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第一部:第八章 心機一転
(四)デラネトゥス家にて①
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(四)
九月十八日、デラネトゥス家の三女、エラゼルの誕生日を祝う会が、王都にあるデラネトゥス家の別邸で催された。
夕刻、邸宅には招待客が次々とやってきていた。
そんな中、不安な心持ちで一人の少女が受付を済ませていた。結局、断るすべも無く、この場に来たラーソルバール。
周囲の視線が刺すように痛い。誰だ、この小娘はと思われているに違いない。知っている人が誰一人居ない中に放り込まれて、どうしたら良いか分からない。
右を見ても左を見ても、華やかな衣装を纏った人ばかり。場違いな所に居るという自覚はある。
「はあぁ……」
会場に入ると、思わずため息が出た。
終わるまでの辛抱だと、自分に言い聞かせる。ラーソルバールにとっては、苦行でしかなかった。
何人かの貴族の息子が、時折チラチラと様子を伺ってくる。
好奇の目だろうか。
フェスバルハ伯爵から貰ったドレスに身を包んでいるものの、耳飾り以外の装飾品は安物。さぞかし貧乏貴族が着飾っているように見える事だろう。
出かける前、昼頃に何故かエレノールがやってきて、化粧と着付けと装飾品のコーディネイトをしてくれた。終わった後、彼女はくるくる回りながら「美しさ完璧です!」等と、叫んでいたが、自分では良く分からない。壁の近くで立ち、どうしたものかと悩んでいた。
「おや、こんな所に美しい淑女が」
不意に見た事の無い青年がラーソルバールに近寄ってきた。
優雅な物腰が、流石は上流の貴族と思わせる。派手さを抑えた美しく繊細な衣装を身に纏っているが、衣装に負けぬ存在感と気品を持った人物だった。
「お褒めに預かり光栄です。私はラーソルバール・ミルエルシと申します。どうぞ宜しく御願い致します」
できる限り優雅にと心がけ、挨拶をする。
「ウォルスター・ヴァストールと申す。宜しく頼む」
ちょっと待て……。相手の名を聞いてラーソルバールは一瞬固まった。
ヴァストールと言えば、王家じゃないか。ウォルスターとは、第二王子の名だったはず。
「ウ……、ウォルスター殿下であられましたか。知らぬ事とは言え、跪きもせずご無礼を致しました。申し訳ございません」
片膝を付き、頭を下げる。危うく声が裏返るところだった。
「ああ、気にせずとも良い。こちらがそなたの美しさに惹かれ、寄ってきただけなのだから。本来先に名乗るべきは私の方だ」
ウォルスター王子は手を差し伸べて、立ち上がるよう促す。
「有難うございます」
ラーソルバールは手を取り、立ち上がりながらチラリと王子の顔を見る。
茶色い髪に、青い瞳。気品のある顔立ちに、流石は王子だな、と感心した。
「君は、エラゼルの友人かい?」
いきなり答えにくい質問をされたが、体裁というものが有る。
「はい、一応。幼年学校時代から……」
言葉を濁して答える。
あまり王子と一緒に居ると、誰かに睨まれそうで怖い。出来れば上手くあしらって、一刻も早くこの場から逃れたい。ラーソルバールは逃げ道を探していた。
「私もエラゼルとは旧知の仲で、今日は楽しみにしていたのだが、良い出会いもあったし………。おっと、兄上を待たせていたのだった。済まない。ラーソルバール嬢、また会おう」
そう言い残すと、王子は慌しく別の場所へ行ってしまった。
余所の貴族の痛い視線に晒される必要も無くなり、ラーソルバールとしては有り難かったが、また一人で取り残される事になってしまった。
九月十八日、デラネトゥス家の三女、エラゼルの誕生日を祝う会が、王都にあるデラネトゥス家の別邸で催された。
夕刻、邸宅には招待客が次々とやってきていた。
そんな中、不安な心持ちで一人の少女が受付を済ませていた。結局、断るすべも無く、この場に来たラーソルバール。
周囲の視線が刺すように痛い。誰だ、この小娘はと思われているに違いない。知っている人が誰一人居ない中に放り込まれて、どうしたら良いか分からない。
右を見ても左を見ても、華やかな衣装を纏った人ばかり。場違いな所に居るという自覚はある。
「はあぁ……」
会場に入ると、思わずため息が出た。
終わるまでの辛抱だと、自分に言い聞かせる。ラーソルバールにとっては、苦行でしかなかった。
何人かの貴族の息子が、時折チラチラと様子を伺ってくる。
好奇の目だろうか。
フェスバルハ伯爵から貰ったドレスに身を包んでいるものの、耳飾り以外の装飾品は安物。さぞかし貧乏貴族が着飾っているように見える事だろう。
出かける前、昼頃に何故かエレノールがやってきて、化粧と着付けと装飾品のコーディネイトをしてくれた。終わった後、彼女はくるくる回りながら「美しさ完璧です!」等と、叫んでいたが、自分では良く分からない。壁の近くで立ち、どうしたものかと悩んでいた。
「おや、こんな所に美しい淑女が」
不意に見た事の無い青年がラーソルバールに近寄ってきた。
優雅な物腰が、流石は上流の貴族と思わせる。派手さを抑えた美しく繊細な衣装を身に纏っているが、衣装に負けぬ存在感と気品を持った人物だった。
「お褒めに預かり光栄です。私はラーソルバール・ミルエルシと申します。どうぞ宜しく御願い致します」
できる限り優雅にと心がけ、挨拶をする。
「ウォルスター・ヴァストールと申す。宜しく頼む」
ちょっと待て……。相手の名を聞いてラーソルバールは一瞬固まった。
ヴァストールと言えば、王家じゃないか。ウォルスターとは、第二王子の名だったはず。
「ウ……、ウォルスター殿下であられましたか。知らぬ事とは言え、跪きもせずご無礼を致しました。申し訳ございません」
片膝を付き、頭を下げる。危うく声が裏返るところだった。
「ああ、気にせずとも良い。こちらがそなたの美しさに惹かれ、寄ってきただけなのだから。本来先に名乗るべきは私の方だ」
ウォルスター王子は手を差し伸べて、立ち上がるよう促す。
「有難うございます」
ラーソルバールは手を取り、立ち上がりながらチラリと王子の顔を見る。
茶色い髪に、青い瞳。気品のある顔立ちに、流石は王子だな、と感心した。
「君は、エラゼルの友人かい?」
いきなり答えにくい質問をされたが、体裁というものが有る。
「はい、一応。幼年学校時代から……」
言葉を濁して答える。
あまり王子と一緒に居ると、誰かに睨まれそうで怖い。出来れば上手くあしらって、一刻も早くこの場から逃れたい。ラーソルバールは逃げ道を探していた。
「私もエラゼルとは旧知の仲で、今日は楽しみにしていたのだが、良い出会いもあったし………。おっと、兄上を待たせていたのだった。済まない。ラーソルバール嬢、また会おう」
そう言い残すと、王子は慌しく別の場所へ行ってしまった。
余所の貴族の痛い視線に晒される必要も無くなり、ラーソルバールとしては有り難かったが、また一人で取り残される事になってしまった。
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