【完結】美人な姉と間違って求婚されまして ~望まれない花嫁が愛されて幸せになるまで~

Rohdea

文字の大きさ
15 / 36

15. 嵐の前の……

しおりを挟む


「今日の旦那様は少し、帰宅が遅いわね」

  私は、時計を見上げながらそう呟く。
  旦那様は前に“遅くなるから夕食は先に食べていて”と言っていたあの日以外は、夕食時までには帰って来てくれていた。

「……嬉しかったけれど、もしかして毎日、私のために無理していたんじゃ……」

  旦那様は優しいから、きっと私が訊ねても「そんな事ないよ」と言って頷かない。

「それならば、旦那様が帰ってこられた時に、少しでも疲れを癒して差し上げたいわ」

  自分に出来る事は無いかしら?  と、相談するためにメイドを呼んだ。



「え?  仕事でお疲れの若君を癒す方法ですか?」
「そうなの!  口にしないだけで絶対にお疲れだと思うの。何かいい案は無いかしら?」
「若奥様……」

  メイドがじっと私を見る。

「こんなに可愛くて綺麗な若奥様に微笑まれて“おかえりなさい”と言われるだけで、若君は癒されていそうですけどね……」
「何か言ったかしら?」

  メイドの発した言葉は小さくてはっきり聞き取れなかった。

「若君は若奥様が出迎えてくれるだけで幸せそうですよ?」
「そうなの?」
「はい。あんな早い時間にウキウキして帰宅する若君はこれまで見たことが無かったです」
「ウキウキ……」

  旦那様が私と過ごす時間を嬉しいと思ってくれているなら、私も嬉しい。
  そう思った私が微笑むと、メイドが「……はっ!  神々しい」と、呟いて別の世界へ旅立とうとしていた。

「どうかしたの?」
「い、いえ……だ、旦那様にはその微笑みをするだけでよろしいかと……あと、そうですね、もし可能ならーー……」
   
  私はメイドの話を真剣に聞き取った。





「……おかえりなさいませ、旦那様」
「ルチア!」

  そして、ようやく旦那様が帰宅された。 
  ああ!  やっぱり顔がいつもよりお疲れだわ!

「すまない……いつもより遅くなってしまった」
「いいえ、お疲れ様でした!  食事はこれからですよね?」
「ああ」

  よーし!  それなら、食事の用意が出来るまで思う存分、旦那様を癒してみせるわ!   
  と、私は気合を入れた。




「…………ル、ルチア……これは」
「旦那様がお疲れだという事で、私に何か出来ないかとメイドに相談しましたの」
「そ、そ、そうか……!」
「男性はこれで癒されると力説していたしたけど、そうなのですか?」

  食事の準備が出来るまでの間、私と旦那様は部屋でまったり過ごす事になった。
  そこで私は“今しかない!”と決意し、旦那様をお誘いした。
  …………旦那様の頭を私の膝の上に。

「そうだな……癒し……いや、もう幸せ過ぎて一気に天国への扉が開いてしまった気分だ……」
「え……」

  それ死んじゃう!

「お、置いていかないで下さい……」
「え?」
「私、もっと旦那様と一緒にいたいです。だから……」
「ルチア……?」 

  旦那様が下から手を伸ばしてそっと私の頬を撫でる。

「置いていかないよ?  せっかくこんなにこんなに可愛いお嫁さんを迎えたのに置いていくはずがないだろう?」
「旦那様……」

  旦那様が優しく笑う。
 
「俺はね、ルチアに“幸せ”を知ってもらいたい」
「……幸せ、ですか?」
「ああ、俺が必ずルチアを守り、幸せにする。だからこれからも可愛い笑顔をたくさん見せてくれ!  ルチア」

  ───あぁぁ、もう!  なんて罪作りな人なの!

「……旦那様、いえ、ユリウス様……」
「うん?」
「私、幸せですよ?  望まれていない花嫁なのにこんなに優しくして貰えて……ユリウス様で良かった」

  今までのお見合い相手の人達だったら、きっとこんな気持ちにはなれなかったと思う。

「ユリウス様……私もあなたに幸せになってもらいたいです」
「俺に?」
「つ、妻として、まだまだな私ですけど、その為に頑張ります!」

  私はそう言いながらそっと旦那様の頭を撫でる。
  普段は出来ないけれど、こういう事が出来るのが膝枕のいい所かもしれないわ。
  そうして暫く撫でていたら、旦那様がみるみるうちに真っ赤になってしまったので、また熱!?  と慌ててしまったけれど……旦那様が大真面目な顔で、
 
「これは照れているだけだ!」

  なんて言うものだから、私は笑いが止まらなかった。




「───ルチア、いいかな?  ちょっと話しておきたい事があるんだ」
「旦那様?」

  食事を終えて就寝の準備をしていたら扉の向こうから旦那様の声がした。
  話しておきたい事?  
  何かしら?  と思いながら旦那様を部屋に迎え入れた。

  だけど、ベッドに腰掛けた旦那様は、しばらく沈黙してしまう。

「…………」
「…………」

  やがて旦那様は決心したように口を開いた。

「ルチアに話すか話さないか悩んだのだけど」
「……はい」
「後々、意図しない所で知られてしまう可能性の事を考えたら今日のうちに話しておくべきだと思った」
「……?」  

  今日何かあったの?
  それで帰宅が遅かったのかしら?

  ───まさか、お姉様!?  お姉様と旦那様の間で何か……

「今日、君の父上に会ったよ」
「え?  お、とうさま……?」 
「帰宅寸前の時間に俺に会いに来た」

  ───なんて失礼な事を!
  お姉様では無かったことに安堵しつつも、まさか、お父様だとは……

「お父様は……何を……?」
「……金を貸して欲しい。そう言ってきたんだ」
「……なっ!」

  まさか……金の無心に来たということ?  信じられない!  
  お姉様だけでなく、お父様まで私の事を追い詰めたいの!?

「申し訳ございません……」
「ルチア……」

  私は頭を深く下げて謝罪しながらも直ぐに顔を上げて言った。

「旦那様!  そんな申し出は絶対に断って下さい!  駄目です!  どうせ、お金の使い道は───」

  お姉様を着飾る事に決まっているのだから!
  それも、おそらく今度のパーティーの為……

「ルチア……俺は断ったよ」
「……!」
「だけど、もしかしたらそのせいでルチアの立場は……」

  あぁ、旦那様が辛そうな顔をされていたのは、私の立場の事を考えてくれていたからだったのね?
  なんて優しいの?
  義理の息子に金をたかるなんて!  と、私に怒ってもいいところなのに。

「お父様……怒っていたのではありませんか?」
「ああ……家族なのに、なぜ助けてくれぬのだ!  とか言っていたな……」
「家族?」

  調子のいい時だけそういう事を口にするのね……
 
「ルチア」

  そこで旦那様が私の事を抱きしめる。

「ルチアの家族は俺だ」
「え……」
「ルチアの“本当の家族”はこれから俺と作るんだよ」 
「旦那様……」

  その言葉が嬉しかった。
  私はギュッと旦那様の背中に手を回して抱きつく。

「……ありがとうございます」
「…………あんな奴らに払うくらいなら街中のお菓子を買い占めるさ……」
「今、何か……?」  
「何でもないよ」

  旦那様が静かに笑った気配がした。




  けれど、どうやら私がちゃんと知らなかっただけでスティスラド伯爵家実家は、既に相当金策に困っていたようで……

「若奥様……また、ご実家からの手紙ですよ」
「……今日も同じ内容かしら?」

  私はため息を吐きながら受け取る。
  もう読まなくても分かる。

  ───ユリウス殿を説得しろ
  ───それが我が家の娘としての役目だろ
  ───なんのための妻だ

  これの繰り返し。もう読むだけ無駄……
  そう思いながら、一応封を開けた。

「あら?  内容がいつもと違う?  ………………っっ!」

  私は驚きで思わず手紙を手から落としてしまう。

「……若奥様?」
「……」

  ───やはり“お荷物”のお前では夫すらも説得出来ないようだ。
  仕方が無いのでリデルを家に向かわせる───

「おね…………さ、が……?」

  ようやく手に入れた私が安心出来て幸せな場所に“嵐”がやって来ようとしていた────

しおりを挟む
感想 313

あなたにおすすめの小説

メイド令嬢は毎日磨いていた石像(救国の英雄)に求婚されていますが、粗大ゴミの回収は明日です

有沢楓花
恋愛
エセル・エヴァット男爵令嬢は、二つの意味で名が知られている。 ひとつめは、金遣いの荒い実家から追い出された可哀想な令嬢として。ふたつめは、何でも綺麗にしてしまう凄腕メイドとして。 高給を求めるエセルの次の職場は、郊外にある老伯爵の汚屋敷。 モノに溢れる家の終活を手伝って欲しいとの依頼だが――彼の偉大な魔法使いのご先祖様が残した、屋敷のガラクタは一筋縄ではいかないものばかり。 高価な絵画は勝手に話し出し、鎧はくすぐったがって身よじるし……ご先祖様の石像は、エセルに求婚までしてくるのだ。 「毎日磨いてくれてありがとう。結婚してほしい」 「石像と結婚できません。それに伯爵は、あなたを魔法資源局の粗大ゴミに申し込み済みです」 そんな時、エセルを後妻に貰いにきた、という男たちが現れて連れ去ろうとし……。 ――かつての救国の英雄は、埃まみれでひとりぼっちなのでした。 この作品は他サイトにも掲載しています。

狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより
恋愛
 侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。  愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。  頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。  公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。

見るに堪えない顔の存在しない王女として、家族に疎まれ続けていたのに私の幸せを願ってくれる人のおかげで、私は安心して笑顔になれます

珠宮さくら
恋愛
ローザンネ国の島国で生まれたアンネリース・ランメルス。彼女には、双子の片割れがいた。何もかも与えてもらえている片割れと何も与えられることのないアンネリース。 そんなアンネリースを育ててくれた乳母とその娘のおかげでローザンネ国で生きることができた。そうでなければ、彼女はとっくに死んでいた。 そんな時に別の国の王太子の婚約者として留学することになったのだが、その条件は仮面を付けた者だった。 ローザンネ国で仮面を付けた者は、見るに堪えない顔をしている証だが、他所の国では真逆に捉えられていた。

【完結】教会で暮らす事になった伯爵令嬢は思いのほか長く滞在するが、幸せを掴みました。

まりぃべる
恋愛
ルクレツィア=コラユータは、伯爵家の一人娘。七歳の時に母にお使いを頼まれて王都の町はずれの教会を訪れ、そのままそこで育った。 理由は、お家騒動のための避難措置である。 八年が経ち、まもなく成人するルクレツィアは運命の岐路に立たされる。 ★違う作品「手の届かない桃色の果実と言われた少女は、廃れた場所を住処とさせられました」での登場人物が出てきます。が、それを読んでいなくても分かる話となっています。 ☆まりぃべるの世界観です。現実世界とは似ていても、違うところが多々あります。 ☆現実世界にも似たような名前や地域名がありますが、全く関係ありません。 ☆植物の効能など、現実世界とは近いけれども異なる場合がありますがまりぃべるの世界観ですので、そこのところご理解いただいた上で読んでいただけると幸いです。

【完結】【番外編追加】お迎えに来てくれた当日にいなくなったお姉様の代わりに嫁ぎます!

まりぃべる
恋愛
私、アリーシャ。 お姉様は、隣国の大国に輿入れ予定でした。 それは、二年前から決まり、準備を着々としてきた。 和平の象徴として、その意味を理解されていたと思っていたのに。 『私、レナードと生活するわ。あとはお願いね!』 そんな置き手紙だけを残して、姉は消えた。 そんな…! ☆★ 書き終わってますので、随時更新していきます。全35話です。 国の名前など、有名な名前(単語)だったと後から気付いたのですが、素敵な響きですのでそのまま使います。現実世界とは全く関係ありません。いつも思いつきで名前を決めてしまいますので…。 読んでいただけたら嬉しいです。

【完結】公爵子息は私のことをずっと好いていたようです

果実果音
恋愛
私はしがない伯爵令嬢だけれど、両親同士が仲が良いということもあって、公爵子息であるラディネリアン・コールズ様と婚約関係にある。 幸い、小さい頃から話があったので、意地悪な元婚約者がいるわけでもなく、普通に婚約関係を続けている。それに、ラディネリアン様の両親はどちらも私を可愛がってくださっているし、幸せな方であると思う。 ただ、どうも好かれているということは無さそうだ。 月に数回ある顔合わせの時でさえ、仏頂面だ。 パーティではなんの関係もない令嬢にだって笑顔を作るのに.....。 これでは、結婚した後は別居かしら。 お父様とお母様はとても仲が良くて、憧れていた。もちろん、ラディネリアン様の両親も。 だから、ちょっと、別居になるのは悲しいかな。なんて、私のわがままかしらね。

姉の厄介さは叔母譲りでしたが、嘘のようにあっさりと私の人生からいなくなりました

珠宮さくら
恋愛
イヴォンヌ・ロカンクールは、自分宛てに届いたものを勝手に開けてしまう姉に悩まされていた。 それも、イヴォンヌの婚約者からの贈り物で、それを阻止しようとする使用人たちが悪戦苦闘しているのを心配して、諦めるしかなくなっていた。 それが日常となってしまい、イヴォンヌの心が疲弊していく一方となっていたところで、そこから目まぐるしく変化していくとは思いもしなかった。

【完結】公爵令嬢の育て方~平民の私が殿下から溺愛されるいわれはないので、ポーション開発に励みます。

buchi
恋愛
ポーシャは、平民の特待生として貴族の学園に入学したが、容貌もパッとしなければ魔力もなさそうと蔑視の対象に。それなのに、入学早々、第二王子のルーカス殿下はポーシャのことを婚約者と呼んで付きまとう。デロ甘・辛辣・溺愛・鈍感コメディ(?)。殿下の一方通行がかわいそう。ポジティブで金儲けに熱心なポーシャは、殿下を無視して自分の道を突き進む。がんばれ、殿下! がんばれ、ポーシャ? 

処理中です...