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7. 調子が狂う
しおりを挟む「親友の……」
「そうだ!」
エドゥアルト様は大きく頷いた。
「……」
……幼少期、そこに居るだけで怖いと泣き叫ばれ、友達になりたくて声をかけようとしても秒で逃げられた結果、友人という存在が皆無の私にとっては上級で憧れの響き……
(それが親友……!)
「親友って存在は…………夢物語ではなかったのですね」
「ん? 君は何を言っているんだ?」
そう呟いた私にエドゥアルト様が首を傾げる。
「……いえ。お恥ずかしながら、わたくしには親友どころか友人すらおりませんので……羨ましい響きだなと思いました」
「なに!? 友人がいない?」
「はい……」
驚いた様子のエドゥアルト様に向かって頷いた時だった。
「───あうあ!」
「ん? どうしたジョシュア?」
突然ジョシュアくんが手足をパタパタさせて強く何かを訴えてくる。
「な、なにかしら?」
ジョシュアくんは私を見ながら懸命に訴えてくる。
「あうあ、あうあ!」
「なに? こんなにも綺麗で美しく優しいお姉さんに友人がいないなんてボクには信じられません?」
「あうあ!」
「ふむ。みんな見る目がないですね、か……」
「え、ジョシュアくん!? あなた何を言ってるの!?」
エドゥアルト様によるジョシュアくんの通訳(?)の内容にギョッとした。
「あうあ!」
ニパッ!
私の呼び掛けにいい笑顔を見せるジョシュアくん。
「はっはっは! これは奇遇だなジョシュア。僕もそう思った所だったぞ!」
「あうあ!」
エドゥアルト様とジョシュアくんがお互いの顔をじっと見つめあった後、コクリと頷き合う。
私は心が通じ合ったそんな二人の姿を呆然と見つめることしか出来ない。
(い、いったいこの二人には私がどんな人間に見えているの……)
「あ、あのね? ジョシュアくん!」
「あうあ!」
「わたくしのこの顔をよーーくご覧になって? 何か思うことがあるでしょう? それこそがわたくしに友人がいない理由ですのよ!」
私はジョシュアくんの手をキュッと握って強く訴える。
ジョシュアくんがじーっと私の顔を見つめてきたので私たちの目が合う。
しばらくして、ジョシュアくんはニパッと笑った。
「あうあ!」
「───お姉さん、美しいです! はっはっはっ! そうだな! 僕もそう思うぞ、ジョシュア!」
「あうあ!」
「ふむ───ボク、分かりました? 皆はお姉さんのその美しさに嫉妬しているんですね!? ───なるほどな。それは一理あるな、ジョシュア!」
二人の会話(?)にガクッと私の肩の力が抜けた。
どうしてそうなる?
いや、でもよく考えたら……
「ち、違いますわ。それにジョシュアくんはまだベビーですから……きっと“美人”という概念を勘違いし────」
「いいや? ウッドワード嬢。ジョシュアの女性を見る目はかなり肥えているぞ?」
「え?」
私が言い終わる前にエドゥアルト様が強く否定する。
「なぁ、ジョシュア?」
「あうあ!」
ニパッ!
ジョシュアくんはキャッキャと笑いながら手をパタパタさせる。
「あうあ! あうあ! あうあ~」
「ボクのおばあ様はとても強くて逞しくて美しい方ですし、ボクのおかあさまはいつ見ても天使なのですから! ……と言っている」
「……は、い?」
「あうあ!」
ニパッ!
私とジョシュアくんの目が合う。
「そんなボクのおばあさま、おかあさまと同じくらいお姉さんは美しいです? はっはっはっ! あの二人と並べるとはな。さすがジョシュアだ!」
「あうあ!」
ジョシュアくんはニパッと笑う。
この子……私を怖がらないどころか家族と同列に並べてくれちゃったわ!?
「僕も同感だ、ジョシュア!」
「……エドゥアルト様まで! なんてことを言っ……」
「いいや!」
ズイッと鼻メガネ(髭付き)の顔がじーっと私の顔を見つめてくる。
「それに───君の瞳は強い!」
「え? つよ……い、ですか?」
そんなこと初めて言われて戸惑ってしまう。
「ああ、とても意思の強そうな瞳だ。そして綺麗な色をしている! なあ、ジョシュアもそう思うだろう?」
「あうあ~!」
ニパッ!
ジョシュアくんはエドゥアルト様の言葉に同意するように手を上げて笑った。
「~~~~っ!」
(怖い、冷たい……じゃなくて強い……?)
私は恥ずかしくなってしまい言葉を失う。
そして何より瞳の色にまで言及されたのは初めてのことだった。
(こ、こんな小さなベビーと不審者みたいな格好をしてる人に……心を動かされるなんて!)
「あうあ!」
ニパッ!
「ん? そうか! ジョシュア、君はウッドワード嬢が気に入ったのか!」
「え?」
「あうあ!」
ニパッ!
「綺麗なお姉さんは大好きですから? はっはっはっ! ジョエルの子とは思えない発言だ」
エドゥアルト様が陽気に笑い飛ばす。
(ジョエルって──ジョシュアくんのお父様よね?)
“ジョエル・ギルモア”という名はどこかで聞いたような気がしたけれどすぐには思い出せなかった。
(本当に調子が狂う二人だわ……)
「───むっ! いけない。そろそろジョシュアを連れて会場に行かねば」
「あうあ!」
ここでさすがのエドゥアルト様もパーティーのことを気にしたのか慌て出した。
(一度も顔を出していなかったものねぇ)
その格好で行くつもりなの? とは思うけれど。
でも、きっとこの格好には何か深い理由や事情があるに違いない。
「えっと、会場に行かれるのですか?」
「ああ」
頷くエドゥアルト様の表情はとても深刻そう。
「そうしないと…………ジョエルの眉間の皺が増えて大変なことになってしまう!」
「あうあ!」
(───は?)
空耳かと思った。
「……みみみ眉間……の皺ですか?」
思わず聞き返したらエドゥアルト様が大きく頷いた。
「ああ。ジョエルはとても心配性なんだ」
「心配性……」
なるほど、と思った。
(息子さんがこんなやんちゃなベビーなんだもの……心配になるわよね)
「あうあ!」
「今頃、僕とジョシュアの登場が遅いから迷子かもしれん……と心配して眉間の皺を深くしていることだろう……」
「あうあ!」
ニパッ!
何故か満面の笑みで頷くジョシュアくん。
私はあれ? と思って訊ねる。
「登場が遅いなと心配する? もしかしてジョシュアくんとエドゥアルト様は一緒にパーティーに入場する予定だったのですか?」
「ああ」
「あうあ!」
エドゥアルト様とジョシュアくんが同時に頷く。
「僕がこの格好でジョシュアを抱いて入場するという算段だったのさ!」
「あうあ!」
「しかし、入場寸前でジョシュアがするりと僕の手から脱走した!」
「あうあ!」
「僕は追いかけた! ────そして今に至るというわけだ!」
はっはっはっ! と笑うエドゥアルト様。
この不審者極まりない格好と微笑みベビーの組み合わせで入場……?
それはいったいどんな目的で───?
ものすごく理由が気になった。
きっとなにかとんでもなく深い深い理由が───……
私はゴクリと唾を飲み込む。
「で、ではエドゥアルト様、あなたのその格好、それは……」
「ん?」
「なにか理由、があるのですか?」
「ああ…………もちろんだとも。その理由は───」
(やっぱり深い理由が───!)
エドゥアルト様はしばしの沈黙の後……はっはっはっ! と再び陽気に笑い出す。
そして最後に一言。
「楽しいからだ!」
「あうあ~!」
(───……は?)
私はパチパチ目を瞬かせる。
深い理由なんて全然無かった!
そう理解した私はガクッと膝から崩れ落ちそうになった。
「────それで、またしても大きく話が逸れたが」
「え?」
それから、どうにか立ち直って私もエドゥアルト様とジョシュアくんと三人で会場に戻ることにした。
そして、さすがこの家の住人。
エドゥアルト様の足取りは迷うことなく会場へと向かっている。
(本当の本当にこの方、コックス公爵家の令息なんだわ……)
「ウッドワード嬢、ジョシュアを確保してくれた君へのお礼は何がいいだろうか」
「あ……」
そうだった。
その話から随分と話が逸れてしまった。
「なんでも構わないぞ?」
「なんでも……」
私は考え込む。
それならば私の事情を話して是非ともエドゥアルト様には私の協力者に───……
「たとえば、一日ジョシュアと遊び放題の権利とかはどうだ?」
「あうあ!」
ニパッ!
「おお、ジョシュア、君は乗り気のようだな?」
「あうあ!」
(ん?)
「もしくは、一日ジョシュアと美味い物を巡り放題する権利……」
「あうあ!」
「ん? なに? 残念ながらボクはまだミルクなのです? そうだったか、まだ早かったな……失敬した」
(んん?)
「あとは何だろうか……」
───……なんだか想定と違う方向のお礼内容で話が進もうとしている。
「……っ」
(いいえ! こんな大チャンス、逃してたまるものですか!)
思わず挫けそうになったけれど私は顔を上げる。
「エ! エドゥアルト様!」
「どうした? ああ! ジョシュアと一日物置巡りの旅をする権利でも良さそうだな!」
「あうあ~!」
ニパッ!
ジョシュアくんがとても嬉しそうに手を叩く。
(どうして? どうして全部、ジョシュアくん関連一択なの……)
ちょっと楽しそうとか思ってしまった。
けれど、今の私にはもっと大事なことがある!
「───そ、そうではなく! エ、エドゥアルト様にお願いがあります!!」
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