溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。

ふまさ

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「あ、もうすぐ屋敷につくわね。帰る前に、お父様に婚約解消の意志だけは伝えて言ってね?」

 フィオナが馬車の窓から外を見ながら事も無げに告げるが、ミックはまだ、声をなくしたままだった。


「ただいま戻りました」

 居間で寛いでいた侯爵と侯爵夫人に、フィオナが挨拶をする。おかえり。そう答えようとした侯爵たちは、フィオナの髪が束ねられていることに気付いた。

「あら、フィオナ。今日は髪を束ねているのね。垂らしていたほうが似合うのに」

 侯爵夫人の言葉に、フィオナは「ええ。垂らしていると、邪魔ですから」と笑った。すると。

「──侯爵! 侯爵夫人! 聞いてください!!」

 フィオナの背後で突然叫んだのは、むろんミックだ。事情もなにも知らない侯爵たちは、何事かとミックに目を向けた。

「フィオナは、フローラになることを、やめると言ったのです!」

 激昂するミックに、侯爵たちは目を丸くした。次に口を開いたのは、フィオナだった。

「はい。そんなわけで、ミックはもうわたしを愛せないし、わたしももう、ミックと一緒にいるのは苦痛でしかないので、婚約は解消します」

「……っ。こんな馬鹿なことを言うのですよ?! 何か言ってやってください!!」

 はあはあ。
 ミックが荒く息をする。対し、フィオナは驚くほど冷静だった。侯爵たちは二人を見比べ、ただ、困惑する。

「お、落ち着きなさい、ミック。それよりフィオナ、いったいどうしたというのだ。昨日まではあんなにミックと仲が良さそうにしていたというのに……」

「子爵令嬢に、何かよくないことを吹き込まれたのですよ!!」

 ミックが声を荒げる。侯爵夫人が「子爵令嬢……ああ、昨日フィオナが泊まったあの」と呟くと、ミックは「そうです!」と答えた。

「フィオナ、本当なの?」

 侯爵夫人の問いに、フィオナは「よくないことと言いますか、むしろ逆でして」と言った。

「フローラお姉様であろうとしないわたしには何の価値もないと言い切ったミックに、ジェマはわたしはわたしだと怒ってくれた。そんなジェマを、ミックは打ったのです。それが目の覚めるきっかけになったと言いますか……まあ、お母様たちはミックと同じ考えでしょうから、理解できないかもしれませんが」
 
 冷えた双眸で見詰めてくるフィオナに、侯爵夫人は焦ったように口を開いた。

「な、何を言うの? フィオナがフローラではないことぐらい、わたくしだって理解しています!」


 フィオナは心底不思議そうに「……そうなのですか? 」と目を丸くした。
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