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21. ドキドキの夜が明けたら
しおりを挟む「……んっ、眩し……」
朝の光が眩しくて目が覚めた。
頭がぼんやりしている。えっと……なんだっけ……?
「はっ! そうだ、私……昨夜……!」
あれだけドキドキして眠れないわ! なんて思っていたのに、気づけば寝入っていた。
そして、今もしっかり私を抱きしめてくれている温もりを思い出す。
手も繋がれているけれど、ユリウス様はずっと私を抱きしめてくれていたみたい。
「温かい……」
そう呟いた時だった。
「ルチア? 起きたの?」
「!」
───旦那様の声!
旦那様、もう起きていたのね!?
「は、はい。起きました! おはようございます」
「おはよう、ルチア」
「!」
身体をグリっと動かして旦那様の方に顔と身体を向ける。
思っていたより旦那様の顔が近くにあったので胸がドキッと大きく跳ねた。
寝起きの旦那様もかっこいい!
ん? …………寝起き……よね?
ちょっとまだ、疲れてる? 昨日も様子がおかしかったからそのせい?
「ルチア?」
「……旦那様、もしかして私のせいで眠っていないのですか?」
「え? ルチアのせい?」
「私が“一晩中、手を握っていて”とお願いしたから、もしかして手を離さないようにって……」
「ル、ルチア?」
旦那様がギョッとした様子で慌てて起き上がると、私も一緒に抱き起こす。
そして、私の両肩を掴むと大真面目な顔で言った。
「違う! そうじゃない」
「違う、ですか?」
「ああ。ただ、俺がルチアの可愛すぎる寝顔に見惚れ、スベスベの肌を堪能していただけだ!」
「みほ……れ? たん……のう?」
よくよく、聞けば変態チックなその発言にも照れてしまい頬が赤くなってしまう。
恋心って恐ろしい……!
「……それより……昨夜はルチアの望みは叶った?」
「はい!」
私が笑顔で答えたら、旦那様が苦笑する。
「それなら、ルチア」
「今すぐでなくてもいい。だけど今度は俺の“お願い”を聞いてくれたら嬉しいんだが」
「旦那様のお願いですか!?」
よくよく考えたら私ばかりが旦那様にお願いを聞いて貰ってしまっている。
私だって旦那様にお願いがあるなら聞きたい!
「勿論です!」
「…………ありがとう…………じゃあ、その時はルチアも寝不足になるかもしれないから、覚悟しておいてくれ」
「……寝不足?」
私が首を傾げつつ聞き返したら旦那様は苦笑した。
旦那様が朝の支度をすると行って部屋から出て行くと入れ替わるようにしてメイド達が入って来た。
「おはようございます、若奥様」
「おはよう。昨夜は呼び付けてごめんなさい」
旦那様の鼻血のシーツは大丈夫だったのかしら?
「いえ、驚きはしました……が」
「まさか、こんな大事な瞬間に呼ばれるとは……と思って駆けつけたら」
「若奥様ではなく、若君が流血……それもまさかの鼻血!」
メイド達が頬を赤らめながら話している。
あんな時間に呼びつけてしまったんだもの。それは困惑もするわよね。
「まさか、若君があそこまで純情だったなんて……!」
「スベスベにやられたのかしら、フリフリにやられたのかしら?」
「両方では?」
「まぁ、期待した分…………そこは堪能したでしょうねぇ」
そう言って今度は意味深な様子でメイド達は頷き顔を見合わせていた。
「……さぁ、若奥様。着替えて朝食に向かいましょう!」
「ええ」
「若奥様、次の機会ではまた別の夜着がありますのでご安心くださいませ」
「別の?」
さすが公爵家! 何でも揃ってる!
「今回のような可愛らしいフリフリから、新婚夫を悩殺する為のスケスケまで各種取り揃えてあります」
「ス! スケスケ……?」
「はい。まぁ、今の旦那様の前でそれを着るのは相当な覚悟が必要かと思われますが……おそらく血の海が……」
「血の海? また、鼻血? そ、それはダメ! 旦那様が倒れちゃう!」
「ええ……昨夜はフリフリにしておいて良かったです」
そんな会話をしながら、着替えて髪を結って貰っている時だった。
鏡を見ていてあれ? と思った。
「……あら?」
「どうかしましたか?」
「いえ……どうして首筋が赤くなっているのかしら? と思って。虫さされ? でも昨日までは無かったと思うのだけど」
私が不思議に思って赤くなっている箇所を指差すと、メイド達が顔を覆ってプルプル震え始めた。
「どうかしたの?」
「い、いえ……な、何でも……」
「若君……」
「?」
何だかほんわかした空気が部屋の中に流れていた。
❋❋❋❋
「───天使がいました」
「……」
「いや、女神かもしれません」
「…………どっちでもいいから、仕事をしてくれないか? ユリウス!」
殿下がものすごく呆れた目で俺を見て来るんだが。
先に話を振ってきたのは殿下の方なんだぞ!
「……今日は寝不足のようだな……なんて声をかけるのでは無かった! 惚気が始まると分かっていたのに……! くっ! コーヒー! 早くコーヒーを持って来い!」
頭を抱えて、何故かコーヒーを求める殿下を見ながら、俺の頭の中はルチアの事ばかり考えていた。
昨夜は色んな意味で刺激的すぎて、俺はなかなか寝付けなかった。
というか多分寝ていない。
ルチアの肌は(申告通り)スベスベでいい匂いがして……触り心地が最高で……
って、違う!
そこも大事だが今気にすべきはそこじゃない。
───まさか、ルチアの可愛い我儘が、誰かと一晩中、隣で寄り添って手を繋いで眠る事だったなんて……!
盛大に勘違いをしてしまったじゃないか! しかも鼻血まで出してしまうという大失態!
ルチアに軽蔑されていないといいのだが……
「……ルチア」
やっぱりガツガツ行かなくて正解だったんだな、と思った。
少しずつ、少しずつ愛情を伝えていって、そうしていつか俺の事を好きになってくれたら嬉しい。
本当の初夜はその時までお預けなのだろう。
ルチアとの可愛い子供も欲しいが一番大事なのはルチアの気持ちだ。
心の追いついていないルチアに無理強いするくらいなら、俺が我慢…………
ただ、昨夜、耐えきれなくなってルチアが寝入った後、少しだけ触れてしまったが……あれくらいなら……
「メイド達が色々と何かを含んだ目で俺を見ていたからな……バレている……」
ルチアの様子は変わらなかったから気付いていないのか、気付いていても意味が分かっていないのか……だが。
お見送りの時にルチアは照れながら最高に可愛い顔で言った。
───旦那様が苦痛でなければ……夜のお部屋はこれからも旦那様と一緒がいいです……
あんな顔をされて言われて頷かないはずがないだろう!
「ワ、ワ、ワ……ワカッタ!」俺が吃りながら答えた時のルチアの嬉しそうな顔。
あの顔が見られるなら、多少の生殺しなど……耐えてみせるとも!
「そうだ……殿下! 俺はこれから毎日寝不足になる予定ですので!」
「ユッ!?!?」
そう宣言したら殿下は盛大にコーヒーを吹き出していた。
✣✣その頃のリデル✣✣
「お父様! ありがとう! とっても素敵なドレスだわ!」
「あ、ああ……」
私はパーティーの為にいつもの倍以上の値段を出して作らせたドレスが手元にやって来てはしゃいでいた。
お父様の顔が引き攣っているのは多分、お金がギリギリ……もしくは借金した可能性があるからかしら?
あれもこれもそれも、ユリウス様がお金を貸してくれなかったからよ!
ついでに、何故かルチアが帰って来ないし!
「お父様、そんな顔をしないで? 私のこの姿を見れば王太子殿下だって一目で夢中になっちゃうんだから!」
「そうだな、リデル」
王太子妃に選ばれれば借金なんて気にしなくてもいいのよ、お父様!
「ところで、お父様。ルチア……いえ、トゥマサール公爵家からは連絡は無い?」
「何の連絡だ?」
「ル、ルチアに関する事……とかかしら?」
あぁ、お父様のこの反応……やっぱり離縁の話は進んでない?
まさか、“夫婦の話し合い”とやらでまた、ユリウス様は絆されてしまったの?
んー、こうなったら少しお父様にも揺さぶりをかけておくべき……?
「…………お父様、実は、言うか悩んだのですけど……私、公爵家を訪ねたでしょう?」
「ああ。ユリウス殿は本当に頑固だったな」
「そこで、ルチアにも会ったのだけど……」
「ルチア?」
あらあらその反応。お父様ったら、本当にルチアに無関心なのねぇ。笑っちゃう!
「あの子、あまり幸せそうではなかったわ。もしかしたら、愛されていないのかも」
「何?」
「…………それでね? ユリウス様は私に見惚れていたの(嘘)」
「リデルに?」
「だから、離縁も時間の問題かも……お父様、ルチアの為に“新しい幸せ”を探してあげた方がいいかもしれないわ」
「だが……せっかくの公爵家との縁が……」
当然だけどお父様は躊躇う。
これも、私が王太子妃に選ばれれば~(以下略)
「そんなの! ルチアの“幸せ”の方が大事でしょう!?」
私は、目に涙を浮かべて妹の結婚生活を心配する姉のフリをして必死に訴えた。
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