聖と魔の名を持つ者 ~その娘、聖女か魔女か。剣を手にした令嬢は、やがて国家最強の守護者となる~

草沢一臨

文字の大きさ
159 / 439
第一部:第十四章 崩れゆくもの

(一)夢の正体③

しおりを挟む
 どれくらい眠っただろうか。
 数日振りに落ち着いて寝ていた気がする。
 だが、私の睡眠は、悪夢以外のもので妨げられた。
 それは突然の出来事。外から響いてきた、何かを破壊するような大きな衝撃音だった。
「何の音!」
 慌てて跳ね起きた。
 ほぼ同時にエラゼルも目を覚まし、私の顔を見る。
「すごい音がしたよね?」
 彼女は無言で頷くと、緊張した面持ちで私の目を見る。
 急いでカーテンを開け、外を見る。寮の庭越し、塀の向こうの空が赤く染め上げられていた。
「何があったの? 火災?」
 エラゼルは私に目で合図を送ると、瞬時にベッドから飛び出した。
 窓から入る光で室内が照らされ、炎のように揺らめく。その明かりに危機感が募る中、二人はすぐに身なりを整える。
 私はすぐに剣を腰に差し、後ろ髪を結わえた。
 エラゼルも急いで自室向かい、剣を手に戻ってきた。
「行こう!」
「ああ!」
 阿吽の呼吸で、二人は寮を飛び出す。
 寮の庭を走るときにまた、大きな衝撃音が響く。
 耳を塞ぎながら走ると、揺らめく赤い光が二人に恐怖感を与える。
 私達と同じように、何人かの生徒たちが寮から飛び出して来る。
 揺らめく明かりに照らされた顔は、皆一様に言い知れぬ恐怖に強張っていた。
 それでも、正義感か義務感か、私達と同じように剣を手に走っている。
 私は門を出たときに、唖然とした。
「街が……燃えてる……」
 衝撃の余り、足が止まった。
 美しい街並みを誇る、私の大好きなこの城下町が炎に包まれるかもしれない。
「何をしている! 行くぞ、ラーソルバール!」
 エラゼルの声で私は我に返った。
 剣の鞘を左手でぎゅっと握り、半歩遅れてエラゼルを追う。
 鼓動が荒い、息が苦しい。
 不安で張り裂けそうになる。
 私は「みんなをまもるきしさまになる」んじゃなかったのか。そう自分に言い聞かせても、足が震える。前に出す足が重い。
 その時、前を走るエラゼルが左手を私に伸ばしてきた。たまらず私は右手を伸ばし。その手を握った。そして気付いた、エラゼルの手も震えている事に。
「一緒に、行こう!」
 そう言った時、震えが止まった。

「ラーソルバールの夢の正体はこれか?」
 エラゼルが走りながら問いかける。
「分からない。けど多分違う。これじゃない。この恐怖じゃない」
 そう、違う。
 こんな恐怖ではない。もっと違う恐ろしさ。そして悲しい出来事。
 だから、今は夢の事で悩んでいる場合じゃない。自分のすべきことをする。
 周りには十人ほどの生徒たちが並走している。
 皆と一緒に街を守る。それだけを考えるんだ。エラゼルの手を強く握ると、同じように強く握り返された。
 大通りに出ると、状況が見えてきた。
 数件が破壊され、かなりの数の家が燃えている。逃げ惑う人々も見える。怪我人は居ないだろうか。
 炎を消す為の水魔法でも使えればいいのに。悔しさが募る。
 様々な考えが頭の中を巡る。
 住宅や商店のような一般人を対象とした、無差別な破壊活動。
 盗賊団や、暗殺者達はこのような事をするはずが無い。テロリストのすることだろうか。
 そう考えた瞬間だった。
 炎の近くで、大きな影が動いた。
「あれ、何?」
「何が見えた?」
「大きな人型の影」
 あれは、演習のときに一瞬見えたあの姿に似ている。
「オーガ?」
「なに? 何故そんなものがここに居る!」
 エラゼルの動揺が繋いだ手から伝わってくる。
 もし、本当にオーガだとしたら、突然街中に現れるのは不自然だ。どこか近くにゲートがあると考えた方がいい。
 その事は一部の人間しか知らない情報だ。さすがにエラゼルでも聞いてはいないだろう。
 やるべき事は二つ、怪物の駆除と、門の発見。
 門とは空間の歪みか、それとも魔法陣か、どんな形をしているかも分からない。
 まだ門が開いているのだとしたら、まだ怪物モンスターたちが増える可能性が高い。
 ただ、迂闊に触れれば、向こう側へ送られる可能性もある。発見したとしても注意が必要だ。
「奴らは、門と呼ばれるものから、こちらに送られて来ているの…」
「何? 何でそんな事を知っている?」
「私が一度、遭遇した事があるから。それは騎士団を含め、一部の人しか知らない機密事項。ただ、その門がどのような形をしているか、本当に存在するかも分からない」
 聡いエラゼルなら、今の言葉だけで全てを理解してくれるだろう。

「あれは…?」
 直後にエラゼルが何かを見つけた。彼女の指差す方向に有ったもの、それはおそらく門。
 住宅地の行き止まりになっている路地奥。その空間に浮かぶ、大きな首飾りのような形をした魔力の粒子のかたまり。
 鈍く光りながら粒子が動き、その中心部は深い闇になっていて、向こう側は見えない。
「あれが門……」
 背筋が凍りつくのを感じた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

森聖女エレナ〜追放先の隣国を発展させたら元婚約者が泣きついてきたので処刑します〜

けんゆう
恋愛
緑豊かなグリンタフ帝国の森聖女だったエレナは、大自然の調和を守る大魔道機関を管理し、帝国の繁栄を地道に支える存在だった。だが、「無能」と罵られ、婚約破棄され、国から追放される。  「お前など不要だ」 と嘲笑う皇太子デュボワと森聖女助手のレイカは彼女を見下し、「いなくなっても帝国は繁栄する」 と豪語した。  しかし、大魔道機関の管理を失った帝国は、作物が枯れ、国は衰退の一途を辿る。  一方、エレナは隣国のセリスタン共和国へ流れ着き、自分の持つ「森聖力」の真価 に気づく……

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

余命僅かな大富豪を看取って、円満に未亡人になるはずでした

ぜんだ 夕里
恋愛
傾きかけた家を救うため、私が結んだのはあまりにも不謹慎な契約――余命いくばくもない大富豪の辺境伯様と結婚し、彼の最期を穏やかに看取ることで莫大な遺産を相続する、というものだった。 しかし、人の死を利用して富を得るなど不正義! そう考えた私が立てたのは、前代未聞の計画。 「そうだ、遺産が残らないくらい贅沢の限りを尽くしてもらえば、すべて丸く収まるじゃない!」

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

『悪役』のイメージが違うことで起きた悲しい事故

ラララキヲ
ファンタジー
 ある男爵が手を出していたメイドが密かに娘を産んでいた。それを知った男爵は平民として生きていた娘を探し出して養子とした。  娘の名前はルーニー。  とても可愛い外見をしていた。  彼女は人を惹き付ける特別な外見をしていたが、特別なのはそれだけではなかった。  彼女は前世の記憶を持っていたのだ。  そして彼女はこの世界が前世で遊んだ乙女ゲームが舞台なのだと気付く。  格好良い攻略対象たちに意地悪な悪役令嬢。  しかしその悪役令嬢がどうもおかしい。何もしてこないどころか性格さえも設定と違うようだ。  乙女ゲームのヒロインであるルーニーは腹を立てた。  “悪役令嬢が悪役をちゃんとしないからゲームのストーリーが進まないじゃない!”と。  怒ったルーニーは悪役令嬢を責める。  そして物語は動き出した…………── ※!!※細かい描写などはありませんが女性が酷い目に遭った展開となるので嫌な方はお気をつけ下さい。 ※!!※『子供が絵本のシンデレラ読んでと頼んだらヤバイ方のシンデレラを読まれた』みたいな話です。 ◇テンプレ乙女ゲームの世界。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げる予定です。

王子よ、貴方が責任取りなさい

天冨 七緒
恋愛
「聖女の補佐をしてくれないか?」  王子自ら辺境まで訪れ、頭を下げる。  それほど国は、切羽詰まった状況なのだろう。  だけど、私の答えは……  皆さんに知ってほしい。  今代の聖女がどんな人物なのか。  それを知った上で、私の決断は間違いだったのか判断してほしい。

処理中です...