溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。

ふまさ

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「いいか。わかっているだろうが念のために言っておく。逃げようとしても無駄だ。お前の護衛は、すなわち見張りでもあるのだからな」

 翌朝。

 昨日と同じ時刻。学園へと向かおうとするフィオナに、侯爵が言い捨てた言葉だ。もう、フィオナとミックの説得はいっさい止めた様子だった。

 どちらにせよ、婚約解消には両家の承諾がいる。こちらはホルン伯爵の資産が。あちらは侯爵家との繋がりがほしいのだから、どだい、何もかもが無理な話しだったのだ。

 心の何処かで、少しは想ってくれているのではないか。本気で拒絶すれば、婚約の解消をしてくれるのではないか。懲りもせず、またフィオナはそんな期待を僅かながらに抱いてしまっていたのかもしれない。

 フィオナは光をなくした双眸で「承知しております」と答え、護衛と共に屋敷を出た。


 開いたばかりの校内を、一人歩くフィオナ。さすがにここまで護衛はついてこれないが、学園の出入口には、常にいる状態だ。

(……もう、逃げ道は一つしかないのね)

 どうして希望など持ってしまったのだろう。なぜ修道院に行かせてもらえると思ってしまったのか。何もかも、考えが浅はか過ぎた。

 制服のスカート。右ポケットにいれてある手紙を布の上からそっとさする。昨夜書いた、ジェマ宛の手紙だ。

「……ごめんね、ジェマ」

 ジェマはきっと。いや、絶対に哀しんでくれるだろう。心苦しくもあったが、同時に嬉しくもあり、救いでもあった。

 あの人たちは怒りこそすれ、哀しんだりはしないだろうから。

 ──せめて。娘を追い込んで死なせた汚名を背負って生きていけばいいわ。

 姿勢を正し、フィオナが階段に足をかける。目指すは、学園の屋上。そこで何もかも終わりにしてやる。

 フィオナにはもう、迷いはなかった。ミックと結婚して、子をなすなんてこと。想像ですら、もはや吐きそうだったから。


「──フィオナ」

 二階へと続く階段の踊り場。背後から地を這うような低い声でフィオナの名を呼んだのは、ミックだった。

 
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