【完結】飽きたからと捨てられていたはずの姉の元恋人を押し付けられたら、なぜか溺愛されています!

Rohdea

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第十五話

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  ──お姉様がそんな事を……?

  そう思った時、扉をコンコンとノックする音が聞こえた。


「話は終わった?  そろそろリラジエが足りないんだけど」

  ノックの音と共にジークフリート様が顔を出した。

「あらまぁ、お兄様。もう戻って来ましたの?  我慢が足りなくてよ?」
「いや、だってもう無理。これでも我慢したんだ!」

  そう言いながら、ジークフリート様が私の目の前まで来たと思ったらギュッと私を抱き締めた。
「ジ、ジークフリート様!?  ミディア様が見てますよ!!」
「気にしない」

  ミディア様の目など気にならないと言わんばかりに抱き締めてくる。
   恥ずかしいけれど、嬉しかったので私もそっと抱き締め返した。

「まぁ!  隙あらばイチャイチャしたいだけにしか見えませんわ!」
「当然だ!」
「即答ですわ……」

  ミディア様が呆れた目をジークフリート様に向ける。
  あぁ、本当に仲良し兄妹だわ。素敵ね!
  

 


「まぁ、ちょうど良いタイミングでしたから、良しとしますわ。今、ちょうどリラジエ様にをした所ですの」
「……え?  あぁ、あれか?  レラニアが言ってたという義理の姉妹がってやつか?」
「それですわ」

  ミディア様の言葉にジークフリート様が大きなため息を吐いた。
  そして、少し身体を離しながら私の目を真っ直ぐ見ながら言った。

「リラジエ」
「は、はい」
「はっきり言うよ。僕とレラニアがどうこうなる事は絶対に無い」
「ジークフリート様……」

  ジークフリート様が少し寂しそうに微笑みながら、私の頬にそっと手を触れる。

「だから、そんな不安そうな顔をしないで?」
「……私、そんな不安そうな顔をしていますか?」
「うん……どんな顔をしたリラジエも可愛いけど、どうせなら笑顔がいいな」
「ジークフリート様……」

  そんな事を言いながらジークフリート様がチュッと私の額にキスを落とす。

「でも、レラニアのその発言はお茶会の時の話ではあるけど、きっと今もその気持ちを抱いていると思うんだ」
「それって……」
「だから、僕はきっとレラニアは今も何か画策しているんじゃないかと思ってる」
「……!  もしかしてジークフリート様の婚約の打診が私に伝えられていないのは……」

  私が震える声でそう尋ねると、ジークフリート様が頷きながら言った。

「十中八九、話を進めないようにレラニアが止めてる……僕はそう思ってる」
「!」

  あぁ、ここに向かう時のジークフリート様が何かを気にしていた様子だったのはこの事だったのね?

「リラジエには不安にさせるだけだから、本当は確信が持てるまでは黙っておきたかったけど」
「そんなの嫌です!  私達……私とジークフリート様の事なんですから、1人で抱え込まれるのは嫌です!!  わ、私は頼りないし、出来る事なんて無いかもしれないですけど、そ、それでも……!」

  ジークフリート様はきっと私を傷付けたくなくて、守ろうとしてそう思ってくれたのかもしれないけれど、私は何も知らずにぬくぬくと守られているだけなのは嫌。

  こんな感情が生まれたことに自分自身でも驚いてしまった。

  (だって、ジークフリート様の事だけはお姉様の思い通りになんてさせたくない!)

  私が抗議すると、ジークフリート様はちょっと驚いた顔をしたけれどすぐ微笑んだ。

「ごめん、そうだよね。ついつい守りたくて隠そうとしてしまった」
「そのお気持ちは嬉しいですが何でも話して欲しいです」
「うん、ちゃんと話す事は大事だって学んだばっかりだったのにね」
「そうですよ!」
「はは、怒ってるリラジエも可愛い」

   ジークフリート様はそう言いながら今度は頬にキスを落とす。

「ま、また、そんな事を言って……あ、ほら、ミディア様が見て、ます!」
「いいんだよ、ミディアは気にしない。むしろ喜ぶさ」
「え!  あ、よろっ!?」

  何で!?

  そう言ってしばらくの間、ジークフリート様は私を堪能していた。

  ちなみに、そのすぐ側でミディア様が、

「甘々ですわぁ……あのお店の1番人気のタルトとケーキを一度に口の中に突っ込まれたような気分ですわね……!」

  と興奮していたのだけれど、当の私はジークフリート様に翻弄されすぎてちゃんと聞き取る事は出来なかった。










「あの、ミディア様……ごめんなさい、そのミディア様の前で……色々と」

  ようやくジークフリート様から解放された私は、ミディア様に申し訳なくなってしまい真っ赤な顔のまま謝った。

「いえ!!  美味しかったですわ!」
「へ?」

  ミディア様が何故か満面の笑みでそう答えた。

「タルトとケーキの上に更にたっぷりの蜂蜜がかかってるような甘さでしたけど、大変美味しかったですわ!  そしてご安心くださいませ。わたくし甘党なんですの!」
「は、あ……?」

  ミディア様はとても興奮しながら言う。

  ただでさえ、タルトとケーキは甘いのに蜂蜜をかけたら、かなりの甘さになるけれど……甘党ですむ話なのかしら……?  健康が心配。
  って、違うわ。そもそも何の話なの??

  私が首を傾げる横でジークフリート様が「ね?」と、苦笑いしていた。





◇◇◇




「大丈夫?  疲れていないかな?」
「大丈夫です」

  帰りの馬車の中、隣に座っているジークフリート様が心配そうに私の顔を覗き込む。

「ミディアはどうだった?」
「!  とっても楽しい方でした!  なのに可愛くて。私、大好きになりました!!」

  私が興奮しながらそう口にすると、ジークフリート様がちょっと驚いていた。

「可愛いか……?  いや、どう考えても可愛いのはリラジエの方だろう……??」
「もう!  分からないのは兄妹だからですかね!?  ミディア様はとっても可愛いですよ!」
「……うーん?  まぁ、仲良くなれたなら良かったよ」

  ジークフリート様は笑いながらそう言った。

「ところで、本当は私の為……ですか?」
「ん?」
「ミディア様は何かあれば力になる、そう言ってくださいました。そして今度、マディーナ様ともお会いする機会をくれるそうです」
「ミディアが?」



  ──そう。
  ミディア様は、何かあれば頼ってと言った後、更にこう言ってくれた。

『マディーナ様や、他の令嬢とも会える時間を作りますわ。リラジエ様は今まで表に出てこなかったから、レラニア様の妹という印象が強いですからね。デビューの前までにレラニア様とは違うという所をたくさん見せつけておきましょう!』

  お姉様に対して反感を持っている令嬢は多い。
  今の私は“毒薔薇の妹”そんな名前だけが独り歩きしていると、ミディア様は語った。

『リラジエ様を知ってもらえれば、皆、レラニア様と違う事は分かりますもの。だから公の場でレラニア様が何か言って来たとしても心強いでしょう?』


  嬉しかった。
  マディーナ様を始め、他の令嬢の方々……しかもお姉様に反感を持っている人達と会うのは少し怖い気持ちもあるけれど、ミディア様の言うように私の力になってくれるのなら、こんなに心強い事は無い。

  (特にお姉様は何を考えているか分からないから……)
  

「確かにミディア様も私に会いたいと言ってくださったみたいですが、本当はジークフリート様が……」
「リラジエ」

  その続きは言えなかった。

「…………んっ! 」

  ジークフリート様からのキスで唇を塞がれてしまったから。
  さすがに私でも分かるわ!
  これ、絶対誤魔化して来た!!

  そう抗議したかったけれど、ドロドロに甘やかされてそれ所では無くなってしまった……
  ジークフリート様、ずるい人!!






  ようやく満足したのか、唇を離してくれたジークフリート様が口を開く。


「リラジエは大丈夫。マディーナ嬢にも他の令嬢にも気に入られるよ」
「……むぅ。何を根拠に……」
「素直で真っ直ぐで……こんなに可愛いからね。君はいつだって僕の癒しなんだよ」
「!!」

  ジークフリート様が甘くて蕩けそうな瞳でそんな事を言ったせいで、私の心臓のドキドキはいつまでたってもなりやんではくれなかった。

  多分これだけはいつまでたっても慣れないと思う。



◇◇◇



「デートにでも行って来たのかしら?」
「……お姉様」

  屋敷に帰るなりお姉様と出くわした。

  (まるで帰ってくるのを待ってたかのようなタイミング……)

「ねぇ、リラジエ。ジーク様って本当にあなたの事が好きなのかしら?」
「…………何が言いたいのですか?」
「だって、訪ねてくる度に持ってくるのは花一輪だけって何それ。今だって何か買って貰ってる様子も無いじゃない?」
「……」

  お姉様には分からないんだわ。
  ジークフリート様はお花一輪にも、たくさんの想いを込めてくれている。

  私の事を考えて考えて、その中で選んでくれた贈り物なのに。

「物が全てでは無いですから。気持ちの方が大事です」
「はぁ?  リラジエのくせに生意気な事を言うのね!  あんたなんかが愛されるわけないでしょう!?」

  お姉様は、私を小馬鹿にしたように笑いながら言った。

「私はジークフリート様に愛されてます!!  ジークフリート様が愛してるのは私で、お姉様では無いわ!!」
「ふんっ!  そんな事を言っていられるのも今のうちよ!」
「……」
「アンタにとっておきのプレゼントを用意しているわ」
「プレゼント……?」

  嫌な予感しかしない。
  お姉様は、ちょっと怯んだ私を見てほくそ笑む。

「リラジエ、あなたはきっと泣いて喜ぶはずよ。だから楽しみにしていてね?」


  全然楽しみと思えない発言だけ残してお姉様は部屋に戻って行った。



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