【完結】記念日当日、婚約者に可愛くて病弱な義妹の方が大切だと告げられましたので

Rohdea

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22. 情報収集

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「よし、行くわよ~!」

 いくら最恐の味方が出来たからと言って、おんぶにだっこで自分が何もしないでいるのは嫌だった。
 また、このままではいくら大きなパーティーを開いても、言い訳して逃げられたらなんの意味もない。

(あの二人の親密度仲の良さを世間がどう思っているか知りたい!)

 そう思った私は、苦手な“令嬢たちのお茶会”なるものに参加する決意をした。
 そして、ちょうどタイミングよくお茶会の招待状が私の元に届いた。
 昔から怖がられたり泣かれたり脅えられたり……いい記憶はないけれど、女同士の噂話は決して舐めてはいけない。

「今日のためにガーネット様からアドバイスもいただいたもの───わたくしはやれる!」

 拳をグッと握りしめて、今迄なら絶対にお断りしていたお茶会へと向かった。


────


「まあ……!  本当にレティーシャ様ですか?」
「ええ。本日はお招き頂きありがとうございます」

 お茶会を主催した令嬢の邸に到着すると、まずはにっこり笑って丁寧にお礼をする。

「……ひっ!」

 笑った瞬間、小さな悲鳴を上げられたけれどもう前みたいにクヨクヨなんかしない。
 綺麗だと言ってくれた人がいるから。
 そんな私の頭の中にガーネット様の教えが響く。


『────いいこと?  レティーシャさん。挨拶で脅えられても笑顔を突き通しなさい!』
『最初が肝心。ここであなたの方が必要以上にビクビクしようものなら舐められるだけよ』


(はい!  ガーネット様!)

 笑顔を崩さぬまま私は令嬢に訊ねる。

「どうかなさいましたか?」
「い、いえ……ではこちらへどうぞ」

 ホホホと笑いながらご令嬢は私を部屋に案内してくれた。

 ──こちらです、と案内された部屋には既に令嬢たちが集まっていた。
 普段こういった席に参加することのない私の登場に少しだけ室内はざわつく。

(主催は伯爵令嬢。伯爵家、子爵家、男爵家の令嬢たちが中心のようね……)

 参加者たちの顔ぶれを確認しながら私は案内された席についた。



「それにしても───レティーシャ様が参加されるなんて珍しいですわね?」
「私も!  驚きましたわ!」

 最初は他愛のない会話が続いていたお茶会。
 遂に話題は“私”のことになった。


『───レティーシャさん、話を振られた時が絶好のチャンスよ!』
『その機会を逃してはダメ』
『まずは柔らかい笑顔ね!  どうしても慣れなくて緊張するようならジョシュアのこの顔を思い浮かべなさい!  すぐに笑えるから!』
『あうあ~!』


 そう言ってガーネット様はその辺をハイハイしていたジョシュアくんを捕まえて持ち上げたっけ……

(ふふ、ジョシュアくん。持ち上げられながらニパッ!  と笑って手足パタパタさせていて可愛かったわ)

 そんなジョシュアくんを思い出して、ふふっと笑いながら私は口を開く。

「……実は、わたくしもうすぐ結婚の運びになりそうでして」
「え!」
「まあ!」
「それで……ゆくゆくは“侯爵夫人”となる身ですから」

 私がそんなを口にした瞬間、令嬢たちの目の色が変わった。

「もっとこういう機会に顔を出すことも必要だと思い直しましたの」
「まあ……!」
「……そうでしたの?」
「それは、おめでたいお話ですわねぇ、……」

 主催者の令嬢を始め、皆そんなことを口にするけれど、本心でないのが丸わかり。
 でもこれも、ガーネット様の言う通りの展開。
 本日の主催者の令嬢の名を出したら、ガーネット様はオーホッホッホ!  と高笑いした。


『あーら、昔々玉の輿に乗りたくてジョエルとお見合いをして30秒で泣いて帰ったお嬢さんじゃないの!』

(30秒って……)

 ジョエル様は無口無表情なため誤解されがちで、お見合いすると令嬢たちがまともに会話も出来ずに泣きながら秒で逃げ帰ったという。
 エドゥアルト様とは別の方向でお見合い失敗記録を持つ方だった。

『彼女は玉の輿狙いの野心家お嬢さんよ!  レティーシャさん、あなたが“結婚”をチラつかせるだけでガッツリ喰いついてくるわ!』
『だってあなたの婚約者のカス男はカスだけど身分だけは立派な侯爵家の嫡男ですからね!』


「────ありがとうございます」
「確か、レティーシャ様の婚約者はジェローム・ニコルソン侯爵令息、でしたかしら?」
「ええ、そうですわ」


『いいこと?  ここでレティーシャさんはカス男に恋する令嬢を演じるのよ!』

 ガーネット様は、私にジェローム様のことを好き好きオーラを出すようにと言った。
 そうすれば勝手に嫉妬の炎を燃やしてくるから、と。

『カスの顔を思い浮かべて幸せオーラで微笑むのが無理なら───そうね、エドゥアルトの顔でも思い浮かべてなさい!』
『あなた、エドゥアルトの前では楽しそうで幸せそうに笑っているから大丈夫よ!』


 あの言葉にはドキッとした。
 意識したつもりはなかったのに……
 私の頭の中に“エドゥアルト様”の顔が浮かぶ。

「“彼”は────わたくしには勿体ないくらいとても素敵な方なんです……」

 私が頬を染めてそう口にすると令嬢たちは感嘆の声を上げる。
 羨ましいですわ、お幸せに……そんな声が飛び交う中、主催者の野心家令嬢が口を開く。

「でも、確かジェローム様って最近、他の女性といる所をよくお見かけしますけど?」
「────!」

(来た!  すごい!  ガーネット様の言う通り!)

 嫉妬の炎を燃やした令嬢は必ず、水を差すような話題を取り上げてくる。
 そしてそれは、ジェローム様とステイシーの話題になるから───ガーネット様はそう言った。

「ほ、他の女性ですか?」

 私は目を瞬かせ初耳です、という顔で首を傾げる。
 その瞬間、主催者である野心家令嬢の口元がニヤリと緩んだ。


『そこまで誘導出来れば、あとは令嬢たちが勝手に喋りだしてくれるわ』
『レティーシャさん、あなたの欲しい情報を…………ね』


 あの時のガーネット様の黒い微笑みはゾッとするほど、そして見惚れるほど美しかった。

「そうです、とても可愛らしい顔立ちの方で」
「私も見ましたわ!」
「そうそう。街で手を繋いで歩いているのを見ましたわ」

(───街!)

 やはり、デートと称して頻繁に出かけている様子。
 私はにこっと笑う。
 まだ、婚約者を信じているフリは続けないといけない。

「──ああ!  きっとそれはジェローム様の“義妹”さんですわ!」
「いもうと?」
「ええ、彼は面倒見がいい方ですので!  義妹さんの可愛い我儘は聞きたくなっちゃうそうなんですの」

 私の言葉に令嬢たちは顔を見合わせる。

「ですけど、妹さんにしては少し距離感が……ねえ?」
「手も、こうやって指を絡めてまるで恋人繋ぎのようにしていましたわよ?」

 すごい。
 令嬢たちって本当に目敏い……!
 そして、幸せオーラを出す令嬢への妬みってすごい。
 今までここの令嬢たちは私と目すら合わせてくれなかったのに、こういう話題ならこちらが聞いてないことまでペラペラ喋ってくれちゃう!

(私が下手に出ることで気持ちよく皆様は喋ってくれるというわけね?)

 ガーネット様は集まった令嬢たちの顔ぶれで判断すると言っていた。
 面倒見がいいお姉さま方ばかりの時は悩める令嬢風でいくと、慰めてくれながら情報をくれるらしい。

「……それは───きっと人混みではぐれないようにですわね……ところで、二人はどのようなお店に立ち寄っていたのかしら?」

 大事なのはここから。
 私はより深い情報を得るために無邪気なフリで訊ねる。

「えっと、私がお見かけしたのは宝石屋でしたわね」
「……宝石」
「ええ、ほらあの有名な───」

(宝石……)

 あのカス男は我が家に援助してもらってる身で、ステイシーにあれこれ貢いでいるのかも。
 さすがカス男。
 ここに来て更なるカスエピソードを聞くとは思わなかった。
 でも、これは思わぬ収穫……!
 店の名前もバッチリ聞いたので後で裏付けを取りに行くこととする。

「あ、私は街のレストランでお見かけしましたわね」
「まあ!  レストラン?」
「ええ、美味しそうに仲良く食べさせあいを……」

 そして更なる目撃情報が飛び出す。
 “病弱”のはずのステイシー……この間の公園といい随分と元気そうな姿ばかり。

(病弱───これも口実にしていたのかもしれないわね)

 こっちの方面からも突っつけばボロが出るかも。


 私は途中から笑いが止まらなくなりそうだった頬を頑張って引き締めて情報収集に励んだ。


────


「ホーホッホッホッ!  レティーシャさんやるじゃないの」

 私がお茶会後にまとめた報告書に目を通したガーネット様が美しく高笑いする。
 足を組んでソファにふんぞり返るその姿はまさに女王様。

「ありがとうございます」
「カス男は清々しいほどのカスっぷりねぇ…………ふふ」

(ああ、ガーネット様!  その黒い微笑み……今日も素敵です!)

 その美しさに見惚れてうっとりしそうになる。

「“これ”が兄妹で通ると思っている所に呆れるわ!」
「本物の兄妹でも、なかなか……な内容ばかりです」
「ええ、そうね!」

 ガーネット様はフフっと笑いながら言った。

「カス男女狐のデートの目撃情報のあったお店は、我が家と私の実家の息がかかっている店ばかりよ」
「!」
「裏を取るのは簡単そうね。ここからは任せて!」
「ガーネット様!」

 なんて頼もしい……!
 感激していると廊下からペタペタと足音が聞こえて来る。

「あうあ!」
「あら、ジョシュア?」
「ジョシュアくん」
「あうあ!」

 ニパッ!
 今日も可愛いジョシュアくんは私を見つけるとハイハイを早めて駆け寄ってくるとそのままよじ登って来た。

「あうあ!」

 私の膝の上まで来るとニパッ!

(可愛すぎて鼻血が出そう……)

「お姉さん、遊ぼうです?  うーん、今は……」
「あうあ!  あうあ!」
「愉快なお兄さんも最近来てくれなくて寂しいです?  ───エドゥアルト様」

 ジョシュアくんのその言葉に私は顔を曇らせる。
 大きい規模のパーティーの開催準備を始めたエドゥアルト様。
 確かに最近は顔を合わせていない。

「あうあ!」
「え?  お姉さんも会えなくて寂しいです?  って…………そう、なのかしら」
「あうあ! あうあ!」

 ニパッ!  ニパッ!

「……えっ!  待って!  お姉さんも僕と同じで愉快なお兄さんが大好きですから!?」
「あうあ!」

 ジョシュアくんは満面の笑みで私にそう言った。
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