【完結】記念日当日、婚約者に可愛くて病弱な義妹の方が大切だと告げられましたので

Rohdea

文字の大きさ
16 / 46

16. ダブルデート(ベビー付き)~追いかけっこ~

しおりを挟む


「……ジョシュアくん」

 せめて、せめてお得意の「あうあ!」が一声欲しかったわーーーー!

「好奇心旺盛なんですね……」
「それはジョエル様もですよ」

 私の言葉にセアラ夫人は苦笑した。

「……二人揃って迷子体質ということは」
「────僕たちが“ここ”で大人しく待っていても帰ってくることはないだろう」

 エドゥアルト様の言葉に思わずヒクッと顔を引き攣らせる。
 迷子体質って厄介なのね……

「とりあえず、ここから行ける道は三方向のようだな」
「最初にジョシュアがどの方向に向かったか分かればよかったのですけど」
「まずは三方向に分かれて聞き込みか」

 エドゥアルト様とセアラ夫人がキョロキョロと辺りを見渡しながらそんな話をしている。
 なんと言うか……手馴れてる。
 ジョシュアくん、迷子に慣れてます!  
 とか言っていたから普段から行方くらましていそうだもの。
 ジョエル様と消えるのもそう珍しいことじゃないのかも。

「お義父様の血は争えないですね」
「そのようだな」
「お二人の結婚式もお義母様がウェディングドレス姿で迎えに行ったと聞きましたし」

(…………ん?)

「伝説のやつだな?」
「はい」
「あ、あの……?」

 私は、エドゥアルト様とセアラ夫人の話に待ったをかける。

「もしかして、ジョエル様やジョシュアくんの迷子体質って」
「……」

 セアラ夫人が私を見ながらニッコリ笑う。

「お義父様譲りのようよ?」

(やっぱりーー!)

 私は驚愕する。
 親子どころじゃない。
 ジョシュアくんは三代目だった!

「はっはっは!  直線の距離で数分を数時間迷える人だと聞いた」
「す、数時間……」

(ギルモア家の血……なんて恐ろしいの)

「────とりあえず、僕たちはこれから三方向に別れてハイハイで走っていたベビーがいないかを確認する」

 エドゥアルト様の言葉に私たちは頷く。

「はっはっは!  幼少期から好奇な目で見られてきた僕には分かる!  人と違うことをしていると記憶に残られやすい!」

 確かに……そんなベビーがいたら確実に目立っているはず。
 ましてや、ジョシュアくんの“あうあ”は最強だ。
 あの癒しの笑顔と繰り返されるフレーズのインパクトは大きい。

「聞き込みを終えても深追いはせずに僕たちも一旦ここで落ち合う。そうだな時間はざっと───」

 そして、エドゥアルト様も手馴れた様子で私たちに指示を出す。

「さすが、幼少期から行方不明になったジョエル様を追いかけていたというエドゥアルト様は捜索に慣れているご様子だわ」

 セアラ夫人がエドゥアルト様の言葉に頷きながらそう呟く。

(あー……なるほど)

 ガーネット様と手分けして捜索するエドゥアルト様の姿が想像出来た。

「でも───レティーシャさん、ごめんなさい」
「セアラ様?」
「せっかくのエドゥアルト様との仲を深めるためのデートだったのに……」

 ごめんなさい、と頭を下げるセアラ夫人に向かって私は笑う。

「大丈夫ですわ!  むしろベビーとの鬼ごっこだなんて忘れられないデートになりますもの!」

 私はどーんっと胸を張る。

「それに……」

 公園ここに着くまでの間に改めてエドゥアルト様の人となりを知れた。
 ただ、ヘラヘラしているだけでなく、今もテキパキと指示を出してくれて頼れる人だと思った。

(……今日はもうそんな一面を見れたから)

「それに?」
「いえ、何でもありませんわ───さあ、わたくしたちも行きましょう!」


────


「ジョッシュアくーん……って呼んでみたけれどそんな簡単に居るはずがないかぁ」

 そうして私たちはベテラン迷子体質親子の捜索を開始。
 私は走りながらプリプリのお尻が見えないかキョロキョロ辺りを見回す。

「あ、でも。すでにジョエル様が追いついて抱っこしている可能性もあるわね?」

 ベビーが単体でハイハイして走り回っていたら目立つけど、父親に抱っこされていては何処にでもいる普通の親子……
 聞き込みをしても印象になど残っていな……

「いえ……そんなことはないわね?  あのジョシュアくんには───」

 ニパッ!  と一度見たら忘れられない癒しの笑顔と、
 あうあ!  と一度聞いたら耳から離れない癒しの声がある。

 よし!  と気合を入れて私は聞き込みを開始した。




「───僕の方にはベビーの目撃情報は無かった」
「私もです。親子連れは見かけたという話は幾つかありましたけど違います」

 それから一旦私たちは最初の場所に戻り合流。
 ここに残した馬車の御者によると、当然ながら二人は戻って来ていないと言う。

「レティーシャ嬢の道ではどうだった?」
「……」
「レティーシャ嬢?」

 エドゥアルト様に顔を覗き込まれてハッと我に返る。

「大丈夫か?」
「あ、はい。えっとわたくしの調べた道では───」

 聞き込みを開始したところ、どうやらこの道が正解だったようで、チラホラと目撃情報があった。

 あうあ~!  という元気な掛け声とともに地面をハイハイしている赤ん坊。
 その後を追いかける男性。
 かと思いきや……
 髪がぐしゃぐしゃの男性に抱っこされて、あうあ~!  と周囲に笑顔を振りまく赤ん坊。
 これはジョエル様が無事にジョシュアくんを捕まえたのかと思いきや……
 再び、あうあ~!  という掛け声で地面を猛スピードでハイハイしている赤ん坊。
 それを追いかける髪が乱れた男性……

「────ハイハイと抱っこ……目撃情報がループしているんです……」
「……これは、つまりアレか」

 エドゥアルト様が、ははは……と苦笑する。

「ジョシュア……ジョエル様」

 セアラ夫人も、あああ……と顔を覆って嘆いている。

「……はい。この聞き込みした様子ですと───ジョシュアくんは捕まったり脱走を繰り返したりしているとしか思えません」
「ジョシュア……三代目のやんちゃっぷりは恐ろしいな……」

 さすがのエドゥアルト様も顔を引き攣らせる。

「ジョシュアの体力は底知れませんから、体力切れを待つのは難しいです」

 セアラ夫人のその言葉に頷く。
 公爵家のパーティーでエドゥアルト様と三十分追いかけっこして、その後も私と追いかけっこしていたジョシュアくん。
 確かにあれは並の体力じゃない。

「───とりあえず、目撃情報のあったジョシュアが駆け込んだ道に向かうとしよう」

 エドゥアルト様の言葉に私たちは頷いた。




「ジョシュアーー?」
「ジョエル様、いらっしゃいますかーー?」

(うーん、あうあ!  も聞こえないしプリプリのお尻も見えない)

 声をかけてみるけど反応もなく、それらしき姿も見えない。

「いませんね……?  もっと奥でしょうか?」
「そうだな」

 私たちは奥へ奥へと進みながらうーんと頭を悩ませる。

「そういえば、過去のジョエルは何処でガーネット様に発見されたんだ?」
「すでにお義父様には捕まっていて、奥の庭園で父子で戯れていたそうです」
「庭園…………ここから更に奥にあるみたいですわね」

 私はそう口にしながら、ジョシュアくん庭園好きそう、と思った。
 そう思ったのは私だけではなかったようで───
 私たちは顔を見合わせる。

「絶対そこだ。行くぞ!」
「行きましょう!」
「はい!」

 私たちは庭園に向けて駆け出した。


 そして、もうすぐ庭園というところで─────

「あうあ!  あうあ~」

 聞き覚えのあるベビーの声。

「────ジョシュア!  見てくださいお花がキレイです、じゃないぞ!」
「あうあ~~」
「するりするりと何度脱走するんだ!」
「あうあーー」

 そしてそんなベビーを追いかける男性の声。

「セアラが心配しているぞ!」
「あうあ!」
「お母様もキレイなお花好きです!  ……そうだけどそうじゃない!」
「あうあ~」
「きっと喜ぶから案内するです~……って言っても肝心のセアラがここにいないだろう!」
「あうあ!」

(ジョシュアくん……)

 聞こえてくる声はとにかくマイペースなジョシュアくんとジョエル様のやり取り。
 しかも、お母様が迷子です!
 と言い張ってなんとセアラ様を迷子扱いしている……

「すごいな……ジョエルがあんなに喋っているじゃないか!」

 エドゥアルト様がジョエル様に感心して足を止めてしまう。

「ジョシュア……私にお花を見せたくて……?」

 セアラ夫人もジョシュアくんに感動してやはり足を止めてしまう。
 私は慌てて二人を正気に戻すべく身体を揺さぶる。

「二人とも!  感動するのは後!  後にしてくださいませ!  今はジョシュアくんの確保が優先です!!」
「え……」
「……あ」
「わたくしは行きますからね!?  早く目を覚ましてくださいね?」

 それだけ言い残して私はジョシュアくんとジョエル様のいる方に駆け出す。

「ジョシュアくーーん!」
「──あうあ!」

 私の声に気付いてニパッ!  と笑ったジョシュアくんが振り返る。
 そして同時に何故かジョシュアくんのハイハイが加速する。

(なぜ!!)

「あうあ~!」
「わーい、お姉さんも来てくれたです?  じゃなくてーー!」
「あうあ!」

 仕方がないので私も足を早める。
 どうしてこの子は土の上だと言うのにこんなスピードで手足を進められるのか。

「あうあ!」
「ジョシュアくん!  どうして加速するんですのーー!?」
「あうあ!」
「はぁ?  キレイなお姉さんに追いかけられるのはボクのご褒美だからですぅ!?」

(ご褒美ってなに!?) 

「あ!」

 とりあえず、この段階でジョエル様に追いついた。
 ジョエル様が私の顔を見て驚く。

「……君!?」
「ジョエル様!  後方に何やら腑抜けてしまったセアラ夫人とエドゥアルト様がおりますのでよろしくお願いします」
「ふぬ……けた?」
「はい。それでは!  わたくしはこのままジョシュアくんを追いかけて確保します」

 眉間に皺を寄せて怪訝そうな顔をしたジョエル様を置いて私は更に足を早める。
 これはもう絶対に負けられない戦いよ!

「ジョシュアくーーーーん!」
「あうあ~」

 ニパッ!

「いいお返事と笑顔ですわね~、でもね?  お待ちなさーーい!」
「あうあ~」

 ニパッ!

「くっ!  お姉さん、ほら薔薇がキレイです~~ではなくってよ!!」
「あうあ!」
「ジョシュアくん!  あなたのその余裕はなんですの!」
「あうあ!」
「若さですぅ!?」

 そこからも私はベビーに翻弄され続けて多分、その後、十分くらいはジョシュアくんを追いかけた。


 そしてようやく───


「確保ーー!」
「あうあ!」

 私に捕まったジョシュアくんが、ニパッ、ニパッと笑いながら手足をパタパタさせる。

「あうあ!」
「やはりお姉さんの足は素晴らしいです……って褒めても何も出ないからね……?」
「あうあ!」
「皆がボクを追いかけてくるのは快感……え?  楽しいです……って」

 全くこの子は……とキャッキャしているジョシュアくんを呆れながらも、ギュッと腕に抱え直したた時だった。


「……えぇ、本当よ?  すごい勢いでハイハイしている赤ちゃんがいたのよ~」
「赤ん坊がこんな所でハイハイ?  ステイシーの見間違いじゃないか?」
「そんなことないわ、ジェローム様。この先に駆けて行ったもの───」

(…………この声っ!)

 背後から聞き覚えのある二人の声が聞こえて来た。

しおりを挟む
感想 325

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたので、もう誰の役にも立たないことにしました 〜静かな公爵家で、何もしない私の本当の人生が始まります〜

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、 完璧であることを求められ続けてきた令嬢エリシア。 だがある日、彼女は一方的に婚約を破棄される。 理由は簡単だった。 「君は役に立ちすぎた」から。 すべてを失ったはずの彼女が身を寄せたのは、 “静かな公爵”と呼ばれるアルトゥール・クロイツの屋敷。 そこで待っていたのは―― 期待も、役割も、努力の強要もない日々だった。 前に出なくていい。 誰かのために壊れなくていい。 何もしなくても、ここにいていい。 「第二の人生……いえ、これからが本当の人生です」 婚約破棄ざまぁのその先で描かれる、 何者にもならなくていいヒロインの再生と、 放っておく優しさに満ちた静かな溺愛。 これは、 “役に立たなくなった”令嬢が、 ようやく自分として生き始める物語。

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので

ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。 しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。 異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。 異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。 公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。 『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。 更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。 だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。 ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。 モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて―― 奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。 異世界、魔法のある世界です。 色々ゆるゆるです。

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

【完結】愛しい人、妹が好きなら私は身を引きます。

王冠
恋愛
幼馴染のリュダールと八年前に婚約したティアラ。 友達の延長線だと思っていたけど、それは恋に変化した。 仲睦まじく過ごし、未来を描いて日々幸せに暮らしていた矢先、リュダールと妹のアリーシャの密会現場を発見してしまい…。 書きながらなので、亀更新です。 どうにか完結に持って行きたい。 ゆるふわ設定につき、我慢がならない場合はそっとページをお閉じ下さい。

殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。

和泉鷹央
恋愛
 雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。  女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。  聖女の健康が、その犠牲となっていた。    そんな生活をして十年近く。  カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。  その理由はカトリーナを救うためだという。  だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。  他の投稿サイトでも投稿しています。

私の婚約者はちょろいのか、バカなのか、やさしいのか

れもんぴーる
恋愛
エミリアの婚約者ヨハンは、最近幼馴染の令嬢との逢瀬が忙しい。 婚約者との顔合わせよりも幼馴染とのデートを優先するヨハン。それなら婚約を解消してほしいのだけれど、応じてくれない。 両親に相談しても分かってもらえず、家を出てエミリアは自分の夢に向かって進み始める。 バカなのか、優しいのかわからない婚約者を見放して新たな生活を始める令嬢のお話です。 *今回感想欄を閉じます(*´▽`*)。感想への返信でぺろって言いたくて仕方が無くなるので・・・。初めて魔法も竜も転生も出てこないお話を書きました。寛大な心でお読みください!m(__)m

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

処理中です...