【完結】婚約発表前日、貧乏国王女の私はお飾りの妃を求められていたと知りまして

Rohdea

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22. 大事な話

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 私の言葉にヨナスが口をハクハクさせて更に青ざめていく。

「ウ───……ウェンディ、王女」
「あらあらあら、嬉しいでしょう?  好みでもなくて可愛くもない王女の私と結婚せずに済むんですもの」
「……」

 まあ、愛しのナンシーにも去られちゃったけどね!
 ほっほっほ!  笑いが止まらない。

「慰謝料に関しましては、後でじっくりとお話しましょう?」
「……」

 ガタガタ震えるヨナスに向かって私は冷たく微笑む。

「ファネンデルト王国の陛下たちも交えてゆっくり、ね」
「───!!」

 “王女”との婚約が破談になっただけでなく、慰謝料まで求められる。

(ふふふ、これであなたはファネンデルト王国の後継者レースからは完全に外れる……)

 これこそが、私を貧乏国の王女と侮ってお飾りの妃にしようとしたあなたへの最大の“お礼”よ!!
 ほっほっほ、と笑いながらヨナスから離れて歩き出すと、まだぼんやりしているお兄様と目が合った。
 ガーネットお姉さまも言及していたけれど、この人は“親友”がこんな目に合っているというのにも関わらず、全く動けずぼんやりしているだけ。
 頼りないにも程がある。

「……この婚約のお話は、お兄様の口添えもあったんでしたっけ?」
「ウ、ウェンディ……」

 私はにこっと兄に向かって笑いかける。

「ありがとうございます、お兄様」
「……え?」

 ビクッと肩を震わせて怪訝そうに眉をひそめるお兄様。
 お礼を言われる意味が分からない……そんな顔をしていた。

「お兄様のおかげで、ファネンデルト王国は愚王が即位するという未来が無くなりましたわ!」
「…………え、ぐお、う?」
「ファネンデルトの国民も大喜びでしょうね!」

 それに比べて我が国は───……
 そう言ってやりたいけど、我が国にはガーネットお姉さまがいる。
 ガーネットお姉さまが王妃となるなら、お兄様こいつが無能でもなんとかなる!
 だから、下手に刺激して反抗心を抱かせて、お姉さまの手のひらの上でコロコロ転がってくれなくなってしまっては困るのよね。
 そう考え、これ以上は暴言を吐かずに口を噤んだ。

「……お、お前はこれから、どうするつもり、だ」
「はい?」
「お、王女が他国の王子と婚約破棄なんて醜聞だろう!?」
「……」
「ただでさえ、お前みたいなじゃじゃ馬王女……この先、誰が貰ってくれるというんだ!  嫁き遅れ確定じゃないかっ!」

 私は、ほっほっほ!  と笑う。

「それで結構よ」
「な、に?」
「だって、またそこのカスでん──んんっ、失礼。ヨナス殿下みたいな男と無理やり結婚させられずに済みますもの」
「ウェンディ……?」
「ほっほっほ!  いっそもっと醜聞まみれにしてくれてもよくってよ!」

 バーンッと私が胸を張るとお兄様は明らかに引いていた。

「そ、それで、どうやって生きていくつもり…………ひっ!?」

 私はジロリと睨んでお兄様を黙らせると、静かに微笑んでそのまま歩き出した。
 そしてエリオットの元に戻った。
 私とエリオットの目が合う。
 私はにっこり笑うとエリオットの腕を掴んだ。

「……ウェンディ、さま……?」
「さあ、お父様のところに話に行くわよ、エリオット!」

 そう言って私はエリオットをズルズル引きずり始める。
 グェッ!?  とエリオットが苦しそうな声を上げた。

「……は、話!?」
「城を出るって言ったでしょう?  話はさっさとしておくに限るわ!」
「い、いいい今ですか!?  うぐっ」
「ほっほっほ!  今、お父様の頭の中は混乱中。何が起きたのかよく分かってないうちに言質を取っておくのが最適なのよ!」
「…………あなたって人は」

 ズリズリズリ……

「なぁに?」
「…………いえ」

 そうして私は、大勢の注目を集めながらパーティー会場内でエリオットを引きずり回した。


─────


 そして翌日。
 慰謝料に関しては、ヨナス以外のファネンデルト王国側の人間も交えて話す必要があるため、ヨナスは一旦帰国することになった。
 …………のだけど。

「……」
「殿下?  顔がとても面白いことになっていますよ?」

 眉間に皺を寄せて考え込む私の顔をエリオットが覗き込む。

「っっ!!  そこは憂い顔って言いなさいよ!」
「はっはっは、失礼しました」
「はっはっは、じゃないわよ、全く……!」

 私が呆れるとエリオットは笑みを消して訊ねる。

「それで?  ヨナス殿下から何を慰謝料としてもらうかお悩みで?」
「……それもあるんだけど」
「ど?」

 エリオットが首を傾げる。

「カス───ヨナスが思っていたより大人しいのよ」
「大人しい?」
「パーティー会場ではナンシーに殴られたり婚約破棄したりと次から次へと混乱していたとは思うのだけど」

 私は足を組みかえる。

「冷静になったであろう後も───妙に大人しいの」

 ヨナスのことだからナンシーに会わせろとしつこく言ってくると思った。
 念の為、ナンシーにはガーネットお姉さまや侯爵家の者たちが護衛について守ってもらっているから心配はない。
 しかし、何だか気になった。

「足掻いても無駄だと悟って諦めただけでは?」
「そう───よね」

 私もそう思うことにする。
 それに今は……

(婚約破棄の手続きに、慰謝料請求、それからナンシーのこれからのことも考えないと)

 さっさと城を出たいけど、それはまだまだ先になりそうね、と肩を竦める。

「そういえば、エリオット。あなた大事な話があるって言ってなかった?」
「!」

 ガタッ
 珍しくエリオットが大きく動揺した。

「い、今、それを聞きます……?」
「ええ」
「えっと、俺はもうすぐ稽古の時間で」
「ああ、そうね。それならさっさと話しちゃって?  さあ、どうぞ?」
「……」

 私が促すとエリオットは思いっきり顔をしかめた。

「情緒……」
「何をごちゃごちゃ言ってるの?」
「……」

 エリオットは苦笑すると私の傍までやって来て目の前に跪いた。

「……?  エリオット?」

 そのままエリオットは私の手を取ると、手の甲にそっとキスを落とした。

(────!?!?)

 突然の行動に私は言葉を失い固まる。

「殿下────いえ、ウェンディ様」
「……」
「俺はあなたのことをお慕いしています」

 ドクンッと大きく私の心臓が跳ねた。
 目を見開いて固まる私にエリオットが優しく笑いかける。

「王女としてではなく、一人の女性としてあなたのことを愛しています」

(あ、ああああ愛!)

「……あなたの護衛騎士としてだけでなく、これからは一人の男としても見てもらいたいんです」

(おおおおお男!)

 完全に私の頭の中が混乱している。

「それでウェンディ様、実は俺……今、陛下に───」

 エリオットが更に何かを言いかけたその時、コンコンと部屋の扉がノックされた。

「ひっ!?  だ、誰!」
「あ……」

 勢いよくエリオットから離れて扉の入口に走って中から声をかける。

「────ウェンディ殿下、エルヴィス殿下がお呼びなのですが……」
「お!  おおおおお兄様が!?」
「はい、至急とのことで」
「そそそそそそう……わわ、分かった……わ」

 私は動揺しながらも承諾し扉を開ける。
 するとエリオットが慌ててすっ飛んで来て私を引き止めた。

「お待ちください、ウェンディ様!  まだ俺の話は終わっていません───……」
「エリオット……は、話はまた後で───ほら、お、お前も時間でしょう?  稽古に行きなさい!」
「えええ!?  ウェンディ様!?」

 とりあえず一旦エリオットから離れて、今告げられたことを冷静に考えたい。
 その一心でエリオットの背中をグイグイ押して部屋から追い出した。

「ちょっ、ウェンディ様!  後で……後で必ず続きを聞いてもらいますよ!?」
「っ!  わ、分かったからさっさと行きなさい!!」
「────約束です、約束ですからね!?」
「はいはい、約束!  ええ、約束!」

(~~~もうっ!)

 しぶしぶ去っていくエリオットの背中を私は睨みつける。

「えっと、ウェンディ殿下?  よろしいのですか?」

 迎えに来たメイドが不思議そうな目で私たちを見ていた。

「よ、よろしいのよ!!  そ、それよりお兄様はどこ!?  ささっさと行きまっすわよ!」
「は、はい……?」

 動揺しすぎて変な言葉を吐きながら私はお兄様の元に向かった。



 ────はずだった。



「ほっほっほ!  おかしいですわね?  私を呼び出したのは“お兄様”と聞いたんですけど?」
「……」
「いつからあなたは“エルヴィス”というお名前に改名されたのかしら?」
「ははは、僕が?  ────君の聞き間違いじゃないかな、ウェンディ王女」
「……」

 お兄様が待っていると聞かされた部屋に入ったところ、中で待っていたのはカス男その2であるお兄様ではなく……

(……謀ったわね!?  この、カス男!)

 カス男その1。
 これから帰国するはずのヨナス殿下だった。
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