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17. 浄化の力を持った人
しおりを挟む彼女の姿を見て最初に思ったのは、
思っていたより元気そうで良かった……だった。
───そう。
ジェームスさんがうっかり零した独り言によると、私達と同じ学院にいて“浄化”のスキルを持っている人物とは……
「いや、こちらこそ急に訪ねてすまない。身体の具合は大丈夫だろうか、リシェリエ嬢」
リシェリエ様の事だった。
「そんな事は構わなくてよ。あの後、お父様からじっくり話を聞きましたわ。あなた達2人が私を助けてくれたのだと。本当にありがとう」
「……その件に関して俺は何の役にもたっていない。礼を言うならフィーリーに言ってくれ」
ルシアンはそう言いながらチラリと私を見る。
いや、そんな形でこっちにふられても困るんですけど!
「フィーリーさん……」
ルシアンの言葉でリシェリエ様が私に向き合う。
「え、いや、そのリシェリエ様」
「フィーリーさん。いつもあなたにキツく当たっていた私を、見捨てるどころか助けてくださった事を感謝しています。本当にありがとう」
「!」
そう言ってリシェリエ様は私に頭を下げた。
いや、貴族の……いや、大貴族の公爵家のお嬢様が平民の私に頭を下げてしまっているじゃないの!
これにはさすがに私も慌てる。
「か、顔を上げて下さい。リシェリエ様! 本当にお礼なんて良いですから」
「ですけど……」
「本当に!!」
「……」
リシェリエ様は納得いかない顔をしながらも渋々した様子で頭を上げてくれた。その後も頭を下げる事はしなかったので、私はようやくホッと一息つく事が出来た。
「ルシアン様にも本当に申し訳なく思っていますわ」
「……何をだ?」
「私がフィーリーさんを度々呼び出しては、小言を申し上げていた事はご存知でしょう? あなたも私に対して良い感情は持っていなかったはずですわ」
「……」
ルシアンは何故か否定せず黙り込む。
え? もしかして、図星……? 私が攻撃されていたから?
トクンッ
(ま、また胸が……!)
そんなルシアンの様子に怯む事なくリシェリエ様は続ける。
「お詫びとお礼と言っては何ですが……いずれ来る、ルシアン様が向かえるであろう困難な局面。“その時”が来た時は、我がラモニーグ公爵家、全面的にルシアン様を支持しお助けする事をここに誓いますわ」
(何の話?)
リシェリエ様がルシアンにとても重々しい発言をしていた。
しかも、ルシアンに向けて言っているはずなのに何故か私の方にも視線を向けて来る。
「…………俺はまだ何も表明していないが?」
「……そうですわね。でも、決められたのでしょう? そのお顔を見れば分かります。違いますか?」
「そうだな」
「ふふふ、それでは誓わせていただきますわ」
(…………?)
本当に2人は何の話をしているのかしら?
さっぱり分からず首を傾げていると、それに気付いたルシアンが私に言った。
「フィーリーは知らなくていい……今は」
「え?」
(今は?)
「……その話は今は置いておこうリシェリエ嬢。今日、こうして俺達が訪ねて来たのは別の頼みがあったからだ」
「頼み? 私に?」
「はっ! そうでした。実は、リシェリエ様の力が必要なのです」
「はい? 私の力?」
何事かと目を丸くしているリシェリエ様に、私達はエリィ様の魅了と思われるスキルの話から始めた。
リシェリエ様は早いうちにエリィ様によって眠らされていたので今の状況を殆ど知らない。
「…………つまり、殿下や他の方々の様子がおかしくなったのは、あの方の魅了によるものだと仰るの?」
「俺達はそう思ってる」
「……! なんて事を……」
さすがにリシェリエ様も驚きが隠せないようだ。
動揺している所に悪いけれど私達も確認しておかないといけない事がある。
「お聞きしたいのですが、リシェリエ様が眠りについていたのは魔力返しのせいでした。その魔力返しをして来た相手ってエリィ様ですよね? あの日、お二人の間に何があったのですか?」
「!」
「何故、そんな事になったのですか?」
「……」
私の質問にリシェリエ様は、苦痛そうな表情を浮かべて黙り込む。
それでもゆっくりだけど口を開いてくれた。
「私は普段から身分も弁えずに学院で振る舞うエリィ様が許せず、何度か呼び出して注意をしておりましたわ」
話し出したリシェリエ様の目は悲しそうだった。
「ですが、殿下を始めとして、彼女を慕う人が日に日に増えていきました。殿下と私はもともと、仲睦まじくしていたわけではありませんでしたが、私がずっと共に過ごし見て来た彼は、いくら何でもあんな暴言を吐く方ではありません。おかしいなと思っていたら……」
「エリィ様が、公爵家に訪ねて来たのですか?」
リシェリエ様はコクリと頷く。
「彼女は私を挑発して来ました。殿下に愛されているのは私なのよ、と。愛されてもいない名ばかりの婚約者だなんてとっても可哀想ね……と」
「!」
そう語るリシェリエ様の目には、涙が浮かび口惜しそうに唇を噛む。
「私、思わずカッとなってしまって、黙らせたくて闇の力で攻撃してしまいました。ですが、彼女は……」
「そのタイミングで魔力返しをして来た?」
「ええ……まるでそれを待っていたかのようなタイミングでした」
「!」
私とルシアンは顔を見合わせる。
「魔力返しをされたと分かった時、確かに彼女は笑っていましたわ」
「……え?」
「そうね、今思えば彼女は私が攻撃する事を分かっていたのかもしれない。そしてまんまとそれに乗った私を嘲笑うかのような笑みだったわ」
リシェリエ様はその時の事を思い出したのか身体が震えている。
「リシェリエ様、すみません」
「いいのよ」
つまり、エリィ様はわざとリシェリエ様に攻撃するよう仕向けて、跳ね返させた?
「……あの女はリシェリエ嬢を眠らせたかったのか」
「ルシアン?」
「2人の属性は光と闇。反属性同士だ。やりにくい事も多い。だから、魔力の高い闇の使い手であるリシェリエ嬢の事が邪魔だったんじゃないか?」
ルシアンが考え込みながらそう口にする。確かにそれは、一理ある。
だけど、リシェリエ様を魅了して、仲間にするのではなくわざわざ眠らせたかったのは何故なの?
魅了して自分の元に取り込んでしまった方が何かと便利なはず。
そうしなかったのは何故?
リシェリエ様が邪魔だったその理由は───
はっ!
そこまで考えて今日ここに来た目的を思い出す。
二人が反しているのは属性だけじゃない。
リシェリエ様は、エリィ様のスキルをも相殺出来る可能性を秘めている!
「ねぇ、ルシアン。もしかしてだけれど、エリィ様がリシェリエ様を眠らせたのは属性のせいではなくて、スキルのせいかもしれない」
「あ!」
「スキル?」
私の言葉にリシェリエ様は意味が分からなくて首を傾げているけれど、ルシアンは思い当たったようだ。
「エリィ様は、どこで知ったかは分からないけれど、リシェリエ様のスキルを知っていたのかも。だから、リシェリエ様が邪魔で眠らせたかった」
(むしろ、二度と目覚め無くてもいいと思っていた気もする)
「……自分の力を消せる力を持った人間を、例え魅了出来たとしても側に置いておきたくは無い……という事か」
「おそらく」
うっかりどこかで力を使われて解除されたら大変だもの。
私とルシアンはお互い顔を見合わせ頷き合う。
「いったいなんの話ですの?」
話についていけていないリシェリエ様に私はもう一度伝える。
「……リシェリエ様。あなたの力……スキルが必要なんです。どうか私達に協力していただけませんか?」
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