【完結】記念日当日、婚約者に可愛くて病弱な義妹の方が大切だと告げられましたので

Rohdea

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19. 最低な小者男

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 応接室に入ると本当にジェローム様は一人だった。

「ご機嫌よう、ジェローム様」
「ああ」

 いつもの済ました顔で返事をするジェローム様……なのだけど。

(……っ!)

 しかし、昨日ジョシュアくんに泥を投げつけられた時の彼の間抜けな顔を思い出してしまい、笑いそうになるのをどうにか堪える。

(まあ、ジョシュアくんのニパッは最強だもの)

 私は気を取り直して訊ねる。

「それで?  今日はどんな御用ですの?」

 その質問にジェローム様は明らかにムッとした。

「なんだ?  用がないと来ては行けないのか?」
「ええ。婚約破棄の承諾と慰謝料支払いに関してのサインなら喜んで応じますけど、それ以外でしたらご遠慮頂きたいですわね」
「……レティーシャっ!!」

 ジロリと睨まれたので私も睨み返す。
 ビクッとジェローム様が身体を震わせた。

(弱いのにバカなの?)

「あー……コホンッ、今日は君に聞きたいことがあって来た」
「わたくしに?」
「そうだ」

 ジェローム様はここで嫌味っぽく深いため息を吐いた。

「レティーシャ。君は連日のパーティー三昧を止めたと思ったら、今度はギルモア侯爵家に頻繁に出入りしているようだな」
「───へぇ、それはどこの情報かしら?」
「誰だっていいだろう!  しかし君がギルモア侯爵家に訪ねていくのを何度か見たという者がいるんだ!」

 ジェローム様はバンッと強くテープルを叩いた。
 そんなことで威嚇されても怖くはない。

「それがなんですの?  わたくしの交友関係にまで口出さないで欲しいのですが?」
「レティーシャ!  君は忘れたのか!  ギルモア侯爵家の嫡男ジョエルの話はこれまでも君に何度かしただろう!」
「は?」

 ジェローム様がジョエル様の話を?
 はて?  と首を傾げる。

(していたかしら?)

 そんな気持ちでジェローム様の顔を見ると彼は怒りで顔を真っ赤にしている。

(……いったい二人の間に何が?)

 よく分からないけれど、ジョエル・ギルモアという名を聞いた時にどこかで聞いたかも……と思ったのはジェローム様から聞いていたからだったのかもしれない。

(でも……そうなると変ね?)

 ギルモア侯爵家の人々はもちろん、侯爵家と仲の良いエドゥアルト様も“ジェローム・ニコルソン”の名を出して話をした時、特別おかしな反応をしている人はいなかった。
 これはどういうことかしら?
 ギルモア家の皆様に迷惑をかけないためにも、聞いておいた方が良さそう。
 私はそう判断した。

「えっと、どんなお話だったかしら?」

 バンッ!
 ジェローム様はまた強くテーブルを叩く。
 壊れたら慰謝料とは別に修理費も請求してやろうかなと思う。

「何度か話しただろう!  子どもの頃、俺や友人たちはに取り入ろうとしてそいつに近付いた」

(……ん?  公爵家の……令息?)

「バカで素直で単純な男だったよ。ちょっとおだてればすぐその気になる。その分生意気だったが」
「……」
「だが。彼は公爵令息利用価値が高い。とにかくペコペコしておいた」

 ───母上が王女だったからそれで皆、僕に対しても平伏すのさ
 ───…………それで生意気な公爵家の金持ち坊やであることを鼻にかけたイヤ~~な子に?
 ───ははは!  そうだ。かなり生意気だったぞ?
 ───僕の言うことが聞けないのか~とかですか?

 昨日のエドゥアルト様との会話を思い出した。

「その日の俺たちは子どもも参加可能なパーティーに出ていた。そいつから上手いこと金を巻き上げてやろうと計画していたんだ」

 そこまで聞いてようやく思い出した。
 お酒に酔ったジェローム様が苦々しい顔でこの子どもの頃の話を何度か語っていた……

「いい感じに誘導出来てその公爵家の奴が俺たちにも金を出してやる───と言いかけた時だった……」

(確か───突然、どーんと自分たちの輪に突っ込んで来た男の子がいた……だったかしら?)

「───ジョルジュ・ギルモアがいきなり輪に突っ込んできて俺たちは跳ね飛ばされた!」

 やっぱり!
 そのジェローム様の言っていた突然突っ込んで来たという人がまさかのジョエル様……!
 これはなんという偶然なの?

(ならば、この続きで語られるのはきっと“あの話”だわ)

 昨日聞いたばかりのエドゥアルト様とジョエル様の出会い。

「そして、ジョエル・ギルモアはそのまま中心にいた───公爵令息のことを踏みつけていたんだぞ!」
「……」
「分かるか!?  人を踏みつけたんだ!」

 またしてもやっぱり!
 昨日聞いた話でもジョエル様は初対面でエドゥアルト様を踏みつけたという話だった。
 その時、周囲にいた子どもの話は出なかったけれどどうやらジェローム様はその日、その場にいた一人だったらしい。

 そんなジェローム様はしつこく踏みつけていたんだぞ! 
 ……と、とにかく念を押してくる。

「それからだ……!  なぜか公爵令息はジョエル・ギルモアを慕うようになり、俺たちとは距離を置くようになってしまった……」

 ぐぁぁと頭を抱えるジェローム様。
 私はそんな彼を冷めた目で見つめる。

(なぜかですって?  そんなの二人が親友になったからよ───)

 エドゥアルト様はジョエル様に踏まれたことで……色んな意味で目が覚めたのだから!

「あのまま、いい感じの阿呆な奴でいてくれれば良かったのに……!  だから俺はそれを邪魔したジョエル・ギルモアが憎い……!」
「そうですか。ちなみにそれ以降、あなたとジョエル・ギルモア様に交流は?」
「───あるはずないだろう!!」

 バンッとまたまた強くテーブルを叩くジェローム様。

「せいぜいその後、成長したジョエル・ギルモアが令嬢たちから無口で怖いと避けられているのを聞いて影でほくそ笑んでいたくらいだ!」

 ガタッ
 私は無言のまま椅子から立ち上がる。
 そしてテーブルの上にあった水の入ったコップを手で掴む。

「レティーシャ?」
「……」

 私は無言でにこっと微笑む。
 そしてジェローム様の傍に近寄るとそのまま水の入ったコップを頭からかけた。

「うぉっ!?  ……な、なっ!?  何をする──!?」
「頭を冷やされた方がよろしいのではないかと思いまして」
「なんだと!?」

 頭からポタポタと水滴を垂らしながらジェローム様が私を睨む。
 私はふぅ、と息を吐いた。

「本当はお水ではなく……そこの熱々のお湯をかけて差し上げたい気分でしたけれど」
「レティーシャ!」

 今の話は聞いていて本当に気分が悪かった。
 それはターゲットにされていたのがエドゥアルト様で、そこを偶然助けた?  のがジョエル様で……と私が当事者の二人と知り合いになったからだけじゃない。

(人間として最低───)

 これまでは、主に酔った時に語られる話だったから、脚色して話しているのだろうと半分くらい聞き流していた所もあった。
 でも……

(許せない……)

 エドゥアルト様をバカにしてカモにしようとしていたことも、ジョエル様をバカにしたことも許せない。
 そして、こんな男を慕っていた私自身も許せない。
 本性にも気付けず、上辺の言葉だけを信じてまんまと乗せられて……

「何がだ!  人への体当たりと踏みつけ行為だぞ!  こんなこと……」
「────もちろん!  その行為そのものは褒められたことではありませんが!」

(そもそも踏まれたのはエドゥアルト様だけでしょうに!)

 ジョエル様の本能だったのかは知らないけど、“友達になりたい”子として選ばれたのはエドゥアルト様だけだ。
 それに、どう聞いてもジェローム様はせっかくの金づるだったエドゥアルト様をジョエル様に取られた……という逆恨みをしているだけにしか聞こえない!

 私は怒りを込めて思いっきり睨みつける。
 ひっ……とジェローム様が小さな悲鳴をあげた。

「取り入るためだけに、その公爵令息に近付いて金づるにしようとしていた話を面白おかしく喋っているあなたの方が最低ですわ!」
「はぁ!?  それくらいいだろう?  俺は転ばされたひが……」

 ダンッ!
 私は思いっきり床を蹴る。
 その瞬間、ビクッとジェローム様が脅えた。

「とにかくわたくしの交友関係をあなたにとやかく言われる筋合いはございません」
「いいや、関係ある!  俺と君は婚約───」
「あなたと結婚はしません」
「レティーシャ!」

 ジェローム様も椅子から立ち上がる。

「いい加減に無駄な努力だと気付くといい。十回も振られ続けた君なんかが他の男に相手されるはずがないだろう?」
「……」
「俺との結婚後は、義妹となるステイシーに可愛いらしさの秘訣でも聞いてみるとい……」
「…………ジェローム様」

 私は彼の言葉を遮って、テーブルの上のポットを手に取る。

「わたくし、次はこちらをあなたの顔面に投げつけようと思うのですが」
「!?」
「今日だけは特別に選ばせて差し上げます」
「は!?」

 私はにっこり笑ってポットをジェローム様の顔に近付ける。

「今すぐご帰宅されるか、これから熱々のお湯を被るか────どちらになさいます?」
「……」
「次は問答無用でポットを投げつけま……」
「か、かか帰るっっ!」

 サーッと青ざめたジェローム様は一目散に逃げ出した。



「……小さい男」

 私は慌てて逃げ帰る様子のジェローム様の背中を見て呟く。
 そしてはぁ、と息を吐いた。

「……それから、エドゥアルト様とギルモア家にも今のことは話しておかないと……それにしても、ジェローム様って……」

(エドゥアルト様やジョエル様たちの記憶に残らないくらい、昔から小者だったのね───……)

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