた。
俺の気持ちは伝わってなかった。
……どうして口に出さずとも分かってくれると思っていたのだろう。そんなはずないのに。
────目が覚めたら、俺の気持ちをちゃんと伝えよう。
そして、婚約を解消しないですむ方法をどんな事をしても一緒に見つけよう───
しかし、目を覚ましたリリアは記憶を失っていた。
俺との思い出も、俺が婚約者だった事も全て忘れていた。
最初は、リリアが目を覚ますまでは領地に帰らないと両親には伝えていた。
しかし、目を覚ましたリリアが記憶喪失になっていた事から、記憶を取り戻すまでは、こっちにいさせてくれるよう更にお願いをした。
俺のリリアへの気持ちを知っている両親は渋々だったが認めてくれた。
こっちにいる間に、やれる事はやろうと決めた。
リリアとの婚約解消を反故にする事。
ミラバース家に通い、明らかに何かあったであろうリリアを守り記憶を取り戻す手伝いをする事。
記憶を失くしても、リリアはリリアだった。
俺との10年の記憶が無いはずなのに、言いたい事をポンポン言ってくれたのは、心のどこかで俺を思い感じてくれてるのかと思うと、胸が震えた。
また、あまりにも無防備な可愛さに我慢が出来ず、抱き締めたり、額や頬にキスをするなど、手を出したのは……もう一度、俺を意識して欲しいという思いも勿論だが、今度こそ俺の気持ちをちゃんと伝えたかったからだ。
……口に出してない時点であまり変わっていないかもしれないが。
そんな中、スフィアが捕まる事件が起きた。
スフィアは、リリアと余程ウマが合ったのか、2人はとても仲が良かった。
そんなスフィアは、どこかいつも先を見越しているような、そんな雰囲気を纏っていた。
上位貴族としての付き合いが以前からあった俺は、フリード殿下のスフィアへの気持ちは知っていた。
……スフィアの気持ちも様子を見ていれば伝わってきた。
だから、スフィアがニコラス殿下と婚約を結んだ時は思わず話を聞きにいったくらいだ。
当のスフィアは、まるでこうなる事が運命のように言っていたが。
スフィアが辛いとリリアも一緒に悲しんでしまうから、俺としてはスフィアにも幸せになって貰いたいのだが。
……出来ればフリード殿下と。
そんなスフィアの事件を経て、リリアは無事に記憶を取り戻し、スフィアも釈放され全てが丸く収まったように思えたが、俺にはまだすべき事があった。
リリアへの告白────
ニコラス殿下が処罰された事で、俺とリリアの婚約は無事に再び結び直す事になったが、俺が肝心の気持ちを伝えなくては、またリリアに不安を与えてしまうかもしれない。
そう思った俺は不敬だと分かっていたが、その場で婚約誓約書にサインする事が出来なかった。
リリアへ告白するのなら、あの場所しかない!
俺達の出会った場所。……俺が恋に落ちた場所。
喉から心臓が飛び出るんじゃないかと思いながら、跪いた俺はリリアへの想いを口にした。
「リリア・ミラバース伯爵令嬢……俺は初めてここで会った時から、ずっとあなたに惹かれてた。あなたの願う王子さまになりたいと思った。幼いながら婚約を急いだのは、あなたを逃したくないと望んだ俺の意思だったんだ。だから、ここでもう一度誓わせて欲しい。……俺と結婚してください。俺だけの姫になってくれないか?」
あの日、この場所で『お嫁さんになって』と告げた時、リリアは満面の笑みで応えてくれた。
今も同じ答えをくれるだろうか?
「はい……なります。王子さま……貴方だけの姫に……」
リリアからの応えを聞いて、涙が溢れそうなくらい嬉しかった。
思わず抱き締めてしまったくらいだ。
今まで言えなかったのが嘘のように、想いが言葉になって溢れてくる。
「リリア……好きだ。俺はずっとずっとリリアだけ想ってきた。改めて婚約誓約書にサインする前にどうしても伝えたかったんだ。だから、無理言って延ばしてもらった。不安にさせて悪かった」
「い、いいの。わ、私も……ロベルトが好き……大好き」
そう言って、涙とともに見せてくれたリリアの笑顔は、今まで見た笑顔の中でも1番の、とびっきりの死ぬほど可愛い笑顔だった──
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