【完結】飽きたからと捨てられていたはずの姉の元恋人を押し付けられたら、なぜか溺愛されています!

Rohdea

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第十七話

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「リラジエ?」
「ジークフリート様……!」

  グレイルが出て行ったすぐ後に、ジークフリート様が駆け込んで来た。

  (あぁ、来てくれた……!)

  私は思わず自分からジークフリート様に抱き着いた。
  ジークフリート様は驚いたのかちょっと慌てている。

「リ、リラジエ!?」
「……」

  私の身体は震えていた。とにかくグレイルの視線が気持ち悪かったから。
  ジークフリート様、私はあなたがいい。
  あなたじゃなきゃ駄目なんです!

  そんな思いで、ジークフリート様に抱き着いているとお姉様の怒りの声が頭上から降って来た。

「ちょっと!  私の目の前で何をしてるのよ!」

  そうだった。この場にはまだお姉様が居たんだったわ。動揺し過ぎてその存在をすっかり忘れていた。

「見ればわかるだろう?  恋人同士のスキンシップだ」

  ジークフリート様が私を抱き締めたまま、冷たい目でお姉様に答える。
  その言葉を受けてお姉様の顔が盛大に引き攣った。

「こ、恋人同士……ですって!?」
「……今更、君は何を言っているんだ?  僕とリラジエが交際している事は当然、君も知っていた事だろう?」
「え!  え、えぇ、まぁ……ね」

  お姉様の顔がギリギリと悔しそうに歪む。
  その顔は“恋人同士だなんて認めていない”と言っているみたいだった。

「……わ。……だもの」

  お姉様が顔を歪めたまま、小さく何事かを呟く。

「何か言ったか?」
「……ふっ、いいえ、何でも無いわよ」

  ジークフリート様の問いかけにお姉様は首を横に振る。
  
「なら、これで僕達は先に失礼させてもらう。会場に向かわないといけないのでね。……行こう?  リラジエ」
「はい……」

  そう言ってジークフリート様と共に歩き出す。

「リラジエ」

   お姉様とすれ違う瞬間、声を掛けられた。その声は酷く冷たい。

「……」
「また後で会場で会いましょう。ほら、前にも言ったでしょう?  をあげるって」
「……!」
「素敵なプレゼント?」

  ジークフリート様が怪訝そうに聞き返す。

「そうよ、プレゼント。きっと2人とも喜んでくれると思うわ」

  そう口にしたお姉様は、毒薔薇の微笑みを浮かべていた。












「……レラニアは、明らかに何かを企んでるな」

   会場に向かう馬車の中でジークフリート様が、ため息を吐きながら言った。

「リラジエのデビューを滅茶苦茶にでもする気か……?  する気なんだろうな、あの様子は」
「ですが、素敵なプレゼントの意味が分かりません」
「まさか、滅茶苦茶になった社交界デビューの思い出をプレゼント……とか言い出してるのか?  いや違うな……それならあんな言い方はしない」
「……」

  結局のところ、お姉様が何を企んでいるのかは不明で、ただ警戒する事しか出来ない。 

「……ところで、グレイル・オッフェンが訪ねて来ていたみたいだけど何かあった?」
「え!」

  そして、ジークフリート様はここでまさかのグレイルの事を尋ねてきた。

「ジークフリート様はグレイルの事をご存知なのですか?  それに……」

  どうして彼が訪ねて来ていた事を知っているの?

「僕が伯爵家に着いた時に彼が屋敷から出て来るのが見えたんだ」
「あ……」

  確かにジークフリート様がやって来たタイミングは、グレイルが出て行った時とちょうど重なる。

「ちなみに、グレイル・オッフェンとは個人的な知り合いでも無いし、なんなら話した事も無い」
「そうなのですか?  では何故……」

  私の質問にジークフリート様がちょっと寂しそうに笑った。

「彼は君の初恋の人なんだろう?  リラジエ」
「!」

  その言葉に私は驚きすぎて動揺した。

「なっ!  えっ!?  どう……して!?」
「あぁ、ごめん!  リラジエ、落ち着いて!」
「で、で、で、でも……」

  軽くパニックになる私をジークフリート様が私を抱き締めて落ち着かせる。

「ごめん、聞き方を間違えた……最初から話すよ」
「最初から?」
「そう、最初から。僕がリラジエに一目惚れした所から……」
「?」



  ──そうして、ジークフリート様は、あの日の……グレイルに失恋した日の私を見かけた事を話してくれた。



「あ……あれを、見られていた……のですか?」
「ごめん、完全に盗み聞き、だけでなく、盗み見した……」
「……!」

  なんて事なの。あんな情けない私の姿を見られていたなんて!
  穴があったら入りたい!
  アワアワする私をさっきよりもちょっと強い力で抱き締めたジークフリート様が続けて言う。

「リラジエ!  君は情けなくなんかない!」
「ジークフリート様……」
「君は泣きたい気持ちを懸命に堪えて祝福の言葉をかけていたじゃないか!  僕はそんないじらしいリラジエを好きになったんだ!」

  そう口にするジークフリート様の顔は真剣で、本当にそう思ってくれているのが伝わって来る。
  先程からずっと抱き締めてくれているその温もりが、あの頃の悲しかった私の気持ちごと受け止めてくれているようで安心出来た。

「リラジエ。僕は君のそんないじらしさも、ちょっと頑固な所も、僕に翻弄されて顔を赤くしてアワアワしている所も全部全部好きなんだよ」
「……アワアワ」
「うん。可愛いよね、アワアワするリラジエ」

  いえ、ちょっとそれは聞き捨てならないわ。

「むぅ」
「こらこら、そんな顔しちゃ駄目だ。まぁ、その顔も可愛いんだけど。でも、今日はいつも以上に特別に可愛いんだからその顔はもったいないよ」
「……誤魔化そうとしてません?」
「まさか、してないよ」

  ジークフリート様は首を横に振りながら、あはは、と苦笑いする。

「リラジエ、可愛い……好きだよ……愛してる」
「!」

  そう言ってジークフリート様は顔を近づけて来たので、いつものようにキスを受け入れようとして気付く。

「ハッ!  だ、駄目です!  今はお化粧が落ちてしまいます!!」
「あとで直せばいい」

  出たわ!  女心に疎いジークフリート様!

「か、簡単に言わないでください!!」
「うん、ごめんね、でも止められないや」
「~~~!」

  そうして、ジークフリート様と私の唇が重なる。
  あぁぁ、絶対にジークフリート様の唇に私の口紅が付いてしまうのに!


「……っ!」


  なのに、ジークフリート様はそんな事は構わないと言った様子で何度も何度も触れてくる。


「……んっ」
「リラジエ……」


  ジークフリート様はキスの合間合間に「好きだよ」なんて甘く囁くから、私の頭もクラクラしてきて、結局、会場に着くまでの間、ジークフリート様からのキス攻撃は全く止まる事を知らず、甘い時間を過ごす事になった。



  この時の私はもう頭がクラクラしていたので、ジークフリート様が「……ここに来てリラジエの初恋の男が帰って来たのは偶然か……?」と小さく呟いていた事を知らない。








「……あぁ、着いたみたいだね」
「ん……あっ」

  そう言ってジークフリート様の唇が離れて行く。
  キスは駄目!  って思っていたはずなのに今度は離れて行かないで!  そんな気持ちになってしまった。
  そして、やっぱりジークフリート様の唇には私の口紅が……
  そんな状態を目の当たりにしたせいで、さっきまでしていたキスを思い出してしまい一気に頬に熱が集まる。


「……あー、リラジエ、その顔は……ちょっと、うん、アレだな」
「……?」
「他の男には見せられない顔だな。君のその顔を見ていいのは僕だけだから。ちょっと落ち着いてから降りよう」

  ジークフリート様がそう言って優しく私の頬を撫でた。
  他の男には見せられない顔?
  いったい私はどんな顔をしているのかしら──?

  そんな疑問が伝わったのか、ジークフリート様はクスリと笑う。

「僕の事が好きで好きで仕方が無いって顔だよ」
「なっ!!」
「本当の事だろう?」
「~~~!」

  そう言って笑うジークフリート様の顔はちょっと意地悪だった。

「……ジークフリート様」
「ん?  …………えっ!?  リラ……」

  あまりにも悔しかったので、私は自分から抱き着いて腕を回しジークフリート様の唇に自分の唇を重ねた。

  交際を始めてから、隙あらば迫って来るジークフリート様とキスはたくさんして来たけれど、私からするのは始めてだ。

「!?!?!?」

「…………仕返しです」

  私が唇を離しながら、そう言うとジークフリート様がポカンとした表情のまま、見る見るうちに顔を真っ赤に染めていく。

「…………」
「私も大好きですよ、ジークフリート様!」

  私は笑顔でそう言った。

「~~~!  反則だ!」
「ふふ、だって仕返しですから!」
「……くっ!」


  顔を真っ赤にしたジークフリート様は、とっても可愛かった。
  






「コホンッ……さて、リラジエ、行こうか」
「はい!」
  
  落ち着きを取り戻したジークフリート様から差し出された手に自分の手をそっと重ねて馬車から降りる。
  そんな彼の顔もまだほんのり赤い。きっと私も同じね。


  お姉様が……グレイルが何かを企んでいるのかもしれないけれど、絶対に負けたりなんかしないわ。
  もちろん、何事も無い事が1番だけれど。


  ──きっと大丈夫。ジークフリート様がこうして側にいてくれるから。



  そんな気持ちで私達は会場へと入っていった。

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