【完結】美人な姉と間違って求婚されまして ~望まれない花嫁が愛されて幸せになるまで~

Rohdea

文字の大きさ
21 / 36

ドキドキの夜 ②

しおりを挟む


  私達は同じ屋敷に住んでいる夫婦だけど、部屋は別々だったからこうして旦那様をお出迎えするのはとっても気恥しい。
  旦那様の頬も赤いので、もしかしたら私と同じ気持ち?  なのかもしれないわ。

「ど、どうぞ!」
「ド、ドウモ……オジャマシマス……!」

  ──ん?
  気のせいかしら?  旦那様……なんとなくまた、片言なような……?

「旦那様……?」
「ルチア……」
「……?」

  扉の入口だというのに、旦那様はギュッと私を抱きしめた。
  さすがに私も驚く。

「ど、どうしましたか!?」
「ス、スマナイ……ルチアガメノマエニイルトオモッタラ……ツイ……」
「旦那様……」

  やっぱり変!  旦那様……相当、お疲れなのかも。

「旦那様、お疲れなのですか?」
「……ツカレ、ヨリ……キンチョウ……」
「緊張……!」

  そう言われてよく聞いてみると、旦那様の心臓の音が早い。
  そっか……旦那様も緊張……ドキドキしてくれているのね、そう思うだけで私の胸の中もホッコリしてくる。

「ルチア……ホントウニイイノ?」
「何がですか?」

  本当にいいの?  とは何かしら?
  お誘いしたのは私なのに!
  そう思いながら首を傾げる。
 
「イッシヨニネル……オレハ、ウレシイ」
「私もです!」
「ッ……!」

  私が目を見てそう答えたら、旦那様の顔がもっと真っ赤になった。
  と、思ったと同時に横抱きにされて何故かベッドまで運ばれた。

「だ、旦那様!?  自分で歩けますよ??」
「オヒメサマハ、コウシテハコブモノ……トキイタ」
「お姫様!?  何の話ですか?  誰に聞いたのですか……?」

  急にお姫様だなんて呼ばれてしまい、ますます胸がドキドキする。
  手を繋いで寝るだけのはずなのに“お姫様”?

「デンカ」
「殿下!?  王太子殿下の事ですか?」

  コクっと旦那様が無言で頷く。
  いったい王太子殿下は旦那様に何を吹聴したの!  恥ずかしいわ……!
  ────ドキドキしすぎて、今夜は寝られないかもしれない!
  私はそう思った。

「ルチア……」

  ベッドの上に私をそっと下ろした旦那様がじっと私の目を見つめる。

「旦那様……ありがとうございます」
「?」
「今夜は私の“我儘”を聞いてくれて……夢みたいです」
「ルチア……」
「今日だけじゃないですね。旦那様はずっと……優し」

  そこまで言いかけたら、今度はギュッと抱きしめられた。

「ルチア……」

  いつもの優しく甘い声で名前を呼ばれたと思ったら、熱っぽい目をした旦那様の顔が近付いてきて、チュッと額にキスをされた。

「旦那様!?」
「……ルチア、カワイイ……」

  ますます頬が熱を持つ。
  こんなドキドキの場面で額にキスだなんて!  心臓が大爆発してしまいそうよ!



  私達はしばらく無言で抱きしめあったまま、お互いの温もりを堪能していたけれど、ずっとこうしたまま朝を迎えるわけにはいかない。
  そう思った時、旦那様が動いた。

「ル、ルチア……」
「あ……」

  何故かここで旦那様がそっと私の着ていたガウンを脱がそうと手をかけた。
  そうだわ!  と、メイド達との会話を思い出す。
  
「旦那様……皆さんが今夜はいつもよりお肌をスベスベにしてくれたのです」
「エ!」

  ガウンを脱がそうとしていた旦那様の手がピタッと止まる。

「旦那様が絶対に喜ぶから……と。喜んでくれますか?」
「!!!!」

  旦那様が首がもげてしまうのでは?  というくらい凄い勢いで頷く。
  良かった!  喜んでくれるみたい!
  私は嬉しくなった。

「スベ……スベスベ……ルチア……」

  旦那様は、やっぱりどこか片言に聞こえる気がするセリフを繰り返しながら、止まっていた手を動かし始める。
  私は喜んでくれたのが嬉しくて微笑みながら続ける。

「スベスベにしてもらった後は、とっても可愛い夜着まで用意してくれて」
「…………エッ?」
「ずっと憧れていたんです!  だから私は今、とても……」

  と言いかけた所で、ちょうどガウンが脱がされた。
  ちょっと恥ずかしいけれど旦那様も可愛いと思ってくれたら嬉し……

「え?  旦那様……?」
「ッッッ……カ、カワ……!  ナ……」

  旦那様が私を凝視したまま顔を真っ赤にして、口と鼻を手で押さえながら震えだした。
  大丈夫なのかしら!?

「テ、テンシ……イヤ……メ……メガミ……!?   オレノルチア……」
「?  旦那様、何を言って……?  大丈夫ですか?」
「…………ア!」
「旦那様!」

  ……ポタッ

「ウワッ!」

  様子がおかしいので、心配した私がより旦那様に近付いた所で、なんと旦那様が鼻血を出してしまった。


───


「……旦那様、もしかして、具合よろしくなかったのですか?」
「ち、違う!  むしろ、コレは良すぎた結果だ!!」
「……?  そうなのですか?」

  旦那様が鼻血を出してしまったので、私達は慌ててメイド達を呼んだ。
  メイド達は何事かと慌てて飛んでやって来て、鼻血を流している旦那様を見て、皆「あっ……」と小さな声を上げていた。

  メイド達が寝具の交換をしてくれている間、私達はソファーの上に避難している。
  旦那様は鼻を押さえながら止血していた。
 
「旦那様……鼻血の方はよくなりました?」
「あー…………今も興奮が……いや、うん、まだ、かな……」
「そうなんですね……」

  こんな時に寄り添う事しか出来ない自分が情けない。

「……ル、ルチア!」
「はい」
 
  シュンっと落ち込んだ所で旦那様に声をかけられて顔を上げる。

「似合ってるよ」
「え?」
「その格好……すごくすごくルチアに……似合っている。可愛い」
「旦那様……」

  なんて嬉しい言葉を言ってくれるの?
  可愛いだなんて嬉しいわ!
  
「可愛すぎて……可愛すぎて……興奮……ゴホッ…………その、なんだ?  ぬ、脱がすのが勿体な」
「脱がす?  なぜ、脱ぐのですか?」

  せっかくフリフリしていて可愛いのに、脱がなくちゃいけないの?
  と思って私は首を傾げた。

「え?」
「え?」

  お互い「ん?」という顔をしながら見つめ合う。

「……今日は、手を繋いで眠る事をお願いしていたので……脱ぐ事は考えていなかったです……」
「手っ!?」
「は、はい!  ずっと夢だったんです」

  私が頬を赤く染めながらそう答えると旦那様が急に慌て出す。

「…………ル、ルルルルチアさん」
「……はい?」

  ───ルルルルチアさん?

「こ、今夜は一緒に寝るっていう我儘は……」
「ですから……私のお願いしたかった我儘は、一晩中、隣で寄り添って手を繋いで眠る事なので……」
「……っ!?」

  私がそう答えると、旦那様は目を大きく見開いたままその場で固まった。
  
「て、てててて、手を?」
「そうですけど……?」
「手!  …………な、なら俺……はっっ!!」

  旦那様は鼻血は止まったみたいなのに、ボンッと音がするくらいまた、顔が真っ赤になっていた。



─────


「旦那様の手、あったかいですね」
「…………ソ、ソウカナ?」

  メイド達による寝具の交換を終えた私達は、ようやくベッドに横になった。
  旦那様はお願いした通り、隣に寄り添ってくれて手を繋いでくれた。

「とっても幸せな温もりを感じます……!」
「ルチア……」
  
  すると、何故か旦那様が横になったまま後ろから私を抱きしめる。

「え!?  旦那様!?」
「ルチア……ハダ、スベスベ……キモチイイ」
「あ!」

  こんな体勢で耳元でのその囁きはずるい!
  何だかその触れられた方もドキドキする……

「だ、旦那様……」
「ドウシヨウ……モウ、カワイイシカナイ……!  テンシ……メガミ……ルチア……!」
「??」

  旦那様の(謎の)独り言は続く。
  そうして、お互い眠れないままドキドキの夜は過ぎて行った…………

しおりを挟む
感想 313

あなたにおすすめの小説

メイド令嬢は毎日磨いていた石像(救国の英雄)に求婚されていますが、粗大ゴミの回収は明日です

有沢楓花
恋愛
エセル・エヴァット男爵令嬢は、二つの意味で名が知られている。 ひとつめは、金遣いの荒い実家から追い出された可哀想な令嬢として。ふたつめは、何でも綺麗にしてしまう凄腕メイドとして。 高給を求めるエセルの次の職場は、郊外にある老伯爵の汚屋敷。 モノに溢れる家の終活を手伝って欲しいとの依頼だが――彼の偉大な魔法使いのご先祖様が残した、屋敷のガラクタは一筋縄ではいかないものばかり。 高価な絵画は勝手に話し出し、鎧はくすぐったがって身よじるし……ご先祖様の石像は、エセルに求婚までしてくるのだ。 「毎日磨いてくれてありがとう。結婚してほしい」 「石像と結婚できません。それに伯爵は、あなたを魔法資源局の粗大ゴミに申し込み済みです」 そんな時、エセルを後妻に貰いにきた、という男たちが現れて連れ去ろうとし……。 ――かつての救国の英雄は、埃まみれでひとりぼっちなのでした。 この作品は他サイトにも掲載しています。

狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより
恋愛
 侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。  愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。  頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。  公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。

見るに堪えない顔の存在しない王女として、家族に疎まれ続けていたのに私の幸せを願ってくれる人のおかげで、私は安心して笑顔になれます

珠宮さくら
恋愛
ローザンネ国の島国で生まれたアンネリース・ランメルス。彼女には、双子の片割れがいた。何もかも与えてもらえている片割れと何も与えられることのないアンネリース。 そんなアンネリースを育ててくれた乳母とその娘のおかげでローザンネ国で生きることができた。そうでなければ、彼女はとっくに死んでいた。 そんな時に別の国の王太子の婚約者として留学することになったのだが、その条件は仮面を付けた者だった。 ローザンネ国で仮面を付けた者は、見るに堪えない顔をしている証だが、他所の国では真逆に捉えられていた。

【完結】教会で暮らす事になった伯爵令嬢は思いのほか長く滞在するが、幸せを掴みました。

まりぃべる
恋愛
ルクレツィア=コラユータは、伯爵家の一人娘。七歳の時に母にお使いを頼まれて王都の町はずれの教会を訪れ、そのままそこで育った。 理由は、お家騒動のための避難措置である。 八年が経ち、まもなく成人するルクレツィアは運命の岐路に立たされる。 ★違う作品「手の届かない桃色の果実と言われた少女は、廃れた場所を住処とさせられました」での登場人物が出てきます。が、それを読んでいなくても分かる話となっています。 ☆まりぃべるの世界観です。現実世界とは似ていても、違うところが多々あります。 ☆現実世界にも似たような名前や地域名がありますが、全く関係ありません。 ☆植物の効能など、現実世界とは近いけれども異なる場合がありますがまりぃべるの世界観ですので、そこのところご理解いただいた上で読んでいただけると幸いです。

【完結】【番外編追加】お迎えに来てくれた当日にいなくなったお姉様の代わりに嫁ぎます!

まりぃべる
恋愛
私、アリーシャ。 お姉様は、隣国の大国に輿入れ予定でした。 それは、二年前から決まり、準備を着々としてきた。 和平の象徴として、その意味を理解されていたと思っていたのに。 『私、レナードと生活するわ。あとはお願いね!』 そんな置き手紙だけを残して、姉は消えた。 そんな…! ☆★ 書き終わってますので、随時更新していきます。全35話です。 国の名前など、有名な名前(単語)だったと後から気付いたのですが、素敵な響きですのでそのまま使います。現実世界とは全く関係ありません。いつも思いつきで名前を決めてしまいますので…。 読んでいただけたら嬉しいです。

【完結】公爵子息は私のことをずっと好いていたようです

果実果音
恋愛
私はしがない伯爵令嬢だけれど、両親同士が仲が良いということもあって、公爵子息であるラディネリアン・コールズ様と婚約関係にある。 幸い、小さい頃から話があったので、意地悪な元婚約者がいるわけでもなく、普通に婚約関係を続けている。それに、ラディネリアン様の両親はどちらも私を可愛がってくださっているし、幸せな方であると思う。 ただ、どうも好かれているということは無さそうだ。 月に数回ある顔合わせの時でさえ、仏頂面だ。 パーティではなんの関係もない令嬢にだって笑顔を作るのに.....。 これでは、結婚した後は別居かしら。 お父様とお母様はとても仲が良くて、憧れていた。もちろん、ラディネリアン様の両親も。 だから、ちょっと、別居になるのは悲しいかな。なんて、私のわがままかしらね。

姉の厄介さは叔母譲りでしたが、嘘のようにあっさりと私の人生からいなくなりました

珠宮さくら
恋愛
イヴォンヌ・ロカンクールは、自分宛てに届いたものを勝手に開けてしまう姉に悩まされていた。 それも、イヴォンヌの婚約者からの贈り物で、それを阻止しようとする使用人たちが悪戦苦闘しているのを心配して、諦めるしかなくなっていた。 それが日常となってしまい、イヴォンヌの心が疲弊していく一方となっていたところで、そこから目まぐるしく変化していくとは思いもしなかった。

【完結】公爵令嬢の育て方~平民の私が殿下から溺愛されるいわれはないので、ポーション開発に励みます。

buchi
恋愛
ポーシャは、平民の特待生として貴族の学園に入学したが、容貌もパッとしなければ魔力もなさそうと蔑視の対象に。それなのに、入学早々、第二王子のルーカス殿下はポーシャのことを婚約者と呼んで付きまとう。デロ甘・辛辣・溺愛・鈍感コメディ(?)。殿下の一方通行がかわいそう。ポジティブで金儲けに熱心なポーシャは、殿下を無視して自分の道を突き進む。がんばれ、殿下! がんばれ、ポーシャ? 

処理中です...