【完結】飽きたからと捨てられていたはずの姉の元恋人を押し付けられたら、なぜか溺愛されています!

Rohdea

文字の大きさ
21 / 28

君を好きになった日 (ジークフリート視点)

しおりを挟む


  アボット伯爵家の屋敷に着いて、ちょうど馬車から降りた時、屋敷の入口から一人の男が出て行くのが見えた。

「……あいつは」

  僕はを知っている。
  いや、別に僕の知り合いでも友人なわけではない。
  でも、僕はあの男を知っている。


 
  グレイル・オッフェン。
  オッフェン子爵家の令息。

  

  ……リラジエがあの初デートの日に思い出して顔を曇らせた“実らなかった初恋の相手”
  過去の事だと分かっていても醜い嫉妬心が生まれてくる。

  今のリラジエは嬉しい事に僕の事を好きでいてくれている。
  あの可愛い笑顔で「大好きです!」なんて言われるともう何でも出来る気がする。
  それくらい、リラジエは可愛い! 
  リラジエの顔を思い浮かべるだけでも、今すぐ僕の腕の中に閉じ込めてしまいたい気持ちになる。




   ──そんな僕がリラジエに一目惚れしたのは、皮肉にもあの男、グレイル・オッフェンとリラジエの会話をたまたま目にしたからだった。



───────……




『リラジエ!  聞いてくれよ!』
『グレイル?  どうしたの?』

  通りがかった際に、たまたま聞こえて来た男女の会話。
  男の方はとても嬉しそうでかなり興奮している様子だった。

『俺さ、レラニアと付き合う事になったんだ!!』
『…………え?』
『もう信じられなくてさぁ~夢みたいだ』

  そう言われた女性はその瞬間、顔色を変えた。
  亜麻色の髪のちょっと幼さの残る可愛らしい子だった。

『えっと、グレイル……はお姉様の事が好きだったの……?』

  どうやら男の方はこの女性の姉と恋人になったらしい。

  (……両思いの姉とその男に挟まれ切ない片想いでもしていたのだろうか?  可哀想に)

  そう思ったのだが、男の方が妙な事を言い出した。

『いや、好きは好きだけど、あのレラニアに「ずっとあなたの事が好きだったの」なんて言われたらさぁ……』
『!?』

  その言葉を受けて、彼女の顔色はますます酷いものになった。
  なのに、目の前の男はその事に全く気付かない。それだけ浮かれているんだろう。

  だが、何だ?  この男の発言は。
  これだと、別にこの女性の姉の事を好きだったわけではなさそうな口振りじゃないか!
  無性に目の前の男の無神経さに腹が立った。


『そ、そうなのね?  おめでとうグレイル。お姉様と幸せに……なってね?』

  彼女は今にも泣き出しそうな顔に懸命に笑顔を作って、目の前の無神経男に祝福の言葉をかけていた。
  その何とも言えない、いじらしさに何故か僕の胸が締め付けられた。

『うん、ありがとう!』

   無神経男は最後まで彼女の様子に気付く事もなく惚気けるだけ惚気けて去って行く。


  ──なんて事だ。とんでもない場面に遭遇し、しかも一部始終聞いてしまった……
  そんな申し訳ない思いでいると、残されていた彼女が小さな声で呟いた。
  
『いいのよ……お姉様とグレイルが幸せなら……それでいいの』

  彼女は自分に言い聞かすように呟いていた。

『どうか2人が幸せになりますように……』

  泣きたい気持ちを懸命に押し殺して姉と好きだった男の幸せを願う彼女。
  そんな彼女に無性に心惹かれた。

  そんな悲しい顔をしないでくれ。
  君は笑ったら絶対に可愛いと思うんだよ。

  黙って影から覗き見ていた僕は心の中でそんな事を思った。








  ──彼女はどこの誰だったんだろう??

  “リラジエ”と呼ばれていた。姉の名はレラニアだったか?
  その名前を頼りに調べれば辿り着くのは簡単だった。

「アボット伯爵家か……」

  確か、噂で聞いた事があるな。アボット伯爵家の長女はかつて社交界の薔薇と呼ばれた母親の美貌を受け継いでいるかなりの美人だ、と。
  あの無神経男が言ってたのはこういう事か、と納得はした。
  そんな美人に告白されて舞い上がった結果なのだろう。
  だが、納得はしたが、あの無神経さは許せるものではない。


  (あの時の彼女の顔色は相当酷かったんだからな)



「社交界の薔薇……ね。僕は薔薇よりも可愛い花が好きだな……」



  どうにかしてリラジエ嬢とお近付きになりたかったが、社交界デビュー前の彼女とは出会う事が出来ない。そもそも、あまり外に出てこないみたいだ。
  まぁ、僕も人の事は言えないが。


  だけど、もう一度会いたいな。言葉を交わしてみたいな……
  何より笑顔が見たい!
   だって、笑ったら絶対に可愛いと思うんだ。


  そんな想いを募らせたけど、残念ながらそんな機会が訪れる事はなく時間だけが虚しく過ぎていった。


  そんなある日、友人のミカリオが交際していた女性にこっ酷く捨てられたという話を耳にした。


  (少し前に、恋人が出来たのだと喜んでいたのだが……何があったんだ?)


  慌ててミカリオに会いに行ったら……そこには、自分の知っていた真摯で真面目な彼の姿は無かった。
  その女性に相当惚れ込んでいたらしいミカリオはせっせとその女性に贈り物をし、かなり貢いでいたようで、親に隠れて借金までしていた。
  ついにどうにもならなくなった所で、恋人にあっさり用済みだと捨てられたらしい。

  借金は伯爵がどうにかしたようだが、そのせいでミカリオは伯爵家の跡継ぎからは外されてしまっていた。

  (どこの女性だ……?  誰がミカリオをこんなにしたんだ!?)

  ミカリオの身に起きていた事を何も知らなかった自分にも腹が立ったが、相手の女性の事も許せなかった。
  そもそもミカリオはあまり恋人の詳しい事は話してくれていなかったから、僕は調べる事にした。

  そうして入手した情報は、ミカリオの恋人だった女は“社交界の毒薔薇”と呼ばれていると言う。

  (すごい通り名だな。明らかに陥れられてるぞ?  本人は嫌ではないのか??)

  そんな社交界の毒薔薇について調べていて気付いた。

「レラニア……アボット?」

  アボット伯爵家……あの彼女……リラジエ嬢の姉じゃないか!!
  ん?  待てよ。
  レラニア嬢がミカリオを弄んで捨てた女?  
  ……もしそうなら、あの日彼女を傷付けていた、グレイルとかいう無神経男ともとっくに関係が終わっているのでは?

  無性に腹が立った。
  リラジエ嬢は、あの日涙を押し殺してまで2人の幸せを願っていたのに!

  とりあえず、本当にミカリオを捨てたのがレラニア・アボットなのか確かめよう。

  (正直、関わりたくない人種だが仕方ない……)

  そう思って僕はレラニア嬢に接触をはかった。

  ちなみに、その時リラジエ嬢の事をついでに聞いたのは、念の為、あの時の彼女がリラジエ嬢で間違いないかの確信を得るためだ。
 

  そして、毒薔薇──レラニア嬢はミカリオとの交際は認めたが、どうもうろ覚えだったようで。

  (男を取っかえ引っ変えしてるとの噂だったが……噂では無く本当だったという事か)

  僕はとても冷ややかな気持ちでレラニア嬢を見ていた。




  その後のレラニア嬢は、明らかに僕に狙いを定めてきた。
  失敗したな……
  毒薔薇に近付く男達はどうやら、爵位が低い者が多かったらしい。

  (それもそうだよな。それも明らかに遊び目的だしな……何でミカリオは引っかかったんだ!)

  どんなに美人だと言われても、微塵も心が動かない。
  うっとおしいから近付くな!   名前で呼ぶな!!
  そう言ってやりたい気持ちは常にあったが、僕がそれを言わなかったのは……

「リラジエ嬢……」

  レラニア嬢から、何かしらの繋がりを経てリラジエ嬢との関わりが持てるかもしれない。ただ、その思い故だった。


  ──まぁ、実際こうして、本当にリラジエとの繋がりを得たわけだけど、それがまさかレラニアが自分を“元恋人”だと紹介していたとは夢にも思わなかったが。
  あぁ、これは思い出すだけで腹が立ってくる!



  
─────……



「リラジエ?」
「ジークフリート様……!」

  僕の姿を見るなり、リラジエが脇目も振らず抱き着いてきた。

「リ、リラジエ!?」

  ……リラジエの様子がちょっと変だ。震えている?
  社交界デビューに緊張しているのだろうか?


  ついにデビューの日を迎えたリラジエ。
  結局、伯爵は僕からの婚約打診の話をリラジエに話さなかったようだが、さすがに今日を迎えれば話をせざるを得ないだろう。

  (これは、もうアレだな。多少強引な手を使っても我が家に攫うしかないな)

  ミディアは絶対に(泣いて)喜ぶだろう。目に浮かぶ。
  ……それよりミディアのやつ、リラジエの事を好き過ぎると思うんだよ。
  可愛いのは分かるけど!

  両親だって反対はしないはずだ。
  特に母上は性格がミディアに似てるから間違いなくリラジエを気に入る。
  最近は惚気けすぎたせいか、早く会わせろと言われているし。


  (だが、レラニアをこのまま放置するわけにもいかない)



   僕はリラジエを抱き締めながら、これからすべき事を考えた。
  
しおりを挟む
感想 217

あなたにおすすめの小説

「妹の方が可愛い」と不倫夫に捨てられた私。どうぞ借金まみれの実家ごと引き取って。私が肩代わりしていた負債、すべてお二人に引き継いでおきました

唯崎りいち
恋愛
「お前より妹の方が可愛い」 不倫した夫は私を追い出し、略奪した妹と笑った。 どうぞ、その「可愛い妹」と地獄までお幸せに。 私が肩代わりしていた実家と店の多額の借金、すべてお二人に引き継いでおきましたから。 「財布」を失った元夫と、逃げ場を失った妹。 身の丈に合わない贅沢を望んだ寄生虫たちの、惨めな末路を特等席で眺めさせていただきます。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

【完】出来損ない令嬢は、双子の娘を持つ公爵様と契約結婚する~いつの間にか公爵様と7歳のかわいい双子たちに、めいっぱい溺愛されていました~

夏芽空
恋愛
子爵令嬢のエレナは、常に優秀な妹と比較され家族からひどい扱いを受けてきた。 しかし彼女は7歳の双子の娘を持つ公爵――ジオルトと契約結婚したことで、最低な家族の元を離れることができた。 しかも、条件は最高。公の場で妻を演じる以外は自由に過ごしていい上に、さらには給料までも出してくてれるという。 夢のような生活を手に入れた――と、思ったのもつかの間。 いきなり事件が発生してしまう。 結婚したその翌日に、双子の姉が令嬢教育の教育係をやめさせてしまった。 しかもジオルトは仕事で出かけていて、帰ってくるのはなんと一週間後だ。 (こうなったら、私がなんとかするしかないわ!) 腹をくくったエレナは、おもいきった行動を起こす。 それがきっかけとなり、ちょっと癖のある美少女双子義娘と、彼女たちよりもさらに癖の強いジオルトとの距離が縮まっていくのだった――。

厄介払いされてしまいました

たくわん
恋愛
侯爵家の次女エリアーナは、美人の姉ロザリンドと比べられ続け、十八年間冷遇されてきた。 十八歳の誕生日、父から告げられたのは「辺境の老伯爵に嫁げ」という厄介払いの命令。 しかし、絶望しながらも辺境へ向かったエリアーナを待っていたのは――。

ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。

光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。 昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。 逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。 でも、私は不幸じゃなかった。 私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。 彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。 私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー 例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。 「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」 「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」 夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。 カインも結局、私を裏切るのね。 エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。 それなら、もういいわ。全部、要らない。 絶対に許さないわ。 私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー! 覚悟していてね? 私は、絶対に貴方達を許さないから。 「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。 私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。 ざまぁみろ」 不定期更新。 この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

『姉に全部奪われた私、今度は自分の幸せを選びます ~姉の栄光を支える嘘を、私は一枚ずつ剥がす~』

六角
恋愛
復讐はしない。——ただ「嘘」を回収する。 礼儀と帳簿で宮廷の偽りを詰ませる“監査官令嬢”の華麗なる逆転劇。 王家献上宝飾の紛失事件で濡れ衣を着せられ、家族にも婚約者にも捨てられて追放された子爵家次女リリア。  数年後、彼女は王妃直属の「臨時監査官」として、再び宮廷の土を踏む。  そこで待っていたのは、「慈愛の聖女」として崇められる姉セシリアと、彼女に心酔する愚かな貴族たち。しかし、姉の栄光の裏には、横領、洗脳、そして国を揺るがす「偽造魔石」の陰謀が隠されていた。  「復讐? いいえ、これは正当な監査です」  リリアは感情に流されず、帳簿と証拠、そして真実を映す「プリズム」を武器に、姉が築き上げた嘘の城を一枚ずつ剥がしていく。  孤立無援の彼女を支えるのは、氷のように冷徹な宰相補佐レオンハルトと、豪快な近衛騎士団長カミュ。  やがてリリアは、国中を巻き込んだ姉の洗脳計画を打ち砕き、自分自身の幸せと、不器用な宰相補佐からの溺愛を手に入れる——。

可愛い妹を母は溺愛して、私のことを嫌っていたはずなのに王太子と婚約が決まった途端、その溺愛が私に向くとは思いませんでした

珠宮さくら
恋愛
ステファニア・サンマルティーニは、伯爵家に生まれたが、実母が妹の方だけをひたすら可愛いと溺愛していた。 それが当たり前となった伯爵家で、ステファニアは必死になって妹と遊ぼうとしたが、母はそのたび、おかしなことを言うばかりだった。 そんなことがいつまで続くのかと思っていたのだが、王太子と婚約した途端、一変するとは思いもしなかった。

【完結】【番外編追加】お迎えに来てくれた当日にいなくなったお姉様の代わりに嫁ぎます!

まりぃべる
恋愛
私、アリーシャ。 お姉様は、隣国の大国に輿入れ予定でした。 それは、二年前から決まり、準備を着々としてきた。 和平の象徴として、その意味を理解されていたと思っていたのに。 『私、レナードと生活するわ。あとはお願いね!』 そんな置き手紙だけを残して、姉は消えた。 そんな…! ☆★ 書き終わってますので、随時更新していきます。全35話です。 国の名前など、有名な名前(単語)だったと後から気付いたのですが、素敵な響きですのでそのまま使います。現実世界とは全く関係ありません。いつも思いつきで名前を決めてしまいますので…。 読んでいただけたら嬉しいです。

処理中です...