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ドキドキの夜 ②
しおりを挟む私達は同じ屋敷に住んでいる夫婦だけど、部屋は別々だったからこうして旦那様をお出迎えするのはとっても気恥しい。
旦那様の頬も赤いので、もしかしたら私と同じ気持ち? なのかもしれないわ。
「ど、どうぞ!」
「ド、ドウモ……オジャマシマス……!」
──ん?
気のせいかしら? 旦那様……なんとなくまた、片言なような……?
「旦那様……?」
「ルチア……」
「……?」
扉の入口だというのに、旦那様はギュッと私を抱きしめた。
さすがに私も驚く。
「ど、どうしましたか!?」
「ス、スマナイ……ルチアガメノマエニイルトオモッタラ……ツイ……」
「旦那様……」
やっぱり変! 旦那様……相当、お疲れなのかも。
「旦那様、お疲れなのですか?」
「……ツカレ、ヨリ……キンチョウ……」
「緊張……!」
そう言われてよく聞いてみると、旦那様の心臓の音が早い。
そっか……旦那様も緊張……ドキドキしてくれているのね、そう思うだけで私の胸の中もホッコリしてくる。
「ルチア……ホントウニイイノ?」
「何がですか?」
本当にいいの? とは何かしら?
お誘いしたのは私なのに!
そう思いながら首を傾げる。
「イッシヨニネル……オレハ、ウレシイ」
「私もです!」
「ッ……!」
私が目を見てそう答えたら、旦那様の顔がもっと真っ赤になった。
と、思ったと同時に横抱きにされて何故かベッドまで運ばれた。
「だ、旦那様!? 自分で歩けますよ??」
「オヒメサマハ、コウシテハコブモノ……トキイタ」
「お姫様!? 何の話ですか? 誰に聞いたのですか……?」
急にお姫様だなんて呼ばれてしまい、ますます胸がドキドキする。
手を繋いで寝るだけのはずなのに“お姫様”?
「デンカ」
「殿下!? 王太子殿下の事ですか?」
コクっと旦那様が無言で頷く。
いったい王太子殿下は旦那様に何を吹聴したの! 恥ずかしいわ……!
────ドキドキしすぎて、今夜は寝られないかもしれない!
私はそう思った。
「ルチア……」
ベッドの上に私をそっと下ろした旦那様がじっと私の目を見つめる。
「旦那様……ありがとうございます」
「?」
「今夜は私の“我儘”を聞いてくれて……夢みたいです」
「ルチア……」
「今日だけじゃないですね。旦那様はずっと……優し」
そこまで言いかけたら、今度はギュッと抱きしめられた。
「ルチア……」
いつもの優しく甘い声で名前を呼ばれたと思ったら、熱っぽい目をした旦那様の顔が近付いてきて、チュッと額にキスをされた。
「旦那様!?」
「……ルチア、カワイイ……」
ますます頬が熱を持つ。
こんなドキドキの場面で額にキスだなんて! 心臓が大爆発してしまいそうよ!
私達はしばらく無言で抱きしめあったまま、お互いの温もりを堪能していたけれど、ずっとこうしたまま朝を迎えるわけにはいかない。
そう思った時、旦那様が動いた。
「ル、ルチア……」
「あ……」
何故かここで旦那様がそっと私の着ていたガウンを脱がそうと手をかけた。
そうだわ! と、メイド達との会話を思い出す。
「旦那様……皆さんが今夜はいつもよりお肌をスベスベにしてくれたのです」
「エ!」
ガウンを脱がそうとしていた旦那様の手がピタッと止まる。
「旦那様が絶対に喜ぶから……と。喜んでくれますか?」
「!!!!」
旦那様が首がもげてしまうのでは? というくらい凄い勢いで頷く。
良かった! 喜んでくれるみたい!
私は嬉しくなった。
「スベ……スベスベ……ルチア……」
旦那様は、やっぱりどこか片言に聞こえる気がするセリフを繰り返しながら、止まっていた手を動かし始める。
私は喜んでくれたのが嬉しくて微笑みながら続ける。
「スベスベにしてもらった後は、とっても可愛い夜着まで用意してくれて」
「…………エッ?」
「ずっと憧れていたんです! だから私は今、とても……」
と言いかけた所で、ちょうどガウンが脱がされた。
ちょっと恥ずかしいけれど旦那様も可愛いと思ってくれたら嬉し……
「え? 旦那様……?」
「ッッッ……カ、カワ……! ナ……」
旦那様が私を凝視したまま顔を真っ赤にして、口と鼻を手で押さえながら震えだした。
大丈夫なのかしら!?
「テ、テンシ……イヤ……メ……メガミ……!? オレノルチア……」
「? 旦那様、何を言って……? 大丈夫ですか?」
「…………ア!」
「旦那様!」
……ポタッ
「ウワッ!」
様子がおかしいので、心配した私がより旦那様に近付いた所で、なんと旦那様が鼻血を出してしまった。
───
「……旦那様、もしかして、具合よろしくなかったのですか?」
「ち、違う! むしろ、コレは良すぎた結果だ!!」
「……? そうなのですか?」
旦那様が鼻血を出してしまったので、私達は慌ててメイド達を呼んだ。
メイド達は何事かと慌てて飛んでやって来て、鼻血を流している旦那様を見て、皆「あっ……」と小さな声を上げていた。
メイド達が寝具の交換をしてくれている間、私達はソファーの上に避難している。
旦那様は鼻を押さえながら止血していた。
「旦那様……鼻血の方はよくなりました?」
「あー…………今も興奮が……いや、うん、まだ、かな……」
「そうなんですね……」
こんな時に寄り添う事しか出来ない自分が情けない。
「……ル、ルチア!」
「はい」
シュンっと落ち込んだ所で旦那様に声をかけられて顔を上げる。
「似合ってるよ」
「え?」
「その格好……すごくすごくルチアに……似合っている。可愛い」
「旦那様……」
なんて嬉しい言葉を言ってくれるの?
可愛いだなんて嬉しいわ!
「可愛すぎて……可愛すぎて……興奮……ゴホッ…………その、なんだ? ぬ、脱がすのが勿体な」
「脱がす? なぜ、脱ぐのですか?」
せっかくフリフリしていて可愛いのに、脱がなくちゃいけないの?
と思って私は首を傾げた。
「え?」
「え?」
お互い「ん?」という顔をしながら見つめ合う。
「……今日は、手を繋いで眠る事をお願いしていたので……脱ぐ事は考えていなかったです……」
「手っ!?」
「は、はい! ずっと夢だったんです」
私が頬を赤く染めながらそう答えると旦那様が急に慌て出す。
「…………ル、ルルルルチアさん」
「……はい?」
───ルルルルチアさん?
「こ、今夜は一緒に寝るっていう我儘は……」
「ですから……私のお願いしたかった我儘は、一晩中、隣で寄り添って手を繋いで眠る事なので……」
「……っ!?」
私がそう答えると、旦那様は目を大きく見開いたままその場で固まった。
「て、てててて、手を?」
「そうですけど……?」
「手! …………な、なら俺……はっっ!!」
旦那様は鼻血は止まったみたいなのに、ボンッと音がするくらいまた、顔が真っ赤になっていた。
─────
「旦那様の手、あったかいですね」
「…………ソ、ソウカナ?」
メイド達による寝具の交換を終えた私達は、ようやくベッドに横になった。
旦那様はお願いした通り、隣に寄り添ってくれて手を繋いでくれた。
「とっても幸せな温もりを感じます……!」
「ルチア……」
すると、何故か旦那様が横になったまま後ろから私を抱きしめる。
「え!? 旦那様!?」
「ルチア……ハダ、スベスベ……キモチイイ」
「あ!」
こんな体勢で耳元でのその囁きはずるい!
何だかその触れられた方もドキドキする……
「だ、旦那様……」
「ドウシヨウ……モウ、カワイイシカナイ……! テンシ……メガミ……ルチア……!」
「??」
旦那様の(謎の)独り言は続く。
そうして、お互い眠れないままドキドキの夜は過ぎて行った…………
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