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「当然でしょう? ねえ、あなた!」

 侯爵夫人が、侯爵に鋭い視線を向ける。侯爵が動揺しながらも「あ、ああ。もちろんだとも」とうなずく。

(…………あれ?)

 予想と違う反応に、フィオナは小首をかしげる。

「……ちなみにミックによると、わたしがフローラお姉様であることをやめてしまったら、お父様たちはわたしを愛することをやめ、屋敷を追い出すだろうと言っていましたが」

「ま、まあ! 何て勝手なことを言うの?!」

 侯爵夫人がニックを睨み付けるものの──正直、フィオナも同じことを思っていた。だからこそ、困惑した。

「……お父様、お母様。何をいまさら気にしているのですか? 世間体ですか?」

 不信感満載でフィオナが問いかける。屋敷を追い出される覚悟はしていた。だから誰に媚びる必要も、すがる必要もない。愛されたいとも、もう思わない。最初は、まともに会話する暇もなく屋敷を追放されると思っていたけれど。

 ──こうなったら、聞いてやる。全ての心の内を、さらけ出してやるわ。

 フィオナはこぶしを強く握った。


「お母様。わたし、幼いころに一度だけ……我慢出来ずに、お母様に抱きついてしまったことがありましたよね。そのときあなたは、わたしの頭や頬を打ったのですよ? 覚えていますか?」

 侯爵夫人が「そ、そんなことしてないわ!」と顔を青くする。一応、覚えてはいるのか。そんなことを頭の隅でフィオナは思った。

「……わたしが覚えているかぎりのあなたたちとのやり取りは、たったそれだけです。わたしが高熱でうなされようと、右足を骨折しようと、あなたたちは見舞いどころか、声一つ、かけてはくださらなかった」

 侯爵がフィオナの目線から逃れるように「し、仕方ないだろう」と、視線をそらせた。

「そうよ。あの頃は、フローラの看病で手一杯で……だから」

 続けられた侯爵夫人の科白に、あの頃も変わらず使用人がいたはずなのに、何を言っているのか。思ったけど、口には出さなかった。きっと何を問おうと、こうして言い訳ばかりするのだろうと苛ついたと同時に──呆れたからだ。

 はあ。
 フィオナは大きくため息をついた。

「──とにかく。あなたたちはミックと同じように、フローラお姉様だけを愛していた。そしてフローラお姉様を失った哀しみを、わたしで埋めようした。そこまでは理解できるのですが……」

 とたん。侯爵夫人は叫んだ。

「違うわ! あなたの言う通り、小さなころはフローラにかかりっきりだったから、これからはそれを取り戻すぐらいあなたを愛そうと……っ」

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