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16. 魔術師協会にて
しおりを挟む次の休みに私とルシアンは、魔術師協会の本部を訪ねた。
「これはこれは、ルシアン様! 御用がありましたら、こちらから出向いたものを!」
ルシアンと2人で魔術師協会を訪ねると、慌てた様子で1人の老齢の男性が飛び出してきた。
「ジェームス殿、久しいな。今日は調べたい事があって訪ねて来た」
「そうでしたか! ……して、こちらの女性は?」
そう言ってジェームスと呼ばれた男性は、チラリと私を見る。
“どこの令嬢”かと言わない辺り、私が平民だと分かっているのかもしれない。
「一緒に調べ物をしてくれる…………友人だ」
「ほぅ、ご友人……ですか」
「……」
何だか嫌な視線。
……未来の大魔術師様にまとわりつく平民の女……みたいな目で見られている気がする。
以前、ルシアンと婚約者の話をした時に、自分の婚約者を簡単に決められないって言っていたけれど、こういう人達が色々と口を挟んで来て決めてくるのかもしれないと思った。
(……ルシアンの意志を無視して)
「……」
あぁ、やっぱりモヤモヤするわ。
「フィーリー? どうした?」
「え? あ、ごめんなさい、何でもないわ」
ルシアンに声をかけられて、ハッと意識を元に戻す。
そうだった。今はその事よりも、魅了魔法の解除を出来る人間を探さなくてはいけない。
「それで、調べ物とは? いったい何をお探しなのでしょう」
「特殊能力……スキルに関する管理簿の閲覧をしたい」
「はい?」
「どうしても今、必要な事なんだ。すまないが、頼む! 閲覧許可をくれ」
「……そ、れは、いくらルシアン様でも……」
思った通りの反応だった。
スキルに関する管理は、この魔術師協会でも厳重に扱わなくてはいけない物だと聞いている。
外部に漏れては大変だし、下手すると悪用される可能性だってある。
なのでいくら未来の大魔術師様のルシアンとはいえ、閲覧も自由に出来る事では無い。
それでも、ルシアンは一縷の望みをかけてここにやって来た。
「管理簿だなんていったい、何をお調べなのです? 」
「……とあるスキルを解除出来る人間を探している」
「スキルの解除ですか?」
「そうだ。精神干渉系のスキルでそのスキルにかかっている被害者がかなりいる。これ以上の被害者を増やさないためにも解除出来る人が必要だ」
「……」
ルシアンの真剣な頼みにもジェームスさんは、渋い顔を崩さない。
やはり、難しいのだろう。
そう諦めかけた時、ジェームスさんが口を開いた。
「ルシアン様は今、魔術学院に通われていますよね?」
「そうだが?」
ここで魔術学院?
何の関係が? と、私とルシアンは内心で首を傾げる。
「では、学院にいるではありませんか……何のスキルを解除されたいのかは存じませんが、おそらくそのようなスキル解除を可能な力を持たれた方が、ちょうど」
「「!?」」
ジェームスさんの言葉に私とルシアンは、びっくりして言葉を失う。
「……だ、誰だ? 誰の事だ? 誰がそんな力を持っているんだ!?」
「ル、ルシアン様……」
ルシアンがジェームスさんの両肩を掴んで揺さぶる。
「そ、それはご自分で探してもらわないと……こ、これ以上は……」
「そこを何とか頼む! こうしてる時間さえ惜しいんだ!!」
「……」
ジェームスさんは躊躇いがちに口を開く。
「こ、これは年寄りの独り言ですとも。えぇ、決して情報を漏らすわけでは……ありません」
「……!」
「そ、その方のスキルは───」
*****
「知らなかったわ」
「俺もだ」
私達は、魔術師協会を後にして今、とある場所へと向かっている。
そう。ジェームスさんから聞いた人物の元へと。
「……でも、言われてみればスキルを持っていても不思議ではない方」
「確かにな」
ルシアンも頷く。
言われるまで全く思い至らなかったわ。
「だけど、こんな突然に訪ねても大丈夫かしら?」
「礼儀としては駄目だろう……だが、行ってみるしかない」
「そうね……」
私は静かに頷いた。
「ところで、ずっと気になっていたのだけど、ルシアンは何で魔術師協会に行く時、凄く嫌そうだったの?」
「え?」
「出来れば行きたくなさそうだったよね?」
「……っ」
私のその疑問にルシアンは一瞬目を泳がせた。
「ルシアン?」
「……」
だけど観念したように私の目を見つめて言う。
「…………フィーリーを協会関係者に会わせたくなかったんだよ」
「へ? 私?」
ルシアンのその言葉に驚いてしまう。 何で?
そんな私の様子を見たルシアンは残念な子を見るような目で私を見た。
(何て目で見るのよ……酷い)
「連れて行った俺も俺だが、お前、何年も自分の力をずっとひた隠しにして来たくせによくそんな呑気な事を……その力をバレたくないんだろ?」
「あ」
「鋭い奴に会って色々バレたら大変だろ?」
「……」
「ジェームスにしか会わなかったから助かったけどな」
(あぁぁ、もう!)
胸にジワジワきた。
つまりルシアンは、私の事を考えて心配して渋っていた。
「まだ、俺の協会での力や立場は弱い。だから悔しいが今の俺ではお前の事は完全に守りきれない」
「ルシアン……」
…………どうしよう。
最近、ルシアンがおかしい。
ううん、違う。ルシアンがおかしいと言うか……私がおかしい。
私は胸に込み上げてくる思いをどうしたら良いのか分からず、とにかく狼狽えてしまう。
ルシアンが……優しい。そして何故か私を大事にしようとしてくれているような気がして……
(私はその事が……とても嬉しい)
あぁ、絶対に今の私の顔は赤いわ。
見られたくなくて私は両手で顔を覆う。
「フィーリー。顔を見せてくれ」
「っ! む、無理」
「そんな事を言うなよ」
「!?」
グイッと肩に腕を回されてそのまま抱き寄せられた。
私はそのままルシアンの胸の中に飛び込む形になった。
(えぇぇえぇぇ!?)
「前にも言った。俺はフィーリーを守りたい」
「わ……私、自分の事は自分で守れるわ……よ?」
散々、悩んで口から出た言葉がコレだ。
可愛さの欠片も無い発言だ。いや、そんなもの最初から存在していなかったかもしれないけれど。
「知っている。でも俺がお前を守りたいんだよ」
「!?」
「魔術に関して俺はきっとお前の力には敵わない。それでも俺はどんな事からもお前を守りたいと思ってる」
「ル、ルシアン……」
動揺する私を後目に、ルシアンは更に続ける。
「その為なら、次代の大魔術師の権力だって惜しみなく使わせてもらうさ」
「な、な、何で!?」
「何でって、それは……そうだな。決めたから、だな」
「決めた?」
「そう。決めたんだ」
ルシアンが、ギュッと私を抱きしめた。
私の胸は心臓が飛び出しそうなくらいドキドキしている。
決めた? それは何を──?
と問いかけようとしたら、馬車がガクンッと止まった。
「……着いた、みたいだな」
「そ、そうね」
「……」
「……ルシアン?」
少しの間、黙って私を抱きしめていたルシアンは名残惜しそうにそっと私から離れた。
(あ……)
離れて行く瞬間、“寂しい”そう思った。
色々と心配したものの、その家の人は私達をすんなり通してくれた。
「今、呼んで参りますので、こちらでお待ちください」
通された応接室で私達は大人しく待つ事にした。
ジェームスさんの話だと、その方の持つスキルは“浄化”だと言う。
確かに浄化なら可能性はある。だけど、詳しくは話を聞いてみないと分からない。
果たして、魅了の力を浄化する事は出来るのか。
「お待たせして、申し訳ございません」
そして数分後、その人は現れた。
魅了を解ける可能性がある“浄化”のスキルを持ったその人が──……
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