溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。

ふまさ

文字の大きさ
32 / 41

32

しおりを挟む
「わたしの証言を疑うか。いい度胸だ」

 サアッ。
 顔から一気に血の気が引いていくのを感じながら、侯爵夫人が「……と、とんでもありません」と、首を左右にふる。隣に立つ侯爵も同様な顔色をしている。

 厄介なことをしてくれたものだ。

 そんな苛立ちから、使用人からの報告をまともに聞いていなかった二人は、目撃者がいるという情報すら、耳に入っていなかったのだ。

「──出ていけ。いいか、三度目はないぞ」

 静かな怒気が宿る声色に、さすがの侯爵と侯爵夫人も、大人しく病室から出ていかざるを得なかった。


 次の日。

 朝からフィオナの病室を訪れた二人だったが、そこにはすでに、フィオナの姿はなかった。

「む、娘はいったいどこに行った!?」

 慌てる侯爵たちに、医師は「ニール・ブラート様が連れて行かれましたよ」と告げた。それから馬車を走らせ、王都内にあるブラート公爵が所有する屋敷の一つ──今は学園に通うニールが複数の使用人と暮らしている──を訪れた二人だったが。

「お前たちには会いたくないそうだ」

 門の前で待っていた二人に、屋敷から出てきたニールが、門扉越しにそう告げた。侯爵が声を荒げる。

「お、親の承諾なしに娘を勝手に屋敷に連れ込むなど、いくら公爵令息といえども許されることではありませんよ!」

「ほう。では、警察ヤードにでも駆け込むか?」

「そ、れは……」

「あなた! この方はフィオナと恋仲にあるお方ですのよ。これもきっと、フィオナを想っての行動なのです。そうですよね?」

 慌てて口を挟んできた侯爵夫人。ニールはつかの間沈黙したあと、ああ、とだけ答えた。

「ほら、ごらんなさいな。夫が失礼をいたしました。ですがこれも、娘を想ってのこと……その、一目でよいのでフィオナに会わせてもらうことはできないのでしょうか?」

 ニールは「……クズが」と小さく舌打ちし、傍にひかえていた侍従に目配せをした。侍従が、はい、と言い、屋敷に入っていく。

「二階の、一番右端の部屋を見ていろ。顔を見せるかどうかは知らんがな」

 ニールに言われた通りに、侯爵と侯爵夫人がそこに目を向ける。しばらくして、部屋の窓が開けられた。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約者は自称サバサバ系の幼馴染に随分とご執心らしい

冬月光輝
恋愛
「ジーナとはそんな関係じゃないから、昔から男友達と同じ感覚で付き合ってるんだ」 婚約者で侯爵家の嫡男であるニッグには幼馴染のジーナがいる。 ジーナとニッグは私の前でも仲睦まじく、肩を組んだり、お互いにボディタッチをしたり、していたので私はそれに苦言を呈していた。 しかし、ニッグは彼女とは仲は良いがあくまでも友人で同性の友人と同じ感覚だと譲らない。 「あはは、私とニッグ? ないない、それはないわよ。私もこんな性格だから女として見られてなくて」 ジーナもジーナでニッグとの関係を否定しており、全ては私の邪推だと笑われてしまった。 しかし、ある日のこと見てしまう。 二人がキスをしているところを。 そのとき、私の中で何かが壊れた……。

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

【完結】王女と駆け落ちした元旦那が二年後に帰ってきた〜謝罪すると思いきや、聖女になったお前と僕らの赤ん坊を育てたい?こんなに馬鹿だったかしら

冬月光輝
恋愛
侯爵家の令嬢、エリスの夫であるロバートは伯爵家の長男にして、デルバニア王国の第二王女アイリーンの幼馴染だった。 アイリーンは隣国の王子であるアルフォンスと婚約しているが、婚姻の儀式の当日にロバートと共に行方を眩ませてしまう。 国際規模の婚約破棄事件の裏で失意に沈むエリスだったが、同じ境遇のアルフォンスとお互いに励まし合い、元々魔法の素養があったので環境を変えようと修行をして聖女となり、王国でも重宝される存在となった。 ロバートたちが蒸発して二年後のある日、突然エリスの前に元夫が現れる。 エリスは激怒して謝罪を求めたが、彼は「アイリーンと自分の赤子を三人で育てよう」と斜め上のことを言い出した。

そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。

しげむろ ゆうき
恋愛
 男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない  そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった 全五話 ※ホラー無し

【完結】婚約破棄したのに殿下が何かと絡んでくる

冬月光輝
恋愛
「お前とは婚約破棄したけど友達でいたい」 第三王子のカールと五歳の頃から婚約していた公爵令嬢のシーラ。 しかし、カールは妖艶で美しいと評判の子爵家の次女マリーナに夢中になり強引に婚約破棄して、彼女を新たな婚約者にした。 カールとシーラは幼いときより交流があるので気心の知れた関係でカールは彼女に何でも相談していた。 カールは婚約破棄した後も当然のようにシーラを相談があると毎日のように訪ねる。

どうやら婚約者が私と婚約したくなかったようなので婚約解消させて頂きます。後、うちを金蔓にしようとした事はゆるしません

しげむろ ゆうき
恋愛
 ある日、婚約者アルバン様が私の事を悪く言ってる場面に遭遇してしまい、ショックで落ち込んでしまう。  しかもアルバン様が悪口を言っている時に側にいたのは、美しき銀狼、又は冷酷な牙とあだ名が付けられ恐れられている、この国の第三王子ランドール・ウルフイット様だったのだ。  だから、問い詰めようにもきっと関わってくるであろう第三王子が怖くて、私は誰にも相談できずにいたのだがなぜか第三王子が……。 ○○sideあり 全20話

あなたへの想いを終わりにします

四折 柊
恋愛
 シエナは王太子アドリアンの婚約者として体の弱い彼を支えてきた。だがある日彼は視察先で倒れそこで男爵令嬢に看病される。彼女の献身的な看病で医者に見放されていた病が治りアドリアンは健康を手に入れた。男爵令嬢は殿下を治癒した聖女と呼ばれ王城に招かれることになった。いつしかアドリアンは男爵令嬢に夢中になり彼女を正妃に迎えたいと言い出す。男爵令嬢では妃としての能力に問題がある。だからシエナには側室として彼女を支えてほしいと言われた。シエナは今までの献身と恋心を踏み躙られた絶望で彼らの目の前で自身の胸を短剣で刺した…………。(全13話)

私を侮辱する婚約者は早急に婚約破棄をしましょう。

しげむろ ゆうき
恋愛
私の婚約者は編入してきた男爵令嬢とあっという間に仲良くなり、私を侮辱しはじめたのだ。 だから、私は両親に相談して婚約を解消しようとしたのだが……。

処理中です...