【完結】婚約発表前日、貧乏国王女の私はお飾りの妃を求められていたと知りまして

Rohdea

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24. エリオットの決意

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 驚愕しているヨナスを無視して私はエリオットに訊ねる。

「エリオット?  ところで、ちょっと遅かったわね?」
「無茶言わないでください。入口に見張りがいましたので倒していたんですよ」
「見張り……」

 そういえば、ヨナスがそんなことを言っていたわね、と思い返す。
 扉の外に視線を向けると、たしかに廊下ではエリオットにやられたらしき人が伸びていた。

「そう───でも、ありがとう。エリオットなら絶対に来てくれるって信じていたわ」

 私は微笑みながらシャランッと手に持っていた鈴を鳴らす。

「当然です。いつでも何処でも駆け付けると約束しましたから」
「ふふふ、そうよね」
「しかし───」

 エリオットは口をパクパクさせているヨナスをじろっと睨みつける。
 睨まれたヨナスはビクッと身体を震わせた。

「ウェンディ様を呼んだのはエルヴィス殿下ではなかったのですか?」
「ええ。そのはずだったんだけど」
「まあ、理由は察せますが……俺の話を最後まで聞かずに突っ走るからですよ───怪我はありませんか?」
「無いわ」

 私が首を振りながらそう答えるとエリオットはホッと胸を撫で下ろした。

「それなら良かっ……」
「まあ、痺れ薬入りのお茶は飲んだけど」
「!?」

 ピシッとエリオットの顔が固まる。

「エリオット?」
「し……痺れ薬、ですか?」
「そうよ。そこのカスは私に薬を飲ませて自由を奪って……────って、エリオット!  顔が怖いわよ!?」
「…………ははは、そうですか?  はっはっは……」
「!!」

(み、見たことない顔してる!)

 顔は笑っているのに目の奥が全く……これっぽっちも笑っていない!
 どう考えても殺気が駄々漏れしているし……
 エリオットは本気で怒るとこんな風になるのかと思った。

「エ……エリオット!  私はこの通りピンピンしているし、大丈夫だから落ち着きなさい!」

 とりあえず、エリオットを宥めて殺気は収めてもらう。
 ヨナスはこの世に居てもいなくても構わないけれど今、こんな所でヨナスをってしまったら後始末が大変だもの。

「…………しかし、ヨナス殿下は阿呆ですね?  普通に考えれば、ウェンディ様が毒や薬に慣らされていると思うでしょうに」
「そうだ!」

 エリオットのその言葉にハッとしたヨナスはクワッと目を見開いて声を荒らげる。

「どういうことなんだ!  ……エルヴィスは確かに……ウェンディ王女は毒や薬には慣らされていない、と言っていたんだ!!」
「……」

 私はクスッと小さく笑う。
 確かに私はお兄様と共に毒や薬に慣らされる時、“辛いのが嫌”そう言って逃げ回っていた。
 だから、お兄様のその記憶は間違っていない。
 でもね?

(その後も受けてないとは言っていないわよ?)

 強いて言うならあれは、お兄様の前で弱った自分を見せるのが嫌だっただけ。
 だから、ちゃんと別の機会に必要なことはちゃんと全て済ませてある。

「────そんなことはどうでもいいでしょう?」
「な、に?」
「あなたは私に薬を服用させた……それが全てよ」

 私はにっこり笑いながら、ポットに向かって指をさす。

「───そこのまだ中身が残っているお茶と……何より私の身体を診察してもらうのが一番の証拠よね」
「……っ!!」
「そもそも、そんな薬を持って来訪して来ている時点であなたは何を考えていたのかしら?」
「ぐっ……」

 ヨナスは私から思いっきり目を逸らす。
 そしてどんどん顔色が悪くなっていく。

「このことは、きっちり報告させてもらいます─────ヨナスさ……ああ、いえ、カス殿下!」
「カス……」
「ええ、ぜひ国に戻ったら改名をオススメするわ」
「……」

 ガクッと膝をついたヨナスはこの世の終わりみたいな絶望の表情を浮かべていた。


────


「ほっほっほ!  見た?  ヨナスのあの顔!  傑作よ!」
「……」

 絶望顔のまま無抵抗で馬車に乗せられて帰国していくヨナスを見送ったあと、部屋に戻った私はお腹を抱えて思いっきり笑った。

「私個人に対する慰謝料に、“モーフェット国の王女”に危害を加えた罪で、我が国への慰謝料も加わるんだから、とんだお間抜けさんよね~」
「……」
「ほっほっほ!  そんなにお金を払いたくて払いたくて仕方がなかったのかしら」
「……」

 ここでエリオットがずっと下を向いていて無言だということに気付く。
 顔を上げて呼びかけてみる。

「エリオット?」
「……」
「黙り込んじゃってどうし、」
「────ウェンディ様!!」

 エリオットは、勢いよく顔を上げるとガバッと思いっきり私に抱きついた。
 そして、その身体は震えていた。

「────!?」
「……鈴の音、が聞こえた瞬間、生きた心地がしませんでした」
「エリオット……?」

 私は腕を回してそっとエリオットの背中をさする。
 すると、エリオットは腕にギュッと力を込めた。

「あなたを野放しにすると、心臓がいくつあっても足りません」
「はぁ!?  ちょっ……」
「ですが、あの鈴をあなたがずっと持ってくれていることも嬉しいのです」
「!」

 常にドレスの何処かしらに忍ばせているのだけど、何だか恥ずかしくて言えない。

「……ウェンディ様なら、あの場でわざわざ俺を呼ばなくてもヨナス殿下を蹴り飛ばして事を終えることも出来たでしょう」

 確かに。
 身体は余裕で動けたのだから、あの場では油断しているヨナスを蹴り倒すことも出来なくはなかった。

(頭の中、エリオットを呼ぶことしか考えてなかったわ……)

 私もギュッとエリオットの身体を抱きしめ返す。

「あ、当たり前でしょ……」
「?」
「私だって守られたい時もあるのよ!」
「…………なんですか、それ」

 エリオットの呆れた声が頭上から聞こえる。

「心配しなくても、これからもずっとあなたのことは俺がお護りしますよ」
「そ……それは、“王女の護衛”として?」
「……」

 私が聞き返すとエリオットが黙り込む。

「エリオット?」
「……」

 エリオットがそっと私の耳元に顔を寄せた。

「俺としましては、生涯の伴侶がいいんですけど」
「───え?」
「……」

 エリオットの顔を見ようと顔を動かそうとした。
 しかし、エリオットの手が私の後頭部に回っていたので動かせなかった。

(しょ……生涯の伴侶って!)

「───先程の話の続きです」
「え!」

 なんで今!?  そう思って気の抜けた声が出てしまう。

「聞いてくれると約束しましたよね?」
「え、ええ。聞く……けど」
「……」

 エリオットはもう一度ギュッと私を抱きしめた。
 とても温かくて心地よくて心が満たされる。

「ウェンディ様も知っての通り、俺は爵位を持てない次男です」
「そう、ね?  だから騎士になったんでしょう?」

 どうしても次男以下は自分の力で生きていく道を見つけねばならない。

「だから今のままの俺では、あなたを迎えることが出来ません」
「……え?」
「ウェンディ様とヨナス殿下の婚約破棄が成立した後、俺は陛下の元に直談判に行きました」
「じ……」

(直談判!?)

 まさかの発言にギョッとする。
 それが伝わったのかエリオットはクスリと小さく笑った気配がした。

「護衛騎士としてだけでなく、ウェンディ様の人生丸ごと護れる存在になれる為の力が欲しい、と」
「なっ!  しょ、正気なの!?」
「もちろんです」

 私の問いかけに即答するエリオット。

「色々考えましたが───俺としてはどんな形であってもウェンディ様といられれば別に構わないのですが、あなたは王女殿下なので……」
「……」
「やはり、苦労させたくありませんから爵位はあった方がいいかなと思い、ダメ元でお願いを」
「……」

 エリオットは少し身体を離すと言葉を失っている私の瞳をじっと見つめる。
 そして、フッと優しく笑う。
 ドキンッと私の胸が跳ねた。

「────ウェンディ・モーフェット王女殿下」
「!」
「先程も告げたように俺は、あなたのことを愛しています」
「……!」

 エリオットがそっと私の手を取り握りしめた。
 私の心臓が破裂しそうなくらいバックンバックン鳴っている。
 私は自分の胸をキュッと押さえた。

「これからの人生は、俺と共に“公爵夫人”として生きてくれませんか?」
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