【完結】飽きたからと捨てられていたはずの姉の元恋人を押し付けられたら、なぜか溺愛されています!

Rohdea

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第十六話

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  それからのミディア様は、本当に私をマディーナ様を始め、他の令嬢の方々に引き合わせてくれた。

「毒薔薇の……妹ですって!?」
「ちょっとミディア様!  何でそんな子を連れて来たの!」

  ……やっぱり風当たりは強いのね……

「いえいえ、皆様。こちらのリラジエ様は、毒薔薇様とは似ても似つかないほど可愛らしい方なのですわ!!」
「えぇ?」
「でもねぇ……」

  ミディア様はそう言ってくださるけど、やはり皆様の私を見る目は厳しい。そう思ったのだけど、ミディア様は私を見るとニッコリ笑いながら続けた。

「何より、わたくしのお兄様が毎日、可愛い可愛いと溺愛しておりますのよ!!」

  ビシッ

  ミディア様のその言葉で何故か部屋の空気が固まった。
  そして、呆然としている方が多いのは何故なの?

「ちょっと……え?  溺愛?  ジークフリート様が?」
「嘘でしょう?」
「想像がつかないわ」
「あの方って基本、冷たいわよね?」

  ……?  どうしてそんなに驚かれるの?  冷たい?  ジークフリート様が??
  そんな事ないわ。きっと皆様は誤解している!
  そう思った私は慌てて口を開く。

「あ、あの!  ジークフリート様は冷たくなんかありません!  とっても優しいのです!  ちょっと困ってしまうくらい私に、あ……甘すぎる時もありますが!  で、ですから……」

  うーん。頑張ってジークフリート様のいい所を伝えたいのだけど難しいわ。

  私は真っ赤になりながらも、懸命にジークフリート様が如何に優しいかを伝える。
  だってジークフリート様は冷たくなんてないもの!

  しーん……

  必死で、伝えたのに何故か部屋の中が静まり返ってしまった。

「ミ、ミディア様……私、おかしな事を言ってしまいましたか?」

  ジークフリート様がますます誤解されたらどうしたらいいの!?
  私が泣きそうな顔でミディア様に助けを求めると、当のミディア様はプルプルと震えていた。

「!」

  やっぱり私は余計な事を言ってしまったの?

「ハッ……ち、違いますわ!  そのあまりにもお兄様の事を語る一生懸命なお姿があまりにも可愛らしくて悶えていただけですの!」
「悶え?」
「お兄様の惚気も凄いですけれど、まさかのリラジエ様からの惚気も負けず劣らずとは思いもしませんでした。お兄様が知ったら卒倒しますわよ!  まぁ、悔しいので教えてはあげませんけどね!」

  ミディア様がホホホと笑って言う。

  えっと、とりあえず、ジークフリート様の迷惑にはなっていない……?
  私がキョロキョロと部屋中を見回すと、何故か他の令嬢の方々もミディア様同様プルプルと震えていた。
  マディーナ様に至っては何故か爆笑していた。

  だから、何で!?







  そんなわけで、最初こそ苦々しい目で見ていた方達は何故か優しくなり、むしろ今はあれやこれやと構ってくれる。
  社交界での立ち居振る舞い、言葉遣い、マナー……それはどれも私の知らない事ばかりで、勉強になるし何より色んな方と触れ合える事が楽しかった。

「ジークフリート様ったら、こんな可愛い子をどこで見つけたのかしら?」
「ねぇ、連れて帰りたい!  毒薔薇じゃなくて私の妹にしたい!」
「駄目ですわ!  リラジエ様はわたくしの義姉になるんですから!」

  謎のお姉様方の会話にミディア様までもが加わってそんな事を言っていた。
  どうしてこんなに可愛がられるのかは正直よく分からないけれど、擽ったくも嬉しい気持ちでいっぱいになる。
 
  (嬉しい……)

  ジークフリート様がくれるたくさんの愛情とそこから繋がり知り合った人達との関係は確実に私の気持ちを変えていった。

  ……だからもう、私は自分の事を “私なんか” とは決して思わないし言わない!
  そう決めた。









「リラジエ、雰囲気が変わった?」
「そうですか?」

  その日、いつものようにデートの為に迎えに来たジークフリート様が何か眩しいものでも見るかのような顔をしながら言った。

「お化粧も髪型もいつもと同じですよ?」

  私はくるりと一周回ってみる。うん、いつもと変わらないわ。

「あはは!  んー、そういう事じゃないんだなー」
「?」
「これは、ミディアや他の令嬢達のおかげなんだろうなぁ……眩しすぎる」

  はぁ、とジークフリート様が私を抱き締め、額にキスを落とす。

「……ん。どうして、ため息をつくのですか?」
「リラジエが可愛いすぎるから。元々可愛かったのに最近は、ますますその可愛さに磨きがかかって、僕はもう気が気でない」

  ──早く僕のリラジエだと皆に知らしめたいのにな。

  ジークフリート様が私のあちこちにキスをしながら最後に耳元で残念そうに囁いた。

「ひゃっ!」

  耳元で囁くのは私の精神衛生上、よくないと思います!
  と、私が無言のまま目で訴えたら、「ほらやっぱり可愛い」と再び愛でられた。

  何で!?

「それで、伯爵からは結局話は無いまま?」
「あ、それが……」

  実は数日前から、お父様は何か私に言いたそう、もしくは何かを聞きたそうな顔をしてチラチラと私の様子を窺っていた。
  これは……もしかして!
  そう思ったので私は何か話があるの?  と、お父様に尋ねようとしたのだけれど……

「レラニアの邪魔が入ったのか……」
「そうなのです……それも毎回」
「あの女……!」

  ジークフリート様が頭を抱えた。



  結局、お父様からジークフリート様からの婚約の打診の話は聞けないままだった。
  





  ───そして、様々な不安を抱えながらも、ついに私の社交界デビューの日がやって来た。






  私は緊張していた。
  パーティーより何より……お姉様の動向に。

  (楽しみね、と口にしていたお姉様……今日を黙って見ているはずがない)


  ドレスに着替えて、ジークフリート様が先日くれたイヤリングとネックレスをつける。
  
  (どちらも、ジークフリート様の瞳の色……)

  贈り物はお花が定番のジークフリート様だったけど、今回だけは……と言って先日のデートの際に贈ってくれた。

「求婚しているだけで、公に婚約者だと名乗れない分、せめてこういった形でリラジエは僕のだと牽制しておきたい」

  そんな事を言われて断れるはずが無いわ。
  それに好きな人の瞳の色を纏っているとずっとそばに居てくれているみたいな気持ちになれる。

  私がそんな事を思って一人でふふふ、と笑っていると、
  突然、バタンッとノックも無しに私の部屋の扉が開けられた。

「!」

  ……振り向かなくても分かる。こんな事をするのはお姉様だ。お姉様しかいない。
  そして、相変わらずノックという概念は無いらしい。

「あーら、リラジエ。まだ、のろのろと準備をしていたの?  早くしないとジーク様が迎えに来てしまうのではなくて?」
「……」
「なぁに?  その反抗的な目!  私は注意してあげてるだけなのに。本当に最近のアンタは生意気ね」
「なんのご用ですか?  お姉様」

  お姉様の嫌味にいちいち反応しても仕方が無いので、先を促す事にした。

「何ってアンタにも会わせてあげようと思って。今、我が家に来ているのよ」

  お姉様がニッコリ笑って言う。

「久しぶり?  ……誰の事ですか?」

  怪訝そうな私の表情を見てお姉様はニヤリと笑う。

「グレイルよ」
「は?」
「だから、グレイル。帰って来たのよ。わざわざ挨拶の為に我が家に寄ってくれたんですって。律儀よね~」

  グレイル?  帰って来ていたの?  だけど何で今さら我が家に挨拶を……?

  あの日、お姉様に振られ、それを私のせいだと勘違いし暴言を吐いたグレイルは、そのすぐ後に隣国に留学していた。
  たびたび、帰国はしていたらしいけど、これまで我が家に顔を出す事なんて無かったのに。どうして今日?

「幼馴染なのだから別に我が家に顔を出しても不思議でも無いでしょう?」

  お姉様はそう言って笑うけど、私の本能が「嘘だ」と告げている。
  これは、絶対に何か企んでいる。

「まさかせっかく、わざわざ寄ってくれたのに挨拶しないつもり?」
「そんな事は……」

  でも本音は行きたくない。顔も見たいとは思わない……
  そう思って動けずにいたら、



「へぇ、もしかして……リラジエ?」

  お姉様の後ろから、ある意味懐かしく……あまり聞きたくない声が聞こえた。

「まぁ、グレイル!  下で待っててと言ったじゃないの」

  お姉様が弾んだ声を出す。

「いや、リラジエを呼んでくると言ったきり、なかなか戻って来ないからさ。それより……」

  そこで言葉を切ったグレイルが私の方を見る。
  何だかその視線がねっとりしたもので嫌な気持ちになる。

「へぇ、レラニアには遠く及ばないけどなかなか良い女になったじゃん……これならそれなりに楽しめそうかな」
「そう?  私には相変わらず野暮ったい、つまらない妹よ」
「まぁまぁ、そう言うなよ」
  
  ゾクッとした。
  ……2人はいったい何の会話をしているの?

「なぁ、リラジエ。今日は社交界デビューなんだろ?  おめでとう」
「あ、ありがとう……」

  グレイルの顔がまともに見れない。
  それは、顔を合わすのがあの日以来だからか、それとも何だか絡みつく視線のせいなのか……

「今日のリラジエのエスコートはフェルスター侯爵家のジークフリート様だと聞いたけど?」
「え、えぇ……」
「もうちょっと早く帰れていれば俺の役目だったのに残念だ」
「……え?」

  グレイルは何を言って……?

「まぁ、いい。帰ってきたばかりだけど今日のパーティーには俺も参加出来るんだ。だから、また後で会場で会おうな」
「……」

  いえ、会いたくないです。

  本音はそう言いたかったけれど、さすがにそんな事は口に出来ずにいたら、

「まぁ、リラジエったら嬉しすぎて固まっちゃってるのね!」

  と、お姉様がわざとらしい声をあげた。
  グレイルはそれを満更でもない顔をして聞いていた。

「それじゃ、グレイル。
「あぁ、分かってるよ。じゃあまた後でな、リラジエ」

  そう言ってグレイルはあっさり帰って行く。本当に挨拶だけだったみたいだ。
  その事に安堵するも、

  ──どうしてかしら?
  とってもとっても嫌な予感がするの。

  (ジークフリート様……)

  言葉に出来ない不安を抱えながら、私は愛しい人の迎えを待った。

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