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第一部:第十四章 崩れゆくもの
(二)燃える街①
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(二)
襲撃者と門、どちらを優先するか。どうする?
迷いが生じたその時だった。
「皆、済まぬが、そこの妖しげな魔法の門を監視してくれぬか。そこからまだ、敵……怪物が増えるやもしれぬ」
エラゼルの声に並走していた生徒達は顔を見合わせる。まだ状況が飲み込めていない様子だった。
「襲撃者は……恐らく怪物です。これは騎士団の機密事項ですが、彼らはその魔法の門を通ってこの街に侵入したんです」
皆の動揺を鎮めなければいけない。その思いが私を動かした。
「すぐに騎士団や魔法院の方々が駆けつける。それまでの間で良い。頼む!」
エラゼルと共に頭を下げる。
「分かった。君たちの腕前は知っているし、その話も多少は聞いている。我々はここは引き受けよう。どのような相手が出るか分からないが、十人も居れば何とかなるだろう」
一人の男子生徒が答えた。炎の光に照らされた、その顔に見覚えがあった。
「あなたは、アル兄と一緒に居た……」
「ああ。覚えていてくれたとは光栄だ。俺はリックス・カーンハイト。向こうは頼んだよ、お二人さん」
合同演習以来の再開を惜しむ間もなく、残ってくれる人たちに感謝の一礼をすると、私とエラゼルは走り出した。
「頼みます。被害を増やさないためにも」
走りながら、残ってくれた生徒達に声をかける。
(皆さん、怪我をせぬよう。無事でいてください……)
私は前を向いた。
二人は燃えあがる炎の前にやって来た。
先程の大きな影の主は見当たらない。井戸を探し、火を消すか。
風が弱いのが幸いして、延焼は少ない。けれど、いつその状況が変わるとも限らない。普段の火事ならば、消火活動を行っているはずなのだろうが、誰ひとりこの近辺に居ない。
怪物を恐れて逃げたのだろうか。
「たす……け……て……」
小さく助けを求める声が聞こえた。
声のした方を見ると、崩れた家屋の下から這い出そうとしている少女の姿があった。家が崩れた際に負ったと思われる怪我のせいで、かなり弱っているように見える。
火はここには回ってきていない。
急いで私とエラゼルは、少女を瓦礫の下から助け出そうと駆け寄る。
その時、背後に気配を感じた。
「エラゼル、伏せて!」
エラゼルも気配を感じたのだろう。私の声に合せるかのように、横に転がった。
ガツッ!
斜めに振り下ろされた大きな棍棒が、エラゼル居た場所を通り過ぎ、敷石に当たり鈍い音を立てた。
「オーガ?」
巨大な姿を見たエラゼルが一瞬、硬直した。
「お久しぶり……。っていうより、会いたくなかったわ……」
炎の色に染め上げられた体毛はやや赤みを帯びて映るが、間違いなく黒毛。その身の丈は優に三エニストを超える。
あの時見た個体と見て間違いない。
私たちがやってくるのを見て、身を潜めて居たのだろう。用心深さも兼ね備えた厄介な相手だ。
今、私が手にしているのは、演習用の剣ではない。愛用している片刃の剣だ。
とはいえ、勝てる保障など何処にも無い。
様子見などと言っている場合ではない。ここには怪我人も居る。エラゼルも居る。近くには騎士学校の仲間が居る。
この相手を好き勝手に動き回らせる訳にはいかない。
「エラゼル、サポート頼める?」
「あ……、ああ」
私の声で我に返ったようで、エラゼルは慌てて立ち上がった。
「すまぬな、少女。助け出してやれるのはもう少し後になる。……ラーソルバール、少しだけそいつを此処から引き離してくれぬか。この娘を治癒する時間をくれ!」
瓦礫を動かして助けるには時間がかかる、せめて治癒魔法をかけて怪我を軽減してやる必要がある。
エラゼルはそう判断したのだろう。
「分かった!」
相手の意識を私に集中させるために、答えると同時に地面を蹴り、剣を縦に降り下ろす。
攻撃は棍棒で止められ弾き返されたが、私はその反動を利用して大きく後ろへ飛び退いた。そして、更に二度程後ろにステップし、敵を誘う。
この寒い季節に背中を汗が伝うのを感じた。
炎の熱によるものか、極度の緊張によるものか、自分でも分からなかった。
襲撃者と門、どちらを優先するか。どうする?
迷いが生じたその時だった。
「皆、済まぬが、そこの妖しげな魔法の門を監視してくれぬか。そこからまだ、敵……怪物が増えるやもしれぬ」
エラゼルの声に並走していた生徒達は顔を見合わせる。まだ状況が飲み込めていない様子だった。
「襲撃者は……恐らく怪物です。これは騎士団の機密事項ですが、彼らはその魔法の門を通ってこの街に侵入したんです」
皆の動揺を鎮めなければいけない。その思いが私を動かした。
「すぐに騎士団や魔法院の方々が駆けつける。それまでの間で良い。頼む!」
エラゼルと共に頭を下げる。
「分かった。君たちの腕前は知っているし、その話も多少は聞いている。我々はここは引き受けよう。どのような相手が出るか分からないが、十人も居れば何とかなるだろう」
一人の男子生徒が答えた。炎の光に照らされた、その顔に見覚えがあった。
「あなたは、アル兄と一緒に居た……」
「ああ。覚えていてくれたとは光栄だ。俺はリックス・カーンハイト。向こうは頼んだよ、お二人さん」
合同演習以来の再開を惜しむ間もなく、残ってくれる人たちに感謝の一礼をすると、私とエラゼルは走り出した。
「頼みます。被害を増やさないためにも」
走りながら、残ってくれた生徒達に声をかける。
(皆さん、怪我をせぬよう。無事でいてください……)
私は前を向いた。
二人は燃えあがる炎の前にやって来た。
先程の大きな影の主は見当たらない。井戸を探し、火を消すか。
風が弱いのが幸いして、延焼は少ない。けれど、いつその状況が変わるとも限らない。普段の火事ならば、消火活動を行っているはずなのだろうが、誰ひとりこの近辺に居ない。
怪物を恐れて逃げたのだろうか。
「たす……け……て……」
小さく助けを求める声が聞こえた。
声のした方を見ると、崩れた家屋の下から這い出そうとしている少女の姿があった。家が崩れた際に負ったと思われる怪我のせいで、かなり弱っているように見える。
火はここには回ってきていない。
急いで私とエラゼルは、少女を瓦礫の下から助け出そうと駆け寄る。
その時、背後に気配を感じた。
「エラゼル、伏せて!」
エラゼルも気配を感じたのだろう。私の声に合せるかのように、横に転がった。
ガツッ!
斜めに振り下ろされた大きな棍棒が、エラゼル居た場所を通り過ぎ、敷石に当たり鈍い音を立てた。
「オーガ?」
巨大な姿を見たエラゼルが一瞬、硬直した。
「お久しぶり……。っていうより、会いたくなかったわ……」
炎の色に染め上げられた体毛はやや赤みを帯びて映るが、間違いなく黒毛。その身の丈は優に三エニストを超える。
あの時見た個体と見て間違いない。
私たちがやってくるのを見て、身を潜めて居たのだろう。用心深さも兼ね備えた厄介な相手だ。
今、私が手にしているのは、演習用の剣ではない。愛用している片刃の剣だ。
とはいえ、勝てる保障など何処にも無い。
様子見などと言っている場合ではない。ここには怪我人も居る。エラゼルも居る。近くには騎士学校の仲間が居る。
この相手を好き勝手に動き回らせる訳にはいかない。
「エラゼル、サポート頼める?」
「あ……、ああ」
私の声で我に返ったようで、エラゼルは慌てて立ち上がった。
「すまぬな、少女。助け出してやれるのはもう少し後になる。……ラーソルバール、少しだけそいつを此処から引き離してくれぬか。この娘を治癒する時間をくれ!」
瓦礫を動かして助けるには時間がかかる、せめて治癒魔法をかけて怪我を軽減してやる必要がある。
エラゼルはそう判断したのだろう。
「分かった!」
相手の意識を私に集中させるために、答えると同時に地面を蹴り、剣を縦に降り下ろす。
攻撃は棍棒で止められ弾き返されたが、私はその反動を利用して大きく後ろへ飛び退いた。そして、更に二度程後ろにステップし、敵を誘う。
この寒い季節に背中を汗が伝うのを感じた。
炎の熱によるものか、極度の緊張によるものか、自分でも分からなかった。
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