【完結】男運ゼロの転生モブ令嬢、たまたま指輪を拾ったらヒロインを押しのけて花嫁に選ばれてしまいました

Rohdea

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第二十一話 愛の告白と見苦しい人達

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「……え?」

  聞き間違いかしら?
  ヴィンセント様は今……私を好きだと言った……?

  (いえ、違うわ。前から好意そのものは感じていたけれど、それは私が指輪に導かれ選ばれた花嫁だからで──……)

  勘違いしては駄目。
  そう自分に言い聞かそうとしたけれど、ヴィンセント様がすかさず畳みかけるように言う。

「もちろん、アイリーンが花嫁に選ばれる前からだよ」 
「あ……」
「あの日、静かに一人で涙を流すアイリーンの事がずっと忘れられなかった」

  そう口にしたヴィンセント様が、戸惑う私を優しく抱き締める。

「好きだよ、アイリーン」
「ヴィンセント……様」

  (このあなたの温もりが好き……)

  抱き締められながらそんな事を思う。
  ヴィンセント様は私を抱き締めたまま、切なそうに言った。

「僕は恋なんてするつもりは無かったのに」
「え?」
「それでも、アイリーンの事だけは忘れられなくて……」

  そう口にするヴィンセント様の身体は少し震えている。

「アイリーンが僕の“花嫁”だと分かった時、僕がどれだけ嬉しかったか分かる?」
「……それ、は」
「アイリーンにとっては、突然の事ではた迷惑な話でも、僕はこの恋心を諦めなくていいんだ、と嬉しかったんだよ」
「……!」

  ヴィンセント様のその言葉の意味は重い。
  花嫁を自分で選ぶ事の出来ないヴィンセント様は、誰かを好きになってもその人と結ばれる可能性は……ほぼ絶望的なのだから。

「ヴィンセント様がずっと私に優しかったのは……」
「花嫁に選ばれた人だから……ではなく、アイリーンだったから、だ」
「私を……」
「うん、好きだ。花嫁に選ばれてから一緒に過ごす時間が増えてますます君を好きになったよ?  アイリーン」

  (指輪に導かれたからじゃない……ヴィンセント様は最初から“私”の事を……!)

  胸が高鳴る。
  ついでに心臓が飛び出してしまうのでは?  ってくらいドキドキもしている。
  これは私にとって都合の良い夢でも見ているのではないかしら?

  そう思わずにはいられなかった。

「ヴィンセント様、私……」

  私の気持ちもあなたに伝えたいー……
 
  そう思って、微笑んでヴィンセント様の頬にそっと手を伸ばしたその時、

「ふざけんなぁぁぁ!」
「どういう事ですのぉぉぉ!」
「何なのよっ!」

  ダニエル様、パトリシア様、ステラの順で叫び出したので遮られてしまった。

「……」

  何でこの人達はいつもいつも邪魔をするの……
  そんな三人の様子を冷ややかな目で見たヴィンセント様がため息を吐きながら私に向かって言った。

「……アイリーン」
「はい」
「僕はあの三人をまとめてゴミにでも出してやりたい気分なんだけど」
「……同感です」

  私も頷いた。
  そんな私とヴィンセント様の会話を知らない三人は各々声をあげる。
  最初に叫んだのは元婚約者アホのダニエル様だった。

「俺の目の前で何やってんだよ!」
「僕の愛する花嫁に素直な気持ちを告白しただけだ」  
「はぁ?」

  ダニエル様は目を丸くする。
  私にお前ダニエルの事を思い出させてしまうのが嫌でずっと言えなかったんだから、とヴィンセント様は憤る。

「知るかよ、そんな事!!」

  ダニエル様は悔しそうに地団駄を踏んでいた。
  次に声を荒らげたのはパトリシア様。

「ヴィンセント様ぁぁ!?  どういう事ですのぉぉぉ!!」
「どうもこうもない!」 
「あなたはわたくしの事を」
「違う!  僕が愛してるのは昔からアイリーンだけだ!」

  ヴィンセント様がピシャリと跳ね除ける。

「は、花嫁の選び直しは」
「無い!」
「そんなぁぁ!  嘘ですわぁぁ」

  パトリシア様は顔を青くしてヨロヨロフラフラし始めた。
  そして、最後はヒロイン、ステラ。
  さっきの彼女は発言をダニエル様に遮られたままだった。

「ちょっと!  こんな展開は聞いてないわよ!?」
「知った事か」
「おかしいでしょう?  花嫁となるのは私よ!  そう決まっているんだから!!」
「本当に……君、は相変わらずなんだな」

  ヴィンセント様はステラにも冷ややかな目を向ける。
  あと変な間があったので、多分ステラの名前が浮かんできていないのだと思う。

  そんなステラの叫び声を聞いたパトリシア様がピクリと反応した。

「は?  ちょっとお待ちなさいな。 女狐1号……ではなく、ステラさん?  ヴィンセント様の花嫁はあなたですって?  わたくしを差し置いて何を仰っているの!?」
 
  打ちひしがれていたパトリシア様が何かに気付いたように顔を上げステラを睨む。
  一方の睨まれたステラも黙ってはいない。

「花嫁に選ばれるのは、私だと決まっていたんですから当然です!」
「まぁぁ!  本当にあなたって人はどこまで図々しいのかしら!  さすが1号!  わたくしが“花嫁選びの方法”を聞いた時だってあなたは~~!!」
「1号?  とにかく選ばれない悪役令嬢ヒトは黙っててくださーい」
「まぁぁぁ!」

  何やらヒロインと悪役令嬢が仲違いを始めてしまう。

  (二人が手を組んだと分かった時はゾッとしたけれど……もともと、犬猿の仲なのだから上手くいくはずが無かったのかもしれない)

  そもそもパトリシア様は、女狐1号とステラの事を呼んでいたし……

  しかも、よく考えればどちらもヴィンセント様の花嫁の座を狙っているわけで。
  こうなる事は必然だったようにも思える。

  ふざけんな、と言い続ける元婚約者ダニエル様
  キャンキャン言い合いを始めたヒロインと悪役令嬢。
  そんな様子に困惑する会場内の人々……
  私達の婚約披露パーティーは混沌とし、まさに地獄絵図と化していた。

「ヴィンセント様……」
「うん?」
「私、あの人達にはもういい加減にして欲しいです……」
「アイリーン?」

  身勝手な事ばかり言う元婚約者も、我こそはと勘違いを重ねて醜い争いを繰り広げるヒロインと悪役令嬢も……

「何があってもヴィンセント様の花嫁になるのは私ですから」
「アイリーン」

  私は指輪に導かれ選ばれた花嫁だけど、それだけじゃ無いと知ったから。
  小説の世界ではモブだけど、私、アイリーンは今、ちゃんとヴィンセント様に愛されていた。

  私は彼と、ヴィンセント様と幸せになりたい!
  ずっと苦しみながらも私を想ってくれていたヴィンセント様に幸せをあげたい!!

  だから、ヒロインだろうと悪役令嬢だろうと……これ以上の邪魔はいらない。
  私は大きく息を吸って一旦深呼吸をする。そして、三人に向かって声を張り上げた。

「ダニエル様、パトリシア様、ステラさん!  あなた達三人共、いい加減にして下さい!!  見苦しいです!!」

「は?」
「はぁ?」
「え?」

  私のその声に喚いていた三人が、驚きの声と共に一斉に私を見た。

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