聖と魔の名を持つ者 ~その娘、聖女か魔女か。剣を手にした令嬢は、やがて国家最強の守護者となる~

草沢一臨

文字の大きさ
98 / 439
第一部:第八章 心機一転

(四)デラネトゥス家にて②

しおりを挟む
 皆が誰かと立ち話をし、主役の登場を待っている。
 だが、ラーソルバールの元には誰も来ない。王子と話したとはいえ、他の人々にしてみれば、誰とも分からぬ者の近くには寄りたくないという事だろうか。
 暇なので、誰か見た事のある人は居るだろうかと、周囲を見渡す。あれは軍務大臣で、あれは外務大臣。冷静になって見てみれば、多少は分かるものだ。と思ったのだが、こちらが知っていても、向こうはこちらを知っている訳では無い。
「よう、ラーソルバール」
 呆けていたところに、思わず声を掛けられたので、飛び上がりそうになるほど驚いた。
 声のした方へ振り向くと、そこにはフェスバルハ家の長男アントワールが立っていた。
「遅くなってすまなかったな」
「え、何で、アントワール様がここに?」
 状況が理解できない。招待されていたとは聞いていない。
「父上もグリュエルも居るぞ。エレノールから聞いてなかったか?」
「え? エレノ……」
 アントワールの言葉で、今日来る前に彼女から「心配しなくても味方が居るから大丈夫です」と、意味ありげに言われた事を思い出した。
(いや、何で素直に教えてくれないのさ……小悪魔め……)
 心の中で、小さく怒りをぶつけた。
「あはは……」
 素直に言って良いか分からず、空笑いで誤魔化した。
「なんだ、またエレノールのいたずらか」
 呆れるようにアントワールが笑った。
 害にならない程度のいたずらは、彼女にとっては日常茶飯事なのだろう。それが伯爵家の生活に少しだけ彩を持たせているのかもしれない。
 実際に、エレノールがフェスバルハ伯爵家にも招待状が届いているのを知ったのは、ラーソルバールの招待状を見て帰った後だった。
 エレノールはラーソルバールの件を伯爵に伝え、指示を仰いだ。それを受けてフェスバルハ伯爵は、王都の別邸に到着後「後援の無いラーソルバールを助けよ」と、エレノールをミルエルシ家に送って仕度させたのである。

「おお、ラーソルバール嬢、美しく仕上げられてきたな」
 フェスバルハ伯爵が他の貴族との挨拶を終え、アントワールのもとへやってきた。次男のグリュエルのお披露目も兼ねているのだろう。
「フェスバルハ伯爵、お久しぶりでございます。色々とお世話になり、有り難く思っておりますし、色々とご迷惑をおかけし、申し訳なく思ってもおります」
 ラーソルバールは深々と頭を下げた。
 感謝してもしきれない。それだけの恩義があると思っている。
「何を仰るか。私がこの場に居られるのも、先日の件があればこそだ。例を言わねばならぬのはこちらの方だ」
 快活に笑うが、場を弁え大きな声は出さない。
「それにな……」
 伯爵はラーソルバールの耳元に顔を寄せる。
「陛下から内々に、年末に入れ替えとなる大臣就任の打診を頂いた」
 小声で伝えられた内容にラーソルバールは驚き、喜んだ。
「まことでございますか!」
「しぃー、声が大きい」
 伯爵に窘められ、ラーソルバールは口元に手を当てた。
「それはおめでとうございます……お受けになられるのですよね」
 精一杯の慶びと様々な感謝を込めつつも、余所に聞こえぬよう小さな声で祝辞を述べる。
「重責だが、そのつもりだ……」
 伯爵の言葉を聞いて、先程まで重かった気分が、一気に明るくなった。
 陛下への陳情を依頼するなどという、大それた事をしたのだ。迷惑を掛けたと思っていた中にも、良い影響を与えていた事が有ったと知って、少し気が楽になった気がした。
「おや、フェスバルハ殿、美しいお嬢さんと楽しそうですな。確か、貴方に娘さんはいらっしゃらなかったと思うが」
 声を掛けてきたのは、ナスターク侯爵、現軍務大臣だった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

辺境追放された「植物魔導師」の領地開拓 ~枯れ果てた死の大地は、俺の魔力で聖域(楽園)へと変貌する~

リーフレット
ファンタジー
​「植物魔法? ああ、農作業にしか使えないあの地味な魔法か」 ​帝国騎士団の専属魔導師だったアルトは、無能な二世皇太子レオンによって、一方的に追放を言い渡された。 アルトがどれほど魔導植物を駆使し、帝国の食糧難を裏から支えていたかを知らぬまま、彼は「戦闘に役立たない役立たず」という烙印を押されたのだ。 ​帝国を出て行き着いた先は、魔物が跋扈し、草一本生えないと言われる最果ての荒野。 死を待つだけの地。しかし、アルトは絶望するどころか、晴れやかな顔で笑っていた。 ​「やっと、気兼ねなく『植物』を愛でられる。……よし、ここを世界一の庭(楽園)にしよう」

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

推し活が嫌いだ!

あんど もあ
ファンタジー
街の治安を守る衛兵隊が、推し活ブームのせいで「会いに行けるアイドル」という存在になってしまった。一番人気の隊員の俺は、過熱する推し活の女性たちに迷惑をかけられて推し活が大嫌い。だが、一人気になる女性がいて……。

没落港の整備士男爵 ~「構造解析」スキルで古代設備を修理(レストア)したら、大陸一の物流拠点になり、王家も公爵家も頭が上がらなくなった件~

namisan
ファンタジー
大陸の南西端に位置するベルナ子爵領。 かつては貿易で栄えたこの港町も、今は見る影もない。 海底には土砂が堆積して大型船は入港できず、倉庫街は老朽化し、特産品もない。借金まみれの父と、諦めきった家臣たち。そこにあるのは、緩やかな「死」だけだった。 そんな没落寸前の領地の嫡男、アレン(16歳)に転生した主人公には、前世の記憶があった。 それは、日本で港湾管理者兼エンジニアとして働き、現場で散った「整備士」としての知識。 そして、彼にはもう一つ、この世界で目覚めた特異な能力があった。 対象の構造や欠陥、魔力の流れが設計図のように視えるスキル――【構造解析】。 「壊れているなら、直せばいい。詰まっているなら、通せばいい」 アレンは錆びついた古代の「浚渫(しゅんせつ)ゴーレム」を修理して港を深く掘り直し、魔導冷却庫を「熱交換の最適化」で復活させて、腐るだけだった魚を「最高級の輸出品」へと変えていく。 ドケチな家令ガルシアと予算を巡って戦い、荒くれ者の港湾長ゲンと共に泥にまみれ、没落商会の女主人メリッサと手を組んで販路を開拓する。 やがてその港には、陸・海・空の物流革命が巻き起こる。 揺れない「サスペンション馬車」が貴族の移動を変え、「鮮度抜群の魚介グルメ」が王族の胃袋を掴み、気性の荒いワイバーンを手懐けた「空輸便」が世界を結ぶ。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

処理中です...