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23. バカにしないで
しおりを挟む(案内のメイドに不振な様子はなかったから───)
つまり、呼び出しをかけたのは本当にお兄様で、私を呼びに行っている間に出て行ったとかそんなところね?
(あのカス兄はヨナスに頼まれて深く考えずに承諾したのでしょうね)
本当にお兄様は、ろくなことをしない。
「僕はどうしても最後に挨拶をしておきたくて君を呼んでもらっただけさ」
「……」
ヨナスはあくまでも私が呼び出した相手を聞き間違えたで通すつもりらしい。
私はふぅ、とわざと大きく息を吐いた。
「そうでしたか。では、次にお会いするのは慰謝料に関するお話をする時ですわね? それでは、さようなら」
私は頭を下げる。
“挨拶”を求められたのでさっさと要件を済ませて部屋を出ようとした。
しかし、腕を掴まれて引き止められてしまう。
「待て───それが婚約者に対する態度なのかい?」
私は思いっきりその手を振り払った。
「頭、大丈夫ですか? 元、が抜けてますわよ?」
「~~っ! 本当に君は可愛げのない女だな!?」
「ありがとうございます、それは最高の褒め言葉ですわ」
ヨナスの暴言に、にっこり笑ってお礼を告げる。
そんな私の反応にヨナスは思いっきり眉をひそめ顔もしかめた。
「ほっほっほ! 愛してもいない男に可愛いと言われるほど気持ち悪いことはありませんもの」
「くっ……」
私の嫌味にヨナスの顔は分かりやすく引きつった。
「もういいですか? それでは、今度こそ──さような……」
「わ、悪かった!」
再び、さよならを言って部屋を出ようとしたところでヨナスの口から飛び出したのは、なんと謝罪の言葉。
振り返った私に向かってヨナスは頭を下げた。
「ちゃんと反省している……! だから最後に十分! いや、五分でいいから少し話をさせてくれ」
「……私に指一本でも触れる度に慰謝料が跳ね上がりますけど?」
「!」
ヨナスは明らかに動揺したけれど、引きつった笑いで誤魔化していた。
「では、今から五分ですね? どうぞさっさと要件をお話ください」
私が時計を見上げてそう告げるとヨナスが焦り出す。
「ははは、そんなに急かさないでくれ。まずはお茶でも……」
そう言ってヨナスはメイドにお茶を淹れるように指示をした。
そして用意を終えたメイドたちを退出させる。
「……」
(五分と言っておきながらお茶……ねぇ)
テーブルの上に置かれたお茶をじっと見つめているとヨナスが笑った。
「ああ、もしかして警戒しているのかい?」
「……」
「疑われるなんて心外だなぁ」
そう言ってヨナスは自ら先にお茶を一気に飲む。
ついでにポットの中のお茶もお代わりしてみせた。
「……」
「ははは、さあ、どうぞ? この国ではお目にかかれない高級品の茶葉で淹れさせたお茶さ」
このままでは話とやらが始まらず解放されない。
そう考えて仕方なくカップを手に持って、まず香りを確かめる。
「……」
「いい香りだろう? リラックス効果もあるいいお茶なのさ」
「……」
「手土産にと持ってきていたんだけど、最後に披露できて良かった」
「……」
私はやれやれと肩を竦めてから、そっと一口だけ口に含んで飲んでみる。
「!」
「どうだい? 味もいいだろう?」
そのまま無言でカップをソーサーに戻すとヨナスがにっこり……いや、ニヤリと笑った。
「だってこれは────本当に特別な茶葉なんだ」
「……っ!」
その言葉と同時に私の身体に異変が生じた。
(───……っ)
私は椅子に座っていられず、そのまま床に倒れ込む。
ヨナスはそんな私を見て更にニヤリと笑みを深めた。
「ははは! さすが即効性のある痺れ薬は違うな」
「しび……」
「どうだい? 指一本───身体を動かすのもキツイだろう?」
ヨナスはそう言って椅子から立ち上がるとゆっくり倒れ込んだ私の元に近付いてくる。
「なん……っ」
「ああ、なぜ僕が同じお茶を飲んだはずなのに平気なのかって?」
「……」
ヨナスはふふんっと得意そうに笑った。
「それは幼少期から毒や薬にはたくさん慣れさせられて来たからさ。この程度じゃ効かない」
「……っ」
「君も一国の王女だからそうなんだろう思っていたけど───エルヴィスに聞いたよ」
「……っ、っっ」
「幼少期から君は、辛いのが嫌だと言って逃げ回っていたそうじゃないか」
(────!)
「さすが、じゃじゃ馬王女と呼ばれるだけある。だから君には耐性がないんだろう?」
「……」
「実際、一口飲んだだけなのに随分と痺れ薬の効果は出ているようだ」
「……」
ハハハ……と嬉しそうに私を見下ろして笑うヨナス。
「声も出せないし身体も動かせないから、当然助けも呼べない。残念だったね」
「……」
「いいかい? ウェンディ王女、やはり僕には王女が必要なんだよ」
「……」
ヨナスが私の傍にしゃがみ込んだ。
そしてニヤリと笑うと私の腕を掴もうと手を伸ばそうとする。
「だから、帰国させられる前に今、君と無理やりにでも────」
……シャランッ
「ん? ……鈴、の音? どこから?」
「……」
ヨナスが手を止めて目線を私の手元に移す。
そして、私の手の中にある鈴を見てギョッとした。
「は!? なんだそれは? どこから出した!?」
「……」
…………シャラン、シャランッ
私は無言で更に鈴を鳴らす。
「いや待て! なぜ動けているんだ!? これは強力な痺れ薬だぞ!?」
「……」
「耐性がない者は痺れて全く動けなくなるはずだ!」
「……」
そう。本来なら動けないはずの私が動いたものだから、ヨナスはかなり混乱している。
もったいぶっても仕方がないのでここで種明かし。
私はそっと口を開く。
「……一口飲んでこれは強力な痺れ薬が混入されていると分かっていたわ。いえ、正確にはその前から、ね」
「は!? 動いただけでなく喋れる、だと?」
「ふふふ、この痺れ薬ってお茶に混ぜてもほんの少し嫌な苦味があるのよねぇ、やんなっちゃう」
「な、に?」
怪訝そうに眉をひそめるヨナス。
私はにっこり笑ってヨナスの額を指さす。
「さっきのあなた……お茶を飲んだ瞬間、その苦味のせいで一瞬眉をひそめていたわよ?」
「!」
「それで、このお茶に何が入っているかだいたいの見当がついたの」
ヨナスがハッと息を呑む。
「詰めが甘くて残念ねぇ。騙したいなら無表情を貫く練習もするべきだったわね?」
「なっ……ウェンディ王女、まさか君は」
私はヨナスと目を合わせると、ふふっと小馬鹿にしたように笑う。
「ええ、そうよ。私、最初からこのお茶の中に何が入っているか分かっていて飲んだのよ」
「なぜ……なぜだ! 君はこの薬に耐性は無い────」
「ほっほっほ! 私のことバカにしないでくださる? このカスがっ!」
「!?」
高らかに笑いだし、カス呼ばわりした私にビクッとヨナスが身体を震わせる。
「お生憎様。私はちゃんと毒も薬もしっかり耐性を持っているわ!」
「なっ……!?」
「愚かねぇ。どうせ、お兄様から聞いた話を鵜呑みにして裏付けは取らなかったのでしょう?」
「……!!」
驚いて目を丸くするヨナスに向かって私はニンマリと笑う。
「ですから、私はただあなたの期待に応えて“痺れて動けなくなった演技”をしていただけよ?」
「!?」
「どう? 迫真の演技だったでしょう?」
私の挑発にヨナスの顔が怒りで真っ赤になった。
「~~~~っ! ちょ、調子に乗るなよ!」
「……」
「動けるからなんだと言うんだ! 使用人も下がらせたから今、ここには他に誰もいない!」
「……」
「強がっているようだが、護衛騎士を置いて一人でのこのこやって来るなんてとんだ間抜けだったな!」
「……」
「部屋の外は見張らせているし、大声で助けを呼んだところで無駄だ! 誰も助けには来ない!」
「へぇ、それはどうかしら?」
「なに?」
「───私の騎士をバカにしないで」
「?」
私が微笑んだその時だった。
「────ウェンディ様!!」
バーンッと勢いよく部屋の扉が開く。
そして私の騎士────エリオットが飛び込んで来た。
「なっ!? なぜお前が!?」
入口に振り返り、エリオットの登場にギョッと驚くヨナス。
……シャランッ
(エリオット、待ってたわ────)
私は小さく笑って手の中にある鈴を揺らす。
────この音が聞こえたなら、俺はいつでもどこでもあなたの元に駆け付けましょう
エリオットのあの時の言葉が頭の中に響く。
「ふふふ、どう? 私の騎士はとても優秀でしょう───?」
「────!?」
シャランッ
この鈴の音一つで本当にどこからでも必ず駆け付けてくれるんだから。
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