聖と魔の名を持つ者 ~その娘、聖女か魔女か。剣を手にした令嬢は、やがて国家最強の守護者となる~

草沢一臨

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第一部:第十二章 幕開け

(二)過ぎ行く年②

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 父とエレノールにデラネトゥス家で有った事を説明する。
 これが公爵家の威信にも関わる為に、他言無用とされた事も黙っていた理由だと付け加えた。
「まあ、悪い事をしたわけじゃないから良いが……。ただ、どうするんだ? そんな物を貰って。変にデラネトゥス家と関わると、後で色々と面倒だろう?」
「もう関わってるよ……その家の娘と関係を改善して、仲良くなりました」
「………はあ」
 エレノールが楽しそうに聞いている横で、父は大きく溜め息をついた。
「まあ、済んだ事はしょうがない。戦利品だと思って美味しく頂くよ……」
 渋々酒の封を切ると、エレノールと自分のグラスに注いだ。
「やっぱり、お嬢様に雇っていただきますね」
 妙に嬉しそうに言うのだが、その目はかなり本気のようだ。
 ラーソルバールが空笑いで返すと、場が和む。
 食卓を囲んで楽しく食べるのはやっぱりいいな、とラーソルバールは思う。
 寮の食堂では、毎日友人達と共に楽しく食べているのだが、やはり父と一緒に食べるのとは少し違う。
 それに今日は思いも寄らぬ来客があり、心が弾むのを感じる。

「それでお嬢様、明日の仕度は出来ているのですか?」
「まあまあ?」
 曖昧な返事をする。
 すると、エレノールが身を乗り出してきた。
「明日、新年の宴に出席される前に、買い物に出かけましょう。そのお金でアクセサリーも揃えないと。ドレスはオーダーしておいたやつが出来上がっているはずですから、それを取りに行きましょう」
「…な?」
 酒が入って饒舌になったのか、とんでも無い事を言っていた気がした。
「ドレスをオーダー?」
 父が食いついた。
「はい、伯爵様のご指示で依頼済みです」
「どんどん借りが大きくなっていく気がするが、お前返せるのか?」
「ねえ……」
 金の話ではない。色々な手配やサポートといったものを既に受けている。
 最初の件だけで、いつまでもそれに甘える訳にはいかない。
「今回、伯爵様は商工大臣に任命される事が決定したそうですので、そのお礼だそうです」
「おお、大臣になられるのですか。それはめでたい。あとでお祝いの品をお送りしないと。ラーソル、明日出かけたら選んでおいで」
「はい」
 酒を口に運ぼうとした父の手が止まる。
 聞き流してしまっていたが、気になったことがある。
「…大臣決定の『お礼』とはどういう事ですか?」
「先日の件で、陛下より信を頂き、その折に陛下は大臣職をお与えになる事を決断されたとの事です。商工を選ばれたのは伯爵の街づくりの手腕を評価されたのだと思いますが、まず大臣ありきでお考えになられたそうです」
 なかなか表に出せないような事情をさらりと言ってのける。
 予め、伯爵からラーソルバールに伝えるように言われていたのだろう。
「伯爵としては、もとを辿ればうちの娘のおかげだと、お考えなのですか」
「そういう事になるかと思われます」
「義理堅いお方ですな……」
 ラーソルバールは黙って頷く。
「忘れるところでした! 明日は男爵様もご出席されるのでしょう?」
 伯爵に言われていたのだろうか、エレノールは思い出したように聞いてきた。
「ええ、まあ。娘一人を宮中の催しに送り出す訳にもいきませんからね」
「では、男爵様の衣装もご用意しないと」
 慌てて目測でサイズを測り始めるエレノール。彼女は服を着ていてもほぼ正確に測れるという事を、ラーソルバールは経験で知っている。
「あ、いや、うちに有るやつでいいんだが」
「いけません! お嬢様の為にも、しっかりとしたものをご用意しなければ」
「は、はあ……」
 抵抗しようとしたものの、見事に押し切られる。
「では、そのように。明日の買い物はその公爵家から頂いた物の中から出しましょうか」
「ああ、そうだ。聞くだけで恐ろしいが、それ、どれだけ入っているんだ?」
 グラスをテーブルに置くと、父は恐る恐るといった感じで聞く。
 ラーソルバールも言い出しにくくて黙っていたが、聞かれれば答えないわけにはいかない。
 大きく息を吸い込んで吐き、もう一度吸い込んだ。
「……金貨二百枚」
 ふたりが固まった。
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