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20. ドキドキの夜 ①
❋❋❋
一人になって、ようやく心が落ち着いた私はふと思う。
───こ、こ、今夜! 私と一緒に寝て下さい!!
「…………すっごく、大胆な事を口にしてしまった気がするわ」
いくら、我儘を言ってもいいよ? と言ってくれていてもさすがに旦那様も驚いたはず。
と、いうより、多分驚いていたわ。
「……旦那様、挙動不審な動きだったもの」
私の今夜~発言の後、目を開けると(やっぱり)ベッドからずり落ちていた旦那様は起き上がるなり、私を見て「ほ、本気?」と、聞いてきたので私はしっかり頷いた。
すると、旦那様のほんのり赤かった顔がさらに赤くなり……
「ワ、ワカッタ! コ、コンヤハ、イッショニネマショウ! ヨ、ヨルニヘヤヲタズネマス、デハ!」
「え、あ、旦那様……」
旦那様は、何故か片言の言葉を残して慌てて部屋を出て行った。
お姉様が帰ったら王宮に行くとは聞いていたけれど……そんなに急がないといけない時間だったのかしら?
その際、旦那様は手足の動きもぎこちなくて、なんなら出口で一回転んでもいた。
あんなおかしな様子の旦那様、初めて見たので少し心配……
「やっぱり我儘はダメだった……? でも私……誰かと一晩中、隣で寄り添って手を繋いで眠ってみたかったんだもの……」
────その相手は……誰かじゃなくて相手は旦那様が良いと思ったの。
❋❋❋❋
「───妻が可愛い」
俺はリデルに関する報告をまとめ、殿下の元を訪ねた。
リデルの訪問の連絡を受けた後に相談をしたら、帰ったら報告に来いと言われていたからだ。
「……その報告は求めていない」
「そうかもしれませんが……妻が! ルチアが! とにかく可愛いんです……!」
どこか呆れた視線を寄越す殿下だけど、俺のルチアへの気持ちは今にも爆殺しそうだ。
「いや、だからーー……」
「性格? 仕草? 見た目? ルチアはどれも素晴らしいですが……強いて言うなら……もう、存在そのものが可愛い!」
「いや、だからな……」
そんなルチアから夜のお誘い?
思わずベッドから転がり落ちる程の勢いで驚いてしまった。
その後の自分の行動はうろ覚えだが(何故か身体が痛い)
……今夜、部屋を訪ねる約束はした……!
ルチアの気持ちが追いつかないだろうからと、ずっと寝室は別のままで過ごしていたが……
今夜を機に今後は部屋を一緒にしてもいいかもしれない。
「あんな最低な奴らに囲まれていたのに、どこをどうしたらあんなに清らかに育つのだろうか……」
「知らん! いいから早く報……」
「殿下……今度のパーティーでルチアを紹介しますが、くれぐれも一目惚れなどしないよう……」
「誰がするか! 分かっているから早く報告をしてくれ! 口の中が甘い! ジャリジャリする!」
もっと、可愛いルチアの事を語りたいのに残念だ。
「あれ? そういえば、今日の飲み物はコーヒーなのですか?」
「ああ……」
仕方が無いので、リデルの報告をしようとしたら、殿下の飲み物がいつものお茶でない事に気付いた。
これは珍しい。
殿下は茶葉にこだわっていたはずだが?
「……最近、お前といるとコーヒーが飲みたくて仕方が無いんだ」
「はぁ。そうなのですか……」
よく分からないがそうなのか。
俺がそう返事を返したら、何か言いたげな様子のジロっとした目で見られた。
何なんだ!?
そして、コーヒーの香りが漂う中、報告は行われた。
「……嘘泣きだと?」
「盛大な一人芝居を見せられました……」
途中からルチアに夢中だったので、ぼんやりしているが。
あの数々の発言、嘘の涙、あれだけでこれまでのルチアがどんな目にあって来たかは自ずと分かる。
───お…………お姉様の話は…………全てデタラメです
───全部、私には身に覚えの無い作り話……です。騙されないで……ください
必死で信じて欲しいと訴えて来たルチア。
あれは、かつて誰かに訴えても信じて貰えなかった過去を持つ顔と目だった。
「……ルチアの人となりを見ていれば、すぐに分かるだろうに。見る目の無いやつばかりだ」
「何か言ったか?」
「いえ……続けます。リデルのあの嘘泣きは年季が入っていました。おそらくこれまでもたくさん披露してきたと思われます」
「なんて面倒な……」
殿下が苦々しい顔をした。
「……パーティーでも披露するかもしれませんね」
「…………」
殿下は特に答えず、無言でカップのコーヒーを飲む。
とっても苦そうな顔をしていた。
何故、そんなにも皆、リデルに騙される?
顔が美しいという武器だけでよくもまぁ、ここまで……とある意味感心する。
それに、どう考えてもルチアの方が美しい。
「それから、俺の愛する妻の名を騙ったのは、“ルチア”の命令だったそうで」
「どういう意味だ?」
「リデルは、妹の……俺の妻のルチアに強要された被害者なんだそうですよ」
「……被害者というならお前の妻の方だろうに」
リデルがこんな事をする理由は当然、ルチアへの嫌がらせだろう。
ルチアと名乗ったリデルの行動一つ一つがルチアの評判となるからな。
「殿下、パーティーではどういう対応するか決めましたか?」
「……」
「リデルの狙いはあなたの妻の座ですよ?」
殿下を好きなのか“王太子妃”という地位に目が眩んでるだけなのかは、正直よく分からない。
「婚約者候補は決まったのですか?」
「いや……まだだ」
殿下が渋い顔をした。
この様子はまだ決まっていない。
「意外ですね、辞退せずに残った令嬢の中から身分や政治的なバランスを考えて選ぶとばかり思っていましたが?」
「そのつもり……だったのだが……」
「?」
殿下が、何かを言いにくそうにしている。
なんだ?
「毎日、毎日、ユリウスの話を聞いていて思ってしまったんだ」
「何をですか?」
俺の話? 可愛いルチアの事しか語ってないが?
すると、殿下は少し照れくさそうに言った。
「自分も、ユリウスにとってのルチア嬢のような存在を見つけてみたい……と」
「え!」
「“妃が可愛い”と惚気けてみたい」
「……」
俺はしまった、と思った。
…………殿下の持っていたロマンチスト部分の扉を開けてしまったかもしれない!
❋❋❋❋
「若奥様! お肌はスベスベにしておきましょう!」
「え、何故?」
「もちろん! その方が若君もお喜びになるからです!」
夜、いつもの入浴のはずなのに念入りに身体を磨かれた。
「だ、旦那様が? 本当に喜んでくれるの?」
「当然です!」
手を繋いで寝るだけなのに? とも思ったけれど、私よりも年上で人生経験豊富で旦那様との付き合いも長いメイド達が言うならそうなのだと思う。
旦那様が喜んでくれるなら……と、私は気合いを入れてスベスベにしてもらった。
「え? あら? 身につける夜着もいつもと違うのね?」
いつもは使われている生地こそ最高級の物だけど、デザインは至ってシンプル。
私はそんな夜着を着ていた。
でも、今日用意されたのは……
「フ……フリル! リボンまで!?」
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「…………すごいわ。一度でいいから、こういうの着てみたかったの……」
私はフリフリした可愛い夜着をギュッと抱きしめる。
公爵家での生活は、昔、望んで手に入らないと諦めてきたものがたくさんある。
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私が嬉しくて微笑みながらそう呟いたらメイド達が顔を赤くして私を見ていた。
「どうかした?」
「……いえ、若奥様……その微笑みは……ぜひ、若君の前でお願いします」
「え?」
「絶対に、興奮…………いえ、お喜びになりますから!」
「……? よく分からないけど、分かったわ!」
旦那様が喜んでくれるなら!
…………私はますます気合を入れた。
そして────
寝支度を終えてソワソワしながら部屋で待っていると、
コンコンという扉のノックの音と共に……
「ルチア……」
「旦那様!」
旦那様が私の部屋を訪ねて来た。
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*** ***
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※小説家になろう様にも掲載しています。