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16. ダブルデート(ベビー付き)~追いかけっこ~
しおりを挟む「……ジョシュアくん」
せめて、せめてお得意の「あうあ!」が一声欲しかったわーーーー!
「好奇心旺盛なんですね……」
「それはジョエル様もですよ」
私の言葉にセアラ夫人は苦笑した。
「……二人揃って迷子体質ということは」
「────僕たちが“ここ”で大人しく待っていても帰ってくることはないだろう」
エドゥアルト様の言葉に思わずヒクッと顔を引き攣らせる。
迷子体質って厄介なのね……
「とりあえず、ここから行ける道は三方向のようだな」
「最初にジョシュアがどの方向に向かったか分かればよかったのですけど」
「まずは三方向に分かれて聞き込みか」
エドゥアルト様とセアラ夫人がキョロキョロと辺りを見渡しながらそんな話をしている。
なんと言うか……手馴れてる。
ジョシュアくん、迷子に慣れてます!
とか言っていたから普段から行方くらましていそうだもの。
ジョエル様と消えるのもそう珍しいことじゃないのかも。
「お義父様の血は争えないですね」
「そのようだな」
「お二人の結婚式もお義母様がウェディングドレス姿で迎えに行ったと聞きましたし」
(…………ん?)
「伝説のやつだな?」
「はい」
「あ、あの……?」
私は、エドゥアルト様とセアラ夫人の話に待ったをかける。
「もしかして、ジョエル様やジョシュアくんの迷子体質って」
「……」
セアラ夫人が私を見ながらニッコリ笑う。
「お義父様譲りのようよ?」
(やっぱりーー!)
私は驚愕する。
親子どころじゃない。
ジョシュアくんは三代目だった!
「はっはっは! 直線の距離で数分を数時間迷える人だと聞いた」
「す、数時間……」
(ギルモア家の血……なんて恐ろしいの)
「────とりあえず、僕たちはこれから三方向に別れてハイハイで走っていたベビーがいないかを確認する」
エドゥアルト様の言葉に私たちは頷く。
「はっはっは! 幼少期から好奇な目で見られてきた僕には分かる! 人と違うことをしていると記憶に残られやすい!」
確かに……そんなベビーがいたら確実に目立っているはず。
ましてや、ジョシュアくんの“あうあ”は最強だ。
あの癒しの笑顔と繰り返されるフレーズのインパクトは大きい。
「聞き込みを終えても深追いはせずに僕たちも一旦ここで落ち合う。そうだな時間はざっと───」
そして、エドゥアルト様も手馴れた様子で私たちに指示を出す。
「さすが、幼少期から行方不明になったジョエル様を追いかけていたというエドゥアルト様は捜索に慣れているご様子だわ」
セアラ夫人がエドゥアルト様の言葉に頷きながらそう呟く。
(あー……なるほど)
ガーネット様と手分けして捜索するエドゥアルト様の姿が想像出来た。
「でも───レティーシャさん、ごめんなさい」
「セアラ様?」
「せっかくのエドゥアルト様との仲を深めるためのデートだったのに……」
ごめんなさい、と頭を下げるセアラ夫人に向かって私は笑う。
「大丈夫ですわ! むしろベビーとの鬼ごっこだなんて忘れられないデートになりますもの!」
私はどーんっと胸を張る。
「それに……」
公園に着くまでの間に改めてエドゥアルト様の人となりを知れた。
ただ、ヘラヘラしているだけでなく、今もテキパキと指示を出してくれて頼れる人だと思った。
(……今日はもうそんな一面を見れたから)
「それに?」
「いえ、何でもありませんわ───さあ、わたくしたちも行きましょう!」
────
「ジョッシュアくーん……って呼んでみたけれどそんな簡単に居るはずがないかぁ」
そうして私たちはベテラン迷子体質親子の捜索を開始。
私は走りながらプリプリのお尻が見えないかキョロキョロ辺りを見回す。
「あ、でも。すでにジョエル様が追いついて抱っこしている可能性もあるわね?」
ベビーが単体でハイハイして走り回っていたら目立つけど、父親に抱っこされていては何処にでもいる普通の親子……
聞き込みをしても印象になど残っていな……
「いえ……そんなことはないわね? あのジョシュアくんには───」
ニパッ! と一度見たら忘れられない癒しの笑顔と、
あうあ! と一度聞いたら耳から離れない癒しの声がある。
よし! と気合を入れて私は聞き込みを開始した。
「───僕の方にはベビーの目撃情報は無かった」
「私もです。親子連れは見かけたという話は幾つかありましたけど違います」
それから一旦私たちは最初の場所に戻り合流。
ここに残した馬車の御者によると、当然ながら二人は戻って来ていないと言う。
「レティーシャ嬢の道ではどうだった?」
「……」
「レティーシャ嬢?」
エドゥアルト様に顔を覗き込まれてハッと我に返る。
「大丈夫か?」
「あ、はい。えっとわたくしの調べた道では───」
聞き込みを開始したところ、どうやらこの道が正解だったようで、チラホラと目撃情報があった。
あうあ~! という元気な掛け声とともに地面をハイハイしている赤ん坊。
その後を追いかける男性。
かと思いきや……
髪がぐしゃぐしゃの男性に抱っこされて、あうあ~! と周囲に笑顔を振りまく赤ん坊。
これはジョエル様が無事にジョシュアくんを捕まえたのかと思いきや……
再び、あうあ~! という掛け声で地面を猛スピードでハイハイしている赤ん坊。
それを追いかける髪が乱れた男性……
「────ハイハイと抱っこ……目撃情報がループしているんです……」
「……これは、つまりアレか」
エドゥアルト様が、ははは……と苦笑する。
「ジョシュア……ジョエル様」
セアラ夫人も、あああ……と顔を覆って嘆いている。
「……はい。この聞き込みした様子ですと───ジョシュアくんは捕まったり脱走を繰り返したりしているとしか思えません」
「ジョシュア……三代目のやんちゃっぷりは恐ろしいな……」
さすがのエドゥアルト様も顔を引き攣らせる。
「ジョシュアの体力は底知れませんから、体力切れを待つのは難しいです」
セアラ夫人のその言葉に頷く。
公爵家のパーティーでエドゥアルト様と三十分追いかけっこして、その後も私と追いかけっこしていたジョシュアくん。
確かにあれは並の体力じゃない。
「───とりあえず、目撃情報のあったジョシュアが駆け込んだ道に向かうとしよう」
エドゥアルト様の言葉に私たちは頷いた。
「ジョシュアーー?」
「ジョエル様、いらっしゃいますかーー?」
(うーん、あうあ! も聞こえないしプリプリのお尻も見えない)
声をかけてみるけど反応もなく、それらしき姿も見えない。
「いませんね……? もっと奥でしょうか?」
「そうだな」
私たちは奥へ奥へと進みながらうーんと頭を悩ませる。
「そういえば、過去のジョエルは何処でガーネット様に発見されたんだ?」
「すでにお義父様には捕まっていて、奥の庭園で父子で戯れていたそうです」
「庭園…………ここから更に奥にあるみたいですわね」
私はそう口にしながら、ジョシュアくん庭園好きそう、と思った。
そう思ったのは私だけではなかったようで───
私たちは顔を見合わせる。
「絶対そこだ。行くぞ!」
「行きましょう!」
「はい!」
私たちは庭園に向けて駆け出した。
そして、もうすぐ庭園というところで─────
「あうあ! あうあ~」
聞き覚えのあるベビーの声。
「────ジョシュア! 見てくださいお花がキレイです、じゃないぞ!」
「あうあ~~」
「するりするりと何度脱走するんだ!」
「あうあーー」
そしてそんなベビーを追いかける男性の声。
「セアラが心配しているぞ!」
「あうあ!」
「お母様もキレイなお花好きです! ……そうだけどそうじゃない!」
「あうあ~」
「きっと喜ぶから案内するです~……って言っても肝心のセアラがここにいないだろう!」
「あうあ!」
(ジョシュアくん……)
聞こえてくる声はとにかくマイペースなジョシュアくんとジョエル様のやり取り。
しかも、お母様が迷子です!
と言い張ってなんとセアラ様を迷子扱いしている……
「すごいな……ジョエルがあんなに喋っているじゃないか!」
エドゥアルト様がジョエル様に感心して足を止めてしまう。
「ジョシュア……私にお花を見せたくて……?」
セアラ夫人もジョシュアくんに感動してやはり足を止めてしまう。
私は慌てて二人を正気に戻すべく身体を揺さぶる。
「二人とも! 感動するのは後! 後にしてくださいませ! 今はジョシュアくんの確保が優先です!!」
「え……」
「……あ」
「わたくしは行きますからね!? 早く目を覚ましてくださいね?」
それだけ言い残して私はジョシュアくんとジョエル様のいる方に駆け出す。
「ジョシュアくーーん!」
「──あうあ!」
私の声に気付いてニパッ! と笑ったジョシュアくんが振り返る。
そして同時に何故かジョシュアくんのハイハイが加速する。
(なぜ!!)
「あうあ~!」
「わーい、お姉さんも来てくれたです? じゃなくてーー!」
「あうあ!」
仕方がないので私も足を早める。
どうしてこの子は土の上だと言うのにこんなスピードで手足を進められるのか。
「あうあ!」
「ジョシュアくん! どうして加速するんですのーー!?」
「あうあ!」
「はぁ? キレイなお姉さんに追いかけられるのはボクのご褒美だからですぅ!?」
(ご褒美ってなに!?)
「あ!」
とりあえず、この段階でジョエル様に追いついた。
ジョエル様が私の顔を見て驚く。
「……君!?」
「ジョエル様! 後方に何やら腑抜けてしまったセアラ夫人とエドゥアルト様がおりますのでよろしくお願いします」
「ふぬ……けた?」
「はい。それでは! わたくしはこのままジョシュアくんを追いかけて確保します」
眉間に皺を寄せて怪訝そうな顔をしたジョエル様を置いて私は更に足を早める。
これはもう絶対に負けられない戦いよ!
「ジョシュアくーーーーん!」
「あうあ~」
ニパッ!
「いいお返事と笑顔ですわね~、でもね? お待ちなさーーい!」
「あうあ~」
ニパッ!
「くっ! お姉さん、ほら薔薇がキレイです~~ではなくってよ!!」
「あうあ!」
「ジョシュアくん! あなたのその余裕はなんですの!」
「あうあ!」
「若さですぅ!?」
そこからも私はベビーに翻弄され続けて多分、その後、十分くらいはジョシュアくんを追いかけた。
そしてようやく───
「確保ーー!」
「あうあ!」
私に捕まったジョシュアくんが、ニパッ、ニパッと笑いながら手足をパタパタさせる。
「あうあ!」
「やはりお姉さんの足は素晴らしいです……って褒めても何も出ないからね……?」
「あうあ!」
「皆がボクを追いかけてくるのは快感……え? 楽しいです……って」
全くこの子は……とキャッキャしているジョシュアくんを呆れながらも、ギュッと腕に抱え直したた時だった。
「……えぇ、本当よ? すごい勢いでハイハイしている赤ちゃんがいたのよ~」
「赤ん坊がこんな所でハイハイ? ステイシーの見間違いじゃないか?」
「そんなことないわ、ジェローム様。この先に駆けて行ったもの───」
(…………この声っ!)
背後から聞き覚えのある二人の声が聞こえて来た。
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