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レラニアの焦り (毒薔薇視点)
しおりを挟む「何が、『私はジークフリート様に愛されてます!』よ! ふざけんじゃないわよ! リラジエのくせに!」
どうして私が愛されなくてあの子が愛されるのよ。
そんな事あるわけないのに。
「リラジエもバカな子。花一輪であんなに喜んで」
貰うならドレスとか宝石でしょうに。
やっぱりリラジエにはジーク様のお相手なんて無理だったのよ。
「これで愛されてる思うとか……単純よねぇ」
どうせ、花なんてジーク様が義理で贈っているにすぎないのに。
そこで、ふと思い出す。
「そう言えば、最初にジーク様が話しかけて来た時に聞かれた、あの珍しく純粋だったあの男……名前なんだったかしら? にはたくさん貢がせたわねぇ……」
ま、それだけの男だったけどね!
「……けど、ジーク様はあれからあの男の事は何も言わないけど結局何だったのかしらね。んー……まぁ、いっか!」
ちょっとだけ気になったけど、考える事をやめた。
過去に捨てた男の事なんてどうでもいいもの。
「そんな事よりも、今は計画の方よ!」
そう言いながらグレイルからの手紙を読む。
「地味で平凡な男だけど、随分と図々しくなったようね……少しは面白みのある男になったのかしら?」
グレイルには、『リラジエがどうしてもグレイルの事が忘れられなくてあなたとじゃなきゃ結婚しないと言っている。リラジエと結婚してアボット伯爵家を継いで欲しい』
と、手紙には書いた。
「爵位目当てで簡単に乗ってきたわ。本当に単純ね」
そこまで言うのなら仕方ないけどリラジエでもいい──
そんな気持ちがグレイルの文面からは溢れている。
「ふふ、2人が結婚した後にでも再びグレイルを誘惑してみようかしら? そうしたら、リラジエはどんな顔をするかしらね~」
今のリラジエはジーク様の事が好きなのだろうから、初恋とはいえ、好きでもなんでもないであろう男に無理やり嫁がされて、幸せになるどころか、裏切られる……ふふふ、想像するだけでも楽しいわね。
リラジエが幸せになるなんて腹が立つもの。やっぱりこれくらいはしないとね!
だけど。
「リラジエの婚約の方は、向こうのご両親も賛成だから難なく結べそうなのに……ジーク様の侯爵家の方がどう考えても一筋縄ではいかないのよね……」
リラジエの名前でジーク様が婚約の打診をしている以上、代わりに姉の私を! と要求したところで通るはずが無い。そんな事は分かっているわ。
(あんな嘘に騙されるのはお父様くらいよ)
だから、ジーク様からのリラジエへの婚約の打診を断る為には、早々にリラジエとグレイルの婚約を整わせないといけない。そうなれば向こうもリラジエを諦めざるを得ないから。
その空いた穴に入り込むのが私なのよ。
「ジーク様には、私の方が相応しいのだから当然の結果よ」
◇◇◇
どうしたのかしら?
最近、リラジエが外に出る事が増えた。
ジーク様とのデートなのかと思えば、それだけでも無さそう。
(まさか、友人でも出来た……?)
いや、まさかね。
あんなつまらない子であるリラジエに友人なんて出来るはずがないわ。
だけど、楽しそうに笑っているリラジエを見るとイライラするのも確か。
以前はあんなに笑っていなかった。
いつも、私の顔色を窺ってばかりだったのに!
「たまに口答えもするようになったし、本当に生意気になったわね……」
楽しそうな顔をして今日も出かけるリラジエを見ながら私はそう呟いた。
チクリ。
何故かは分からないけれど、湧き上がってくる不安に気付かないふりをして。
そんな事が続いていたある日の夜──
「レラニアちょっといいかい?」
「なぁに? お父様」
お父様がちょっと深刻な顔をして私の部屋を訪ねて来た。
「この間、レラニアがジークフリート殿の婚約の話は間違ってリラジエに来たものだと言っただろう?」
「えぇ、言いましたわ」
何? ちょっと。まさか嘘がバレた?
やめてよね……
「実は今日、久しぶりに登城した際にフェルスター侯爵家の当主に偶然会ったんだが」
「え!」
お父様……何で登城しちゃってんのよ!?
いつものように屋敷で大人しくしていなさいよっ!
だけど、まさかまさか……と嫌な汗が流れる。
「そ、それで? ジ、ジークのお父様は……何か仰ってた……のかしら?」
「いや。ただ、『息子は毎日毎日恥ずかしげもなく、お嬢さんの事を可愛い可愛いと惚気けている。最近は娘にも付き合ってくれて一緒に出かけているとも聞く。娘もお嬢さんの事を可愛いと気に入っているんだ。どうやら関係は良好のようなので、いい返事を期待してるよ』と、言われたのだが……」
「!!」
ジーク様が惚気!?
嘘でしょ??
どんな顔で惚気けてるのよ……!!
全然、結び付かないわよ!?
いえ、それよりも、どうして義理でしてやってるはずの交際に惚気ける必要があるのよ……!
意味が分からないわ!!
これは…………お父様、聞き間違えたのではないかしら。
そうよ、そうに違いない。
けれど、それに侯爵家の娘って、ジーク様の妹の事よね?
あのお茶会で会った……
そうよ……あのジーク様の妹。ミディアとか言ったかしら?
ジーク様とよく似た容姿の彼女はあの時、
『私達は将来、義理の姉妹になるのだから、あなたとはぜひ仲良くしたいわね』と言ってあげた私に対してニッコリ笑いながら……
『遠慮させていただきますわ。あなたが義姉になる事は絶対にありえませんもの』
って言ったのよ!!
絶対にありえないですって!?
どういうつもりよ!! あぁ、今、思い出しても腹が立つわ。
──って、そうでは無いわ。今、大事なのはお父様の話よ。
「そ、それが何か問題でもあるかしら……?」
「いや、どうも何か違和感があるんだよ。うまく言えないのだが」
「……(チッ)」
お父様ってば、ここに来て疑い出したという事?
単純なままでいてくれればいいのに……
「なぁ、レラニア。もしかしたらジークフリート殿の求婚は間違いなどではなく本当にリラジエを……」
「違いますわ! お父様!! 私よ、ジークが望んでるのは、わ・た・し!」
「……そうか?」
「そうよ、そうなのよ! だから、まずは早くグレイルとリラジエの婚約の準備を整えてしまいましょう、ね? そうすれば全てすっきりすると思うわ」
「うむ……」
冗談じゃないわよ!
お父様! お願いだから余計な事は考えないで頂戴!!
──内心で焦っていた私は、 部屋を出ていくお父様が小さな声で呟いていた事を知らない。
「だがなぁ……ルミアがそうだったが、“社交界の薔薇”は可愛いよりも綺麗だとまず言われるはずなんだがなぁ……ジークフリート殿の望んでる相手は本当にレラニアなのか……?」
───と。
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