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8. お願いしてみた
しおりを挟む「ん? 僕に?」
「は、はい! ぜひ、エドゥアルト様に……」
「あうあ!」
「……お願いしたいことが」
「あうあ!」
「あっ……」
「あうあ!」
エドゥアルト様に話している最中からものすごく強い圧を下から感じた。
私はそうっと視線を下に落とす。
「あうあ!」
私と目が合うなりニパッ! と、笑うジョシュアくん。
すでに散々見てきたニパッ! という可愛い笑顔のはずなのに……
「あうあ!」
「……」
「あうあ!」
「……っ」
「あうあ!」
「……ジョシュア、くん?」
「あうあ!!」
今も、ニパッ! ニパッ! ニパッ! ニパッ!! と可愛く笑っているはずなのに……
(これ、なんでお願いは僕にしないのですか! って怒っているような───)
「……ウッドワード嬢」
「は、はい!」
ジョシュアくんから感じる謎の圧に戸惑っていたらエドゥアルト様が私に声をかける。
「ジョシュアのおすすめは、ボクと一日物置巡りの旅です、だそうだが本当にジョシュアではなく、僕へのお願いでいいのか?」
「物置巡り……つまり、ジョシュアくんはわたくしと追いかけっこがしたいのでしょうか?」
私は再度、ジョシュアくんの顔を見る。
「あうあ!」
ニパッ!
最高に可愛い笑顔で返された。
「……くっ」
あまりの可愛さに心がぐらついて一瞬で負けそうになる。
しかし、私は耐えた。
「……ジョシュアくん! わたくしも出来ることならあなたと一日中遊べる権利が欲しいところですわ!」
「あうあ!」
「しかし、そのためにも───まず、私にはやらなければならないことがあるのです!」
私は真剣な顔でジョシュアくんの両手をキュッと握りしめる。
「あうあ!」
「ん? なんだ、ジョシュア?」
「あうあ! あうあ! あうあ!」
ジョシュアくんがエドゥアルト様に視線を向けると何かを訴えるように手足をパタパタさせる。
「なに? ……僕にさっさとお姉さんのお願いを聞いてくださいだと? そしてお姉さんはボクと遊ぶです? 全く……ジョシュアはせっかちだな」
「あうあ!」
「さあ! 早く! 早くです? ──分かったから落ち着くんだジョシュア! 君が今、暴れて僕の腕の中から落下したらお願いどころの話ではなくなるんだぞ!」
「あうあ!」
エドゥアルト様のその言葉でジョシュアくんはパタパタしていた手足をピタッと止める。
そしてニパッ! と笑った。
(こ…………この子)
…………やはり私はとんでもないベビーに出会った気がする。
「よし、それでは話を聞こう。僕にお願いとはなんだ?」
「あうあ!」
「は、はい。実は、わたくしには今、婚約者がおりまして……」
気を取り直して私はエドゥアルト様に向かって説明を始める。
「婚約者?」
「あうあ!」
「はい。ですが……その婚約者に可愛くて病弱な義妹が出来たことから────」
────
「あうあ!」
「つまり────そのどこからどう見ても聞いても、婚約者の君を蔑ろにし、血の繋がらない妹に並々ならぬ気持ち悪いほどの浮気心を抱いているのに一切それを認めようとしない往生際の悪い金目当ての最低男と別れるために、君には次の婚約者となれる存在が必要、ということか?」
「あうあ!」
「は、はい!」
エドゥアルト様が色々と脚色しながら要約してくれた。
「……とりあえず、婚約解消のサインさえ貰えればいいので、婚約者候補はフリだけでも構わないのです。しかし、その彼が敗北を認めるための新しい相手の条件が面倒なのですわ」
「あうあ!」
エドゥアルト様は、ふむ……と考え込んだ。
「自分より“格上”を連れてこい、などという言葉を使うあたり相当自分に自信がある勘違いの激しい男のようだな」
「あうあ!」
「ウッドワード嬢、すまないが君の婚約しているカスみたいな男はどこの誰なんだ?」
「あうあ!」
(……さっきからジョシュアくんの相槌がすごい!)
「えっと、ジェローム・ニコルソン……ニコルソン侯爵家の嫡男です」
「なるほど……侯爵家なのか」
「あうあ!」
エドゥアルト様は大きく頷く。
「僕に話を持って来た理由はそれか。それなら確かにこの僕以上に条件を満たせる男はなかなか存在しな───」
「あうあ! あうあ! あうあ!!」
(ん?)
ここでそれまでニパッと笑顔で相槌を打ちまくっていたジョシュアくんが突然暴れだした。
「どうした、ジョシュア? そのカス男の存在が許せないのか?」
「あうあ! あうあ!」
「…………なに?」
「あうあ!」
ジョシュアくんはエドゥアルト様に何かを懸命に訴えている。
「待て、ジョシュア。それはそうなのだが……」
「あうあ!」
「いやいやいや、落ち着いて冷静になれ。君は今、何才だ?」
「あうあ!」
「そうだ、0才のベビーだ」
「あうあ!」
いったいなんの話をしているのかしらと首を傾げる。
「あの……?」
「あうあ!」
私が声をかけるとジョシュアくんがニパッと満面の笑みを浮かべた。
「ジョシュアくん?」
「あうあ!」
「ジョシュア! だから年の差、年の差を考えるんだ! さすがのジョエルも驚くぞ!」
「あうあ!」
(んん?)
私はまさか……と思い、チラッとエドゥアルト様の顔を見る。
私の視線を受けたエドゥアルト様は、はっはっはっ! と陽気に笑った。
「君は察しがいいな! そうだ。ジョシュアは、それならボクも条件に当てはまるです! ───と言って暴れていた」
「ジョシュアくん……」
「────あうあ!」
「だってボクはこう見えても立派なギルモア侯爵家の令息ですから! ───と胸を張っている」
ニパッ!
(……侯爵令息!)
ギルモア家は侯爵家!
それなら確かに、ジョシュアくんも身分に関してはばっちり条件を満たしている……
しかし───
「あうあ!」
ニパッ!
ジョシュアくんはどう? って顔で私を見てくる。
その可愛さに思わずふふっと笑ってしまった。
「……ありがとうございます、ジョシュアくん」
「あうあ!」
「ですが、そうですわね……少々、わたくしたちの間には越えられない年の差というものが存在しますの」
「あうあ!」
今回の話、うんっと年上の人に協力を求める可能性は考えていた。
けれど、まさかうんっと年下、まさか0才のベビーがお相手になることまでは考えていなかったわ……
(だめ……ジェローム様が鼻で笑う場面が想像出来てしまう!)
「ジョシュアくん。あなたはとってもとっても魅力的な方なのですけれど……」
(むしろ、魅力の塊と言っても過言ではありませんわ)
ニパッ!
「あうあ!」
「しかし……あの男相手ですと、付け入れられるような隙を見せてはダメなんですのよ……」
「あうあ!」
「ふむ────そんなめんどくさい男は踏み潰すか埋めるかしちゃえばいいです、か。ジョシュアの言う通りだな」
(踏み潰す……う、埋める!?)
ジョシュアくんが笑顔でとんでもないことを言い出した!
「あうあ!」
「ボクのお祖父さまならきっと埋めてくれるです? はっはっはっ! なるほど、ガーネット様が踏み潰してジョルジュ様がそいつを庭に埋めるのか!」
「あうあ~!」
(ええ~!?)
新しい人物の名前が登場したことよりも潰して埋める───
その物騒な計画の方が気になって仕方がない。
ジョシュアくんの家、ギルモア侯爵家のことが無性に気になった。
「───あの!」
「ん?」
「あうあ!」
「ジェローム……彼のことを踏み潰すのはわたくしが自分でやりますから心配には及びません。ですが──」
「───ウッドワード嬢!」
「あうあ!!」
「…………えっ!?」
さすがに埋めるのはどうかと思う……
そう言いたかったのになぜか、二人がグイグイ詰め寄ってくる。
「…………君は人を踏んだことがあるのか!」
「あうあ!」
「……は、い?」
二人が何に興奮しているのか私にはさっぱり分からない。
特にエドゥアルト様。
鼻メガネのせいで彼の顔はよく分からないけど、メガネの奥の目がキラリと輝いている気がする。
「え、ま、まあ……コホッ、お恥ずかしながら……興奮した時に父親の背中を踏みつけてしまったことなら何度か……」
「あうあ!」
「───ああ、そうだな。ジョシュア!」
(……な、に?)
嘘をつくのは嫌だったので、引かれる覚悟で正直に話したのだけど二人の反応がおかしい。
「あうあ!」
「ああ、ジョシュア!」
「あうあ!」
「そうだな、なんと他にもいたぞ、ジョシュア!」
「あうあ!」
エドゥアルト様は、はっはっはっ! と陽気に笑ってジョシュアくんを高い高いしながら、その場でクルクル回り出した。
ジョシュアくんもにっこにこな笑顔でキャッキャしている。
(えーーーー?)
珍妙なカツラを被った髭付き鼻メガネを装着した男性が天使のようなベビーとキャッキャウフフと戯れる……
まさか、私の人生でこんな光景を目撃することになるなんて夢にも思わなかった。
「……はっ! すまない。ウッドワード嬢。ついジョシュアと共に興奮してしまった」
ジョシュアくんをパートナーにして、一通りのステップを華麗に踏み終えたエドゥアルト様が我に返って戻って来た。
「あうあ!」
「いえ……わたくしは大丈夫なのですが」
(どちらかというと、あなたたちの方が心配でしてよ……)
「コホンッ、それでだな。君のその頼みなのだが……」
「は、はい!」
きっと難しいわよね。
エドゥアルト様はこれまでの人生で私が出会った方々とは明らかに違うタイプの方だと確信しているけれど、冷静に考えればこれはお礼の範疇を超えている……
(そうね、それならお礼はジョシュアくんとの一日────)
「僕は君のその話に協力するとしよう! レテイーシャ・ウッドワード嬢!」
「あうあ~~!」
(…………へ?)
確かにお礼の代わりとして話を持ち出して頼んだのは私。
けれど、予想外の返事があっさりと戻って来た。
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