【完結】美人な姉と間違って求婚されまして ~望まれない花嫁が愛されて幸せになるまで~

Rohdea

文字の大きさ
16 / 36

16. やって来たお姉様

しおりを挟む


  ──お姉様がここに……来る?
  そんな事が書かれていたその手紙は私に大きな衝撃を与えた。




「ルチア、元気が無いね?」
「……え?」

  その日の夜、帰宅した旦那様を出迎えたら真っ先にそう言われてしまった。
  お姉様の訪問の事を言わなくては……とグルグル悩んでしまっていたから顔に出ていたのかもしれない。
  私としてはいつもと変わらない風を装ったつもりだったのに……

「何で分かるかって?  毎日毎日ルチアの顔を見ているんだから普通の事だろう?」
「そう……なのですか?」
「……他の人は知らないけど、少なくとも俺は可愛い妻が悲しんでいるのに無理して笑顔を見せている事に気付かなかった……そんな間抜けな情けない夫にはなりたくない」
「旦那様……」

  その優しさに胸がじんとする。
  私は本当に本当に大切にされている。

「だから、ルチア…………おいで?」
「あ……」

  旦那様が腕を広げてくれたので、私はその胸に思いっきり飛び込んだ。
  そうすれば、必ず旦那様はギュッと背中に腕を回して優しく抱き締め返してくれる事を私は知っている。
  私、この胸と腕の中が温かくて大好きなの。

「ルチア……」
「……旦那様」

  だから、お願い……お姉様……
  私から旦那様を……ユリウス様は取らないで───

 



  しばらく廊下で盛大に抱きしめ合っていた私達は、トーマスさんに、
「使用人達が出歯亀していて仕事にならんので続きは部屋に行ってやってくだされ」 
  と言われてしまい、お互いに照れながらいそいそと部屋に移動した。
  そこで、ようやく心が落ち着いた私は旦那様にお姉様の訪問について伝える。

「待ってくれ!  あの、お……ん、リデル嬢が訪問してくる!?」
「……お父様からの手紙にそう書かれていました。金を貸すようにと私が旦那様を説得出来なかったから」
「だからって、あのおん……リデル嬢を寄越すのは違うだろう……?」

  旦那様が頭を抱えている。

「本当に何を考えているんだ」 
「迷惑をかけてごめんなさい……」

  私が謝ると、旦那様はそっと私の肩に腕を回して抱き寄せた。
 
「何度も言っている。ルチアのせいじゃない」
「……旦那様」

  旦那様はお姉様が来ると聞いてどんな気持ちなのかしら? 
  本当に結婚相手として望んでいた相手はお姉様だもの。
  やっぱり複雑よね?
  それでも、嫌なの。旦那様をお姉様には渡したくない!

「お願いです、旦那様……」
「ルチア?」

  勝手な言い分だと分かっている。それでも……

「お姉様に会っても……わ、私を見てください!」
「え?」
「……お姉様ではなく、私だけを見ていて欲しいのです……!」

  私はそう言って腕を伸ばして自分から旦那様に抱きつく。

「ル、ルチア!?」
「……ユリウス様の妻は誰がなんと言っても私です!  お姉様ではなく、もう私、なんです」
「ルチア……」
「間違った求婚でも望まれない花嫁でも……私が……つ、妻ですから!」
「ルチア!」

  旦那様が強く強く私を抱きしめ返す。そのまま私の頭を撫でながら旦那様は言った。
 
「俺の花嫁はルチアだ。俺の可愛い妻は君だけだよ、ルチア」
「……!」
「それは、リデル嬢に会っても変わらない。約束する!  だから、そんな顔しないでくれ」
「旦那様……」
 
  今までの男性は皆、お姉様、お姉様……私がいてもお姉様の事ばかりだった。
  でも、旦那様だけは違うと信じたい。この温もりと優しさが嘘ではないのだと……
  そう思いながら、私は必死に旦那様にしがみついていた。


❋❋❋❋

  
   出来る事ならキャンセルされる事を願ったけれど、お姉様は本当の本当にやって来た。 
  旦那様に嘘の名前で自己紹介をしておいて、どうしたらこんな平気な顔をしてやって来れるのか……
  私にはお姉様という人が何を考えているのか本当によく分からない。

「ふふ、久しぶりねぇ、ルチア」
「……ご無沙汰しています」
 
  お姉様は笑顔だった。何がそんなに嬉しいのか、ずっとニタニタ笑っていて正直、不気味。

「思っていたよりも元気そうねぇ……良かったわぁ」   
  (訳:てっきりゲッソリやつれてると思ったのに……残念)

「ルチアが居なくなって、我が家はとっても寂しくなってしまったのよ」
  (訳:いつ出戻ってくるのかとっても楽しみにしていたのに)

「だからこそ、たまには連絡が欲しかったわぁー……」 
  (訳:何で戻ってこないのよ)
   
  お姉様はお得意の優しい姉のフリをした発言をしているけれど、私には本音が伝わって来る。
  やっぱりお姉様は、私が「望んでいた花嫁はお前じゃない」と言われて泣いて帰って来る事を望んでいた……それを楽しみに待っていた……酷い。

「……お姉様、旦那様はとてもお忙しい方なので要件は手短にお願いします」
  
  私のその言葉にお姉様の眉がピクリと反応する。

「……“旦那様”……ですって?  それってもしかしてユリウス様の事かしら?」
「そうです、だってユリウス様は私の旦那様ですから」
「……へ、へぇ、旦那様……」

  お姉様は美しい顔を少しだけ引き攣らせながら旦那様の方に視線を向けるけど、旦那様はここまで、私達のやり取りを黙って聞いているだけだった。 
  そして、お姉様はここで誰もが見惚れる美しい微笑みを浮かべながら口を開いた。

「ふふ、お久しぶりでございますわ、ユリウス様。そして、申し訳ございません。まずはユリウス様にお詫びをしないといけない事がありますの……私は」
「スティスラド伯爵令嬢」

  お姉様の言葉を遮る旦那様の声は、今まで聞いた事が無いほど冷たい声で私の方が驚いた。
  旦那様は私に初めて会った時や人間違いだと判明した時でさえ、こんなに冷たい声を出した事は無かったのに。

「俺は君に感謝しているよ」
「……か、感謝……ですの?  わ、私に?」

  お姉様、ギリギリ笑顔は保っているけれど、思っていた反応と違って多分内心酷く焦っている。

「ああ。初めて挨拶をした日、君が、名前をルチアと言い間違えた事で、こうして可愛い花嫁を迎える事が出来たからね」
「か、可愛い花嫁……!」
「そうだ。もちろん、ここにいる可愛いルチアの事だ」

  旦那様はそう言って私の腰に腕を回して抱き寄せた。
  
「か、可愛い……ルチア……!」
「ああ、とっても可愛いじゃないか。ルチアの事は可愛い妹だと君も思っているのだろう?  思っているからこそルチアが嫁に行ってしまって寂しかった……と先程、口にした……違うのか?」
「……っ!  そ、そうです……わね」

  お姉様がこんな風に声を震わせるなんて……
  と、私は内心で驚いていたけれど、そこはやっぱりお姉様。すぐに気持ちを立て直す。
  今度は誰もが母性本能をくすぐられそうな程、か弱い女性の表情を浮かべた。

「……で、ですが、ユリウス様……ルチアは確かに私にとって可愛い妹……なのですけど」
「ですけど、何だ?」
「いえ…………ほ、本当は姉としてこんな事は言いたくないのですけど……実は、ルチアは……」

  そこでお姉様はウルウルと目に涙を浮かべつつ、一旦、意味深に言葉を切る。
  そして軽く深呼吸をするとチラッと私を見た。

「ごめんなさいね、ルチア。私はもうあなたを庇ってあげられないわ」
「……お姉様?」

  庇う?  何の話?

「あなたがそれで幸せなら……そう思っていたけれど……こんなのやっぱり良くないわ!」
  (訳:ルチアが幸せになるなんて冗談じゃないわ!)

  私が怪訝そうな表情をしたのを見たお姉様は、目に涙をうかべたまま声を張り上げた。

「ユリウス様!  聞いてください!  ……実はルチアは……あなたの横にいるその妹は…………とっても卑怯な子なのです!」

  ──と。

しおりを挟む
感想 313

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!

ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。 相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。 結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。 現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう… その時に前世の記憶を取り戻すのだった… 「悪役令嬢の兄の婚約者って…」 なんとも微妙なポジション。 しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。

完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!

仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。 ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。 理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。 ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。 マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。 自室にて、過去の母の言葉を思い出す。 マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を… しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。 そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。 ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。 マリアは父親に願い出る。 家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが……… この話はフィクションです。 名前等は実際のものとなんら関係はありません。

(完結)妹の婚約者である醜草騎士を押し付けられました。

ちゃむふー
恋愛
この国の全ての女性を虜にする程の美貌を備えた『華の騎士』との愛称を持つ、 アイロワニー伯爵令息のラウル様に一目惚れした私の妹ジュリーは両親に頼み込み、ラウル様の婚約者となった。 しかしその後程なくして、何者かに狙われた皇子を護り、ラウル様が大怪我をおってしまった。 一命は取り留めたものの顔に傷を受けてしまい、その上武器に毒を塗っていたのか、顔の半分が変色してしまい、大きな傷跡が残ってしまった。 今まで華の騎士とラウル様を讃えていた女性達も掌を返したようにラウル様を悪く言った。 "醜草の騎士"と…。 その女性の中には、婚約者であるはずの妹も含まれていた…。 そして妹は言うのだった。 「やっぱりあんな醜い恐ろしい奴の元へ嫁ぐのは嫌よ!代わりにお姉様が嫁げば良いわ!!」 ※醜草とは、華との対照に使った言葉であり深い意味はありません。 ※ご都合主義、あるかもしれません。 ※ゆるふわ設定、お許しください。

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

姉と妹の常識のなさは父親譲りのようですが、似てない私は養子先で運命の人と再会できました

珠宮さくら
恋愛
スヴェーア国の子爵家の次女として生まれたシーラ・ヘイデンスタムは、母親の姉と同じ髪色をしていたことで、母親に何かと昔のことや隣国のことを話して聞かせてくれていた。 そんな最愛の母親の死後、シーラは父親に疎まれ、姉と妹から散々な目に合わされることになり、婚約者にすら誤解されて婚約を破棄することになって、居場所がなくなったシーラを助けてくれたのは、伯母のエルヴィーラだった。 同じ髪色をしている伯母夫妻の養子となってからのシーラは、姉と妹以上に実の父親がどんなに非常識だったかを知ることになるとは思いもしなかった。

厄介払いされてしまいました

たくわん
恋愛
侯爵家の次女エリアーナは、美人の姉ロザリンドと比べられ続け、十八年間冷遇されてきた。 十八歳の誕生日、父から告げられたのは「辺境の老伯爵に嫁げ」という厄介払いの命令。 しかし、絶望しながらも辺境へ向かったエリアーナを待っていたのは――。

【完結】アッシュフォード男爵夫人-愛されなかった令嬢は妹の代わりに辺境へ嫁ぐ-

七瀬菜々
恋愛
 ブランチェット伯爵家はずっと昔から、体の弱い末の娘ベアトリーチェを中心に回っている。   両親も使用人も、ベアトリーチェを何よりも優先する。そしてその次は跡取りの兄。中間子のアイシャは両親に気遣われることなく生きてきた。  もちろん、冷遇されていたわけではない。衣食住に困ることはなかったし、必要な教育も受けさせてもらえた。  ただずっと、両親の1番にはなれなかったというだけ。  ---愛されていないわけじゃない。  アイシャはずっと、自分にそう言い聞かせながら真面目に生きてきた。  しかし、その願いが届くことはなかった。  アイシャはある日突然、病弱なベアトリーチェの代わりに、『戦場の悪魔』の異名を持つ男爵の元へ嫁ぐことを命じられたのだ。  かの男は血も涙もない冷酷な男と噂の人物。  アイシャだってそんな男の元に嫁ぎたくないのに、両親は『ベアトリーチェがかわいそうだから』という理由だけでこの縁談をアイシャに押し付けてきた。 ーーーああ。やはり私は一番にはなれないのね。  アイシャはとうとう絶望した。どれだけ願っても、両親の一番は手に入ることなどないのだと、思い知ったから。  結局、アイシャは傷心のまま辺境へと向かった。  望まれないし、望まない結婚。アイシャはこのまま、誰かの一番になることもなく一生を終えるのだと思っていたのだが………? ※全部で3部です。話の進みはゆっくりとしていますが、最後までお付き合いくださると嬉しいです。    ※色々と、設定はふわっとしてますのでお気をつけください。 ※作者はザマァを描くのが苦手なので、ザマァ要素は薄いです。  

ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。

光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。 昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。 逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。 でも、私は不幸じゃなかった。 私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。 彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。 私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー 例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。 「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」 「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」 夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。 カインも結局、私を裏切るのね。 エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。 それなら、もういいわ。全部、要らない。 絶対に許さないわ。 私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー! 覚悟していてね? 私は、絶対に貴方達を許さないから。 「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。 私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。 ざまぁみろ」 不定期更新。 この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

処理中です...