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第一部:第十二章 幕開け
(二)過ぎ行く年①
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(二)
「父上!」
台所で調理をしていたラーソルバールは、玄関の扉を叩く音に気付くと、父を呼んだ。
「今、火を使ってるから手が離せないの。お客様みたいだから、お願いします」
娘の声が聞こえたのか、書斎に居た父クレストは椅子から立ち上がる。
「今行く」
娘に応え、杖を手に取ると玄関へと向かう。
扉を開けると、立っていたのはエレノールだった。
「おや、お久しぶりです。今日はどういったご用件で?」
そう言いながら、エレノールを招き入れる。
「ちーちーうーえー!」
誰が来たのか分からないラーソルバールは、来訪者の名を教えろと催促する。
「ああ、いらっしゃったのは……」
言いかけたところで、エレノールが口元に指を当てて、内緒にしろと合図をしていることに気付いた。
物音を立てないよう、こっそりと台所に近付くエレノール。
背後からラーソルバールに抱きつこうとした瞬間に、気配を察知され、避けられた。
「エレノールさん!」
現れた人物を見て喜ぶラーソルバール。
「いてて…さすが『赤のドレス』」
勢い余って壁に激突したエレノールは、頭を押さえつつ苦笑する。
「今日はどうされたんですか?」
「あ、伯爵様から、年末最終日と、新年初日はここで手伝いをするようにと仰せつかっております」
たんこぶができたのか、頭を擦りつつ答える。
「お屋敷の方はいいんですか?」
「ご家族は明日の新年会に御出席のため、王都別邸に。執事やメイドの半分がこちらで、残りは居残りです」
身ぶりを交えて、説明をするエレノール。
「エレノールさん、何だか我が家のメイドさんみたいになってますね」
「専属になりましょうか?」
さらりと言ってのける。
「う……、じゃあ……雇える余裕ができたらお願いします」
ラーソルバールは体の良い断り方をしたつもりだった。
「では、お声がかかるのをお待ちしています。きっとラーソルバールお嬢様は、それが出来るようになりますから」
にこやかに応じられてしまった。
お世辞だろうか、それとも本音だろうか。少しだけ悩んだ。
「そろそろ鍋を動かさないと焦げてしまいますよ」
「あ、そうだった」
料理の途中だった事を思い出した。
鍋の中身を確認してから、一度火から外す。
「さあ、私も料理お手伝いしますよ!」
エレノールは手を洗うと、袖を捲った。
お手伝いのマーサは年末で忙しいため、前日から休暇となっている。そのため、この日は親娘二人の質素な食卓になるはずだった。
そこへエレノールが食材を持ってやって来たので、自然と品数も増え、華やかな食卓に早変わりしてしまった。
「手際が全然違うんだよ」
料理を前に、エレノールの凄さを父に報告するラーソルバール。
「お屋敷には料理人が居るので、私が料理する機会は滅多にありません。だから料理をするのはあくまでも自分用です。でも、料理のレシピは見よう見まねでだいぶ盗みましたけどね」
ほんの少しだけ謙遜して見せる。
そんな様子が可笑しくて、親子ともども絵外になる。
「ああ、そうだ。父上にお酒を買ってきたんだった」
「酒?」
「うん、帰ってくるときに友達と一緒に買ったんだ」
鞄から一本の酒瓶を取り出す。
「何だか高そうだな」
「まあ、そこそこ? エレノールさんも居るし、開けちゃって」
「それはいいが、そんな金持ってたのか? 伯爵から頂いた分はこの家に置いて行ったし…」
不思議そうに首を傾げる。
ラーソルバールは大きく溜め息をつきつつ、鞄から布に包まれた塊を取り出す。
「………実は大金貰っちゃって」
「またお前は……今度は何をしでかした?」
呆れ気味に父が問う。
「要らないって言ったのに、無理やり持たされたんだよ……」
「あ、ひょっとしてデラネトゥス家から貰ったんですか?」
「……は?」
エレノールの言葉に、硬直する父。状況が理解できないらしい。
「エレノールさん、知ってるんですか?」
「ここに来る前に、伯爵様から何となく」
「説明しろ」
怒る一歩手前といった顔で、父はラーソルバールを見つめた。
「父上!」
台所で調理をしていたラーソルバールは、玄関の扉を叩く音に気付くと、父を呼んだ。
「今、火を使ってるから手が離せないの。お客様みたいだから、お願いします」
娘の声が聞こえたのか、書斎に居た父クレストは椅子から立ち上がる。
「今行く」
娘に応え、杖を手に取ると玄関へと向かう。
扉を開けると、立っていたのはエレノールだった。
「おや、お久しぶりです。今日はどういったご用件で?」
そう言いながら、エレノールを招き入れる。
「ちーちーうーえー!」
誰が来たのか分からないラーソルバールは、来訪者の名を教えろと催促する。
「ああ、いらっしゃったのは……」
言いかけたところで、エレノールが口元に指を当てて、内緒にしろと合図をしていることに気付いた。
物音を立てないよう、こっそりと台所に近付くエレノール。
背後からラーソルバールに抱きつこうとした瞬間に、気配を察知され、避けられた。
「エレノールさん!」
現れた人物を見て喜ぶラーソルバール。
「いてて…さすが『赤のドレス』」
勢い余って壁に激突したエレノールは、頭を押さえつつ苦笑する。
「今日はどうされたんですか?」
「あ、伯爵様から、年末最終日と、新年初日はここで手伝いをするようにと仰せつかっております」
たんこぶができたのか、頭を擦りつつ答える。
「お屋敷の方はいいんですか?」
「ご家族は明日の新年会に御出席のため、王都別邸に。執事やメイドの半分がこちらで、残りは居残りです」
身ぶりを交えて、説明をするエレノール。
「エレノールさん、何だか我が家のメイドさんみたいになってますね」
「専属になりましょうか?」
さらりと言ってのける。
「う……、じゃあ……雇える余裕ができたらお願いします」
ラーソルバールは体の良い断り方をしたつもりだった。
「では、お声がかかるのをお待ちしています。きっとラーソルバールお嬢様は、それが出来るようになりますから」
にこやかに応じられてしまった。
お世辞だろうか、それとも本音だろうか。少しだけ悩んだ。
「そろそろ鍋を動かさないと焦げてしまいますよ」
「あ、そうだった」
料理の途中だった事を思い出した。
鍋の中身を確認してから、一度火から外す。
「さあ、私も料理お手伝いしますよ!」
エレノールは手を洗うと、袖を捲った。
お手伝いのマーサは年末で忙しいため、前日から休暇となっている。そのため、この日は親娘二人の質素な食卓になるはずだった。
そこへエレノールが食材を持ってやって来たので、自然と品数も増え、華やかな食卓に早変わりしてしまった。
「手際が全然違うんだよ」
料理を前に、エレノールの凄さを父に報告するラーソルバール。
「お屋敷には料理人が居るので、私が料理する機会は滅多にありません。だから料理をするのはあくまでも自分用です。でも、料理のレシピは見よう見まねでだいぶ盗みましたけどね」
ほんの少しだけ謙遜して見せる。
そんな様子が可笑しくて、親子ともども絵外になる。
「ああ、そうだ。父上にお酒を買ってきたんだった」
「酒?」
「うん、帰ってくるときに友達と一緒に買ったんだ」
鞄から一本の酒瓶を取り出す。
「何だか高そうだな」
「まあ、そこそこ? エレノールさんも居るし、開けちゃって」
「それはいいが、そんな金持ってたのか? 伯爵から頂いた分はこの家に置いて行ったし…」
不思議そうに首を傾げる。
ラーソルバールは大きく溜め息をつきつつ、鞄から布に包まれた塊を取り出す。
「………実は大金貰っちゃって」
「またお前は……今度は何をしでかした?」
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「要らないって言ったのに、無理やり持たされたんだよ……」
「あ、ひょっとしてデラネトゥス家から貰ったんですか?」
「……は?」
エレノールの言葉に、硬直する父。状況が理解できないらしい。
「エレノールさん、知ってるんですか?」
「ここに来る前に、伯爵様から何となく」
「説明しろ」
怒る一歩手前といった顔で、父はラーソルバールを見つめた。
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