3 / 15
3. キラキラ王子は笑い上戸でした
しおりを挟む「今日は突然呼び出して申し訳なかった」
「い、いえ……」
3日後、逃げる事も出来ず、登城した私とお父様を出迎えたのはキラキラしいオーラを放つアーネスト殿下、まさかの本人で、私はそのキラキラオーラに目が潰れるかと思ってしまった。
(ゔっ……! 今日は眼鏡があるから視界がクリア過ぎて色々と辛いわ)
王宮の眩しさは眼鏡が直った今の私にとって刺激が強すぎる。
ついでに王子もキラキラしているので刺激はより倍増。
これは眼鏡がなくてボンヤリしていた方が目には優しかったかも……
なんてどうでもいい感想を抱いた。
「クリスティーナ・トリントン伯爵令嬢」
「は、はい!」
「眼鏡は直ったんだね」
「は、い?」
思わず声が裏返ってしまった。
直った?
そりゃ、直りましたけど? だって眼鏡がある無しは私の死活問題ですもの。
私だって屋敷の物を破壊して回りたくは無いわ。
何よりお父様が怒るしね。
それよりも。
アーネスト殿下はどうして私の眼鏡が壊れていた事を知っているのかしら??
「…………?」
《──おい! クリスティーナ! 変なオーラが出てるぞ!》
何を言ってるのこの王子……って目でアーネスト殿下の事を見てしまったせいか、横にいるお父様に小声で叱られた。私の放つ妙なオーラを感じ取ったらしい。さすがお父様だわ。
(……って。いけないわね。いくら眼鏡のせいで表情が分かりにくいとは言っても、笑顔は大事!)
私は慌てて笑顔を作り殿下を見る。
殿下の視線はずっと私に向いていたので、ばっちりと見つめ合う形となった。
と言っても、この分厚い眼鏡のせいで殿下に私の目は見えていないでしょうけども。
(まともに顔を拝見したのは初めてな気がするけれど、さすが王子様。キラキラなだけでなくカッコいい)
金髪碧眼のアーネスト殿下はどこからどう見ても私の理想の“王子様”だった。
「…………」
「…………」
しばし、私と殿下は無言で見つめ合った。
そんな沈黙を破ったのは……
ブハッ
「ごめ……無理だ……いや、本当に我慢出来ない、無理! あはははは」
「!?!?!?」
殿下が突然吹き出したと思ったら豪快に笑い出した。
「いや、ごめん……でも、この間も思ったけど、トリントン嬢……いや、クリスティーナ嬢……君、面白すぎるよ……今もそんな頑張って笑顔作らなくてもいい、のに……!」
「は、ぁ……?」
この間とは何でしょう? それに今、無理やりを笑顔作ったってバレてる? 何で?
私は小首を傾げる。
「……あれ? その反応。もしかして本当に分かってない?」
アーネスト殿下がいまだにヒーヒー笑いながらそんな事を言う。
ちょっと、ちょっと殿下! 笑い過ぎて涙目になってましてよ?
私の中の理想の“王子様”が音を立てて崩れて行く……
「ははは、3日前の舞踏会で一人料理当てゲームとやらをしてた君は、僕をすげなく追い払ったじゃないか」
「へ?」
「なっ!?」
私とお父様の驚きの声が重なる。
そんな私達の様子を気にする事なく、殿下はキラキラの爽やかな笑顔を私に向けて言った。
「いや、あんなあしらい方をされたのは生まれて初めてだった」
「……!!」
待って待って待って!?
殿下はなぜか嬉しそうな顔でそんな事を言っているけれど、こっちは全く笑えないわ。
冷たい汗が背中を流れる。
(ま、まさか、あの男性が殿下だった!?)
「えぇぇと、あの日、私に声をかけたのが……殿下でした、の?」
「そうだよ。 一人で楽しそうに妙なゲームに熱中してるから、話しかけた僕の事も分かってないんだろうなぁとは思ったけどやっぱりだったね」
「!!」
殿下は愉快そうに言ったけれど、笑えません! 全然笑えませんよ!?
「ク、クリスティーナ……お前って奴は……」
お父様は私の横で真っ青になってワナワナと震えだし、そう零すとその後は言葉を失っていた。
あぁ、やっぱりお父様は確実にこの3日で老けたわねぇ……そして今この一瞬でさらに老いた気がするわ。ごめんなさいね、お父様。
そんなお父様はすでに放心状態。
これは……魂が旅に出ている?
お願いだから早急に帰って来て! と、懸命に心の中でお願いした。
「まさか全く見向きもされないとは思わなかったから本当に驚いたよ」
「!!」
あぁぁ、もう無理! これはお叱りの呼び出しだったのね……
早急に謝らないと……!!
「「も、申し訳ございませんでしたぁぁぁ」」
応接間には私と(我に返った)お父様の謝罪の声が響き渡った。
◇◇◇
「いやいや。今日はね処罰を与えようと思って呼んだわけじゃないんだよ」
「え?」
謝罪の後、殿下が困ったような声をあげた。
処罰を与えるつもりはない……ですって?
「で、では何の為に……私をお呼びになった、のでしょうか??」
「会いたかったから」
「「?」」
殿下のその発言に私とお父様は同時に首を傾げた。
「すごっ、親子そっくり!」
殿下はまたも吹き出した。
どうでも良いけれど、この王子様……さっきから笑い過ぎでは??
「……コホンッ。もう一度、君に会いたかったからだよ、クリスティーナ嬢」
「えぇぇ!? こ、こんな私のような地味な眼鏡っ子令嬢にですか!?」
ブハッ
勢いあまって思わず返してしまった私の言葉に殿下がまた吹き出した。
「地味な眼鏡っ子令嬢って……あはははは! 自分で言うんだ!?」
「本当の事ですから!」
「どこに自信を持ってるのさ。本当に変わった子だな」
「変わってなどいませんが?」
「いやいや……本当に……あははっ」
私が何を言っても殿下は笑ってばかり。
殿下はどこまでもどこまでも楽しそうだった。
◇◇◇
「えっと、あー……それでね? さっきも言ったけれど、本当に今日は処罰を与えるつもりで呼んだわけじゃないんだよ」
「で、では?」
殿下は散々笑い転げていたけれど、笑いが尽きたのか、ようやく本題に入る事にしたらしい。
(お叱りでないと言うのなら一体何の話があるというの??)
私とお父様も背筋を正して真剣な顔で殿下と向き合う。
「クリスティーナ・トリントン伯爵令嬢」
「はい」
殿下は何故かその場から立ち上がり私の元へやって来て、そのまま目の前に跪いた。
「……? あの殿下……??」
……何をしているのかしら??
そんな事を思ったのも束の間、殿下は先程までの笑い転げてた顔はどこへやら。
真剣な顔で私を見つめ、そして言った。
「どうか私、アーネスト・ルスフェルンの妃となってもらえないだろうか?」
「!?」
──婚約者だったロビン様に逃げられ、その後に婚約打診をした男性達にも秒で断られた私……
確かに、誰か良い人を探していたわ。
こんな地味な眼鏡令嬢でも良いと言ってくれる人を。
だけど、こんな展開、誰が予想出来て? 無理よ、予想出来るわけないじゃない。
何がどうしてこんな事になってるの!?
殿下のその言葉に私はビックリしてその場に固まり、
お父様は、小さな悲鳴をあげて泡を吹いて倒れその日の王宮は、トリントン伯爵が死にかけたとちょっとした騒ぎになった。
104
あなたにおすすめの小説
記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛
三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。
「……ここは?」
か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。
顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。
私は一体、誰なのだろう?
婚約破棄されたので、元婚約者の兄(無愛想な公爵様)と結婚します
ニャーゴ
恋愛
伯爵令嬢のエレナは、社交界で完璧な令嬢と評されるも、婚約者である王太子が突然**「君とは結婚できない。真実の愛を見つけた」**と婚約破棄を告げる。
王太子の隣には、彼の新しい恋人として庶民出身の美少女が。
「うわ、テンプレ展開すぎない?」とエレナは内心で呆れるが、王家の意向には逆らえず破談を受け入れるしかない。
しかしその直後、王太子の兄である公爵アルベルトが「俺と結婚しろ」と突如求婚。
無愛想で冷徹と噂されるアルベルトだったが、実はエレナにずっと想いを寄せていた。
婚約破棄されたことで彼女を手に入れるチャンスが巡ってきたとばかりに、強引に結婚へ持ち込もうとする。
「なんでこんな展開になるの!?』と戸惑うエレナだが、意外にもアルベルトは不器用ながらも優しく、次第に惹かれていく——
だが、その矢先、王太子が突然「やっぱり君が良かった」と復縁を申し出てきて……!?
【完結】元悪役令嬢は、最推しの旦那様と離縁したい
うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
「アルフレッド様、離縁してください!!」
この言葉を婚約者の時から、優に100回は超えて伝えてきた。
けれど、今日も受け入れてもらえることはない。
私の夫であるアルフレッド様は、前世から大好きな私の最推しだ。 推しの幸せが私の幸せ。
本当なら私が幸せにしたかった。
けれど、残念ながら悪役令嬢だった私では、アルフレッド様を幸せにできない。
既に乙女ゲームのエンディングを迎えてしまったけれど、現実はその先も続いていて、ヒロインちゃんがまだ結婚をしていない今なら、十二分に割り込むチャンスがあるはずだ。
アルフレッド様がその気にさえなれば、逆転以外あり得ない。
その時のためにも、私と離縁する必要がある。
アルフレッド様の幸せのために、絶対に離縁してみせるんだから!!
推しである夫が大好きすぎる元悪役令嬢のカタリナと、妻を愛しているのにまったく伝わっていないアルフレッドのラブコメです。
全4話+番外編が1話となっております。
※苦手な方は、ブラウザバックを推奨しております。
誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。
【完結済】侯爵令息様のお飾り妻
鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
没落の一途をたどるアップルヤード伯爵家の娘メリナは、とある理由から美しい侯爵令息のザイール・コネリーに“お飾りの妻になって欲しい”と持ちかけられる。期間限定のその白い結婚は互いの都合のための秘密の契約結婚だったが、メリナは過去に優しくしてくれたことのあるザイールに、ひそかにずっと想いを寄せていて─────
恋人の気持ちを試す方法
山田ランチ
恋愛
あらすじ
死んだふりをしたら、即恋人に逃げられました。
ベルタは恋人の素性をほとんど知らぬまま二年の月日を過ごしていた。自分の事が本当に好きなのか不安を抱えていたある日、友人の助言により恋人の気持ちを試す事を決意する。しかしそれは最愛の恋人との別れへと続いていた。
登場人物
ベルタ 宿屋で働く平民
ニルス・パイン・ヘイデンスタム 城勤めの貴族
カミラ オーア歌劇団の団員
クヌート オーア歌劇団の団長でカミラの夫
十年間虐げられたお針子令嬢、冷徹侯爵に狂おしいほど愛される。
er
恋愛
十年前に両親を亡くしたセレスティーナは、後見人の叔父に財産を奪われ、物置部屋で使用人同然の扱いを受けていた。義妹ミレイユのために毎日ドレスを縫わされる日々——でも彼女には『星霜の記憶』という、物の過去と未来を視る特別な力があった。隠されていた舞踏会の招待状を見つけて決死の潜入を果たすと、冷徹で美しいヴィルフォール侯爵と運命の再会! 義妹のドレスが破れて大恥、叔父も悪事を暴かれて追放されるはめに。失われた伝説の刺繍技術を復活させたセレスティーナは宮廷筆頭職人に抜擢され、「ずっと君を探していた」と侯爵に溺愛される——
記憶喪失になった婚約者から婚約破棄を提案された
夢呼
恋愛
記憶喪失になったキャロラインは、婚約者の為を思い、婚約破棄を申し出る。
それは婚約者のアーノルドに嫌われてる上に、彼には他に好きな人がいると知ったから。
ただでさえ記憶を失ってしまったというのに、お荷物にはなりたくない。彼女のそんな健気な思いを知ったアーノルドの反応は。
設定ゆるゆる全3話のショートです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる