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第16話 事件の終わり
しおりを挟む「んー、久しぶりの学院だわ!」
長期休暇も終わり、今日から学院が再開する。
3年生の私達は、卒業に向けての準備も始まる。
まぁ、卒業後の女性は婚約者の元に嫁ぐか花嫁修業が多いのだけれど。
休暇の間に色々な事があり過ぎて、すでに学院が懐かしく思えてしまう。
そんな事を考えて歩いてたら、どうやら足元が疎かになっていたようで、私はつい転びそうになってしまった。
衝撃を覚悟して目をつぶるも、何故か一向に衝撃はやって来ない。
「……?」
目を開けて、ふと自分の身体に目をやると、お腹に腕が回されていて身体が支えられていて転ばずにすんでいた。
「おいっ! ………危ないだろ」
「ロベルト!」
ロベルトが助けてくれていた。
「本当に、リリアは目を離すと何をやらかすか分からないな」
「あははは、ごめんね! でも、ロベルトはいつだって助けてくれるでしょ?」
「……リリアっ!」
ロベルトと私の関係も相変わらずだ。
この休暇中に起きた騒動のゴタゴタで距離は以前より近付いた!
と、私は思ってるのだけど。
……ほら、キスとか、キスとか……
何て事を考えてたら一気に顔が赤くなってしまった。
「…………? 何で顔が赤いんだ?」
「………………何でデスカネ?」
何を考えてたかなんてもちろん恥ずかしくて言えず、顔の火照りも治まる様子が無い。
「ねぇ、ロベルト……」
「ん? ……どうした?」
ロベルトが、私のお腹に回したままギュッと腕に力を入れる。
今は後ろから抱き抱えられてるような格好だ。
そろそろ……恥ずかしい……
恥ずかしいから、いいかげん離してと言いたくて口を開いた。
「あの……」
そこまで口を開きかけた時、私の言葉を遮るかのように背後から声をかけられた。
「相変わらずのお二人さんね! でも変わらず仲良しで良かったわ!」
「!!」
その声にハッとする。
この声は。
そう、たった今後ろから声をかけてきたのは──
「スフィア!!」
「リリア、久しぶり! そして、ありがとう!! ……ロベルトも」
私は、慌ててロベルトから離れてスフィアの元に走り寄って抱き着く。
スフィアも抱き締め返してくれた。
良かった! 夢じゃない! スフィアがここにいる!!
「記憶も戻ったと聞いたわ。本当に良かったわ」
「スフィアのおかげよ!」
「なんで私が?」
……記憶が戻ったのはスフィアの投獄事件がきっかけだから、間違ってないのになぁ。
「スフィアが、捕まった話の衝撃で思い出したようなものなんだよ」
ロベルトが呆れ混じりの声で説明してくれる。
「えっ! そうだったの? ……それは、その、なんと言うか……」
「そんな事より!! スフィアが無事で本当に良かった!!」
「それこそ、リリア達のおかげでしょ? ……本当にありがとう」
スフィアは、ニッコリと微笑んだ。
元気そうな様子に私は心から安堵した。
───あの時、本のようなものに挟まれていた紙と手紙の束。
紙切れには、ニコラス殿下とセレン男爵令嬢がフリード殿下を暗殺するための計画が書かれていた。
そして、手紙には二人がその計画を実行するために手を結んだ貴族達とのやり取りが具体的に記されていた。
これがニコラス殿下達による、王太子殿下暗殺計画の決定的な証拠となり二人は今、皮肉にもスフィアがいた地下牢に収容され事情聴取を受けている。
「ねぇ、スフィア。スフィアは、地下牢にいるニコラス殿下とセレン男爵令嬢、それぞれに会いに行ったのでしょう?」
「えぇ、行ったわ」
スフィアは釈放された後、王太子殿下と二人でそれぞれに会いに行ったらしい。
「どんな様子だったの?」
「……ニコラス殿下には目障りだ、二度と来るな、と言われたわ」
「えー……」
スフィアとニコラス殿下は、セレン男爵令嬢が現れる前からどう見ても仲が良いとは思えなかったけど相当らしい。
何故か、一方的にニコラス殿下がスフィアを敵視していたように見えたのよね。
こうなってもそこは変わらないらしい。
「セレン男爵令嬢は?」
「話が通じなかったわ……私はどうしても、彼女に聞かなきゃいけない事があったから会いに行かせてもらったのだけど」
「……? それは聞けたの?」
「……聞けたような、聞けなかったような」
そう言って寂しそうに微笑むスフィアはきっと私の知らない何かを抱えてる。
あの不思議な文字の事もその一つだと思う。
いつかスフィアはそれを私に話してくれるかな?
そんな時が来るといいな、と思った。
「結局、ニコラス殿下は王位継承権を剥奪の上、王家直轄の領地への生涯幽閉となりそうだって聞いたわ」
「そうね。実際、凶行に及んでいたらもっと厳しい処罰になったでしょうけど残念ながら今はそれ以上の刑には出来ないみたい。……リリアとしては不服かもしれないけど」
スフィアは私がニコラス殿下に脅されていた事を言っているんだろう。
「セレン男爵令嬢は?」
「彼女は男爵家から勘当されて、その後は強制労働収容所行きね。出てこれるのは何十年も先だと思うわ」
「……それは、計画の主導がセレン男爵令嬢の方だったから?」
私の言葉にスフィアは静かに頷いた。
あの日、私が二人の計画を知ってしまった時も明らかにセレン男爵令嬢がニコラス殿下を唆していた。証拠となった手紙にも明らかにセレン男爵令嬢が主導していると分かる内容だったらしい。
ニコラス殿下とセレン男爵令嬢への処罰。そして二人の企んだ王太子殿下暗殺計画に手を貸していた貴族の処分。
これを受けてようやくこの休暇中に起きた事件は収束へと向かおうとしていた。
「……スフィアは大丈夫なの?」
「え?」
あの日の夜会で、婚約破棄を突き付けられ、ありもしない罪を着せられ地下牢にいたスフィアは冤罪となりすぐ釈放されたけど、ニコラス殿下との婚約解消やセレン男爵令嬢が流し続けた噂のせいで社交界の評判はとても酷い事になっていた。
「そうねぇ……本当は、私はあのまま国外追放になる運命だったんだけどね」
スフィアがそう呟く。
国外追放の運命? 何て聞き捨てならない事を言うの!
「そんな事、私達がさせるわけないでしょう!?」
特に、あの王太子殿下がそんな事を許すはずがない。断言出来るわよ!
あれは絶対に地の果てまで追いかけてくるタイプよ。
「分かってるわ……もうそんな事は望まないし願わない。だからありがとう、リリア」
スフィアはニッコリ笑って言った。
「ただ……まぁ、しばらくは私の悪評は続くでしょうけどね」
「悪評が流れようと、私達は友達よ!!」
「ふふふ、ありがとう、リリア」
私達はギューッと抱き締め合う。
横では、「いつまでくっついてんだ……」と、ロベルトがため息混じりに呟いてたけど聞こえないフリをした。
あれから、スフィアと王太子殿下の関係がどうなったのか気にはなったけど、
スフィアの腕には、あの箱の中に入っていた殿下からの贈り物だというブレスレットが着けられていたので、それが答えなんだと思った。
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