【完結】記念日当日、婚約者に可愛くて病弱な義妹の方が大切だと告げられましたので

Rohdea

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23. 笑っていられるのも今のうち

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「ジョシュア……くん?」
「あうあ!」
「えっと、大好き?  とか、そ、それって……」
「あうあ!」
「…………う」
「あうあ!」

 ニパッ!  ニパッ!  ニパッ!
 ジョシュアくん、笑顔はとっても可愛いのに圧がすごい。

「う……」
「あうあ!」
「うぅ……」
「あうあ!」

 あまりの恥ずかしさに唸っていると、パンパンパンッと手を叩く音が聞こえた。

「はいはーい、そこのジョシュア。落ち着きなさい!」
「あうあ~!」

 ガーネット様がジョシュアくんをひょいっと持ち上げたので、私の膝の上が軽くなる。

(あ~れ~、じゃないわよ。ジョシュアくん……)

「本当にあなたって子はなんて好奇心旺盛なベビーなの!」
「あうあ!」

(ああ、お祖母様!  今日も美しいです!)

 ジョシュアくんはニパッ!  と笑顔でまずガーネット様を褒め称える。

「レティーシャさんが困っているでしょう?  あなたのその性格!  誰に似たのよ!」
「あうあ!」

(怒ってるお祖母様は声までもが美しい……!  うっとりします)

 私にはいつものニパッ!  にしか見えないけれど、どうやらジョシュアくん的にはうっとりしているらしい。

「レティーシャさん、困りすぎてジョエルみたいになってたじゃない!」
「あうあ!」

(お父様も大好きです~)

 …………ジョエル様みたいって何かしら?

「いいこと?  あなたはまだベビーだから分からないかもしれないけど」
「あうあ!」

(あ、お母様の場合は怒ってても天使で可愛いです!)

「こういうことは外野が下手に口を出してはいけないの。覚えておきなさい!」
「あうあ!」

(それで、お祖父様とお兄さんは愉快で楽しいのです~)
  
 ニパッ!  ジョシュアくんはここで二人のことを思い出したのか満面の笑みで両手をパタパタさせている。

「ホホホ!  相変わらずいいお返事だこと!  でも、分かってくれたならいいわ」
「あうあ!」

 ふう、と息を吐いたガーネット様はジョシュアくんを私の膝の上に戻す。

「あうあ!」

(ただいまです~!  と)

「ジョシュアくん……うん、お帰りなさい?」
「レティーシャさん。ジョシュアが根掘り葉掘りごめんなさいね?  叱ってはおいたけれど」
「あうあ!」

 ニパッ!  と笑うジョシュアくん。

「この子は、ベビーだけど理解力は高いからもう大丈夫だと思うわ」
「あ……」
「あうあ!」

 ニパッ!

(お姉さん!  今の聞いたです?  僕、褒められたみたいです!)

「ジョシュアくん……」

 いやいやいや!
 全然!  全く!  会話が噛み合ってなかった気がするのだけど!?
 ジョシュアくんもなぜ都合よく最後の部分だけ聞き取ってるの!
 それに……
 まさか、ガーネット様はジョシュアくんが何を言っているのか理解していない……?
 そう思っておそるおそる訊ねてみる。

「あの……!」
「なにかしら?」
「ガーネット様は、ジョシュアくんが“あうあ”で何を訴えているのか分かっていますか?」

 私の質問にガーネット様は一瞬目を瞬かせたあと、大きく高笑いした。

「ホーホッホッホッ!  当然でしょう!  さっぱり不明よ!」
「ああ、とうぜ……え?」

 あまりにもガーネット様が堂々としているので一瞬、聞き間違えたかと思った。

「何をどう聞いても“あうあ”にしか聞こえないわ!」
「あうあ~!」

 更に勢いにのったガーネット様は遠い目をして続ける。

「ジョエルはね、ベビーの頃は……“う”だったの」
「う!」
「そう。喜怒哀楽全てが“う”なのよ!  それも無表情!!」
「む……無表情」
「あの頃の通訳は全て夫だったわ……」

 無表情なのはベビーの頃からか、と納得する。
 同時に侯爵様、凄いなと感心した。

「……ジョシュアくんとは対称的なのですね?」
「そうなのよ!」

 ガシッとガーネット様が私の手を掴む。
 その目はどこかキラキラしていて興奮している様子だった。

「あうあ~!」
「え、僕もお手手を繋ぐです?  う、うん、少し待ってね、ジョシュアくん」
「あうあ!」

 私とジョシュアくんの会話を聞いたガーネット様が手を握ったままふふっと笑った。

「レティーシャさんは凄いわね!  セアラさんもジョシュアの言葉はさっぱり分からないと言っていたのに」
「あうあ!」

 キャッキャと笑うジョシュアくん。
 君の話だよ?

「ああ───もしかしたら、見た目だけで誤解されて来たあなただからこそ、敏感に感じ取れるのかもしれないわね?」
「ガーネット様……」

 もう一度笑ったガーネット様が手を離すと、ジョシュアくんと私の頭を優しく撫でる。
 その手はとても温かかった。

「ジョシュアが色々と言ったみたいだけど───エドゥアルトのことをどう思うか、どうしたいかはレティーシャさん、あなた自身が考えて答えを出すことよ?」
「わたくし自身が……」

 そう言われて考える。
 まだ、あんな風に豹変する前のジェローム様への気持ちとエドゥアルト様に感じている気持ちは何だか違うような気もする。

(今、エドゥアルト様に感じている想いは……)

 私はどうしたい?  どうなりたい?

「……!」
「だから、周囲の言葉に惑わされずに、ちゃんとあなたの目でエドゥアルトを見てあげて?」
「……っ!  はいっ!」

 ガーネット様の言葉に私ははっきり頷いた。

「ふふ、いい返事だこと」

 そう言いながらガーネット様はとても美しく微笑んだ。

「あうあ~~!」
「ホホホ!  あーら、ジョシュア。そうよ、あなたのおばーさまは、と~~っても美しいでしょう?」
「あうあ!」
「ホーホッホッホッ!」

 キャッキャと戯れる祖母と孫を見ながら私もこっそりと笑う。
 何故ならば今、ジョシュアくんは、
 “さすが僕のお祖母様!  と~~っても美しい微笑みです”と言ったから。

(今のはシンクロしていたわ───)




 その後も私は二人に関する情報収集を引き続き行い、
 そうこうしているうちにエドゥアルト様がパーティーを開くことを発表し、招待状を配り始めた。
 王家のパーティー並に規模が大きいことに世間が驚く中────



「…………ご機嫌よう、ジェローム様、ステイシー様」
「レティーシャ様、こんにちは!」

 二人が仲良く我が家を訪ねて来た。
 しかし、満面の笑みのステイシーに比べてジェローム様は仏頂面だった。

(ステイシーに無理やり連れて来られたって感じねぇ)

 ジェローム様とはあの、最低な昔話を聞いて以来。
 彼としては私に会いたくなかったのだろう。

「それで、今日のご用件は何かしら?」
「……ヒッ」

 二人を応接室に通したあと、私はポットを手に持ったままにっこり微笑みながら向かい側に座った二人に声をかける。
 ジェローム様はポットを見て明らかにビクッと震えていた。
 その姿がなんとも彼の情けなさを表している。

「えっと~、レティーシャ様の所にも届きましたか~?」
「届いた?」

 一方のステイシーはそんなジェローム様の様子を全く気にかけることなく私に話しかけてくる。
 明らかにその声が弾んでいる。

「コックス公爵家からのパーティーの招待状ですよ~」
「え?  ああ、それ」
「うふふふ、とっても大規模なパーティーらしいんですけど……ふふ、ふふふふ」

 なるほど。
 ステイシーが何に浮かれているのかと思ったけど、ようやく理解した。
 彼女は“特別枠”で招待されたことにはしゃいでいるんだ。

「招待状はレティーシャ様の元にも届いているんですか?」
「ええ」

 私が頷くとステイシーの口元が分かりやすく緩んだ。

「レティーシャ様!  聞いてください。なんとニコルソン侯爵家はそのパーティー、特べ……」
「おい!  ステイシー!」

 ステイシーが何を言おうとしたのか分かったジェローム様が慌てて静止しようとする。

「何をペラペラ喋ろうとしているんだ!  口外するなと書いてあっただろう!」
「おにいさま……?  でも相手はレティーシャ様だし」
「いくら婚約者でもレティーシャはなんだ!  ダメに決まっている!」
「ええ……でも~」

(この二人……バカなのかしら?)

 口外するなと書かれていた以上、ステイシーの発言を止めることは間違ってはいない。
 けれど私を目の前にして堂々と部外者だと言い切るコイツ
 そして、恐らくわざとこの話を持ち出して私を煽りたい義妹おんな
 そんなことにも気付かない間抜けな女だと思われるのは───

(───非常に心外ね)

 ダンッ!
 私は強い音を立てて手に持っていたポットをテーブルの上に置いた。
 その音に驚いた二人がビクッと身体を縮こまらせる。

「……お茶のお代わりはいかがです?」
「あ、いや……」

 私ににっこり笑顔を向けられたジェロームさまの顔が引き攣っていく。

「そうですか?  それで本日のご用件はパーティーの招待状が届いていたことをわたくしに確認するだけ……かしら?」
「あ、いや……」
「おにいさまじゃなくて、わたしがレティーシャ様に聞きたいことがあったんですよ」

 私からのさっさと帰れの圧を感じ取ったジェローム様が目をそらす中、ステイシーがグイッと身を乗り出す。

「へぇ……なにかしら?」
「わたし、こんな大きなパーティーに参加するの初めてで……だから」
「……」

 きゅるんとした目で私を見つめてくるステイシー。
 横のカス男はそんなステイシーの顔を見て一瞬でデレッとした表情になった。

「レティーシャ様がどのような装いをする予定なのかを参考に知りたかったんです!」
「……わたくしの?」
「はい!」

(そういうこと……)

 ステイシーが無邪気を装って聞き出そうとしているのはバレバレだった。
 私と何かしら被せて“自分の方が可愛い”アピールでもしたいのだろう。

「それくらいステイシーに教えてやってもいいだろう?  減るものでもないし…………うっ」

 横からヘラヘラしながらカス男が口を挟む。
 お前は黙ってろ!
 そんな目で睨んだらまた縮こまった。

「色は?  やっぱりおにいさまと合わせるんですか??」
「───……そうねぇ……」

 回答を勿体ぶりながら再度私は決意する。
 笑っていられるのも今のうちよ?

(当日は────思う存分メッタメタにして差し上げるわ!)
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